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第2話 悲しみと新たな生活
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「お父さん! お母さん!」
桃玉は必死に両親の身体のあちこちを両手でゆするが、彼らは反応しない。
「……っ! だ、誰かぁっ!!」
恐怖にゆがんだ表情を浮かべる桃玉の絹を裂くような叫び声を聞きつけた近所の人達が3人程、慌てて家にやって来た。
「桃玉ちゃん! どうしたんだい?!」
「お、お父さんが……! お母さんがっ……!」
「ああ、それは……!」
近所の人達が桃玉の両親の遺体を見た瞬間、腰からがくりとその場に崩れ落ちた。ある者はガタガタと身体を震わせ、またある者はぼろぼろと涙を流す。
「その死に方は……林夫人様と同じ死に方じゃ……?」
「……え?」
桃玉は口を開け、呆然とした表情を浮かべる。
(林夫人様も……死んだの?)
「ほら! 心の臓がくり抜かれている!」
近所の人達が一斉に桃玉の両親の身体を指さした。桃玉がその指差す方向を見る。
(本当だ……胸に穴が空いている……!)
両親はいずれも左胸付近からの出血がおびただしく、またそこからは穴が空いていた。
「あ、あやかしの仕業じゃ……!」
「心臓を喰らうあやかしの仕業じゃあ!」
近所の人達は次々にあやかしの仕業だと叫び声をあげる。
その様子に桃玉はごくりとつばを飲み込んだ。桃玉はあやかしを見た事はないが、あやかしに関する知識は多少なりともあるにはある。
(あやかしはいるにはいる。けどまず私達人間には見えないからどうにもならない存在だ)
そもそも桃玉が知る限りでは、あやかしがはっきり視える者はこの世界にはいない。徳と厳しい修行を積んだ高僧や道士がぼんやりと視たという話を桃玉は父親から聞いてはいるが、それが事実かウソかはわからない状態である。
道士や僧侶など、あやかしに詳しい者でも視る事が叶わない存在があやかしなのだ。
――桃玉。この世界にはヒトや動物達だけでなく、あやかしと呼ばれる生きとし生けるものもいるのよ。普段はヒト達の暮らしの影に潜むようにして彼らはいる。だけどヒトに仇なすモノも中にはいるわ。ヒトを食べたりね。
――そ、そうなんだ……私、食べられたくないなあ。
――桃玉は大丈夫よ。食べられないわ。
この時の母親と交わしたやり取りが、桃玉の脳裏に浮かんでは消えた。
(お父さんとお母さんが……あやかしに襲われた?)
桃玉は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
桃玉が何も出来ない間に近所の人達が役人を呼び、両親の死体及び林夫人の死体の検分が行われた結果、3人が亡くなったのはあやかしの仕業であると判明。役人と役人によって連れてこられたあやかしに詳しい高僧からはしばらくは不用意な外出はしないようにという要請が下った。
(私は……どうしたらいいんだろう)
「桃玉ちゃん?」
桃玉に声をかける人物が2人いた。
「あ……おじさんとおばさん?」
彼らは桃玉のおじとその妻。おじは桃玉の父親の兄にあたる人物だ。おじは桃玉の父親とよく似た見た目をしているが桃玉の父親より痩せた体型をしている。おじの妻もまた、華奢で白髪混じりにやや目の細い地味な顔つきをしていた。おじとその妻の茶色い瞳には、しっかりと桃玉の姿が映っている。
「元気かい、桃玉ちゃん」
桃玉のおじは、白髪混じりの髪を左手でポリポリ掻きながら遠慮がちに桃玉に声をかけた。
「わ、私は元気です……しかし、両親が……」
「桃玉ちゃん。うちで暮らさないかい? 若い女の子が1人でこの家に暮らすのは危ないよ」
「そうですよ。だったらうちで暮らしましょう」
(確かに、そうだよね……)
こうして桃玉はおじ夫妻に引き取られる事が決まったのである。
◇ ◇ ◇
それから6年後の夏。
「おじさん、おかえりなさい」
