勇者パーティーから追放された最弱の俺は、20年間引きこもりました。え? 今の俺? 最強武闘家となり、トーナメント連勝でワクワク爆進中ですが?

武志

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第37話 サユリVSセバスチャンの宿敵、ギスタン

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 俺は自分の試合が終わり、セバスチャンと話した後、すぐに試合会場に戻った。そしてすぐに観客席についた。
 サユリの試合を観るためだ。
 隣にはミランダさんがいる。サユリはミランダさんの元教え子だ。

「サユリの第2試合目ですね」
「ええ」

 これからサユリとギスタンの試合がある。
 すでにサユリとギスタンは武闘ぶとうリングの上に上がっていた。サユリは今日もはかまという衣装を着ていた。
 サユリの体格は、身長154センチ、体重48キロ。
 ギスタンは身長177センチ、体重80キロ。まるでオーク族のような体格だ。
 すさまじい体格差だ!

「ギスタンはセバスチャン・トレーニングジムから離れていったけど、真面目な武闘家ぶとうかよ」
「なぜ、離れていったんですか?」
「セバスチャンの教え方、指導の仕方に問題があったようね。それに反感を持った」

 俺はセバスチャンの弟子である、さっきのシュライナーとの試合を思い出していた。シュライナーは要所要所で頭突きの反則技を繰り出した。
 あれがセバスチャンの指導通りだとしたら……!
 セバスチャンの弟子であるサユリは……?

 カーン

 試合開始のゴングが会場内に響いた。マスコミも心なしか多い。

 さて、リング上のギスタンは、目の前のサユリに向かって口を開いた。

「女だからって容赦ようしゃしないぜ。あんたの先生──セバスチャンの指導は、完全に間違っている。俺が正してやる」

 ギスタンが言うと、サユリは無表情で言葉を返した。

「いえ、正しいのは私たち、セバスチャン先生の生徒です」

 ギスタンはギリリ、と歯噛はがみした。

「いくぜえっ」

 ギスタンは左ジャブを放っていった。

 ガスッ

「ブフッ」

 いきなりだ!

 ギスタンが声を上げてのけぞる。あ、当たったのは……サユリの拳! い、いつの間にサユリはパンチを放ったんだ?

 左ジャブと合わせるように、サユリの直突ちょくづきが、ギスタンの鼻に当たっていた。直突ちょくづきとは、腰をあまり回転させず、拳を縦方向に出す打撃法のことだ。

「こ、このおっ!」

 ギスタンの左フック!
 
 ベキッ

「グヘ」

 またしても、ギスタンがのけぞる。
 サユリの直突ちょくづきが決まっていたのだ。
 直突ちょくづきの方が、モーション、動作が早いため、サユリのパンチが決まってしまう──。しかもカウンターで……!

 すると──。ギスタンの突き上げるような左アッパー!

 ゴスッ

 しかし、これもまたサユリの直突ちょくづきが、ギスタンの鼻に当たっていた。
 ギスタン……! 鼻血だ!

 審判団が少しざわついたように見えた。

 サユリは近づき、ギスタンのアキレス腱を、自分の足でひっかけ、転ばせた。

 そして……。

 ウオオオオッ……。

 観客たちがざわめいたし、俺も驚いた。

 サユリは──倒れたギスタンの腹の上に乗り、馬乗り状態になった!

「う、うわあっ! 馬乗りだぜ!」
「お、女の子が屈強な男に馬乗り? ありえねえ!」
「信じられないシーンだ!」

 ベキッ
 ガスッ

 サユリは無表情で、ギスタンの鼻に馬乗りからのパンチを叩き込んでいく。
 ギスタンは馬乗りから脱出しようとするが、サユリは絶妙なバランス感覚で、ギスタンを逃さない。

「サユリの体重移動よ」

 ミランダさんは俺に説明した。

「サユリはギスタンの逃げようとする方向を、直感で先読みしている。馬乗りしながら、細かい体重移動をしているの。絶対に、ギスタンを逃さないつもりよ」

 しかし、サユリの体重は48キロだぞ!
 ギスタンは75キロある。
 体重の軽い女の子が、男に馬乗りになってパンチを落としている。
 
 こ、こんなことがありえるのか?

