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幼少期
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しおりを挟むぴちゃん。
――ふいに耳に入った水の音に意識が覚醒した。
薄暗い部屋の中、目を瞬かせる。
あれ、もしかして俺、寝てた?
長い夢を見たな。
体のだるさに眠る前のことを思い出した。
そうだ、熱が出て…リュカとそのお供もきて…それで。
ああ、それで、聞きたいことがあったんだ。
頭がすっきりしない。ぼーっとする。
まだ、熱は下がりそうにない。
だけど、あのとき感じた違和感は、はっきり覚えてる。
部屋にきたリュカは速足で俺のもとに来た。
お前、本当に貴族かよといいたくなる速さだ。
「大丈夫か、熱は?」
その声に少しの安心感を覚えた。
俺は、もう一人じゃない。
だけど――
リュカが俺の額に手を触れようとした、そのとき…
「リュカ様!!」
はっとしたようにリュカが手を引いた。
まどろんでいた俺は一瞬で現実に引き戻された。
決まりが悪そうに引いた手を片腕に持っていき、落ち着かない様子を見せた。
?
どうして、触れてくれないんだろう。
ずっと不思議だった。世話係がいないのも、従者がいないのも別に気にしなかった。
むしろいられた方が気になってしょうがない。
でも…
初めに使用人に近づいたとき、不自然に俺から離れる。
食器越しに手が触れそうになった時も、食器を奪うように持っていた。
まるで俺の手が触れないようにするみたいに。
ずっと考えないようにしていた。
母親は今どこにいるんだろうって。
ずっと、姿を見せない母親。
あの朝食の時だって、使用人はご夫妻といっていたが聞こえた声は伯爵とリュカの声のみだった。その時はたまたまだろうと思っていたけど。
その後も、母親の姿は見えなかった。
よっぽど嫌われているんだろうと、リュカにも聞くことはしなかった。
わざわざ傷つきに行く趣味はないからな。
もう母の手が恋しい年は過ぎてしまったが、時折思い出すんだ。
母の手の温かさを。
だって、俺の覚えている限り俺は母に触れたことがある。
教会に行くとき母が俺の手を引いたんだ。
ぎゅっと握られた手がうれしくてずっとつないでいたかったけど、その手はすぐに離れてしまった。その感情を今でも覚えている。
僕の頃は知らないが「俺」になってからは、俺が触れたのはその時だけ。
それ以降は誰とも、手すら触れ合った覚えはない。
体が熱かったはずなのに冷や汗が出るような寒気が全身を襲った。
怖くなって、リュカに「眠りたいので、出てほしい」と伝えた。
あれだけ心配そうに部屋の中をうろついていたリュカは、あっさりとうなずいて部屋を出て行った。
ふいに涙が出た。
どんなに理不尽な目に遭っても泣かなかったのに。
きっと体が弱っているから、心まで弱っているんだろう。
そう結論付けて寝ることにした。
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