桃玉は大人の女性へと成長していた。握りこぶし1つ分背が伸びたとはいえ、やや小柄なのと透き通るような真っ白い肌にきりっとした二重の桃色の瞳を持ち、艶々した黒髪は全く変わらないでいる。
「ただいま。畑の夏野菜がどれも思ったより高値で売れて良かったよ」
朗らかに笑う桃玉のおじは6年前よりも更に痩せ、老けも進んで猫背気味になっている。桃玉のおばも、6年前より痩せて老化が進み、近頃は全身の関節が痛むという病に冒されつつあった。
「夕食の準備は終わってるよ。食べる?」
「ああ、桃玉ちゃんが作ってくれたのかい?」
「うん。今日は上手くできたと思う……!」
おばが病を発症してからは、桃玉が家事を取り仕切るようになった。最初は失敗ばかりだったが、今は慣れてテキパキと夕食を作ったり出来るようになっている。
「今日は鶏肉と干ししいたけでスープを作ってみたんだ。後は葉野菜で炒めものと、すいかもあるよ」
「おお! じゃあ、いただくとするかねぇ」
桃玉が手際よく茶色い年季が入った食卓に、白いお皿の上に盛り付けた食事や茶色いお箸に匙を並べていく。ちなみにご飯は柔らかめに炊いたものをお茶碗に盛った。
「じゃあ、いただきます」
3人、手を合わせて挨拶をしてから夕食を頂く。
「ん、美味しいねぇ」
「おじさん、本当?」
「ああ、すごく美味しいよ。疲れた身体にギュッと効く味をしている」
「桃玉ちゃん、腕前があがりましたね。私よりも上手くなったんじゃないかしら?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
穏やかな団らんを楽しむ桃玉達3人。一方村のはずれでは1人の男がある者に襲われていた。
「ひっ! や、やめてくれ!」
桃玉は必死に両親の身体のあちこちを両手でゆするが、彼らは反応しない。
「……っ! だ、誰かぁっ!!」
恐怖にゆがんだ表情を浮かべる桃玉の絹を裂くような叫び声を聞きつけた近所の人達が3人程、慌てて家にやって来た。
「桃玉ちゃん! どうしたんだい?!」
「お、お父さんが……! お母さんがっ……!」
「ああ、それは……!」
近所の人達が桃玉の両親の遺体を見た瞬間、腰からがくりとその場に崩れ落ちた。ある者はガタガタと身体を震わせ、またある者はぼろぼろと涙を流す。
「その死に方は……林夫人様と同じ死に方じゃ……?」
「……え?」
桃玉は口を開け、呆然とした表情を浮かべる。
(林夫人様も……死んだの?)
「ほら! 心の臓がくり抜かれている!」
近所の人達が一斉に桃玉の両親の身体を指さした。桃玉がその指差す方向を見る。
(本当だ……胸に穴が空いている……!)
両親はいずれも左胸付近からの出血がおびただしく、またそこからは穴が空いていた。
「あ、あやかしの仕業じゃ……!」
「心臓を喰らうあやかしの仕業じゃあ!」
近所の人達は次々にあやかしの仕業だと叫び声をあげる。
その様子に桃玉はごくりとつばを飲み込んだ。桃玉はあやかしを見た事はないが、あやかしに関する知識は多少なりともあるにはある。
(あやかしはいるにはいる。けどまず私達人間には見えないからどうにもならない存在だ)
そもそも桃玉が知る限りでは、あやかしがはっきり視える者はこの世界にはいない。徳と厳しい修行を積んだ高僧や道士がぼんやりと視たという話を桃玉は父親から聞いてはいるが、それが事実かウソかはわからない状態である。
道士や僧侶など、あやかしに詳しい者でも視る事が叶わない存在があやかしなのだ。
――桃玉。この世界にはヒトや動物達だけでなく、あやかしと呼ばれる生きとし生けるものもいるのよ。普段はヒト達の暮らしの影に潜むようにして彼らはいる。だけどヒトに仇なすモノも中にはいるわ。ヒトを食べたりね。
――そ、そうなんだ……私、食べられたくないなあ。
――桃玉は大丈夫よ。食べられないわ。
この時の母親と交わしたやり取りが、桃玉の脳裏に浮かんでは消えた。
(お父さんとお母さんが……あやかしに襲われた?)
