後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第77話 力分との決戦①

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 桃玉と龍環が目を覚ましたのは夜明け前の事だった。先に目を覚ましたのは桃玉である。

「……龍環様」
「……ああ、桃玉。おはよう……」
「おはようございます。いよいよ今日ですね」
「ああ、胸がドキドキしている気がする。まだ夜明け前なのに」

 龍環が自身の左胸を手で押さえる。その手の上から桃玉が自身の手を重ねた。

「私も同じです。でも、彼を倒せば後宮には平穏が戻ると信じています」
「……あいつは穏やかに暮らしたいと言っていたが、そうなるにはあいつが浄化される必要があるだなんて残酷だな。まあ、同情はしないが」
「……同じ気持ちです。彼にとっては命をつなげるためだったとはいえ私の両親や龍環様のお母様をはじめ様々な人々を食い殺してきた事は許されませんから」

 眉を八の字に下げ、神妙に語る桃玉の頭を龍環はそっと撫でた。

「強くなったな、桃玉」
「……ありがとうございます」

 2人は1階に降りると広間には既に暗い茶色の服に着替えた桃婆が朝食の準備をしていた。

「桃婆さん。おはようございます」
「陛下、おはようございます。桃玉もおはよう。よく眠れましたか?」
「はい、眠れました!」
「俺もよく眠れたよ」
「ではお先に朝食をお召し上がりくださいませ。ワシは美琳と玉琳を起こして参りまする」

 お椀には野菜の切れ端と卵が入った雑炊が入っている。また白仙桃がひと口大に切られて白い器にたくさん並べられていた。

(雑炊に卵が入ってる)
「この卵は仙人の加護を受けた鶏の産む希少な卵ですじゃ。神通力が込められたその卵を食べると、その身に宿る神通力や運動能力が増すのでございます」
(能力を高めてくれるって事ね)

 桃婆に促されて先に朝食を食べる2人。どろりとした雑炊は優しい風味にまろやかな味わいをしておりとても美味しい。白仙桃はしゃきしゃきとしてみずみずしい食感で、甘みもある。

「美味しい!」
「ですね! 力がみなぎってきます……!」
「戦の前の腹ごしらえとしてはこれ以上に無いくらいだな」

 その後。起床してきた美琳と玉琳も交えてわいわいと朝食を取り、服に着替えるといよいよ古戦場へ出立の時間が訪れる。今回、美琳は妊娠中という事もあって桃婆からは留守番をするようにと伝えられていたが、どうしても見届けたいと気持ちを露わにしていた。

「最後に聞くが美琳。本当に良いのじゃな?」
「ああ。確かに私は足手まといだ。でもこの戦いを人間として見届けたい。桃婆さんがよく話してくれた仙女やあやかしがどんな存在なのかを知る為にも、一緒に行きたいんだ」
「お母さんがいくなら玉琳もいくよ。私も浄化の光、出せれるもんね」

 自慢げに玉琳が両手んの手のひらでわっかを作ると、そこから青白い浄化の光の球が浮かび上がる。

「ほほう。モノにしおったか……」
「私も戦うよ!」

 玉琳の力強い声を聴いた桃婆は力強く頷いた。

「わかった。玉琳。美琳をよろしく頼むぞ」
「はいよっ!」
「桃婆さん、ありがとう。あと桃玉……様と陛下、お願いします!」
「美琳さん……気を付けて。玉琳ちゃん、美琳さんをお願いね」
「うん! 任せて桃玉!」
「よし、では向かうとするかの。皆、円陣を作り互いの両手を握るのじゃ」

 桃婆の指示通りにすると、ふんわりと足の裏が地面から離れて宙に浮く。

「わ……!」
「手を離すでないぞ!」

 空へと舞い上がった桃玉達は、そのまま決戦地である古戦場へと移動する。到着するとゆっくり下降していき、ピタリと足の裏が地面に着いた。

(すごい感覚だった……)
「さて、力分はどこにおるじゃろうなぁ」

 程なくして空には雨雲が立ち込めると、ざあああ……。と雨が降り出した。

「なっ、雨か?」
「ん、あれは……!」

 雨雲を背に浮かび上がっている物体がいるのを玉琳が気がつき、指を差した。物体を見た桃婆ははっ! と驚きの声をあげる。
 
「あれは、化蛇!」
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