10 / 10
第10話 回想・あのあと
しおりを挟む
――再び意識がはっきりした時、私は何も身に着けていない状態でベッドの上にいた。
「あ……」
一応布団は敷かれてある。ゆっくりと身を起こそうとすると全身あちこちから鈍い関節痛と肉が蹂躙された痕のような重苦しさが押し寄せてきた。
「ぐっ……」
「カレコさん? 大丈夫?」
視界の左側から白いガウン姿のしゅうさんが駆け寄って来る。どうやらしゅうさんは先にシャワーでも浴びていたのだろう。髪の毛先が湿っていた。
「しゅうさん、うっ……大丈夫です。すみません……えっと、今何時ですか?」
「今は夜中の2時すぎだけど……」
「そうですか……」
思ったより時計の針は進んでいなかったので少しだけほっとする。
「カレコさん、その……身体、大丈夫?」
目の前にいるしゅうさんは眉を八の字にして、文字通りしおらしい態度に変わった。そんなに私を心配しているのか、なんだか少しだけ意外にも感じられる。
「俺……ちょっと、加減、わからなくて……」
「大丈夫ですよ! すっごくよかったです……!」
「ほんと?!」
しょんぼりとした表情から一転して、しゅうさんの目がぱっと開いた。
「よかった……」
はあっ……と息を漏らすしゅうさん。力が抜け落ちてしまったのか、床へと座り込んでしまった。私は慌てて彼の側に近寄る。
身体は痛いけど、我慢するほかない。
「安心してくださいって。大丈夫ですから」
あなたとのセックスは嫌だったなんて、口が裂けても言えないし言いたくなんて無い。彼の背中に手を触れると、しゅうさんは縋り付くようにして抱きしめてきた。
「カレコさん……」
消え入りそうなしゅうさんの声が鼓膜を揺るがした。
しかしここですっごくロマンティックな雰囲気だったのにも関わらず、私のお腹はごおごおと彼の声音をかき消す勢いでなり始めた。
「あ゛っ……なんか、ごめんなさい……! お腹空いちゃった……」
口を押えて苦笑いを浮かべながら、あるアイデアを思いつく。
「しゅうさん、せっかくですし何か食べましょうよ」
「えっ?」
「なんかこういう時は……甘いもの食べたらいいかなって。いきなり思っちゃったって言うか……」
本当に唐突もない思い付きではあるが、しゅうさんを纏うじとっとした空気を払うには、これしか思いつかなかったのも事実だ。
大型テレビの右横にある棚に、食事メニューが記されたパンフレットがあるのでそれを取り、しゅうさんに見せる。
つやつやのパンフレットには季節限定のメニューをはじめ、あちこちに美味しそうな品々ばかり並んでいた。
「あっ……えっと、おごりますよ。しゅうさんに全部支払ってもらうのも悪いので……」
「いいの?」
「はいっ……! もちろんもちろん! あ、私は……どれにしよっかな……」
がっつりお肉やご飯系のメニューを食べるのもいいが、今は深夜。結構背徳感が凄まじい。しかしながら朝食までこの空腹感を我慢するのも大変だ。
「じゃあ、私ミートドリアにしますね。しゅうさんは何か食べたいものあります?」
「う~~ん、じゃあこのアイスの乗ったワッフルかな」
「あと飲み物もおごりますよ」
しゅうさんが選んだのはウインナーコーヒー。私はピーチジュースを選び、朝食と共にテレビのリモコンから注文した。
それにしても部屋は静かだ。ラブホテルだから喘ぎ声とか漏れ出て来るのかと思ったけどここはそうでもないらしい。
しばらくしてコンビニの出入り口で鳴っているのと同じチャイム音がした。ドアを開けると玄関横の棚に注文した品々がラップをかけられた状態で整然と並んでいた。
トレイの薄ピンク色がコップとお皿の白色を綺麗に演出させている気がする。ミートドリアは熱々で湯気が立ち込めていた。
小さめのガラス机の上にトレイを置いた後は、何かを話す訳でもなく静かに食事をする。ミートドリアはトマトソースもチーズもどちらも濃厚な味わいで、胃もたれ寸前になりそうなレベルだが、ピーチジュースは対照的にあっさりとした味わい。本来なら美味しい~♡ と言いながら食べていたかもしれないが、何にかを口にしようとすると喉の奥で言葉が止まってしまった。
それでもワッフルを食べるしゅうさんの顔は子供のような満面の笑みで彩られていて、ずっと眺めていたい衝動に駆られる。
その後は軽くシャワーを浴びてから私はベッドに横たわった。しゅうさんも寝るのかなとは思っていたけど、ソファでスマホをいじっている。寝ないかどうか尋ねてみたが、写真の編集と加工があるから。と言って断られたのでここは素直に目を閉じる。
明け方に届いた朝食を食べ終えチェックアウトして駅前で解散しようとした所、しゅうさんは職場である病院へ向かおうとしている私の手首をつかみ、引き留めて来た。
「カレコさん。ありがとう……! また、会おう!」
「しゅうさん……はい。また会いましょう」
彼がここまで必死な形相を見せるのは、私にとっては意外を飛び越えていたものだった。
案の定というべきか、仕事は全然集中できなくて。危うく保険証と医療証の確認を忘れようとした時は全身の毛が逆立ちそうになったほど。
それでも身体全てを包む幸福感は本当に心地よくて、鈍い関節痛たちはいつの間にかどこかに吹き飛んでしまっていた。
――しゅうさんへの違和感だけは消え去るどころか、ずっとくすぶり続けてはいたが。
◇ ◇ ◇
「えっと……」
今。私は2人との逢瀬を振り返られる所はしっかりと振り返ったうえで、視界を覆い尽くそうとしている2つの顔を見比べている。
「カレコちゃん、どっちがどっちだったか……わかった?」
