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5.本当の気持ち
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「いきなり帰るなんてどういうつもりですか! ちゃんと説明してください!」
帰りの電車で野宮は烈火の如く激怒していた。
彼女が怒るのも無理はない。まだまだ楽しむつもりだったところを訳も分からず連れてこられたのだから。
隣に座る彼女は「まだお土産も買ってないのに!」と頬を膨らませている。
「無理矢理連れて帰ったのは悪かった、謝まる」
ごめん、と両膝に手をついて頭を下げた。
「……もういいです」
顔をあげると野宮は「仕方ないですね」という様子でため息をついた。
「で、何があったんですか」
「聞いてくれるのか」
「当たり前です。ちゃんと説明してもらわないと」
「実は石山が──」
僕は先ほどの石山との一件を詳らかに話した。ただ野宮に関わる部分だけは伏せた。なぜか分からないけど話さない方がいいような気がしたのだ。
僕の話を聞いて野宮は口を押さえて絶句した。
「ホント、野宮の言う通りだった。僕には友達なんていなかったんだ」
そう言いながら自分の声が震えていることに気がついた。
「……私、なんか言いましたっけ?」
それから野宮は記憶をたどるように十秒ほど難しい顔をした。
「言ったよ。石山から初めてメールが来た時、『依存だ』とか『本当に友達なんですか』とか、いろいろと僕が不安になるようなことをズケズケと」
「そういえばありましたね、そんなこと」
思い出しようで野宮はさっぱりした表情になっていった。
「でもあれは不安にさせるつもりで言ったんじゃないんですよ」
「じゃあどういうつもりだよ」
「私も同じなんです」
野宮は深く息を吸うと、昔を思い起こすように遠くに視線を向けた。
闇夜を走る走行音と空調の音だけの車内に声が響く。
「天原さんにとっての石山さんのような人が私にもいたんです。とっても仲が良くて高校も同じところに行きました。そのときは、ずっと仲良しだと思っていたんです。ですが、ある日の放課後、聞いてしまったんです。その人が他の友達と話しているのを」
そこで野宮は言葉を切った。そして顔を横に向けて僕を見た。
「なんて言ってたんだ?」
「『優月はどこに行くにもくっついてきて、気持ち悪い。ついには高校まで一緒ってありえない』そう言ってました。一緒にいた他の友達も笑って同意していました。それを聞いた時、私は裏切られた気分でした。それからです。私が彼女にいじめられるようになったのは」
野宮の声が震えていた。その時のことを思い出したんだろう。
「あの時、天原さんの話を聞いて嫌な予感がしたんです。だって私の経験にあまりに似ていたんですから」
「……その友達は今どうしてるんだ」
恐る恐る訊くと野宮は淀みなく答えた。
「一年生の終わり頃、学校で問題を起こして退学になりました。彼女がいなくなってもいじめは金澤主導に変わっただけで終わりませんでしたけどね」
自嘲するように彼女は笑った。
「それ以降の彼女の行方は知りませんでした。最近までは」
「最近までは?」
野宮は頷いた。
「調べたんです。だって彼女が三人目の仕返し相手なんですからね」
「三人目か……。ついに最後だな」
「そうですね。でも本当の最後は奥本ですよ。告発書が効くまでしばらく待たないといけないので」
「そういえば、あいつには何するんだ?」
「告発書で精神的に痛めつけた後、弱っているところに押しかけて土下座させるんです」
そして楽しそうに「その頭を踏んづけてやるんです♪」と体を揺らした。
「うわぁ……」
やっぱり野宮はやることがえげつない。
しかも怒ったり憎しみながら言うならまだしも、「パンケーキ食べに行くんです♪」みたいなノリでいうのが怖い。
さっきはショックのあまり忘れていたが、これからは野宮を怒らせないようにしよう。
「……天原さん? 何引いてるんです」
「い、いや。えげつないなーと思って」
「まだマシな方です。本当なら刺されても仕方ないことしたんですから」
彼女は奥本への仕返しを語っていたときとは打って変わって冷たく言い放った。
停車駅が近いのか電車が速度を徐々に落としていく。
乗客たちも降りる準備やらでがさごそと動き出し、停滞していた車内の空気が動いた。
「話がそれちゃいましたね」と野宮は、仕切り直すようにさっぱりとした声でいった。
「とにかく、さっき私にしたことは不問にします。今日は家でゆっくりしてください。それでまた元気になったら三人目の仕返しに行きましょう」
最寄駅に着くと外は真っ暗だった。例の如く僕は野宮を家まで送った。彼女を家に送るのも三度目だ。
家の前までくると野宮が「ちょっと待っててください」といって家の中に入っていった。
一分も経たないうちに戻ってきた彼女は「はい!」と四角いものを差し出した。
「この前見たプラネタリウムのDVDです。返却期限までまだあるので貸してあげます。これ見て元気出してください」
僕は礼を言ってそれを受け取った。
出会った頃は横暴で憎たらしいやつだったのに、僕を励ますようになるなんて。
こんなに優しくされたら泣いてしまいそうだ。
涙腺が崩壊する前に野宮宅を辞した。
アパートの自分の部屋に帰ると、布団に横になりながら野宮が貸してくれたDVDを見た。
