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6章
第28話 台風の中の大脱走
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雨戸が風に揺さぶられる音で目が覚めた。ベッドに入っていても屋根を叩く雨の音で、その激しさがわかる。
スマホの時計を見ると、まだ午後10過ぎだった。居間の方からは、おじいちゃんとおばあちゃんがテレビを見ている音が聞こえてくる。
寝る時間もすっかり早くなった。東京にいる時は、この時間はまだ全然起きていたのに。ここに来て2~3週間ですっかり小学生らしい健康的な生活を送るようになっていた。
ほんの1時間前に布団に入ったばかりだ。もう一度眠ろうと目を閉じる。けれど、タイミングが悪いのか全然眠くならなかった。
そればかりか、吹きつける雨と風の音が私の睡眠を邪魔してくる。
寝るのを諦めて、スマホをいじる。SNSを見ると、台風の被害を記した投稿が目についた。
電車が全線運転見合わせている。道路が冠水した。停電が起きている。窓ガラスが割れた。木が折れて道を塞いでいる──。
最後の投稿に、画面をスクロールする手が止まった。
スズノハさんは大丈夫だろうか? ただでさえ、力が弱まっているのだ。この雨風で最後の力を使い果たしてしまうなんてことがあるかもしれない。
ますます寝れなくなった。もし明日の朝、目覚めた時に彼が消えてしまっていたら──。
せっかく約束の女の子を突き止めたのに、それを知らないまま消えるなんて悔しすぎる。今すぐ伝えなければ。
決断するより先に私は動いていた。布団から出て、普段着に着替える。ポシェットにスマホを放り込んだ。
準備は万端。あとはスズノハさんのところに向かうだけだ。
しかし、それまでに大きな障害があった。それは自室から玄関までの間に居間があることだ。居間の前を通らなければ外には出られない。
こんな真夜中に外出しようものなら、おじいちゃんとおばあちゃんに止められるのは必至。だからと言って、部屋の窓から出るわけにもいかない。靴がないんだもの。見つからないように、静かに通り過ぎるしかない。
私はできるだけ足音を殺して、廊下を進む。居間の前まで来ると、中の様子を窺った。
ラッキーなことにおじいちゃんとおばあちゃんはテレビの台風情報に釘付けだ。今のうちに──。
サッと風のように部屋の前を横切る。バレていない。ここをクリアしてしまえば、あとは余裕だ。
玄関まで行って、靴を履く。まさか明かりをつけるわけにもいかず、真っ暗な中、手探りで自分の靴を見つけなければならなかった。靴を履き終わってから、スマホのライトを使えば良かったことに気づく。……まあ、履けたからいいか。
外は雨が降っているから、傘も必要だ。東京の家から傘までは持ってきていないから、傘立てにあるのを適当に一本借りた。
その時、パッと周囲が明るくなった。思わず目を細めて、手で光を遮る。
「未来ちゃん、どこいくの?」
明るさに目が慣れると、目の前におばあちゃんが立っているのが見えた。その後ろにはおじいちゃんもいる。
「何時や思とるんや。部屋に戻りなぃ」
優しいおじいちゃんには珍しく、厳しい声で私を叱りつける。だけど、ここまで来て部屋に戻るなんてできない。
だって、スズノハさんはもうすぐ消えてしまうかもしれないんだから!
「ごめんなさい! おじいちゃん、おばあちゃん!」
私は精いっぱいの謝罪を口にすると、玄関の引き戸を開けて外に出た。それと同時にすごい風と雨が私に襲いかかる。
背後でおじいちゃん達の声がする。連れ戻される前に急いで、ここを離れないと!
