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第36話 その頃、セバスチャンは④
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大勇者ゲルドンの秘書であり、実業家でもあるセバスチャンは、グランバーン城に向かった。
国王直属親衛隊長に呼ばれたからである。
国王親衛隊は、グランバーン王直属の選び抜かれた戦闘部隊だ。
その隊長は大勇者ゲルドンと並び、国民の第2の勇者と謳われることがあった。
「親衛隊長殿、お呼びでしょうか」
セバスチャンが、城内の豪華な親衛隊会議室に入った時……。
ブオン
もの凄く大きな塊が、顔に向かって飛んできた。
それは拳! 何者かのパンチだ!
部屋の中に何者か──大男がいる!
「くっ」
セバスチャンはその巨大な拳を両手で受け、咄嗟に男に向かって前蹴りを放った。
ドガッ
男の腹に、セバスチャンの前蹴りが当たった。しかし、セバスチャンが逆にはね飛ばされた。
セバスチャンは床を転がり、ノーダメージですぐに立ち上がり、身構えた。
相手は、腹筋だけの反発力で、蹴りをはね返したのだ……!
「はっはっは」
セバスチャンが目の前を見上げると、親衛隊長が仁王立ちで立っていた。
隊長の年齢が50代半ば。しかし、体のサイズは一般人より2回りでかい。
身長190センチ、体重90キロ、といったところか。
「久しぶりだな。歓迎するぞ、息子よ」
隊長は──セバスチャンの父、ラーバンスだった。
ラーバンスがソファに座る。彼の体重でソファが、ギシリときしんだ。
「……父上、お久しぶりでございます。手荒い歓迎ですね」
セバスチャンは片膝をつき、父親に頭を下げる。
ラーバンス──とてつもない威圧感を持つ男だ。彼の太い腕には、魔物との戦闘でできた無数の傷があった。
「ふむ、格闘術の練習はおろそかにしていないようだな。会うのは2年前の、親族会議以来か」
ラーバンス隊長は言った。
相変わらず、鬼のように強い男だ──セバスチャンは父を見て思った。
「セバスチャン、お前に、ゆくゆくは国王親衛隊の副隊長を任せようと思う」
父がそう言うと、セバスチャンは驚いた声を出した。
「わ、私がですか?」
「そうだ、喜ばしいことだろう。というわけで、お前に機会を与える。来月から親衛隊に入隊し、兵士として1から修業せよ」
「は……?」
「親衛隊に入隊し、1から修業し、副隊長の座を奪ってみろ。お前なら3年で副隊長になれるだろう」
バカな……。セバスチャンは父親をにらみつけた。
確かに私の最終目標は、国王直属親衛隊長だ。この父親ラーバンスの座に座ることである。
だが、今や自分は、大企業「G&Sトライアード」の最高責任者だ。何で今さら、兵士となって1から修業し直さねばならんのだ? しかも来月から?
子ども扱いしやがって……私は仕事でいそがしい。
バカバカしい提案だ!
それに、副隊長になれば、親衛隊長の父親の監視下におかれることは間違いない。
──くだらん!
「お言葉ですが、私は実業家として成功しています。大勇者ゲルドンの秘書としても、仕事があり、いそがしいのです」
セバスチャンは笑顔を作って言った。顔はひきつっていたが。
「なぜ1から、親衛隊に入隊し、修業などをしなければならんのですか」
「……幻の国ジパンダル……お前の生徒たちは、皆、ジパンダルを故郷と思い込んでいるようだな」
父はつぶやくように、セバスチャンを試すように言った。
(ううっ……? なぜそれを?)
