とある伯爵と不遇な男爵夫人の計画~虐げられるだけの結婚生活は捨てます~

二位関りをん

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第4話 計画

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 今、私はリューゼスト伯爵に連れられて彼が運営している葬儀場へ訪れている。面談室から私の腕を引っ張っていったリューゼスト伯爵は、たまたま廊下で花を生けているマレナお義母様に「葬儀場へ行ってまいります~」と告げて、ユーティアは結婚している身なのだからクライストも連れて行きなさい! と止めるマレナお義母様を尻目に私を馬車の中へと突っ込んだのだった。

 ……そのせいか、お尻が痛い……。

「大丈夫ですか?」
「す、すみません……」

 お尻をさすっているとリューゼスト伯爵から心配そうに声を掛けられる。まあ、あなたが慌てて私を馬車の中に押し込んでそのまま馬車を発進させたせいなのだけど……。
 葬儀場は白を基調とした内装をしている。外観もちょっとした貴族の屋敷のようで、かなりお金をかけているのが見て取れた。

「かなり贅沢なつくりですね」
「そうですね。教会っぽさも取り入れております」

 確かに言われてみると内装も外観も教会らしさはあるか。第一印象は貴族の屋敷って感じだったけど。
 通常、私達が死ねば葬儀は教会で執り行われるのが普通。でもこの国の教会は数が多いって訳じゃないし、戦地や貧民街とかにいけば誰からの供養もない行き倒れになっている人々の死体だってあるのだ。
 
 だからリューゼスト伯爵はそこに目を付けて、葬儀屋を経営し始めた……というのを彼から聞いている。既にキャパオーバーになりつつあった教会から場所を移すというこの商売は、かなりの大当たりだったらしい。

「では、早速話に移りましょう。すみません、この面会室を開けてもよろしいですか?」

 リューゼスト伯爵が近くを通りがかった中年くらいの黒い服を着た修道士に語り掛けると、彼は快く私達の左手前にある面会室の扉を開けてくれた。

「どうぞ」
「失礼いたします」

 面会室はソファと机が置かれただけ。でもソファなどの家具はかなり高級そうだ。

「座ってください」

 リューゼスト伯爵に促されて下座の方に腰掛けると、面会室の扉はリューゼスト伯爵の手により厳重に閉められた。

「まずはあなたに行ってもらう事を簡単にお伝えします」
「お仕事ですね」
「はい。あなたのお仕事は……今から私の屋敷に留まる事になります」
「はい?」

 リューゼスト伯爵の屋敷にいって、そこでしばらく滞在するって事? たったそれだけ?

「あなたは私の屋敷にいるだけで結構です」
「え? で、でも……」
「それで良いのですよ。どうかご心配なさらず。ああ、内職とかしたいのでしたら別途ご用意いたします」
「えっと、その……」

 なんて言えばいいのかよくわからないし、リューゼスト伯爵が何をしたいのかもよくわからない……。
 一体リューゼスト伯爵は何を考えているのかしら……?

「あの、リューゼスト伯爵は……」
「私の考えを説明しましょう。あなたはたった今から「死んだ」事にしようと思いまして」
「し、死?! 私が?!」
「声が大きいですよ」

 しーーっと人差し指を立てているリューゼスト伯爵はちょっとだけ色気があるように見えた。いや! 今はそれどころではない。
 
「簡潔に説明すると、あなたは今から「死んだ」事になります。そしてその事をあなたの嫁ぎ先などご家族にお知らせし、替え玉となる死体も用意してここで葬儀を執り行います。死んだ事になったあなたは私の屋敷に隠れて時間を食いつぶしていてください」
「な、なるほど……死んだふり、みたいな事ですね」
「そして、あなたが死んだのは過労である。という事であなたの嫁ぎ先を糾弾し、この事を国王陛下にもお伝えする……。どうです? 素敵なお話でしょう?」

 リューゼスト伯爵の口元が一瞬だけ歪んだように見えたけど気のせいかもしれない。
 でもあのマレナお義母様達をぎゃふんと言わせるには良いお話じゃないの! と感心している自分が胸の中にいる。

「すごい面白そうだと思います!」
「そうでしょう? 君ならそう言ってくれると思っていましたよ」

 得意げに鼻を鳴らすリューゼスト伯爵がちょっとだけ可愛く見えたので、可愛いと言おうとしたけどやめておく。

「という訳で今からあなたを送る為の馬車を手配します。誰かに見られていてもいけないので、あなたには木箱の中に入ってもらってから、裏口に停車している馬車へと載せますね」
「はい、わかりました……」
「替え玉の死体は既に用意しております。ちょうどあなたとよく似た見た目の女性の遺体が運び込まれてきていたので」

 聞けば替え玉となる死体は貧民街の女性で、持っていた私物からして最下層の娼婦だろうとの事だった。
 葬儀の際は死体は裸になるのかしら? それならクライストとは一度もベッドを共にしていないから私の体型もわからないわね。

「という訳で。失礼しますね」

 一旦退出していったリューゼスト伯爵。しばらくして大きな木箱を持って戻って来た。

「さあどうぞ。この中へ」

 リューゼスト伯爵は木箱を置き、笑顔で蓋を取った。木箱の中は当たり前だけど暗くて、少し足を踏み入れてみるとひんやりとした冷気が足首から下を襲う。
 このまま木箱の中に入ると、もう後には戻れない気がした。でも、リューゼスト伯爵の誘いに乗れば私はあの家から逃れられる。それなら迷う暇はない。

 だって離婚できないなら、私が死ねばいいんじゃない?

「はい」

 木箱の中に入ると、服の裾を木箱の中に収めてから三角座りをする。

「扉、閉めますよ」

 リューゼスト伯爵の低い声が頭の上に降りかかるのと同時に、ぱこっと木箱のふたが収められた。

「なんだか君を拉致したみたいですね。……興奮します」

 ちょっと不穏な空気をまとうリューゼスト伯爵の冷たい声が鼓膜まで届いた気がした。
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