勇者パーティーから追放された最弱の俺は、20年間引きこもりました。え? 今の俺? 最強武闘家となり、トーナメント連勝でワクワク爆進中ですが?

武志

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第38話 ローフェンVSセバスチャン

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 次の日──。
 ついにローフェンと、謎のゲルドンの秘書、セバスチャンが闘うことになった。
 2回戦第4試合。
 
 ゲルドンの秘書の闘いぶりを観ようと、たくさんの客がスタジアムに入っている。

「ついに、セバスチャンをぶっとばす時がやってきましたよーっと」

 ローフェンはすでに武闘ぶとうリングに上がり、軽い柔軟体操をしている。
 いつも通り、軽口をたたいているようだ。

「お、おいっ! 気を引きめろ、ローフェン」

 俺はローフェンのセコンドを申し出て、リング下からアドバイスするつもりだ。
 俺のそばには、ミランダさんもいる。彼女もセバスチャンの試合を近くで観たいらしい。
 エルサも娘のアシュリーと一緒に、セバスチャンの試合を観ると言い出した。観客席に座っている。

「相手はどんな技術を持っているか、さっぱり情報がないんだ。気を付けろ」

 俺はローフェンに注意した。

「情報? いらねーよ、そんなモン。俺が蹴り飛ばしてやるさ」

 ローフェンは余裕の表情だ。
 
 一方のセバスチャンの武闘ぶとうリングに上がり、ローフェンをじっと見ている。
 何をやってくるのか? それとも、たいしたことないヤツなのか?

 セバスチャン──この試合で、彼の実力が明らかになる!



 カーン

 試合開始のゴングが打ち鳴らされた。

「あーらよっ!」

 ローフェンはいきなり走り込んで、上段回し蹴りだ! よ、よし、いきなり大技だが、いいぞ!

 セバスチャンは薄く笑って、スウェーでそれをける。
 ローフェンはそのまま後ろ回し蹴りに移行した。

 スッ

 セバスチャンはすずしい顔で、後退。これも見事にける。

「だッ」

 ローフェンのパンチ──左ジャブ!

 セバスチャンは顔をかたむけて、それをけた。

「いいね。君、なかなか良い蹴りだよ。ローフェン君」

 セバスチャンは笑って言った。

「君は我が武闘家ぶとうか養成所、『G&Sトライアード』では、中級クラスで学ぶといい」
「中級クラスだとおおおお? バカにすんだ!」

 ローフェンの右ストレートパンチ、左ジャブ、そして右中段回し蹴り!

 セバスチャンは二回のパンチを手で叩き落し、回し蹴りは左スネでカット。

「どらあっ!」

 ローフェンの大振りのパンチ──左フック! 速い! これはもらったか?

 シュパッ

「あっ……!」
「見ろ」
「何だ?」

 観客たちは声を上げた。

 セバスチャンは、そのローフェンのパンチ──拳をいとも簡単に、手でつかんでいた。

 ゆるり

 その時──そんな音がしたような気がした。セバスチャンはムダのない動きで、ローフェンの背後に回り込んだ!
 
 そ、そして、ローフェンの鼻を──。

 セバスチャンは自分の手で、ローフェンの鼻をふさいだ?

「お、う?」

 ローフェンは後ろに回り込まれてあわてた。
 
 するとセバスチャンは、ローフェンの膝裏ひざうらを、右足でんだ! 

 すると、セバスチャンは、ゆっくりとリング上に座らされてしまったのだ。

 まるであやつり人形のように……。

 な、なんだ、この技術は?

「あれは軍隊格闘技の技術よ!」

 ミランダさんが声を上げた。

 ぐ、軍隊格闘技? 戦場で使う格闘術ってことか?

「相手の力を制圧する、超実戦的な格闘技よ」

 セバスチャンはローフェンの首に、自分の右腕をかける。

 やばい! 首絞め──チョークスリーパーだ!

「だらあっ!」

 ローフェンはひじを振り回し、セバスチャンのほおに当て、あわてて立ち上がった。そしてチョークスリーパーから、逃れた……! あ、危ない、危ない……。

「ふふっ」

 セバスチャンはひじが当たったほおを手でこすって、ローフェンと対峙たいじした。

 セバスチャンは深追いしない。

 ──二人はまたスタンディング──立ったままで、にらみあった。

「君、なかなかしぶといね」

 セバスチャンはひょうひょうと言った。

「あいにく、優勝ねらってるんで──」

 ローフェンは答えた。

「って、おい! てめー、さっきから上から目線でムカつくな」

 ローフェンはそう言いつつ、またしても右ジャブを繰り出し、今度は接近して──左ボディーブロー! セバスチャンの腹を狙った。

 し、しかしだ!

 セバスチャンは右ジャブをけ、しかも左ボディーブローをけたと思ったら──。

 ローフェンの左腕を、自分の脇に挟んで、フック──固定した!

「なっ!」

 ローフェンは驚く。

 この超近距離のまま、セバスチャンはローフェンに、パンチで打撃を加えた。

 ガスッ
 ゴスッ

 そんな音が聞こえる。セバスチャンは、ローフェンの顔、胸、腹に、器用にパンチで超接近の打撃を与えていく。ローフェンの左腕は、固定したままだ!