「あ……」
一応布団は敷かれてある。ゆっくりと身を起こそうとすると全身あちこちから鈍い関節痛と肉が蹂躙された痕のような重苦しさが押し寄せてきた。
「ぐっ……」
「カレコさん? 大丈夫?」
視界の左側から白いガウン姿のしゅうさんが駆け寄って来る。どうやらしゅうさんは先にシャワーでも浴びていたのだろう。髪の毛先が湿っていた。
「しゅうさん、うっ……大丈夫です。すみません……えっと、今何時ですか?」
「今は夜中の2時すぎだけど……」
「そうですか……」
思ったより時計の針は進んでいなかったので少しだけほっとする。
「カレコさん、その……身体、大丈夫?」
目の前にいるしゅうさんは眉を八の字にして、文字通りしおらしい態度に変わった。そんなに私を心配しているのか、なんだか少しだけ意外にも感じられる。
「俺……ちょっと、加減、わからなくて……」
「大丈夫ですよ! すっごくよかったです……!」
「ほんと?!」
しょんぼりとした表情から一転して、しゅうさんの目がぱっと開いた。
「よかった……」
はあっ……と息を漏らすしゅうさん。力が抜け落ちてしまったのか、床へと座り込んでしまった。私は慌てて彼の側に近寄る。
身体は痛いけど、我慢するほかない。
「安心してくださいって。大丈夫ですから」
あなたとのセックスは嫌だったなんて、口が裂けても言えないし言いたくなんて無い。彼の背中に手を触れると、しゅうさんは縋り付くようにして抱きしめてきた。
「カレコさん……」
消え入りそうなしゅうさんの声が鼓膜を揺るがした。
しかしここですっごくロマンティックな雰囲気だったのにも関わらず、私のお腹はごおごおと彼の声音をかき消す勢いでなり始めた。
「あ゛っ……なんか、ごめんなさい……! お腹空いちゃった……」
口を押えて苦笑いを浮かべながら、あるアイデアを思いつく。
「しゅうさん、せっかくですし何か食べましょうよ」
「えっ?」
「なんかこういう時は……甘いもの食べたらいいかなって。いきなり思っちゃったって言うか……」
本当に唐突もない思い付きではあるが、しゅうさんを纏うじとっとした空気を払うには、これしか思いつかなかったのも事実だ。
大型テレビの右横にある棚に、食事メニューが記されたパンフレットがあるのでそれを取り、しゅうさんに見せる。
つやつやのパンフレットには季節限定のメニューをはじめ、あちこちに美味しそうな品々ばかり並んでいた。
「あっ……えっと、おごりますよ。しゅうさんに全部支払ってもらうのも悪いので……」
「いいの?」
「はいっ……! もちろんもちろん! あ、私は……どれにしよっかな……」
がっつりお肉やご飯系のメニューを食べるのもいいが、今は深夜。結構背徳感が凄まじい。しかしながら朝食までこの空腹感を我慢するのも大変だ。
「じゃあ、私ミートドリアにしますね。しゅうさんは何か食べたいものあります?」
「う~~ん、じゃあこのアイスの乗ったワッフルかな」
「あと飲み物もおごりますよ」
しゅうさんが選んだのはウインナーコーヒー。私はピーチジュースを選び、朝食と共にテレビのリモコンから注文した。
それにしても部屋は静かだ。ラブホテルだから喘ぎ声とか漏れ出て来るのかと思ったけどここはそうでもないらしい。
しばらくしてコンビニの出入り口で鳴っているのと同じチャイム音がした。ドアを開けると玄関横の棚に注文した品々がラップをかけられた状態で整然と並んでいた。
トレイの薄ピンク色がコップとお皿の白色を綺麗に演出させている気がする。ミートドリアは熱々で湯気が立ち込めていた。
小さめのガラス机の上にトレイを置いた後は、何かを話す訳でもなく静かに食事をする。ミートドリアはトマトソースもチーズもどちらも濃厚な味わいで、胃もたれ寸前になりそうなレベルだが、ピーチジュースは対照的にあっさりとした味わい。本来なら美味しい~♡ と言いながら食べていたかもしれないが、何にかを口にしようとすると喉の奥で言葉が止まってしまった。
それでもワッフルを食べるしゅうさんの顔は子供のような満面の笑みで彩られていて、ずっと眺めていたい衝動に駆られる。
その後は軽くシャワーを浴びてから私はベッドに横たわった。しゅうさんも寝るのかなとは思っていたけど、ソファでスマホをいじっている。寝ないかどうか尋ねてみたが、写真の編集と加工があるから。と言って断られたのでここは素直に目を閉じる。
明け方に届いた朝食を食べ終えチェックアウトして駅前で解散しようとした所、しゅうさんは職場である病院へ向かおうとしている私の手首をつかみ、引き留めて来た。
「カレコさん。ありがとう……! また、会おう!」
「しゅうさん……はい。また会いましょう」
彼がここまで必死な形相を見せるのは、私にとっては意外を飛び越えていたものだった。
案の定というべきか、仕事は全然集中できなくて。危うく保険証と医療証の確認を忘れようとした時は全身の毛が逆立ちそうになったほど。
それでも身体全てを包む幸福感は本当に心地よくて、鈍い関節痛たちはいつの間にかどこかに吹き飛んでしまっていた。
――しゅうさんへの違和感だけは消え去るどころか、ずっとくすぶり続けてはいたが。
◇ ◇ ◇
「えっと……」
今。私は2人との逢瀬を振り返られる所はしっかりと振り返ったうえで、視界を覆い尽くそうとしている2つの顔を見比べている。
「カレコちゃん、どっちがどっちだったか……わかった?」
3
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる