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第2話 缶詰を開けたら周囲は海だった
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私は缶詰を開けた。
目の前にはなぜか、海が広がっていた。
ザザザ……。潮の香り、音、完全な海だ。灰色の海が――青色と言いたいところだが――正面に広がっている。
砂浜には、ゴロゴロとしたゴミと、貝殻が落ちていた。
私はおもむろに貝殻を拾い上げた。
どんな貝殻だったかはご想像にお任せしたいが、美しい貝殻だった。
私は貝殻を耳に当てた。ゴー……という音がした。
記憶――ここは確かに記憶の中にある海だった。小さい頃来たことのある海だったのだろうか。
後ろを振り返ると、ぼろぼろの古いローブをまとった男が、フラフラと近づいてきた。彼の手にはたくさんの貝殻を入れた袋があった。彼は袋から貝殻を出すと、それを砂浜にまいているのだ。
私は不思議に思って彼に話しかけた。
「なぜ、そんなことをしているのですか?」
「なぜって?」
「貝殻をまいているじゃないですか」
「だって、砂浜には貝殻があるものだろう」
「それはそうですけど」
私は首を傾げながら質問を続けた。
「でも――じゃあ、この砂浜には貝殻がもともとなかったんですか」
「その通り。貝殻はおろか、魚もいやしないよ。この海は単なる海なんだ。海水。単に海水のたまっている海さ」
男は貝殻をまき続けている。
私は納得しながら、不思議がりながら、彼のその一所懸命な姿を見ていた。
砂浜を歩いていると、「おや」と思った。砂浜から離れた奥の方の場所に、木々や花など、緑が生い茂っている公園が見えたのだ。
私は嬉しくなった。自然を見ると落ち着く性分なのだ。
私は海岸から離れ、そちらに行ってみた。
公園には誰もいなかった。
その代わり、公園の奥には、大きい近代的な建物の美術館がある。
その美術館は全面ガラス張りで、中央の吹き抜けから巨木が突き抜けていた。
巨大なこんもりとした生い茂った葉が、建物を覆っていた。私はこの美術館を美しいと思った。
近づいて入場券の売店を探したが、それらしいものは見当たらない。
この美術館はどうも無料らしい。私は喜び勇んで、美術館に入っていった。
美術館の中には、たくさんの壷や、彫像、絵画、岩などが展示されていた。
絵画はどれも抽象的で、色彩は色とりどりで美しいが、つかみどころがない絵ばかりだ。
壺にいたっては、クネクネとしたいやらしい感じの不気味なものばかりで、とても花を飾ってはおけないだろうという代物だ。
彫像はまるで知らない人物をモデルにしたものばかり。
ひげを生やした人物、メガネをかけた人物、巨大な耳をした人物――。
無造作に展示されている岩は、そのまま山かどこかに落ちている岩を持ってきた感じだ。
しかし、その岩の一つには、誰かの手で文字が刻まれていた。
「夢 水 光」
私はしばしその文字に見とれていた。なんだか不思議に美しい文字列だったからだ。
さて、私は右横に地下一階の階段を見つけた。
そこには、まるでスフィンクスのような巨大な動物が寝そべっている像があった。その像はまばゆいくらい美しい金色だ。
どうやら、全身純金で出来ているらしい。
しかも、像の周囲はゆらゆらと動いて見える! スフィンクスらしき像は、私に語りかけた。
「どこへ行く、青年よ」
私はとっさに答えた。
「私の行きたいところまで」
「そうか、じゃあ、行くがいい」
スフィンクスらしき像は、正面の扉を指差した。私はさそわれるように、扉に近付いて、扉を開け、扉の奥を進んだ。
そこはもとの電気街の入り口だった。
静かな、静かな街だ。人の気配もない。
しかし、私は一つだけ前と違うことに気付いた。この街の街並みがずいぶん違っている。
建物の配置も前と違っていた。
私の探した電気店も無くなってしまったようだ。探しても見つからなかった。
