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第70話 エミリア・コルニー嬢
私はハイダとメラニーを呼び、エミリアがいるという宮廷の図書館に向かう事にした。この図書館は貴族や一般庶民にも一部が解放されている。
「あそこです」
メイドがエミリアの元に私達を誘導してくれた。黒く美しい艶をした髪に、黒をベースとした少し地味目のドレスを着ているのが、エミリア・コルニー。ジョージと結婚が決まっている女性である。
「あなたがエミリアさんですか?」
「はい。ジャスミンさんにお会いしたくて参りました。お忙しい所申し訳ございません」
ドレスの裾を持ち、ぺこりと挨拶をする姿は模範的な令嬢のそれと言えるかもしれない。彼女の佇まいも洗練されており、無駄な部分や品の無さは全く感じられない。
(キラキラしてる……)
すると内密で話をしたいとエミリアが言ってきたので、私は図書館内にある個室へと彼女を案内した。メイドとはここでお別れとなる。
個室に入り扉を閉めると、エミリアは意を決したかのような表情で口を開いた。
「あの、私……婚約を破棄したいんです!」
「へ?」
「この婚約は……両親と相手方が決めた一方的なものです。私は嫌と言ったのですが、聞き入れてくださいませんでした。それに私には想いを寄せる人がいたのですが、その方との婚約を勝手に破棄されて、ジョージ様と婚約させられたんです」
「そ、そんな事が……」
「それで、どうしたらいいですか?」
エミリアからアドバイスを求められたが、正直私には良い案が思いつかない。
1つだけ思いついたのが、家出だった。
「家出するとか?」
「するにしても、どこに……」
私とハイダは顔を見合わせる。そしてハイダが口を開いた。
「メイドか私達のように薬師になるとか」
「なるほど……」
だが、家出をした所で解決するかと言えば違う気もする。となるとやはり婚約を破棄して婚約自体を無かった事にするよりほかは無い。
そこで私はある事を思いつく。
「書類にサインはした?」
「……してないです」
この国は、婚約にあたって自ら書いたサインが必要になる。代筆は基本不可能だ。そこを突けば、婚約解消へともっていけるのではないだろうか。
そう考えていると、私の頭の中にはアダン様の顔が思い浮かんだ。彼にとりなして頂くか……? 彼の命令があれば婚約破棄も困難ではないだろうが。
「両親が勝手にしていたみたいです」
「そうなら、婚約は無効になるはずだけど……」
「医薬師長、アダン様に報告してみてはいかが?」
ハイダからそう促された私は、彼にこの件を報告する事に決めたのだった。確かに薬師にはこういう問題は扱えないので王太子である彼が適任だろう。
「分かりました。アダン様を呼んできます」
そう皆に告げて椅子から立ち上がった時。私の胃の辺りから何かがせりあがるような感覚を覚える。
「!」
急いで口を抑えて、喉奥までせり上がって来た胃の内容物をごくりと飲み込む。
「医薬師長、大丈夫ですか?!」
「……ちょっと吐き気が。でも大丈夫です」
そう振る舞うが、吐き気が中々治まらない。何かを口にすれば楽になれるかも? とは感じたのだが、今そのような食べ物も近くにはないので、我慢する。
「とりあえず私がアダン様を呼んできますわ。医薬師長」
「ハイダさん、お願いします」
「水もお持ちしましょうか?」
「あーー……何かお菓子とかはありますか?何か食べたら楽になるかも……」
「わかりました。用意します」
「すみません、お願いします」
ハイダは頷いて速歩きでその場から去っていった。メラニーとエミリアは心配そうに私を見る。
「すみません」
私は心配の目線を向ける2人に慌てて謝罪すると、いえいえと両者とも手を振る。
しかし、このような症状は初めてだ。一体どうしたのだろうか。
(疲れか?)
