今日はあなたと恋日和

葉嶋ナノハ

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1巻

1-3

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「――そろそろ、帰りましょうか」

 名残惜しいけど仕方ないよね。私は自分の気持ちを抑えて、そう口にした。彼の視線がこちらに向けられる。何か言いたげなその瞳を、戸惑いながら見つめ返した。少しの沈黙のあと、彼が静かに言った。

「部屋を、取りました」
「え……」
「正直に言います」

 真っ直ぐな眼差しに捉えられて、身動きが取れない。

「着物姿のあなたを見かけたときから、気になって仕方がありませんでした。高徳院では偶然を装って、あなたに近付いたんです。ぶつかりそうな振りをして」

 大仏様の後ろ側に回り込んだときのことが頭に浮かぶ。……偶然では、なかった?

「一緒に過ごしてみて、僕の思った通りの人だということがわかりました。控え目で慎ましくて、笑顔が素敵で……離れ難くなりました」

 彼はまだほとんど口を付けていない焼酎の入ったグラスを、両手でぎゅっと握った。私の心まで一緒に掴まれたようで苦しくなる。この激しい動悸どうきは、お酒のせいだけじゃない。

「江の島に行ったのも、食事に誘ったのも、何とか時間をかけて一緒にいたかったからなんです」

 彼の言葉で私の中がいっぱいになり、いくら冷静に考えようとしても無駄だった。

「あなたと、このまま別れたくない」

 切なげな声に、胸の奥がきしむ。

「朝まで……僕と一緒にいてくれませんか」

 夢心地だった世界から一転して、目の覚めるような思いだった。朝まで、ということは、私の勘違いでなければそういうことで……いいんだよね。
 きっとこの先の人生で、こんなにも素敵な人に出逢うことなんてないだろう。それに……お見合いは三日後に迫っていて、私にはもう自由な時間がない。

「今日逢ったばかりなのに、こんなことを言う僕のこと……軽蔑しますか」
「そんな、軽蔑なんてしていません」

 思わず、言っていた。でも本気なんだろうか。本気で……私と。

「――私も、同じことを思いましたから。あなたと……」

 自分でも驚くような言葉だった。
 こんな言葉を口にしてしまうほど、私も、彼と別れ難かった。今は、お見合いのことなんて忘れて、この人と一緒にいたい。

「それは僕の思いに応えてもらえる、と理解していいんでしょうか」
「……ええ」

 もしかしたら、こういうことに免疫のない私は、彼の甘い言葉に引っかかってしまっただけなのかもしれない。簡単に落ちた私は、心の中で笑われているのかもしれない。
 でも、それならそれでよかった。
 お見合いをして、好きでもない人と結婚するのなら、その前に一度でも夢を見てみたかった。恋に近いものに浸って肌を合わせてみたい。この人とならいいって……そう思えてしまったから。

「そうですか」

 彼は一瞬悲しい表情をして口を引き結んだ。そのかげりに困惑する。もしや軽い女だと思われたの? でも自分から誘っておいて、そんなことを思うもの?

「ありがとう。もうしばらくしたら部屋に行きましょう。あなたの気が変わらないうちに」

 後悔しても、二度と巡り会えないかもしれない。彼の言った言葉を無理やり今の自分に当てめて、一緒にいることを正当化しようとしていた。


 外泊することを母にメールし、お店の外で待っている彼のもとへと急いだ。
 冷たい風が海のほうから吹き上げ、私の着物のたもとをパタパタとはためかせた。足元から虫の音が聞こえ、真っ暗な空には明るい月が輝いている。

