魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫

文字の大きさ
37 / 39
青年期

36

しおりを挟む
――8年後
結果的に俺はステラのお願いを聞いた。

18歳になった俺は、今日家を出る。
すがすがしい晴天の中、荷物を持って玄関に立つ。
「今までお世話になりました。母上、兄上、ステラ。それとロット君も」
4人に向かってペコリと頭を下げる。

「シルヴァちゃんっ!寂しくなったら帰ってきてもいいのよ」

嬉しいけど、無理だろ。
抱き着いてきそうな勢いに笑いながら「母上も、お元気で」と返す。
ハグできないのが残念だな。

「シルヴァ、僕ももっと一緒にいたかったよ。行くところは決まっていると母上に聞いたが教えてはくれないのか?」
「僕も教えたいところですが諸事情でちょっと…会えたら会いましょう、いつか」
行けたら行く、みたいなもんである。

「シルヴァ様、よろしくお願いしますね」
任せとけ!一度引き受けたのだから約束を違えることはしないさ。

「シルヴァ様、やっとお別れ…寂しいです」
嘘つけ。満面の笑みで言いやがって。
ロット君に関してはどうせ会えるので言いたいことは後程、な。

そうして、伯爵家…のすぐ横の別荘を後にした。

伯爵家じゃないのかって?
実は、俺はあの後、そのまま母上と過ごすことになった。
数日後に伯爵が乗り込んできたが母上がぴしゃりと言い返すと、しずしず帰っていった。
なんて言ったのかとても気になる。

俺が伯爵家にいなくなるとなぜかリュカがこっちに来た。
そうなると必然的にロット君もついてくる。
誰かにここに来ることを見られていたんだろうか。


リュカが来たときは大騒ぎだった。

母上との何年かぶりの再会だったからな。
ずっと床に伏せていたと思っていた母上が元気に出迎えてきたのだからそりゃあ驚くだろう。
泣く兄上を見てそっとロット君に目配せを…おい感動して泣いてんじゃねえよ。
ロット君にドン引きながらそっと近づく。
そっと同じだけ離れるロット君。
それを繰り返すこと数回。やっと二人の感動シーンの見えないところまでロット君を移動させることに成功した。

ロット君が何か文句を言っていた気がしたが無視である。


伯爵家はほとんど、伯爵がただ仕事から帰って一夜を過ごすだけの家になっており使用人たちも手持ち無沙汰な様子らしい。
ざまあ。


あっちにいた方が長かったのに、ここの方が断然充実していてあっという間だった。

だって、俺にきつく当たる人はいないし。
ロット君を除いて。

俺を馬鹿にするやつもいないし。
ロット君を除いて。

とても快適な8年間だった。


勘違いしないでほしいのだが、俺は別にロット君のことは嫌いではない。
からかい要員だからな。
陰口をたたくなら目の前で言ってくれよ、と思うタイプなのでロット君のように真正面から言ってくれるのはありがたいのだ。
なんたって、返り討ちにできるし。

さすがに長年、俺へのイラつきを出しているとリュカにもバレたのか、俺に「大丈夫か?後で言っておくから」などと心配されたのだが、笑って大丈夫だと返しておいた。

仕返しは欠かさないのである。
何か言われたときには屋敷の中をロット君と追いかけっこしていた。
もちろん、鬼は常に俺である。
俺にタッチされればたちまち魔力を取られるのだからロット君も必死だ。

お互い手は抜かないので何度か俺が勝ったこともある。
その時には、遠慮なくタッチした。
一瞬だけどな。倒れたりでもしたら面倒だし。

だというのに、今日までやめないのだから俺をいじめないと死ぬ呪いにでもかかっているのだろう。

まあ、おかげで体力はついたし、身長も昔より伸びた。
今では160センチある。170には届かないが、まだ諦めてはいないぞ。これから伸びる予定なのだ。


ちなみにあの日のロット君と兄上の記憶は本当に書き換えられているようで二人の関係性は依然と全く変わらない。
だが、俺の記憶にはしっかりと残っている。
8年前、ロット君が二人に魔法をかけ、裏切ったことを。
ああ、伯爵はどうでもいいけど。

ロット君、君笑っていたけど今生の別れじゃないからな。
後で、しっかりお話しような?

「ロット君、また会える時が楽しみだよ」
そう別れ際にいうと、不思議そうな顔をされた。
哀れ、ロット君。
ステラに事前情報は聞いているのでロット君のプライバシーなどすでにないも同然なのだ。



最後だというのに、伯爵の姿はなかった。

今日で親子の縁は完全に切れるのだから見納めしたかったのだが…まあいいか。

というわけで…
「お世話になりました!!」

屋敷に向かってもう一度頭を下げる。

さあ、新しい人生の幕開けだ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

ただのカフェ店員はカリスマ社長に執着される

クズねこ
BL
「他の客に笑うな。俺だけにして」 俺は、小さなカフェで店員をしている。そのには毎日常連客が訪れる。それはカリスマ社長である一ノ瀬玲央だ。玲央はなぜかただのカフェ店員の俺に執着してくる。 でも、だんだんとカフェ店員と客だけの関係じゃなくなっていって……? だんだんと距離が近くなっていく執着BL。 週一更新予定です。

生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない

いいはな
BL
 田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。  ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。  そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。  月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。  ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー? 魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。 ※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。 ※ハッピーエンドです。 ※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。 今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...