アスチルベ

つばさ

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僕が私になった日

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あの子いつも1人でお絵描きしてるよね
気持ち悪い絵
描くのやめろよ
下手くそ


いつも下向いてる
あいつの声聞いたことないよな笑
なんでスカート履いてんだ?
× のくせに髪長い
女々しいよな





小さい頃から言われてきた言葉
誰も僕を認めてくれない。誰も助けてくれない。

……違う。

たった1人、僕に手を差し伸べてくれた人が居たな。


「先輩質問があります」


「はい、夏目くん!なんでも先輩が答えてあげましょう!」

「律先輩と千春先輩の出会いが知りたいです」

「公園で遊んでたら友達になったんだよ!まぁクラスとか別になったのもあって別々に過ごしてたけど。」

「では、再会した話を聞きたいです」

「えーそんなに面白いものじゃないよ?」

「それでも大丈夫です。もっとお2人のことを知りたいんです。今後のサークル活動のためにも」

にこりと笑う可愛い後輩の姿。私がめっぽう弱い状況に持ち込んできた。

「くっ……いいでしょう、千春には内緒よ?」








今日は入学式、無事志望校に入れて気分は上がっていた。それに理由はそれだけじゃない。
虐めから逃れられる喜びの方がずっと大きかったと思う。
チェックのズボンに校章が入ったブレザー、細いネクタイまで付いてくるこの新しい制服は大嫌いだった。

学校に着き、教室に行くため掲示板を見ていた。

(人多くて見えないなぁ)

「律?」

精一杯背伸びをしている僕の後ろから声をかけられビクッと肩を揺らす。恐る恐るゆっくりと振り向くと幼なじみの千春が立っていた。

「なんでここに居るの?! 」

色々と驚いてしまい意味の分からない質問をぶつけると呆れた表情で返された。

「なんでって、この高校に入学するからだろ。俺たち一緒の教室だ。さっさと行くぞ」

強引に僕の腕を掴むとズカズカと廊下を進んでいく。
相変わらず乱暴だ。でもこれが千春。

(懐かしいなこの感じ)

言われるままに連れてかれ席に座りすぐにホームルームが始まった。
終わったと思いきや入学式が始まり説明会…

(長くない?まさか丸1日使うつもり…)

そんなことを考えながら適当にやり過ごしやっと帰り。

(さっさと帰って雑誌買いに行こう。今日発売日だから早めの行かないと)

期待と焦りを抱きながらそそくさと帰りの支度をする。そろそろ教室を出ようとすると声をかけられる。

「律、久しぶりに一緒に帰らないか?」

千春が改まった雰囲気で声をかけてきた。
内心気まずさもあったし何より雑誌を早く手に入れたいと思ったがぐっと抑える。

「まぁ徒歩30秒ぐらいの家の近さだしね、久しく会ったんだし話しながら帰りますかー」

そう、別で帰っても家が近所の為鉢合わせすると帰って気まずくなるのが理由。
腹をくくり歩いていると昔の話になった。

「まだ絵描いてんのか?」

「もう描いてないよ」

「飽きたんか?」

「んーそうかも」

本当は描きたい。でももう描きたくない。

「あのさ、その」

千春は足を止め真剣な眼差しで私を見た。

「あの時はごめん。助けられなくて、傍に居てやれなくて。」

驚いた。

(あぁ、覚えてたんだ。助けたいって思っててくれたんだ。)

「謝ったって何も変わらないし解決もしない。だけど今度こそ律らしく生きてほしい、隠さなくて良いよう俺がそばにいる。だからもう偽らなくて良いんだ」

僕らしく、生きる
スカートを履いて、リボンを付けて、お化粧して、可愛いアクセサリー付けて、髪を伸ばす。

僕が僕らしく生きて良いのか。

「1人にさせない、だから安心して律になれ」

(そっか。もう1人じゃない、次こそ前を向いて良いのかもしれない。)

あの頃には戻りたくない。でも今後一生、自分を殺して生きていくのはもっと嫌だ。ただ僕は自分から逃げてただけなんだ。それにそんなのって、

(すっごくダサい。)

「ふふ…何それ。カッコつけちゃってさ!でもありがとう。私がとびきり可愛くなっても付き合ってやらないからね!!」


「なっ!そういう意味で言ったわけじゃない!!!」





この日から僕は私になれた。


   特別な日





「はい、終わり。こんな感じで再会したの、そして漫画も描き始めた」

「素敵な再開ですね、まるでそれこそ漫画みたいだ」

「うん、そうだね。そうなんだよ。だから漫画にしたの。BL本として!」

「ぶれない律先輩も優しい千春先輩も好きですよ」

夏目がにこやかに微笑みながら私の後ろに視線を向ける。そこには皆様お察しの通り千春が立っていた。

「なに人が居ない時に恥ずかしい話してるんだ!」

「赤面してる千春も可愛いよー!最高に良いネタ!」

また変わらない私たちの生活がスタートする。

(ありがとう、私を素直にしてくれて)

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