しかし、私はどこかでその不思議な電気店を、また見つけるだろう。きっとどこかの街で――。
目の前にはなぜか、海が広がっていた。
ザザザ……。潮の香り、音、完全な海だ。灰色の海が――青色と言いたいところだが――正面に広がっている。
砂浜には、ゴロゴロとしたゴミと、貝殻が落ちていた。
私はおもむろに貝殻を拾い上げた。
どんな貝殻だったかはご想像にお任せしたいが、美しい貝殻だった。
私は貝殻を耳に当てた。ゴー……という音がした。
記憶――ここは確かに記憶の中にある海だった。小さい頃来たことのある海だったのだろうか。
後ろを振り返ると、ぼろぼろの古いローブをまとった男が、フラフラと近づいてきた。彼の手にはたくさんの貝殻を入れた袋があった。彼は袋から貝殻を出すと、それを砂浜にまいているのだ。
私は不思議に思って彼に話しかけた。
「なぜ、そんなことをしているのですか?」
「なぜって?」
「貝殻をまいているじゃないですか」
「だって、砂浜には貝殻があるものだろう」
「それはそうですけど」
私は首を傾げながら質問を続けた。
「でも――じゃあ、この砂浜には貝殻がもともとなかったんですか」
「その通り。貝殻はおろか、魚もいやしないよ。この海は単なる海なんだ。海水。単に海水のたまっている海さ」
男は貝殻をまき続けている。
私は納得しながら、不思議がりながら、彼のその一所懸命な姿を見ていた。
砂浜を歩いていると、「おや」と思った。砂浜から離れた奥の方の場所に、木々や花など、緑が生い茂っている公園が見えたのだ。
私は嬉しくなった。自然を見ると落ち着く性分なのだ。
私は海岸から離れ、そちらに行ってみた。
公園には誰もいなかった。
その代わり、公園の奥には、大きい近代的な建物の美術館がある。
その美術館は全面ガラス張りで、中央の吹き抜けから巨木が突き抜けていた。
巨大なこんもりとした生い茂った葉が、建物を覆っていた。私はこの美術館を美しいと思った。
近づいて入場券の売店を探したが、それらしいものは見当たらない。
この美術館はどうも無料らしい。私は喜び勇んで、美術館に入っていった。
美術館の中には、たくさんの壷や、彫像、絵画、岩などが展示されていた。
絵画はどれも抽象的で、色彩は色とりどりで美しいが、つかみどころがない絵ばかりだ。
壺にいたっては、クネクネとしたいやらしい感じの不気味なものばかりで、とても花を飾ってはおけないだろうという代物だ。
彫像はまるで知らない人物をモデルにしたものばかり。
ひげを生やした人物、メガネをかけた人物、巨大な耳をした人物――。
無造作に展示されている岩は、そのまま山かどこかに落ちている岩を持ってきた感じだ。
しかし、その岩の一つには、誰かの手で文字が刻まれていた。
「夢 水 光」
私はしばしその文字に見とれていた。なんだか不思議に美しい文字列だったからだ。
さて、私は右横に地下一階の階段を見つけた。
そこには、まるでスフィンクスのような巨大な動物が寝そべっている像があった。その像はまばゆいくらい美しい金色だ。
どうやら、全身純金で出来ているらしい。
しかも、像の周囲はゆらゆらと動いて見える! スフィンクスらしき像は、私に語りかけた。
「どこへ行く、青年よ」
私はとっさに答えた。
「私の行きたいところまで」
「そうか、じゃあ、行くがいい」
スフィンクスらしき像は、正面の扉を指差した。私はさそわれるように、扉に近付いて、扉を開け、扉の奥を進んだ。
そこはもとの電気街の入り口だった。
静かな、静かな街だ。人の気配もない。
しかし、私は一つだけ前と違うことに気付いた。この街の街並みがずいぶん違っている。
建物の配置も前と違っていた。
私の探した電気店も無くなってしまったようだ。探しても見つからなかった。
しかし、私はどこかでその不思議な電気店を、また見つけるだろう。きっとどこかの街で――。
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