 あ、あんな打撃技があるのか? そ、そうか。これも軍隊格闘技ってヤツの技術か!

「まるでタコね」

 ミランダさんは腕組みをしながら言った。

 俺もうなずいた。セバスチャン──まさしくタコのようにからみつくような戦術!

 ああっ……! 超近距離のパンチをくらったローフェンから、鼻血が!

 すると、セバスチャンはその接近状態を解き、ローフェンの首と腰に腕をかけて──。

「投げ──!」

 俺は声を上げた。
 
 セバスチャンは、ローフェンを後ろに投げ捨てたのだ!

 ベキイッ

「グヘッ」

 ローフェンは右あばらから落ちて、声を上げる。し、しかし声を上げる直前に、へ、変な音がしたぞ?

 ウオオオオッ

 観客がセバスチャンの投げに興奮している。

「今の音!」

 俺はミランダさんを見た。

「ええ、私も聞いたわ。まずいわね。──セバスチャンの放った投げは、『裏投げ』よ」

 ミランダさんは静かに言った。あ、あれが裏投げか! 噂には聞いたことがあったが……。

「軍隊格闘家が得意とする投げ技の一つね。そのまま寝技に移行できる! そして──ローフェン君はあばら骨を折ったわね……」

 セバスチャンはニー・オン・ザ・ベリーの状態になった。
 ローフェンが仰向けに寝ている状態だが、セバスチャンは片膝をローフェンの胸の上に乗っけている状態。これがニー・オン・ザ・ベリーだ。
 
 一見不安定だが、この状況はある意味で馬乗りマウントポジションよりも危険だ!

 するとセバスチャンは、何とローフェンが痛めているあばら骨を、もう片方の膝で蹴りだした。

 ガスッ
 バキッ 
 ドゴッ

 くっ……エグい攻撃だ! ローフェンは……! 痛みで失神しかかっている!

 俺は……俺は我慢できなかった。

「のやろおおおおっ!」
「ゼント君!」

 ミランダさんが声を上げる!

 俺はリングに上がった……! 上がってしまった。
 そして、ローフェンの上で攻撃しているセバスチャンに向かって、突進し──。

 ドガッ

 セバスチャンに体当たりをかました。

 セバスチャンは俺の体当たりで吹っ飛ぶ。彼はすぐに状態を起こし、ニヤリと俺を見た。

 ウオオオオオッ

 観客たちが声を上げる。

「うおおっ! 何だ?」
「あれ、ゼントってヤツじゃねえのか?」
「乱闘じゃん! セコンドが入ってきちゃダメだろうが~!」

 何を言われてもいい! これ以上、ローフェンを攻撃させない!

「早くローフェンを治療してください! あばらが折れている!」

 俺はリング外にいる白魔法医師たちに向かい、叫んだ。

 白魔法医師たちは何やら審判員と相談していたが、あわててリングに上がってきた。すぐに、ローフェンを診察し始めた。

「ククク……」

 セバスチャンは立ち上がって、リング上にいる俺に言った。

「ダメじゃないか、ゼント君。セコンドが試合中に上がってきちゃあ」
「うるさい! ローフェンのあばらは折れている! お前、折れているのが分かっていて、あばらに追撃しただろう!」
「フフフ……。相手の怪我をした箇所かしょを狙うのも、戦術の1つではないか」
「バカ言うな! もう勝負は決まっていた! ローフェンの選手生命を奪う気か?」

 その時、白魔法医師長はリング外に向かい、手でバツの字を作った。

 カンカンカン

 とゴングの音がした。試合終了か……。

『4分20秒、ドクターストップおよび、反則勝ちでセバスチャン選手の勝ち! なお、反則の原因となったゼント・ラージェントには、何らかのペナルティが課せられます!』

 ペナルティ? そんなものどうだっていい。
 ローフェンは? 俺は仰向けに寝ているローフェンに近寄った。

「ゼ、ゼントのバカヤローが」

 ローフェンは真っ青な顔で、俺に言った。

「お前のせいで、反則負けだろーが……。これから俺が、ヤツをぶちのめすところだったのに……」
「後で色々、聞いてやる。あまりしゃべるな、ローフェン! あばらにひびくぞ」

 俺は言った。

 ローフェンは悔しそうな顔をしながら、白魔法医師たちが用意した、タンカに乗せられて武闘ぶとうリング外に出された。

 セバスチャンも、さっさとリング外に降りてしまっている。

 俺も審判長に注意されて、リングを降りた。

 すると──武闘ぶとうリング下で見たものは、意外な光景だった。

 サユリがセバスチャンの前に立っている。

「セバスチャン先生、準決勝は私と勝負しましょう」
「トーナメント上ではそうなるね。だが、君は棄権《きけん》したまえ」

 セバスチャンは首を横に振りながら言った。

「教え子を傷つけたくはない」
「あなたが間違っていることに気付きました」
「……何?」
「傷ついた相手を叩きのめすのは、武闘家の精神に反すると思います。私がそれを身をもって示すために、私は、先生と──いえ、セバスチャン、あなたと闘います」

 セバスチャンは眉をひそめて、サユリに、「お前」と言った。

「考え直せ。今からでも遅くない、棄権《きけん》しろ」

 セバスチャンはそう言って、花道をさっさと歩いていった。
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