傘を差す余裕もなく、走り出す。顔に玉のような雨粒が打ちつけられる。体が浮いてしまいそうなほどの風に息をするのもやっとだった。
けれど走った。傘を差せば少しは盾の代わりになるかもと、まごつきながら傘を開く。それと同時に風圧が何十倍にもなって、傘を裏返した。衝撃で、傘の骨が何本か折れてしまった。
使い物にならなくなった傘を道端に捨てて、先に進んだ。
腕を構えて、風を凌ぎながらようやく裏参道の前にたどり着く。鳥居をくぐって、スズノハさんの元に急ぐ。周囲の木々は、葉をザワザワと鳴らしている。ただの木なの、それだけでどこか異世界に飛ばされたような恐怖感があった。
「スズノハさん! 生きてるっ!?」
切り株の上に目をやると、そこにはお面をつけた老人が風にも負けずにどっかりとあぐらをかいていた。
スマホの時計を見ると、まだ午後10過ぎだった。居間の方からは、おじいちゃんとおばあちゃんがテレビを見ている音が聞こえてくる。
寝る時間もすっかり早くなった。東京にいる時は、この時間はまだ全然起きていたのに。ここに来て2~3週間ですっかり小学生らしい健康的な生活を送るようになっていた。
ほんの1時間前に布団に入ったばかりだ。もう一度眠ろうと目を閉じる。けれど、タイミングが悪いのか全然眠くならなかった。
そればかりか、吹きつける雨と風の音が私の睡眠を邪魔してくる。
寝るのを諦めて、スマホをいじる。SNSを見ると、台風の被害を記した投稿が目についた。
電車が全線運転見合わせている。道路が冠水した。停電が起きている。窓ガラスが割れた。木が折れて道を塞いでいる──。
最後の投稿に、画面をスクロールする手が止まった。
スズノハさんは大丈夫だろうか? ただでさえ、力が弱まっているのだ。この雨風で最後の力を使い果たしてしまうなんてことがあるかもしれない。
ますます寝れなくなった。もし明日の朝、目覚めた時に彼が消えてしまっていたら──。
せっかく約束の女の子を突き止めたのに、それを知らないまま消えるなんて悔しすぎる。今すぐ伝えなければ。
決断するより先に私は動いていた。布団から出て、普段着に着替える。ポシェットにスマホを放り込んだ。
準備は万端。あとはスズノハさんのところに向かうだけだ。
しかし、それまでに大きな障害があった。それは自室から玄関までの間に居間があることだ。居間の前を通らなければ外には出られない。
こんな真夜中に外出しようものなら、おじいちゃんとおばあちゃんに止められるのは必至。だからと言って、部屋の窓から出るわけにもいかない。靴がないんだもの。見つからないように、静かに通り過ぎるしかない。
私はできるだけ足音を殺して、廊下を進む。居間の前まで来ると、中の様子を窺った。
ラッキーなことにおじいちゃんとおばあちゃんはテレビの台風情報に釘付けだ。今のうちに──。
サッと風のように部屋の前を横切る。バレていない。ここをクリアしてしまえば、あとは余裕だ。
玄関まで行って、靴を履く。まさか明かりをつけるわけにもいかず、真っ暗な中、手探りで自分の靴を見つけなければならなかった。靴を履き終わってから、スマホのライトを使えば良かったことに気づく。……まあ、履けたからいいか。
外は雨が降っているから、傘も必要だ。東京の家から傘までは持ってきていないから、傘立てにあるのを適当に一本借りた。
その時、パッと周囲が明るくなった。思わず目を細めて、手で光を遮る。
「未来ちゃん、どこいくの?」
明るさに目が慣れると、目の前におばあちゃんが立っているのが見えた。その後ろにはおじいちゃんもいる。
「何時や思とるんや。部屋に戻りなぃ」
優しいおじいちゃんには珍しく、厳しい声で私を叱りつける。だけど、ここまで来て部屋に戻るなんてできない。
だって、スズノハさんはもうすぐ消えてしまうかもしれないんだから!
「ごめんなさい! おじいちゃん、おばあちゃん!」
私は精いっぱいの謝罪を口にすると、玄関の引き戸を開けて外に出た。それと同時にすごい風と雨が私に襲いかかる。
背後でおじいちゃん達の声がする。連れ戻される前に急いで、ここを離れないと!
傘を差す余裕もなく、走り出す。顔に玉のような雨粒が打ちつけられる。体が浮いてしまいそうなほどの風に息をするのもやっとだった。
けれど走った。傘を差せば少しは盾の代わりになるかもと、まごつきながら傘を開く。それと同時に風圧が何十倍にもなって、傘を裏返した。衝撃で、傘の骨が何本か折れてしまった。
使い物にならなくなった傘を道端に捨てて、先に進んだ。
腕を構えて、風を凌ぎながらようやく裏参道の前にたどり着く。鳥居をくぐって、スズノハさんの元に急ぐ。周囲の木々は、葉をザワザワと鳴らしている。ただの木なの、それだけでどこか異世界に飛ばされたような恐怖感があった。
「スズノハさん! 生きてるっ!?」
切り株の上に目をやると、そこにはお面をつけた老人が風にも負けずにどっかりとあぐらをかいていた。
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