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第2章
ロコモコのおかげでうちは活力に溢れてくる。
しおりを挟むロコモコのおかげでうちは活力に溢れてくる。それでこの小リスを上賀茂神社にお返しすることにした。なぜなら響さんが「リスと言ったら神社やろ。」という根拠のない方針を出し、それに従ったのである。なぜリスと神社がリンクするかは、インターネットで調べても分からないと思う。
「っていうか町子ちゃん、ほんとに今から行くん?」と響さんは言った。その横に立つ背の高い青年も不思議そうな表情をしている。
「うん、うち歩くの結構好きやし。」と返事しつつ、うちは小リスを手のひらに収める。響さんは「送っておげようか。もうちょっとで店閉めるから。」と言ってくれたけど、うちは丁重にそれを断った。決してロコモコを食べてくれなかった仕返しなどではない。待ってるのも手持ち無沙汰やったし(あとは青年にも悪いと思ったし)本当に歩くのが苦ではなかったからだ。特に夜に散歩すると、とても世界が美しい。風が吹き、月が雲間から再び出てきて、うちは鴨川沿いを再び上流へと向かう。響さんが土手から手を振って見送ってくれる。うちは小リスを持っていないほうの手を振る。
「帰りはタクシー捕まえるし。」と叫ぶと、響さんはケイタイを取り出し「何かあったら電話して。」というようなジェスチャーをしてくれて、その姿は女のうちから見てもとても逞しく思えた。月夜が似合う女?投票させれば、響さんはトップ3に入ること間違いなしや。うち…ま、自分のことはさておき、さっきから後ろを一人の影武者のような人が歩いてきてる。いまだにジョギングしてる人とか、たまに自転車に乗った人はおるものの、影武者はピッタリうちの後ろを歩いくる。さすがのうちも気味が悪くなってくる。
小リスはうちの手の中でこくりこくりと眠ってはる。お腹いっぱいになったせいやろうか、なんて呑気なリスさんや。うちはそれどころちゃう。だって後ろ、後ろから影武者が歩いてくるねん。ああ、こんなことやったら響さんに送ってもらうんやった。青年なんかに遠慮するんとちがった。などとうちが思っていると、おもむろに影武者のスピードが上がってくるねん。いやや、うちは思わず走り出してしまった。「なんや痴漢、こんとって。」うちは心の中で叫ぶ。叫びまくる。いやや、こんなところでうちは凌辱されるんやろか。そんなんやったらまだ草むらで仲条さんに触られた方が…なんてうちが変な想像をしているうちにも、影は近づく。あかん、うちのスピードじゃ全然叶わへん。
「なによ。」うちは後ろを振り返った。なんとも我ながら見事なターンやった。水泳選手でもあそこまで立派なターンはできへんはず。
「いや、拙者。そなたが困っているようであったから。」と影が言った。逆光ってわけちゃうけど、闇夜で顔がはっきりと分からへん。
「接写って。撮影する気?」なんてうちもトンチンカンな答えを返してしまう。
「撮影でござるか?」と影は困ったような声を出す。
「いったい誰?」うちは相手の質問に答えず、質問を返しをした。
「拙者は、名もなき武士の名折れでござる。」ござるって、なおれって、いったい誰なん。うちは困ってしまう。よく見たら、なんか男物の着物を着てはるし、ほんまに武士なんやろうか。
「じゃあ証拠を見せて。」とうちは相手に要求した。証拠を見たからってどうなるわけでもないんやけど。
「証拠と言われても。」相手も困ったようで、一瞬うちは勝ったと思った。のも、つかの間、一瞬にして刀が抜かれる。それを高々と持ち上げて、月光にキラリと光る。
「それ本物?」とうちは多少なりとも身じろぎながらようやく声に出した。
「そうでござる。」相手はそう言って、刀をぶんと振った。それはうねりとともに時間と空間を切り裂いたのを、うちは見逃さなかった。
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