「結構寒いですね。大丈夫ですか?」
「はい。あ……」

 彼が私の肩を抱き寄せた。その力強さに……これからこの人に抱かれるんだと、頭ではなく体で思い知らされた。私、何も知らないのに、ちゃんとできるだろうか。
 小さな秘密の共有ではなく、今度は本当の秘密を二人で作りにいく。ひそかな共犯者の横顔をそっと見上げ、胸に覚悟を決めた。
 曇りガラスでできたカーブを描く横長の壁は、内側から漏れる灯りで全体がライトアップされたように見える。身を寄せ合いながらそこを通り過ぎ、入り口からロビーへ入った。
 既に鍵を持っていた彼と、客室に向かって進む。先ほどのガラスの壁の内側は客室前の廊下になっていて、どこまでも温かいオレンジ色の灯りが幻想的だった。ドアの前で彼が立ち止まり、ルームキーを差し込んだ。
 部屋は空調が効いていて、ふんわりとした暖かさに体が包まれる。ツインのベッドルームが目に飛び込んだ。その現実を目の当たりにして恥ずかしくなった私は急ぎ足で窓際へ行き、椅子いすの上に荷物を置いた。

「外、見えますか?」

 部屋の中で初めて、彼が言葉を発した。カーテンを少し開けて外を見る。

「国道を走る車が見えます。江の島の灯台も」

 すぐ後ろに立った彼は私の両肩に手をのせ、うなじに顔をうずめた。

「!」

 敏感に体が反応してしまい、大きく身をよじらせる。私のうなじに何度も唇を押し当てている様子が目の前のガラスに映っていて、かっと顔が熱くなった。知識だけはあるけど、このまま任せていいものなのかどうなのか……首筋に当たる感触に気がいってしまって何も考えられない。
 後ろから私を抱きしめた彼は、自分のほうへと向き直らせた。顔を近付けられ、咄嗟とっさまぶたを強く閉じる。いきなりこんな……どうしよう。
 肩を縮ませていると唇が重なった。彼の腕の中で身を固くする。ついばむようなキスに慣れてきた頃、彼の舌がゆっくりと私の口の中に入って来た。驚いて肩がびくりと揺れてしまう。私も同じようにしたほうがいいんだよ、ね? でもタイミングが上手く掴めない。されるがままになっていると、一旦唇を離した彼がかすれた声で甘くささやいた。

「あなたの舌も、僕にください」

 再び含まされた柔らかな舌に、恐る恐る私の舌を差し出して応えた。彼は私の舌をすくい取り、何度も強く吸い上げた。柔らかくて温かくて絡ませた先から溶けてしまいそう。初めてなのに不思議なほど嫌じゃない。嫌だと思うどころか、もっと……して欲しいくらい……

「ん……」

 頭がぼうっとして体が熱い。次第に深まる口付けに声が漏れそうになるのをこらえたせいで、息遣いが荒くなる。そこに反応した彼が私の体を優しく撫で始めた。それだけなのにたまらなく気持ちよくて、足元から崩れてしまいそう。

「あの」

 唇を離し、私と同じように小刻みに息をしていた彼が申し訳なさそうに言った。

「すみません……どこから脱がせたらいいか、わからないんです。女性の着物に触れるのは初めてで」
「あ、えっと……このひもを」

 震える手で帯締めをほどくと、彼がそれをゆっくりと引っ張って取り上げた。

「次は?」
「つぎ、は……、あっ」

 耳に唇を押し付けられて、帯に置いた手が止まってしまう。彼は私の耳をめながら自分の羽織はおりを脱いだ。衣擦きぬずれの音に重なる熱い息遣いと彼の唇の心地良さに、足の間がどんどん濡れてしまっているのがわかる。

「素敵な着物なので、これ以上はやめておきます」

 手を止めた彼が私をそっと抱きしめた。

「慣れない僕が下手に脱がせて、あなたのお気に入りの着物がしわになったら大変ですよね。すみません、せっかく教えてくださろうとしたのに」
「いえ、そんなこと」

 微笑んだ彼は私に軽くキスをしてから、自分の帯に手を置いてほどき始めた。

「僕が先にシャワーを浴びますから、その間に……脱いでいて下さいっていうのもなんですけど、着物を畳んで待っていて下さいますか」
「はい」

 着物を脱ぐ彼を見てはいけない気がして、慌てて背を向けた。

浴衣ゆかたがありましたから、あなたの分はベッドの上に置いておきますね」
「あ、ありがとうございます」

 がちゃりと音がして振り向くと、彼は帯をベッドの上に残して、バスルームへ入ったようだった。
 ひと息吐いて帯揚げに手を回す。まだ、手が震えている。帯をほどいて着物を脱いだ。ベッドの上に帯と着物を広げて丁寧に畳む。足袋たび襦袢じゅばんも脱ぎ、ホテルの浴衣にそでを通してから、裾に手を割り入れてショーツの中を確認した。

