後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
50 / 79

第50話 夜のお茶会と発見

 朱龍宮の広間に到着し、皇太后による夕方の挨拶が粛々と進み、終了した。夜伽について触れなかったのはおそらくまだ桃玉の代わりを務める者が決まっていないからだろう。
 
「早く帰ろう……」

 部屋に戻って来た桃玉は椅子に腰かける。桃玉は普段は月のものに関する症状はそこまで重くないのだが、今回は血の塊が幾度となく排出され、更には腰にかなり強めの鈍痛を抱えていた。

「いたた……今日は痛みが強いな……」
「桃玉様、夕食後に痛み止めも飲まれますか?」
「すみませんが、用意お願いします」
「かしこまりました。薬師をお呼びいたしますね。念の為に診てもらいましょう」

 女官の勧めにより夕食前に一度医師による診察を受ける事になった桃玉。結果は瘀血の症状が出ているという事で薬が2種類ほど処方されたのだった。

「この薬をお飲みください。あとはお食事も専用の品に変えるように厨房にお伝えしておきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「いえいえ、ではまた何か変化がありましたらお伝えください」

 医者と薬師は頭を下げながら部屋から出ていく。彼らと入れ替わるようにして先ほど桃玉に夜伽相手に選ばれたと報告しに来た宦官がやって来た。

「夜伽ではなく、夕食後に2人きりでのお茶会を開くのでそこでお話したいと、皇帝陛下はおっしゃっておりますがいかがなさいましょうか?」
(お茶会なら、夜伽にはならないから問題なさそうね)
「ではそれでお願いします」
「かしこまりました。では、陛下にお伝えします。またお迎えに参りますのでよろしくお願い致します」

 宦官は丁寧に礼をしてから、部屋から静かに去っていく。

「桃玉様。皇帝陛下とのお茶会ですか」
「そう…なりますね」

 すると女官達は皆気合いの入った表情を見せる。

「ここは私達の腕の見せ所でもありますね……! お化粧髪結いそして衣服選びはぜひお任せください!」

 女官達からの頼りがいのある言葉に桃玉はははは……。と笑った。女官達は皆、このお茶会が桃玉が龍環から寵愛を得られる絶好の機会であると認識している。彼女達が張り切っている理由はまさしくそれだろう。

(女官の人達張り切ってるなあ……でも、皆私の為に頑張ってくれてるもんね)

◇ ◇ ◇

 夜。後宮内にある小さな中庭の東屋にて、お茶会が開かれる。朱色の柱に黒い瓦屋根をした東屋の近くには妖しい雰囲気をまとったしだれ柳が何本か植わっていた。

「桃玉。よく来てくれた」
「皇帝陛下、ただいま参りました」

 東屋の中には円卓があり、円卓の上には白く艶のある陶磁器製の茶器と点心、白い花器に飾られた小さい花々。ひと口大に切られたみずみずしい果物などが並ぶ。

「では、人払いを頼む。だが警備はしっかりとな」
「かしこまりました。皇帝陛下」

 宦官らに指示を出した龍環。宦官が去っていくのを見届けたのち、自身の分と桃玉の分の茶杯にお茶を淹れた。

「どうぞ。月のものと聞いたからなるべく温かいものを用意した」
「お気遣いありがとうございます」
「痛かったりしんどくなったらすぐに言ってね」
「かしこまりました」
「じゃあ話を始めよう。今回の梓晴の事件、実は俺はあやかしの仕業という線も疑っているんだ」

 龍環の言葉を聞いた桃玉は、脳内で彼が語っていた言葉を思い返す。

 ――自力で脱走したという線は捨てていいだろうね。血痕もあった事だしやはり何者かによって拉致されたというのが一番有り得ると俺は考える。

 もしかして、拉致したのはあやかしなのか? 桃玉は抱いた疑念を龍環に打ち明けた。

「……もしあやかしならあの血痕も頷けると思うんだ。ただ抵抗しただけであの量の血が出るとは思えない。でももしあやかしの仕業だと……」
(梓晴はあやかしに食われ、既に亡き人となっている……という事ね)
「龍環様は、あやかしの痕跡は見えました?」
「いや、まだだね……」
(まだ現れないとなると……人間のしわざ?)
「うわああああああっ!!」

 突如、闇夜を切り裂くように宦官の悲鳴がこだました。龍環はさっと立ち上がり、桃玉をしっかりと抱き寄せてその場へとしゃがみこんだ。

「!」
「……桃玉、何かあったのかもしれない……動くなよ」
「はい」

 本来なら熱くとろけるような構図ではあるのだが、緊迫感のせいでそのような雰囲気は微塵もない。冷や汗をかきながら東屋へ駆け寄って来る宦官へ龍環は何があった? と静かに尋ねる。

「大変でございます。お、女の遺体が……柳の木の下から落ちてきて……」
「なんだと? すぐに向かう。桃玉はどうする?」
「私も参ります!」
「なら俺の手を握れ。決して放すなよ!」

 桃玉は龍環から差し出された手をぎゅっと掴んだ。

 
感想 1

あなたにおすすめの小説

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。