そういえば最近、月のものも来ていない気がする。
(まさか……)
私の頭の中にアダン様の微笑む姿が浮かんだ時、彼とハイダがこちらに来た。
「彼女がエミリアか?」
「はい」
「とりあえず話を聞かせて貰おう」
「お願いします、王太子殿下」
エミリアは私達にした話を再度、アダン様に話した。アダン様は紙にペンでメモを取りながら、話に耳を傾ける。
「書類はあるかい?」
「すみません……手元には」
「持ってきてほしい。そこで筆跡鑑定した方がより確実だ」
「分かりました。今持って来ます」
「持って来れるの?」
「今日は夜まで両親は不在ですから。書類が置かれている場所も把握しています」
「成る程。メラニー。同行してやって」
「かしこまりました。殿下」
エミリアがメラニーと共に部屋から退出する。バタンと鳶が閉まると、アダン様が私に向けて口を開いた。
「エミリアってジャスミンに似てない?」
「え」
「雰囲気と顔が似てる。あと背格好も」
「そ、そうですか……っ」
「ジャスミン、大丈夫?」
「さっきから吐き気が……」
私はハイダから手渡された水とサンドイッチ用のパンを口に含んだ。確かに何か食べたら少しは楽になれたような気がした。
「医薬師長。その、もしかして……」
「で、ですよね……」
アダン様も察したのか、真剣な目付きを私に向けてくる。
「あそこです」
メイドがエミリアの元に私達を誘導してくれた。黒く美しい艶をした髪に、黒をベースとした少し地味目のドレスを着ているのが、エミリア・コルニー。ジョージと結婚が決まっている女性である。
「あなたがエミリアさんですか?」
「はい。ジャスミンさんにお会いしたくて参りました。お忙しい所申し訳ございません」
ドレスの裾を持ち、ぺこりと挨拶をする姿は模範的な令嬢のそれと言えるかもしれない。彼女の佇まいも洗練されており、無駄な部分や品の無さは全く感じられない。
(キラキラしてる……)
すると内密で話をしたいとエミリアが言ってきたので、私は図書館内にある個室へと彼女を案内した。メイドとはここでお別れとなる。
個室に入り扉を閉めると、エミリアは意を決したかのような表情で口を開いた。
「あの、私……婚約を破棄したいんです!」
「へ?」
「この婚約は……両親と相手方が決めた一方的なものです。私は嫌と言ったのですが、聞き入れてくださいませんでした。それに私には想いを寄せる人がいたのですが、その方との婚約を勝手に破棄されて、ジョージ様と婚約させられたんです」
「そ、そんな事が……」
「それで、どうしたらいいですか?」
エミリアからアドバイスを求められたが、正直私には良い案が思いつかない。
1つだけ思いついたのが、家出だった。
「家出するとか?」
「するにしても、どこに……」
私とハイダは顔を見合わせる。そしてハイダが口を開いた。
「メイドか私達のように薬師になるとか」
「なるほど……」
だが、家出をした所で解決するかと言えば違う気もする。となるとやはり婚約を破棄して婚約自体を無かった事にするよりほかは無い。
そこで私はある事を思いつく。
「書類にサインはした?」
「……してないです」
この国は、婚約にあたって自ら書いたサインが必要になる。代筆は基本不可能だ。そこを突けば、婚約解消へともっていけるのではないだろうか。
そう考えていると、私の頭の中にはアダン様の顔が思い浮かんだ。彼にとりなして頂くか……? 彼の命令があれば婚約破棄も困難ではないだろうが。
「両親が勝手にしていたみたいです」
「そうなら、婚約は無効になるはずだけど……」
「医薬師長、アダン様に報告してみてはいかが?」
ハイダからそう促された私は、彼にこの件を報告する事に決めたのだった。確かに薬師にはこういう問題は扱えないので王太子である彼が適任だろう。
「分かりました。アダン様を呼んできます」
そう皆に告げて椅子から立ち上がった時。私の胃の辺りから何かがせりあがるような感覚を覚える。
「!」
急いで口を抑えて、喉奥までせり上がって来た胃の内容物をごくりと飲み込む。
「医薬師長、大丈夫ですか?!」
「……ちょっと吐き気が。でも大丈夫です」
そう振る舞うが、吐き気が中々治まらない。何かを口にすれば楽になれるかも? とは感じたのだが、今そのような食べ物も近くにはないので、我慢する。
「とりあえず私がアダン様を呼んできますわ。医薬師長」
「ハイダさん、お願いします」
「水もお持ちしましょうか?」
「あーー……何かお菓子とかはありますか?何か食べたら楽になるかも……」
「わかりました。用意します」
「すみません、お願いします」
ハイダは頷いて速歩きでその場から去っていった。メラニーとエミリアは心配そうに私を見る。
「すみません」
私は心配の目線を向ける2人に慌てて謝罪すると、いえいえと両者とも手を振る。
しかし、このような症状は初めてだ。一体どうしたのだろうか。
(疲れか?)
そういえば最近、月のものも来ていない気がする。
(まさか……)
私の頭の中にアダン様の微笑む姿が浮かんだ時、彼とハイダがこちらに来た。
「彼女がエミリアか?」
「はい」
「とりあえず話を聞かせて貰おう」
「お願いします、王太子殿下」
エミリアは私達にした話を再度、アダン様に話した。アダン様は紙にペンでメモを取りながら、話に耳を傾ける。
「書類はあるかい?」
「すみません……手元には」
「持ってきてほしい。そこで筆跡鑑定した方がより確実だ」
「分かりました。今持って来ます」
「持って来れるの?」
「今日は夜まで両親は不在ですから。書類が置かれている場所も把握しています」
「成る程。メラニー。同行してやって」
「かしこまりました。殿下」
エミリアがメラニーと共に部屋から退出する。バタンと鳶が閉まると、アダン様が私に向けて口を開いた。
「エミリアってジャスミンに似てない?」
「え」
「雰囲気と顔が似てる。あと背格好も」
「そ、そうですか……っ」
「ジャスミン、大丈夫?」
「さっきから吐き気が……」
私はハイダから手渡された水とサンドイッチ用のパンを口に含んだ。確かに何か食べたら少しは楽になれたような気がした。
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「で、ですよね……」
アダン様も察したのか、真剣な目付きを私に向けてくる。
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