「……やだ、どうしよう」

 さっきから感じてたけど……キスだけでこんなに濡れちゃうものなんだ。恥ずかしいから早く洗ってしまいたい。浴衣帯を締めて、紙袋から取り出した風呂敷をデスクの上に広げた。畳んだ着物や帯や襦袢、髪から抜いたかんざしを重ねてのせる。
 シャワーの音が消えた。
 心臓が、どくんと跳ねる。このあと、またあんなに熱いキスをされるのかな。というか、キスどころの話じゃないわけで……

「あれ……?」

 そういえば帯締めがない。彼、どこへ置いたんだろう。辺りを見回してみる。窓際へ歩み寄ると、椅子いすの上にあった。でもちょうの形の帯留めはひもから抜けてしまったのか、どこにも見当たらない。とりあえず帯締めだけを着物の上にのせたとき、バスルームのドアが開いた。

「お先にすみません。どうぞ」

 彼は私と同様、ホテルの浴衣を着ていた。前が少しはだけて鎖骨が見えている。何とも言えないつやっぽさから目を逸らしてしまった。いちいちドキドキしてたら、このあと、身がもたないってば。

「畳めました?」
「え、ええ。おかげさまで」

 仕方がない。この部屋に落としたのは間違いないんだから、帯留めはあとで探そう。
 素早くシャワーを浴びた。おかしなところがないかどうか、タオルで拭きながら鏡に映る自分の体を見つめる。何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。私、とうとう本当にこれから……しちゃうんだ。もう決めたんだから迷わない。外して洗面台に置いていたネックレスを、再び着ける。
 部屋の灯りは薄暗いものに調節されていた。タオル地のスリッパを履き、ベッドに座る彼のそばに立つ。

「お待たせしました」
「いえ。シャワー熱くなかったですか?」
「ちょうどよかったです。温まりました」
「そうですか……確かめさせてください」

 手を伸ばした彼は私を隣へ座らせ、洗ったばかりの首筋を指先でゆっくり撫でた。

「僕の名前は」

 肩に回された彼の右手に強い力が込められる。

「そうすけ、と言います」

 そう、すけ。どういう漢字で「そうすけ」と書くんだろう。

「わかりませんか」
「え……?」

 わからないってどういうこと? 意味が理解できず、答えに困っていると彼が続けた。

「あなたの名前は?」
「七緒、です」

 彼の真似をして下の名前だけ。どんな字なのかも伝えなくていいよね。

「ななお、さん」
「はい」

 返事をした唇にキスをされた。唇を重ねたままそっと押し倒され、ベッドに仰向けになる。心臓が彼に聞こえてしまいそうなくらいの大きな音で鳴り響いていた。体が緊張で強張っている。唇を離した彼がささやいた。

「ななおさん……好きです」
「え……?」

 意外な言葉に耳を疑った。好き、って、今日逢ったばかりの私を……?

「あなたは? 僕のこと、少しでも好きになってもらえたでしょうか」

 応えても、いいのだろうか。

「……ええ、好き……です」

 躊躇ためらうことなど許されない眼差しを受け、自然と唇が動いていた。その言葉に嘘はない。好きじゃなければ、ここまでついて来ない。ひと目でこんなにも心を動かされた人に出逢ったのは、初めてだった。
 彼は眉根を寄せて大きく息を吸い込んだ。

