スズノハの約束

秋月とわ

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1章

第5話 知らない男の子?

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 翌朝、目を覚ますとスマホにお父さんからのメッセージが届いていた。

『おはよう、未来! そっちの家はどうだ。東京と違って空気がいいだろう? お父さんは今日は朝イチで会議です。頑張るぞ!』

 朝から気分が最悪だった。何が“東京と違って空気がいいだろう?”だ。こっちは“いい空気”と引き換えに快適さを失ったというのに。

 それに朝イチ会議がなんだ。お父さんの予定なんてきいてない。

 既読無視したい気持ちを堪えて、私はガッツポーズをしたクマのスタンプを送る。吹き出しには『がんばれ』と書いてある。

 全然そんな事思っていないけれど、これを送っておけばお父さんも満足するだろう。

 スマホを片手に居間に顔を出すと、ちょうどおばあちゃんが朝食を座卓に並べているところだった。

「未来ちゃん、おはようさん。よう眠れた?」
「うん、まあ……」
「そうかそか。なら、よかった。朝ごはんできとるで、顔洗うといで」
「はあい……」

 私は洗面所に行って、顔を洗う。冷たい水が、まだ完全に目覚めていない頭をしゃっきりとさせる。

 居間に戻って朝食を食べた。昨日の夕食の時は、頭がぼーっとしていて気づかなかったけれど、手作りの料理を食べるのは、ずいぶんと久しぶりの事だった。

 おばあちゃんが、お茶を持って部屋に入ってくる。

「おじいちゃんは?」
「お爺さんは、農協の集まりがあるとかで出かけて行ったに」
「ふーん」

 朝食を食べながら、今日は何しようかとぼんやり考えていた。宿題はこっちにくる前にほとんど片付けてしまったし、だからと言って、部屋でスマホをいじろうにも……とため息をつく。

 昨日からうすうす気づいていたのだけれど、ここは電波の入りがあんまり良くない。いつもはサクサク読み込むSNSや動画サイトも、頻繁にくるくる回る読み込みマークが出てくる。ちょっとしたストレスだ。

 そんな時、居間のガラス戸を誰かが叩いた。ギョッとして視線を向けると、外に誰か立っている。

 こんな朝早くから誰が訪ねて来たんだろう?

 おばあちゃんが、ガラス戸を開けると、そこにいたのはよく日焼けした男の子だった。オレンジ色のタンクトップと黒い短パン姿で、髪は男の子にしては少し長めだ。私がイメージする“田舎の男の子”をそのまま現実に引っ張り出してきたような子だった。

「ばあちゃん、未来ちゃん来た?」

 ふいに自分の名前が出て、びくりとする。私はこんな子知らないはず……。おばあちゃんが私のことを話したのだろうか?

「ああ、来とるに。ほら、そこに」

 おばあちゃんが私を指す。それに導かれるようにして男の子もこっちを見た。私は慌ててお茶碗を持つ手を離す。

「未来ちゃん?」
「え……うん」

 私が頷くと、彼の顔がパッと明るくなる。

「ばあちゃんに聞いた時から、ずっと会いたかったんだ。東京から来たんでしょ? すごいよなー、東京!」
「は……? 誰? なんで私のこと知ってんの?」

 視線でおばあちゃんに説明を求めた。おばあちゃんは、それに気づくと言い訳するよう話し始めた。

「この子ぉは、近所の子ぉでな。8月になったら東京から孫の未来ちゃんが来るって話したら、むっちゃ楽しみにしとったんやに」
「ふーん。そうなんだ」
「そうや、未来ちゃん。朝ごはん食べ終わったら、この子ぉに町を案内してもろたら?」
「ええ……」

 なんだか面倒くさいことに巻き込まれそう予感がする。なんで田舎まで来て、知らない男の子とデートしないといけないんだろう。猛烈に行きたくない。だけど、おばあちゃんはニコニコと笑っている。

 男の子も「いいよ、案内してあげる!」と息巻いている。ここで「私、行きたくない!」と断れるほどの勇気もなければ、場の空気に歯向かうほどの活力もない。これは断るのも無理そうだ。

 私は朝ごはんを食べ終えて、しぶしぶ出かける準備をした。準備と言っても、ポシェットにスマホを入れただけだけど。玄関で待っていた彼と共に、町へと繰り出した。
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