桃玉は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
桃玉が何も出来ない間に近所の人達が役人を呼び、両親の死体及び林夫人の死体の検分が行われた結果、3人が亡くなったのはあやかしの仕業であると判明。役人と役人によって連れてこられたあやかしに詳しい高僧からはしばらくは不用意な外出はしないようにという要請が下った。
(私は……どうしたらいいんだろう)
「桃玉ちゃん?」
桃玉に声をかける人物が2人いた。
「あ……おじさんとおばさん?」
彼らは桃玉のおじとその妻。おじは桃玉の父親の兄にあたる人物だ。おじは桃玉の父親とよく似た見た目をしているが桃玉の父親より痩せた体型をしている。おじの妻もまた、華奢で白髪混じりにやや目の細い地味な顔つきをしていた。おじとその妻の茶色い瞳には、しっかりと桃玉の姿が映っている。
「元気かい、桃玉ちゃん」
桃玉のおじは、白髪混じりの髪を左手でポリポリ掻きながら遠慮がちに桃玉に声をかけた。
「わ、私は元気です……しかし、両親が……」
「桃玉ちゃん。うちで暮らさないかい? 若い女の子が1人でこの家に暮らすのは危ないよ」
「そうですよ。だったらうちで暮らしましょう」
(確かに、そうだよね……)
こうして桃玉はおじ夫妻に引き取られる事が決まったのである。
◇ ◇ ◇
それから6年後の夏。
「おじさん、おかえりなさい」
桃玉は大人の女性へと成長していた。握りこぶし1つ分背が伸びたとはいえ、やや小柄なのと透き通るような真っ白い肌にきりっとした二重の桃色の瞳を持ち、艶々した黒髪は全く変わらないでいる。
「ただいま。畑の夏野菜がどれも思ったより高値で売れて良かったよ」
朗らかに笑う桃玉のおじは6年前よりも更に痩せ、老けも進んで猫背気味になっている。桃玉のおばも、6年前より痩せて老化が進み、近頃は全身の関節が痛むという病に冒されつつあった。
「夕食の準備は終わってるよ。食べる?」
「ああ、桃玉ちゃんが作ってくれたのかい?」
「うん。今日は上手くできたと思う……!」
おばが病を発症してからは、桃玉が家事を取り仕切るようになった。最初は失敗ばかりだったが、今は慣れてテキパキと夕食を作ったり出来るようになっている。
「今日は鶏肉と干ししいたけでスープを作ってみたんだ。後は葉野菜で炒めものと、すいかもあるよ」
「おお! じゃあ、いただくとするかねぇ」
桃玉が手際よく茶色い年季が入った食卓に、白いお皿の上に盛り付けた食事や茶色いお箸に匙を並べていく。ちなみにご飯は柔らかめに炊いたものをお茶碗に盛った。
「じゃあ、いただきます」
3人、手を合わせて挨拶をしてから夕食を頂く。
「ん、美味しいねぇ」
「おじさん、本当?」
「ああ、すごく美味しいよ。疲れた身体にギュッと効く味をしている」
「桃玉ちゃん、腕前があがりましたね。私よりも上手くなったんじゃないかしら?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
穏やかな団らんを楽しむ桃玉達3人。一方村のはずれでは1人の男がある者に襲われていた。
「ひっ! や、やめてくれ!」
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