「明日の朝、僕のことを教えます。何もかも全部。だからあなたのことも教えてください。僕に全て」

 教えるというのは、名字や歳やお互いのプライベートのこと? 彼の瞳を見つめ返して、私は頷いた。

「わかりました」
「ありがとう。朝までは……僕のことだけ考えていて下さい」

 不覚にもその言葉に胸がきゅんとした。私の上に乗る彼がネックレスに触れる。

「これ、さっきの店で名前が付いていたのを見ましたか?」
「いえ」
「古都に咲く花、と書いてありました」
「古都に咲く花……」
「僕にとって、あなたがそうです。ななおさん」
「んっ!」

 瞬きする間もないほどだった。強く唇を塞がれて息ができない。さっきとは全然違う、何もかも奪い尽くされてしまいそうな激しいキスに、悲しくもないのに涙がにじんだ。

「……本当にいいんですね」

 息を乱しながら顔を離した彼は、私が着ている浴衣ゆかたの襟元に手をかけた。間近にある熱の浮かんだ瞳に、私が映っている。

「あなたが嫌がることはしたくない。きちんと避妊もします。でも、途中でやめられる自信だけはありません」

 私を好きだと言ってくれた、その思いにすがってみたい。それだけで今は、いい。この人になら……ううん、この人がいい。

「……して、ください」
「ななおさん……!」

 襟を引いて首筋に顔をうずめたそうすけさんは、き出しになった私の肩から鎖骨辺りに、唇を押し付け、吸い付いた。

「あ……」

 ため息を漏らすと、彼が手を止め顔を上げた。

「これは……」
「?」
「着物用の下着、ですか?」
「え、あ、そうなんです。外します、ね」

 フロントホックの形が可愛くて買った、白い総レースの和装ブラ。普通のブラとはだいぶ違うからがっかりされたかもしれない。急に恥ずかしくなって焦る私に、彼が笑いかけた。

「僕が外したいな。こういうの初めて見るから興奮する」

 言いながら、そうすけさんの指がホックをひとつずつ、ゆっくりと外していく。ぼんやりとした灯りの中、解放感を覚えた私の両胸に彼の視線が釘付けになった。

「ずいぶん押さえ付けてあったんだ……」

 ため息とともに感心したような言葉に体が火照ほてる。生まれて初めて男の人に見せたんだから、本当は両手で隠して、この場を逃げ出したいくらいなのに。

「そんなに、見ないで……あ」

 温かい両手のひらで包まれたかと思うと、間に顔をうずめられた。丸い膨らみを強弱をつけて揉みながら、彼は頬をすりよせてくる。

「こんなに大きくて綺麗なのに、押さえ込むなんて……もったいない」
「着物のときは……押さえない、と、見た目が、悪い……から、んっ……!」

 先端を指で挟まれた。びりりと電流のような刺激が走り、体が仰け反る。
 焦らすように指先で軽くとんとんと弾いたり、こねたりしながら私の反応を見ていた彼が、そこにぬるりと舌をわせたのを見てしまった。

「っ……ふ……」

 恥じらいのない女だと思われたら嫌だから抑えたいのに、彼の動きにいちいち感じてどうしても声が漏れてしまう。羞恥しゅうちに負けそうな唇を噛みしめ目を閉じた瞬間、強い刺激が加わった。

「っぁ……!」

 何をされたのかと驚いて頭を起こすと、目の前にいるそうすけさんは先端を口に含んでいた。まるで飴玉でもめているかのように舌で転がし、吸い付いている。かぁっと頬が上気した。ここって、舐められたら……こんなにも気持ちいいものだった、の……
 呼び水を与えられたかのように、次の刺激を求めたくなる。我慢できそうにない声を咄嗟とっさに手で押さえようとしたところを、阻まれた。