セバスチャンは父のつぶやきにゾッとした。
「『ジパンダルは理想郷』だ、などと吹聴していると聞いているが」
何と、父ラーバンスは、セバスチャンが秘密裏に行っていた、「G&Sトライアード」で行われる、若い武闘家たちへの「洗脳」のことを知っていたのだ。
「お前は、みなしごの青年たちを集めて、何やら企んでいるそうじゃないか。まさか、子どもじみた……『世界征服』でも企んでおるまいな?」
ギクリ
セバスチャンは冷や汗をかいた。
この世界征服こそ、「G&Sトライアード」の真の目的だからだ。
若い武闘家たちを育て、このグランバーン王国を力によって支配すること。
それがセバスチャンの目的だ。
「それに──ゴシップ雑誌に『G&Sトライアード』を脱退した武闘家の証言が載っていた。お前は指導と称しながら、暴力を行っていたそうじゃないか」
父の追及は止まらない。
雑誌だと……? アレキダロスにチェックさせておけばよかった。
セバスチャンはギリリと歯噛みした。
「我がラーバンス家に、くだらん問題を持ち込むな。先月の親族会議にはお前はいなかった。が、セバスチャン、お前のその『洗脳』行為が問題になった」
ラーバンスはため息をついた。
「まともになれ、セバスチャン」
父、ラーバンスは言った。
「他にも情報が入ってきておる。お前、裏で幻の国、『ジパンダル』を探しておるのだろう」
セバスチャンはまたしてもギクリとしたが、父は話を続けた。
「古いジパンダルの文献を調べ、若い武闘家にジパンダルの民族衣装を着させて闘わせていることもあるらしいな。まったく、くだらんことを。そんな地図上にもない、おとぎ話の国に入れ込んで何になる。くだらん、まったく、くだらんよ!」
セバスチャンは父のものの言い方に腹を立てたが、父親は続けた。
「そんなわけのわからぬ組織の中で、社長ごっこをしても、そのうち世間は冷たい目で、お前を見ることになる。親衛隊に入り、自分を鍛え直せ」
父の言うことは……正しい。しかし……。
「わ、私には」
「何だ?」
「私の望んだ世界がある! 私はもう子どもではない!」
セバスチャンの言葉を聞いたラーバンスは、首を横に振った。
「セバスチャン、いかん。では……力づくで止めるか……」
ラーバンスはミシリとソファを立ち上がった。両手で拳を握り、ポキポキと音を立てる。
(ううっ……)
セバスチャンはギチッと構えた。
巨漢のラーバンスが、セバスチャンの前に立ちはだかる。50代だというのに、すさまじく張りつめた筋肉だ。まともに闘ったら、ただじゃすまないだろう。
ラーバンスの闘気が、セバスチャンの方までビシビシと伝わってくる。
しかし!
「父上、私があなたを叩きのめしてごらんにいれましょう」
セバスチャンは改めて構えた。
「死にたいのか、セバスチャン」
ラーバンスが一歩前に出る。
ズチャッ……。重々しい足音が、室内に響く。
セバスチャンは、戦闘態勢に入りつつあった。
コツコツ……。
その時、扉の方から音がした。ノックだ。
城内の兵士が1名、部屋に入ってきた。
「王様から、ラーバンス様へ伝令がございます。──申し上げます」
「グランバーン王から? 何だ」
ラーバンスが兵士をジロリと見た。
「王様は、『次期国王親衛隊長の候補に、若いセバスチャン氏をあげなさい』とおっしゃっています。候補にあげる条件は、ゲルドン杯格闘トーナメントの優勝──とのことです」
う、うおおおっ……。
セバスチャンは目を丸くした。
何と! 何という幸運。
「何だと? 副隊長候補ではなく隊長候補?」
ラーバンスはギロリとセバスチャンをにらんだ。
「そうか。格闘トーナメント……。お前、出場しとるのか」
「はい、私は自分が優勝できると信じております」
セバスチャンはニヤリと笑った。ラーバンスの顔はひきつっている。
「となると、お前が……私を親衛隊長の座から引きずりおろすことになる」
「ハハッ、父上。王の言う通り、そろそろ隊長職のご辞退を考えられても良い年齢かと」
「生意気な!」
ラーバンスは舌打ちをして、ため息をついた。
「──だが一つ言っておくぞ。お前は高く飛び過ぎている。このままでは、必ず痛い目にあう。小石だと思っていた物につまづき、大怪我をするぞ」
「怪我? そんなバカな、私に限って。──さて時間です、私はこれで失礼いたします」
「愚か者め! 私はお前のためを思って……!」
父の言葉を背に受け、セバスチャンは親衛隊会議室を出ていった。
(これでこの世の支配の野望に、一歩近づいた……!)