気休めかもしれないが傷ついた心を美しい映像と音楽が癒してくれる。今日一日の疲れもあって僕はそのまま眠りに落ちていった。
帰りの電車で野宮は烈火の如く激怒していた。
彼女が怒るのも無理はない。まだまだ楽しむつもりだったところを訳も分からず連れてこられたのだから。
隣に座る彼女は「まだお土産も買ってないのに!」と頬を膨らませている。
「無理矢理連れて帰ったのは悪かった、謝まる」
ごめん、と両膝に手をついて頭を下げた。
「……もういいです」
顔をあげると野宮は「仕方ないですね」という様子でため息をついた。
「で、何があったんですか」
「聞いてくれるのか」
「当たり前です。ちゃんと説明してもらわないと」
「実は石山が──」
僕は先ほどの石山との一件を詳らかに話した。ただ野宮に関わる部分だけは伏せた。なぜか分からないけど話さない方がいいような気がしたのだ。
僕の話を聞いて野宮は口を押さえて絶句した。
「ホント、野宮の言う通りだった。僕には友達なんていなかったんだ」
そう言いながら自分の声が震えていることに気がついた。
「……私、なんか言いましたっけ?」
それから野宮は記憶をたどるように十秒ほど難しい顔をした。
「言ったよ。石山から初めてメールが来た時、『依存だ』とか『本当に友達なんですか』とか、いろいろと僕が不安になるようなことをズケズケと」
「そういえばありましたね、そんなこと」
思い出しようで野宮はさっぱりした表情になっていった。
「でもあれは不安にさせるつもりで言ったんじゃないんですよ」
「じゃあどういうつもりだよ」
「私も同じなんです」
野宮は深く息を吸うと、昔を思い起こすように遠くに視線を向けた。
闇夜を走る走行音と空調の音だけの車内に声が響く。
「天原さんにとっての石山さんのような人が私にもいたんです。とっても仲が良くて高校も同じところに行きました。そのときは、ずっと仲良しだと思っていたんです。ですが、ある日の放課後、聞いてしまったんです。その人が他の友達と話しているのを」
そこで野宮は言葉を切った。そして顔を横に向けて僕を見た。
「なんて言ってたんだ?」
「『優月はどこに行くにもくっついてきて、気持ち悪い。ついには高校まで一緒ってありえない』そう言ってました。一緒にいた他の友達も笑って同意していました。それを聞いた時、私は裏切られた気分でした。それからです。私が彼女にいじめられるようになったのは」
野宮の声が震えていた。その時のことを思い出したんだろう。
「あの時、天原さんの話を聞いて嫌な予感がしたんです。だって私の経験にあまりに似ていたんですから」
「……その友達は今どうしてるんだ」
恐る恐る訊くと野宮は淀みなく答えた。
「一年生の終わり頃、学校で問題を起こして退学になりました。彼女がいなくなってもいじめは金澤主導に変わっただけで終わりませんでしたけどね」
自嘲するように彼女は笑った。
「それ以降の彼女の行方は知りませんでした。最近までは」
「最近までは?」
野宮は頷いた。
「調べたんです。だって彼女が三人目の仕返し相手なんですからね」
「三人目か……。ついに最後だな」
「そうですね。でも本当の最後は奥本ですよ。告発書が効くまでしばらく待たないといけないので」
「そういえば、あいつには何するんだ?」
「告発書で精神的に痛めつけた後、弱っているところに押しかけて土下座させるんです」
そして楽しそうに「その頭を踏んづけてやるんです♪」と体を揺らした。
「うわぁ……」
やっぱり野宮はやることがえげつない。
しかも怒ったり憎しみながら言うならまだしも、「パンケーキ食べに行くんです♪」みたいなノリでいうのが怖い。
さっきはショックのあまり忘れていたが、これからは野宮を怒らせないようにしよう。
「……天原さん? 何引いてるんです」
「い、いや。えげつないなーと思って」
「まだマシな方です。本当なら刺されても仕方ないことしたんですから」
彼女は奥本への仕返しを語っていたときとは打って変わって冷たく言い放った。
停車駅が近いのか電車が速度を徐々に落としていく。
乗客たちも降りる準備やらでがさごそと動き出し、停滞していた車内の空気が動いた。
「話がそれちゃいましたね」と野宮は、仕切り直すようにさっぱりとした声でいった。
「とにかく、さっき私にしたことは不問にします。今日は家でゆっくりしてください。それでまた元気になったら三人目の仕返しに行きましょう」
最寄駅に着くと外は真っ暗だった。例の如く僕は野宮を家まで送った。彼女を家に送るのも三度目だ。
家の前までくると野宮が「ちょっと待っててください」といって家の中に入っていった。
一分も経たないうちに戻ってきた彼女は「はい!」と四角いものを差し出した。
「この前見たプラネタリウムのDVDです。返却期限までまだあるので貸してあげます。これ見て元気出してください」
僕は礼を言ってそれを受け取った。
出会った頃は横暴で憎たらしいやつだったのに、僕を励ますようになるなんて。
こんなに優しくされたら泣いてしまいそうだ。
涙腺が崩壊する前に野宮宅を辞した。
アパートの自分の部屋に帰ると、布団に横になりながら野宮が貸してくれたDVDを見た。
気休めかもしれないが傷ついた心を美しい映像と音楽が癒してくれる。今日一日の疲れもあって僕はそのまま眠りに落ちていった。
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