「声、出ちゃう、から……っ」

 私の両手首をシーツに押し付けながら、彼はまだ先端を執拗しつように舐め回している。

「聞かせてください、ななおさんの声」

 言い終わるとまた、強く吸う。太腿ふともも摺り合わせて、止めようのない足の間のうずきにえた。

「ん……う、んん……」
「もっとです、もっと……!」

 手首を解放したそうすけさんは、舌と唇と指と手のひらを使って、両方の先端を強くいじった。頭の芯がくらくらする。それだけで達してしまいそうになるのを、唇を噛んで必死に我慢した。
 浴衣ゆかたの裾はいつの間にか大きくめくれていた。彼の手がそこへ伸びる。シャワーを浴びる前のことが頭をぎり、咄嗟に足を閉じて、ショーツに触るその手を押さえた。

「あ、いや」
「どうして?」
「多分、あの……すごく濡れちゃってる、から」
「だったらなおさら見せて欲しいな。あなたが喜んでくれたなら、僕もすごく嬉しいから」

 穏やかな声とは反対の強引な手の力に、逆らえない。あっという間に彼の長い指がショーツの中に入り込む。濡れた狭間をぐるりと撫でられた。

「んっ、や……!」

 くねらせた私の腰から、ショーツを素早く脱がせた彼が意地悪く微笑んだ。

「ほんとだ。すごいですね、ほら。聞こえます?」

 入り口付近に浅く指を抜き差しされて、くちゅくちゅという水音が部屋に響く。

「あ、意地悪、言わな、いで……」

 太腿ふとももに力を入れても彼の膝に割り入れられて、足を閉じることができない。いつの間にか彼も上半身がはだけている。すがるように、その肌に指先を伸ばして触れた。

「どうしたの」
「熱い、かな……って」
「熱いですよ。ななおさんと同じくらい興奮してるから」

 一瞬微笑んだ彼の表情が、挑むような目つきに変わり、指をさっきよりも深く差し込まれた。

「ぁあっ」

 今朝パンに落としたバターのように、熱い彼の指に溶かされたそこがシーツに染みを作ってしまいそう。恥ずかしくなった私は、彼の手をそっと押して指を抜いてもらい、縮こまって背を向けた。同じくらい、なんて言われて感じて大きな声出して――。そんな顔見られたくない。

「何でそっち向いちゃうの……?」

 彼が後ろから私を優しく抱きすくめる。彼の甘い声に、体も心も震えてしまう。いつまでもこうしていたい、と思うだけで涙ぐむなんて。

「だって私、いっぱい感じちゃって変な顔してる、と思って」
「変じゃない、綺麗なのに」

 彼の指が私の髪を優しくいた。やがて彼は浴衣ゆかたの裾をさらに上までまくり上げ、私の下半身をき出しにした。指がお尻の線をゆっくりと撫で、ひたひたに濡れそぼった場所へ到達する。そして奥へと入り込んできた。

「っ……!」

 体が勝手にびくんと揺れると、それに応えるように、ゆっくりゆっくりと出し入れされた。指を動かしながら、彼は唇を背中へ押し付ける。その唇が、快感をあおる。唇だけじゃない。背に触れるふわふわとした髪の感触が、昼間隣を歩いていた彼の姿を唐突に思い出させ、今こうして裸で抱き合っていることとのギャップが体の奥から甘すぎるほどのみつを溢れさせた。

「ん、んっ……ん」

 歪む視界に入る真っ白なシーツを前に、両手で口を押さえて首を横に振った。

「ななおさんて、強情なんですね。素直になればいいのに」

 クスッと笑った彼が耳たぶを甘噛みしながら、私の足を大きく広げさせた。

「あ……だめ」

 そうすけさんの腕を押し退けようとしたけれど、力ではとてもかなわない。優しく穏やかな人だけど、こういうときはやっぱり男の人だよね……。強く求められることに、怖さと喜びが混じる不思議な気持ちを抱えていると、ふいに私を仰向けにさせた彼が、あろうことか広げさせたみつの入り口へ自分の顔を近付けた。

「え、待って、駄目ほんとに!」
「何が、駄目……?」

 自分でもじっくり見たことなんてないのに、それを間近で見られるなんて死ぬほど恥ずかしい……! 彼の髪に触れて腰を引こうとしたとき、ぬるりとした感触が私の下半身を支配した。

