私が場面緘黙症を受け入れるまで

お鮫

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「私、場面緘黙症の子に会ったことないけどそんないないの?」

「そうだなあ、一概にこれだけいる。…とは言い切れないんだよね。一応調べると500人に1人って感じらしいけど自分で自覚している人もいればしてない人もいるからなぁ」

「そっか、外でしか症状が出ないなら家族も気づけないもんね。」

「そうだね。実際にはもっとたくさんの人が苦しんでることになる。理解されにくくていじめにもあいやすい。自分で「やめて」って言えないから余計につらいと思う」

「たしかに」

自分の時は誰も止めてくれなかったから。その一言で学校中が敵になったように感じる疎外感は一生忘れない。

だからこそ同じような思いを誰かがしなくて済むように。今の私なら手を差し伸べられるだろうか。

「私ももしかしたらって思う子がいたら声かけてあげよう」

「お。めっちゃ助かる」

「声かけられる側かい」

「冗談」

「分かりにくい」
笑う彼女の顔を見ながらひっそりとため息をついた。


後輩は本当に明るくていい子だ。私にも平気で声をかけてグループの輪の中に入れてくれる。
この子と話しているときは自分が普通の人間になれているような気がする。

 だけど、時折…彼女の底なしの明るさに充てられて自分の影が増すような感覚がする。

彼女が私のできないことを軽々とやってのける。

名前を呼ぶ。できない。息が詰まったように言葉が出ない。ごまかすように「~さん」と呼んでしまう。

作業をしている上司に話しかける。私には無理だ。作業が終わるまで様子をうかがってしまう。

疑問に思ったことをすぐに聞く。これができたらどんなにいいか。

誰にでもすぐ声をかけて仲良くなる。これが私の一番苦手とするところだ。何を言われても一言で会話が途切れてしまう。

私がこれらをしようとするとどれだけ時間がかかるかわからない。
それを彼女は息をするように、当たり前かのようにやってしまう。本当に彼女にとってはなんの苦でもないんだろう。
その姿を見ると自分ってなんてできない子なんだろうと思う。
彼女には本当に助けてもらっているのにたまにどうしようもなく苦しくなる。そう思う自分も嫌いだ。

私が職場でなんとかやれているのは彼女がいるからだ。それなのにこんなことを思っていると知られたらどう思われるだろう。


そんな思いに蓋をして彼女に声をかける。
「ね、てかそろそろ行かない?さすがに長時間居座りすぎかも」

「マジ?もうそんなたった?行くか~」

「てか、ほとんど私の話しかしてないけど大丈夫そ?」

「大丈夫、大丈夫。次は飲み行こ」

「やだよ。お酒飲めないの知ってるくせに」

「ほ〇酔い一缶までだっけ」

「その半分」

「よっわ。雑魚じゃん」

「おい。雑魚言うな。ほらもう行くよ。話聞いてもらったから今日は御馳走してあげる」

「マジ?!あざっす。ゴチになります。先輩!」
調子のいい声に思わず笑ってしまう。



席を立った時ボソッと声がした。
「いつか、呼んでくれるといいなあ。私の名前」


その声を聞こえなかった風をよそおって振り返らずにレジへ向かう。

呼ぶから。いつか。絶対に呼べるようになるから。

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