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5章
第27話 確信
しおりを挟む「未来じゃん。どうしたの?」
「ねぇ、お母さんいる?」
「いるけど……なんで?」
「ちょっとききたいことがあるの!」
「まぁ、一旦中に入れよ」
私を玄関先に入れると、彼は廊下の奥へと消えていった。代わりに出てきたのは、優しそうな顔立ちの女の人だった。
「いらっしゃい。未来ちゃん。と言っても初対面よね。篤志からあなたの話はよく聞いているから。それで私に用があるらしいけど?」
「いきなり押しかけて、ごめんなさい。昔、お母さんと仲が良かったって聞いて。少し教えてほしいことがあるんです」
「それなら、部屋に上がってちょうだい。ジュースでも出してあげる」
招かれて部屋へと上がる。フローリングのリビングにはローテーブルとソファが置いてあった。うちの居間とは大違いで、なんと言うか……現代的だった。
手近なところに腰を下ろす。首を巡らすと、部屋の壁には大きなコルクボードが吊り下げられていて、そこに写真がいくつも貼り付けられている。どの写真にも篤志くんと彼のお母さん、そして知らない男の人──お父さんだろう──の3人が写っているいた。
篤志くんのお母さんがキッチンに引っ込んでいる間、篤志くんがリビングに顔をだした。
「どうしたんだよ、急に。びっくりしたぞ」
「実は、さっきお母さんのアルバムを見ていたの。それで知ったんだけど、うちのお母さん、篤志くんのお母さんと親友だったらしくて。何か聞けるかなって」
「へー」と頷く篤志くんを見て、ふと我に返った。
慌てて押しかけてしまったけれど、冷静に考えれば同い年の異性の子の家だ。だんだんと緊張が体中に広がっていく。
「母さんの親友が亡くなったっていう話は前から聞いていたよ。葬式にも行ってた。今年の春だったよな。それが未来の母さんとは知らなかったけど」
「そうなんだ……。じゃあ仲直りできたのかな?」
「仲直り?」
「いや、こっちの話」
ちょうどそのタイミングで、篤志くんのお母さんがリビングに入ってきた。お盆にはコップが2つ。
「あら篤志。未来ちゃんと喋ってたの?」
「うん。あ、でも俺行くから」
じゃあなと、彼は部屋を出て行った。
「ごめんね。愛想のない子で」
篤志くんのお母さんが、苦笑いしながらコップを私の前に置く。私の向かい側に座った彼女の顔は、写真の女の子の名残りが確かにあった。
「そんなことないです。いつもよくしてくれてますよ」
「さすが東京の子ね。しっかりしてる。それで何の話だっけ」
「あのいきなりなんですが、25年前の夏祭りの日、お母さんとケンカしませんでしたか?」
「え?」
戸惑った表情を浮かべる篤志くんのお母さんに、私は身をすくめる。そりゃあ、そうだ。こんなこといきなり尋ねられれば誰だってこうなる。
私は言い訳をするようにスズノハさんがした約束の話をつけ足す。もちろん、“あやかし”とは言えないので“知り合いのおじいさん”に置き換えて。
すると納得したように篤志くんのお母さんは頷いた。そして懐かしむように言う。
「そういうことだったのね。確かにあの夏祭りの時、私はあなたのお母さんと些細なことでケンカしたわ。ケンカなんてまったくしなかったからよく覚えている。でも、そのあとちゃんと仲直りしたわ。ずっと親友のままよ」
“ずっと親友のまま”という現在形の言い方に私はハッとする。篤志くんのお母さんの中では、私のお母さんはまだ生きている。そう捉えてくれる人がいるっていうだけで、なんだか鼻の奥がつんとした。
「そうですか。ありがとうございます」
私は確信した。スズノハさんと約束したのは確かにお母さんだ。
なんでお母さんは、スズノハさんに会いに行かなかったのだろう。考え込んで、ふと思う。きっとお母さんのことだ。忘れていたか、それより先に仲直りしてしまい行く必要がなくなったのかもしれない。
それから篤志くんのお母さんは、私のお母さんの子供の頃の話を聞かせてくれた。私の知らないお母さんがそこにいた。
「未来ちゃん、お母さんの面影があるわ。やっぱり親子ね」
話すうちに、浮かんできた涙を篤志くんのお母さんは拭う。
出されたジュースはもう空っぽになっていた。ついつい長居してしまったが、そろそろ潮時だろう。
私はお礼を言うと、家を出た。台風が近づいているせいか風が強く吹いて私の髪を揺らす。空を見上げると、今にも雨が降り出しそうだった。
今日は早く帰ろう。そして台風が去ったあとにでもスズノハさんのところに行って教えてあげよう。
私は雨が降らないうちに帰路を急いだ。
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