セバスチャンは笑いが止まらなかった。
国王直属親衛隊長に呼ばれたからである。
国王親衛隊は、グランバーン王直属の選び抜かれた戦闘部隊だ。
その隊長は大勇者ゲルドンと並び、国民の第2の勇者と謳われることがあった。
「親衛隊長殿、お呼びでしょうか」
セバスチャンが、城内の豪華な親衛隊会議室に入った時……。
ブオン
もの凄く大きな塊が、顔に向かって飛んできた。
それは拳! 何者かのパンチだ!
部屋の中に何者か──大男がいる!
「くっ」
セバスチャンはその巨大な拳を両手で受け、咄嗟に男に向かって前蹴りを放った。
ドガッ
男の腹に、セバスチャンの前蹴りが当たった。しかし、セバスチャンが逆にはね飛ばされた。
セバスチャンは床を転がり、ノーダメージですぐに立ち上がり、身構えた。
相手は、腹筋だけの反発力で、蹴りをはね返したのだ……!
「はっはっは」
セバスチャンが目の前を見上げると、親衛隊長が仁王立ちで立っていた。
隊長の年齢が50代半ば。しかし、体のサイズは一般人より2回りでかい。
身長190センチ、体重90キロ、といったところか。
「久しぶりだな。歓迎するぞ、息子よ」
隊長は──セバスチャンの父、ラーバンスだった。
ラーバンスがソファに座る。彼の体重でソファが、ギシリときしんだ。
「……父上、お久しぶりでございます。手荒い歓迎ですね」
セバスチャンは片膝をつき、父親に頭を下げる。
ラーバンス──とてつもない威圧感を持つ男だ。彼の太い腕には、魔物との戦闘でできた無数の傷があった。
「ふむ、格闘術の練習はおろそかにしていないようだな。会うのは2年前の、親族会議以来か」
ラーバンス隊長は言った。
相変わらず、鬼のように強い男だ──セバスチャンは父を見て思った。
「セバスチャン、お前に、ゆくゆくは国王親衛隊の副隊長を任せようと思う」
父がそう言うと、セバスチャンは驚いた声を出した。
「わ、私がですか?」
「そうだ、喜ばしいことだろう。というわけで、お前に機会を与える。来月から親衛隊に入隊し、兵士として1から修業せよ」
「は……?」
「親衛隊に入隊し、1から修業し、副隊長の座を奪ってみろ。お前なら3年で副隊長になれるだろう」
バカな……。セバスチャンは父親をにらみつけた。
確かに私の最終目標は、国王直属親衛隊長だ。この父親ラーバンスの座に座ることである。
だが、今や自分は、大企業「G&Sトライアード」の最高責任者だ。何で今さら、兵士となって1から修業し直さねばならんのだ? しかも来月から?
子ども扱いしやがって……私は仕事でいそがしい。
バカバカしい提案だ!
それに、副隊長になれば、親衛隊長の父親の監視下におかれることは間違いない。
──くだらん!
「お言葉ですが、私は実業家として成功しています。大勇者ゲルドンの秘書としても、仕事があり、いそがしいのです」
セバスチャンは笑顔を作って言った。顔はひきつっていたが。
「なぜ1から、親衛隊に入隊し、修業などをしなければならんのですか」
「……幻の国ジパンダル……お前の生徒たちは、皆、ジパンダルを故郷と思い込んでいるようだな」
父はつぶやくように、セバスチャンを試すように言った。
(ううっ……? なぜそれを?)
