婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第34話 母親とジョージ様の直訴

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 祝賀パーティーが終わった次の日の朝。診察の結果この日もアダン様は異常なしだった。

「ありがとうみんな」

 私達へいつも通り感謝の意思を示すアダン様。すると廊下の方からどかどかどかと靴音が乱暴に踏み鳴らされる音が聞こえて来る。
 更に女性らしき人物が何やら叫ぶ声も一緒に聞こえてきた。しかもこちらの、アダン様の部屋の方まで近づいてくる。

「なんでしょう……」

 するとメイドが半ば恐怖も入り混じった焦りの表情を浮かべて、部屋の扉を破るようなそんな勢いで開いて入室してきた。

「王太子殿下、大変です! ヨージス侯爵夫人とその次期当主様が直々に殿下にお会いできないかと訴えに来ております!」
「なんだって?」
「しかも私達の静止も聞かずこちらへとやってきております……!」

 メイドがそう言い終わった瞬間、母親とジョージ様が部屋に入って来た。私は急いで部屋の角に隠れるが、間に合わなかった。母親とジョージ様がアダン様と私を交互に見ている。

「ヨージス侯爵夫人といえど、勝手に王族の部屋に立ち入るなど不敬であるぞ」

 そうアダン様がけん制を入れるが、母親はひるむ事無くアダン様に目線を向け、頭を下げた。

「王太子殿下、不敬なのも承知の上こちらに参りました。わが娘ジュナと会っていただきたいのです」
「私、ジョージからも合わせてお願いいたします」
「断る。忙しいのだ。何故会わねばならないのだ」

 アダン様も構わず攻撃的な目線を母親とジョージに向ける。

「わが娘はぜひ王太子殿下と会ってお話をしたいと申しております。今日の朝も確認いたしましたが、意志は変わりませんでした」
「……それがどうした。王太子妃になりたいとでも考えているのか。それは無理な話であるとそう伝えよ」
「……」

 アダン様をこれ以上説き伏せるのは難しいと察したのか、母親は礼をして引き下がろうとすると、私の方へと近づいてきた。すかさずハイダがその間に割って入り、私を守ってくれる。

「なっ……!」

 ハイダの動きが予測できなかったのか、母親は口を開け驚きの表情を見せるがすぐに目つきを見せる。

「令嬢が薬師なんて恥ずかしいわ。ジャスミン、早く家に帰るわよ!」
「帰りません。それに薬師というのは人を助ける素晴らしい仕事です。恥ずかしくなんてありません」
「ジャスミン、あなたをそんなわがままな子に育てた覚えはありません!」

 母親はハイダの肩を掴み、強引に倒そうとした。そこにジョージ様も介入してくる。

「ジャスミン! やっぱりお前が必要だ!」
「私との婚約を破棄された方に言われても……! 信用できません!」
「なっ、お義母様! 早くジャスミンを!」
「どきなさい!」
「いいえ、ジャスミンさんは大事な仲間です! 絶対にどきません!」
「そこまでだ!」

 後ろからアダン様が剣を抜き、そのまま早歩きで近づき母親とジョージの喉元を付近に勢いよく突き付けた。

「いくら侯爵夫人といえど、頭が高い。去れ! さもなくばここで斬って捨てる!」
「ひっ……!」
「ハイダ、兵を呼べ。ジャスミン、ここに」

 ハイダとメイドが兵を呼びに走っていった。私はアダン様の元に駆け寄ると、肩を抱かれる。

「ジャスミン、あなた薬師になったのは王太子殿下の寵愛をうけるつもり?」
「残念ながらお母様、そのようなおつもりは全くございません。私は薬師になりたいから薬師になっただけの事」
「それに俺にはアンゼリカがいるからね。他にも女はいるから。お生憎様」

 明らかに不服そうな表情を浮かべる母親と、私がアダン様に肩を抱かれているのに対してわかりやすく嫉妬のまなざしを向けるジョージ。緊迫したやりとりの末、程なくして兵がやって来た。

「王太子殿下、お待たせいたしました」
「そのお2人を家まで丁重に送ってくれ。あとヨージス侯爵家は、宮廷の立ち入り及びその他行事等の出入りはしばらく禁止にする。父上にもそう報告しておくよ」
「っ……! 殿下、お許しを!」
「だめだ、ヨージス侯爵夫人。娘を甘やかしてもう1人の娘は愛さないのであればそのうち痛い目を見るぞ?」

 ジョージと母親は兵隊に囲まれて、おとなしく去っていった。こうして騒動自体は落ち着いたが、私が宮廷で働いている事は彼らにバレてしまった。
 一応出入り禁止にはなるという事だが、先が少々不安である。

「皆、大丈夫か?」

 剣を鞘に納めたアダン様が、私達を気遣う言葉をかけた。

「私は大丈夫です」
「このハイダも大丈夫です。けがはありません」
「私も大丈夫です。それにしても侯爵夫人がここに来るとは驚きました……」
「あ、母親と元婚約者がお騒がせしてしまって、すみませんでした……」

 家族が起こした騒ぎだ。私が頭を下げて謝罪をすると、アダン様とハイダから頭をあげるようにと言われる。

「ジャスミンは悪くない。悪いのは彼女達だ。それにしても君の妹君はわがままだねえ」
「昔っからそうなんです……申し訳ありません」
「でも、皆さん無事でよかったですよ。ジャスミンさんにも何も無かったですし。さあ、仕事に戻りましょう」
「はい、医薬師長」

 こうして私とハイダは、仕事に戻ったのだった。
 その後、正式に両親とジュナ、ジョージは出禁扱いとなったそうだ。
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