「やっ……!」

 何これ……! 思う間もなく、跳ね上がった腰を押さえ付けられ、音を立ててすすられた。

「だ、駄目って、あっ、言っ……は……ぁんっ」

 頭の中が真っ白になるくらいの羞恥しゅうちと気持ち良さで、何が何だかわからなくなる。喘ぎ声が勝手に口から押し出されていく。
 優しくしたり、激しくしたり……まるで私を求める彼の心がそのまま唇と舌にのせられているかのようだった。

「あ……だめ、そこっ……!」

 一番敏感な、中心の小さな硬い部分を、ちゅ、と吸われた途端、頭の奥でぱっと閃光が広がった。

「う、……あ、あっ」
「気持ちいいの……? ななおさん」

 硬い粒を彼の舌が執拗しつようめ回し、指は内に入ってかき混ぜ続けている。奥から駆け上ろうとしている快感から、どうやっても逃げられそうにない。このままだと、私……

「あ……わた、し……」
「いいんでしょ? ……言ってよ」

 低い声に支配されて、頭とは反対にもっともっとと快感を望むそこが腰を上げる。こんなこと、駄目なのに。……もっと、して欲しい……

「言ってくれないと、やめますよ、ななおさん」

 顔を上げた彼が指の動きもやめてしまった。焦らされて、おかしくなってしまいそう。うずくそこを広げられたまま、小さく呟く。

「……そんな、ずるい……」
「ほら、言って」

 入り口全部を、べろりと大きく舐められた。熱い。熱くてたまらない。じっと耐えていたものが一気に込み上げ、私を喘がせた。

「ぁい、いい、で、す……、あ、お願い……!」
「……やっと言ってくれた」

 でも彼は指の動きを激しくするだけで、舐めてはくれない。

「あ、意地悪、しな……い、でぇ……!」
「ななおさん、可愛い」

 満足げに呟いた彼は硬い粒を吸い上げ、指でさらに内をかき回した。本当にもう、もう……駄目……!

「あ、もう、もう……来ちゃ、う」

 刹那せつな、下腹が震え全身が恍惚こうこつの波に投げ出された。彼の指を呑み込むそこが、いつまでも痙攣けいれんしている。
 私……今日初めて逢った人の、舌と唇と指で……達してしまった……
 汗ばんだ私のひたいに彼がキスをした。呼吸がなかなか整わない。私の乱れきった浴衣ゆかたを脱がせたそうすけさんは、自分も全てを脱いだ。

「僕も、いいですか」
「え……?」
「我慢できない。そろそろななおさんに……れたい、んですが」

 こちらを見つめる瞳が揺らいだ。澄んだその色に視線を重ねて頷く。

「……はい」

 いよいよ……なんだ。私の髪を撫でた彼が優しく微笑む。まだ意識が宙を漂っていて、実感が湧かない。

「ちょっと、待ってくださいね」

 彼はベッドサイトの棚に避妊具を置いていたようで、そこに手を伸ばしていた。私がシャワーを浴びている間に用意したのかな。
 いつ買ったんだろうとか、元々持ってたのかなとか、私じゃなくて他の人と出会っても……使ったのかな、なんて、ネガティブなことを考えていると、いつの間にか彼の顔が目の前にあった。唇をちゅうと吸われて、そのまま舌が絡まる。何回目のキスだろう。キスって口だけじゃなく、そこから全てを溶かしてしまうものだって、彼が……教えてくれた。

「ななおさん……」

 私の名前を呼ぶその表情に、胸が苦しくなる。切なそうな、嬉しそうな……どうしてそんな顔をするんだろう。問いかけようとしたそのとき、内腿に触れていた硬いものが、濡れた入り口にあてがわれた。ぐっと挿れられて鈍痛が走る。

「い……っ!」

 こんなにたくさん濡れてても痛いものなんだ……! 何とか力を抜こうとするけど、痛みが先に立って、どうやっても無理。私はのしかかっている彼の両肩を掴み、奥歯を噛んで耐えた。

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