セバスチャンは父のつぶやきにゾッとした。
「『ジパンダルは理想郷』だ、などと吹聴していると聞いているが」
何と、父ラーバンスは、セバスチャンが秘密裏に行っていた、「G&Sトライアード」で行われる、若い武闘家たちへの「洗脳」のことを知っていたのだ。
「お前は、みなしごの青年たちを集めて、何やら企んでいるそうじゃないか。まさか、子どもじみた……『世界征服』でも企んでおるまいな?」
ギクリ
セバスチャンは冷や汗をかいた。
この世界征服こそ、「G&Sトライアード」の真の目的だからだ。
若い武闘家たちを育て、このグランバーン王国を力によって支配すること。
それがセバスチャンの目的だ。
「それに──ゴシップ雑誌に『G&Sトライアード』を脱退した武闘家の証言が載っていた。お前は指導と称しながら、暴力を行っていたそうじゃないか」
父の追及は止まらない。
雑誌だと……? アレキダロスにチェックさせておけばよかった。
セバスチャンはギリリと歯噛みした。
「我がラーバンス家に、くだらん問題を持ち込むな。先月の親族会議にはお前はいなかった。が、セバスチャン、お前のその『洗脳』行為が問題になった」
ラーバンスはため息をついた。
「まともになれ、セバスチャン」
父、ラーバンスは言った。
「他にも情報が入ってきておる。お前、裏で幻の国、『ジパンダル』を探しておるのだろう」
セバスチャンはまたしてもギクリとしたが、父は話を続けた。
「古いジパンダルの文献を調べ、若い武闘家にジパンダルの民族衣装を着させて闘わせていることもあるらしいな。まったく、くだらんことを。そんな地図上にもない、おとぎ話の国に入れ込んで何になる。くだらん、まったく、くだらんよ!」
セバスチャンは父のものの言い方に腹を立てたが、父親は続けた。
「そんなわけのわからぬ組織の中で、社長ごっこをしても、そのうち世間は冷たい目で、お前を見ることになる。親衛隊に入り、自分を鍛え直せ」
父の言うことは……正しい。しかし……。
「わ、私には」
「何だ?」
「私の望んだ世界がある! 私はもう子どもではない!」
セバスチャンの言葉を聞いたラーバンスは、首を横に振った。
「セバスチャン、いかん。では……力づくで止めるか……」
ラーバンスはミシリとソファを立ち上がった。両手で拳を握り、ポキポキと音を立てる。
(ううっ……)
セバスチャンはギチッと構えた。
巨漢のラーバンスが、セバスチャンの前に立ちはだかる。50代だというのに、すさまじく張りつめた筋肉だ。まともに闘ったら、ただじゃすまないだろう。
ラーバンスの闘気が、セバスチャンの方までビシビシと伝わってくる。
しかし!
「父上、私があなたを叩きのめしてごらんにいれましょう」
セバスチャンは改めて構えた。
「死にたいのか、セバスチャン」
ラーバンスが一歩前に出る。
ズチャッ……。重々しい足音が、室内に響く。
セバスチャンは、戦闘態勢に入りつつあった。
コツコツ……。
その時、扉の方から音がした。ノックだ。
城内の兵士が1名、部屋に入ってきた。
「王様から、ラーバンス様へ伝令がございます。──申し上げます」
「グランバーン王から? 何だ」
ラーバンスが兵士をジロリと見た。
「王様は、『次期国王親衛隊長の候補に、若いセバスチャン氏をあげなさい』とおっしゃっています。候補にあげる条件は、ゲルドン杯格闘トーナメントの優勝──とのことです」
う、うおおおっ……。
セバスチャンは目を丸くした。
何と! 何という幸運。
「何だと? 副隊長候補ではなく隊長候補?」
ラーバンスはギロリとセバスチャンをにらんだ。
「そうか。格闘トーナメント……。お前、出場しとるのか」
「はい、私は自分が優勝できると信じております」
セバスチャンはニヤリと笑った。ラーバンスの顔はひきつっている。
「となると、お前が……私を親衛隊長の座から引きずりおろすことになる」
「ハハッ、父上。王の言う通り、そろそろ隊長職のご辞退を考えられても良い年齢かと」
「生意気な!」
ラーバンスは舌打ちをして、ため息をついた。
「──だが一つ言っておくぞ。お前は高く飛び過ぎている。このままでは、必ず痛い目にあう。小石だと思っていた物につまづき、大怪我をするぞ」
「怪我? そんなバカな、私に限って。──さて時間です、私はこれで失礼いたします」
「愚か者め! 私はお前のためを思って……!」
父の言葉を背に受け、セバスチャンは親衛隊会議室を出ていった。
(これでこの世の支配の野望に、一歩近づいた……!)
セバスチャンは笑いが止まらなかった。
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