 ガスッ
 ゴスッ
 ベキッ

 サユリがパンチを落とすごとに、ギスタンの鼻血が飛ぶ。サユリとギスタンは血まみれ状態だ。サユリは馬乗りパンチでも、相手の急所を的確にとらえて打っている。

 またしても、ギスタンは必死に、サユリの馬乗りから逃れようとする。
 しかし、サユリはギスタンの逃亡を、まったく許さない。恐ろしいまでの正確な体重移動で、ギスタンの逃亡能力を殺してしまうのだ。
 見ている方が信じられない。

 ゴスウッ

 サユリのパンチが、ギスタンのアゴに当たった! ギスタンもう、抵抗能力ていこうのうりょくを失っている。……が、しかし。

 サユリは無表情で、ギスタンの額に肘を落としていく。 ギスタンは額を切ったようだ。

 ガスッ
 ガスッ

 そのたびに、サユリとギスタンは血まみれになる。

「や、やめ……やめて」

 ギスタンは女の子のサユリに訴える。しかし、サユリは攻撃を続ける。まるで──。

 サユリ──鬼だ!

「お、おい……」
「やべえ試合になった」
「あの女の子、やべえ……かわいいけど……」

 その時だ。

 カンカンカン!

 とゴングの音が鳴ったと同時に、白魔法医師たちが、リング上に上がり込んできた。

「試合の決着はついた! サユリ、やめろ! 君の勝ちだ!」

『5分19秒、ドクターストップ勝ちで、サユリ・タナカの勝ち!』

 放送がかかった。

 ウオオオッ

「マジか」
「強ぇ~」
「サユリ、かわいくてやべえええ!」

 観客たちが騒いでいる。
 しかし、サユリは打撃をやめようとしない。お、おい、どうなってんだよ!

「サユリ、もうやめろ!」

 白魔法医師が、サユリを引きはがそうとする。

 そこでようやく、サユリは馬乗りパンチの手を止めた。サユリの体は血まみれだ。

 馬乗りになって、六発目の馬乗りパンチで勝負はついていた。しかし、サユリはそれでもなお、肘を叩き落していた……。

 俺はミランダさんに言った。

「こ、これが……サユリの真の姿ですか?」
「ええ」

 ミランダさんは席を立つと、リングを下りたサユリを腕組みして待ち構えた。

「やり過ぎよ、サユリ!」
「……ミランダ先生」

 サユリは悩んでいるような、苦しんでいるような顔で、ミランダさんを見た。
 そうか、サユリはもともと、「ミランダ武闘家ぶとうか養成所」にいたんだっけな。

 ミランダさんは、怒ったように、それでいて静かにサユリに言った。

「相手は戦意喪失せんいそうしつしていた。でもあなたは非情にも、攻撃を続けた。これがあなたが求める、武闘家ぶとうかの精神なの?」
「これがセバスチャン先生の方針だから」

 サユリはそっぽを向いて言った。

「サユリッ!」

 ミランダさんが怒鳴ると、サユリはビクッと肩をすくめた。ミランダさんは続けた。

「あなたは私の元教え子。だから言うわ。あなたは強い。だけど、心の使い方が間違っているようね!」

 サユリはうつむいて、花道を通り、控え室に帰っていく。俺はサユリが気になり、サユリの後を追った。
 廊下には、セバスチャンが待っていた。

「よくやった、サユリ」

 セバスチャンはサユリの頭をなでた。

「しかし、あの程度かね? 君は」
「え、いえ……」
「もっと相手を叩きのめさないといけない。相手が私たちに、二度と歯向かう気持ちがなくなるまでだ!」
「え、ええ。で、でも、あれ以上やったら……ギスタンさんが……」
「ギスタンなど、破壊してしまえ! 対戦相手は、すべて破壊しろ!」

 セバスチャンが厳しく言うと、サユリは肩をすくめ、「はい」とうなずいた。血まみれの顔が、少し泣いているように見えた。

 するとセバスチャンは俺に気付き、声をかけてきた。

「ゼント君、これがセバスチャン流の格闘術だよ」

 俺はだまっていた。
 セバスチャン! 相手を無駄に叩きのめすのが、お前のやり方なのか?
 セバスチャンから──サユリは間違った教えを受けている。

「さあ、次の試合は、私と君の友人、ローフェンの試合だ! どうなるのかな?」

 ……俺は拳をぎゅっと握りしめた。ローフェンなら、こんな野郎をぶっとばしてくれるに違いない……!
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