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第71話 懐妊
「ただいま戻りました」
しばらく経ってエミリアがメラニーと共に婚約に関する書類を持って部屋に戻って来た。はあはあと息を肩で吐きながら、椅子に座りつつアダン様に見せる。
更に彼女の左手には大きなトランクが握られていた。
「エミリアさん、それは……」
「一応、私の荷物もまとめて来ました。家出の準備と言いますか……」
彼女の目は据わっている。基本宮廷の関係者以外は宮廷では寝泊まり出来ない。その為彼女は宮廷のすぐ近くにある修道院に泊まって貰う事になった。
「分かりました」
「この書類はこちらで預かる。エミリア。試しにこの紙にサインをしてほしい」
「はい」
アダン様に言われてエミリアはアダン様が渡した紙に自身の名前をさらさらと書く。確かに書類に書かれたサインとは筆跡が随分異なっていた。
(確かに筆跡が違う)
「これ、よく見たらお父様の字ですね」
「分かるんだ」
「ええ、はい。力強いというか、やや癖があるというか」
「成る程ね。その紙も貰おう」
「お願いします」
エミリア直筆のサインが書かれた紙をアダン様が回収しひとまずは解散となる。メラニーが修道院にエミリアを連れて行き、私達も医務室へと戻る事にした。
「医薬師長。一応、医者に診てもらった方が」
「で、ですよね……」
「俺も同行する。ジャスミンは部屋で待機していて」
「はい。あの、この事は内緒と言いますか、誰にも言わないでいただけますかね?」
「勿論だ」
「約束します」
2人の返事を聞いて、私はほっと息を吐いたのだった。
自室にて、静かに密やかに診察が行われる。結果はやはり、アダン様との子を身籠っていた。
「おめでとうございます」
そう祝福する医師とハイダの声は静かだが、確実に私の耳に届いた。
「良かった」
短いアダン様の声も、静かだが私の耳にはしっかりと届いている。
「後で吐き気止めの薬渡しますね」
「ありがとうございます。ハイダさん」
「この事は皆様内緒でお願いしますね」
ハイダが医師とアダン様にそう確かめるようにして告げると2人はしっかりと首を縦に振る。
「それで、医薬師長仕事はどうしますか? つわりが落ち着くまではしばらく休んだ方が良いような気もしますが」
「そ、そうですよね……」
かといって、私にとって実家は帰りたくない場所でもあるので難しい所だ。
「少しだけここで休んで、また働きます」
「わかりました」
「ジャスミン、無理はしないでね」
「はい。勿論です」
「それでさ、今後はどうするつもり?」
今後。それはおそらく王太子妃になるか医薬師長のまま働くかのどちらを選ぶのかという事だろう。私の意見としては医薬師長として働きたいが、アダン様は王太子。となるとやはり結婚するしか無いのか等と思案するが、中々しっくり来ない。
「すみません。考えさせてください」
「了解。焦らなくていいから」
「は、はい……」
その夜。私はベッドの中で1人、もの想いに更けていた。最近も何度か私はこの部屋やアダン様の部屋で彼に求められるがままに身体を重ねていたが、そのどこかで妊娠したのだろう。
(私がアダン様の子を身籠った)
性別はどちらだろう。男子だったら、いずれ後継者になる存在になる。王妃アネーラの言葉が一瞬響いてはすぐに消えた。それに今の仕事が単純に楽しくてやり甲斐も感じているので医薬師長という立場と仕事を手放したくは無いのだ。
(権力を握るような事はしたくないし、薬師として働けないのもちょっとなあ……)
ただ、王太子妃にならないとアダン様は私とは違う女性を迎えて彼女を王太子妃に据えるかもしれない。それはそれで寂しい。
(わがままになる……)
考えても答えが出ないので、考えるのを止めて目を閉じたのだった。
翌朝。朝食のフィッシュアンドチップスとスクランブルエッグだけは何故かは分からないが何とかいただけた。ライス系は匂いが駄目。パンならまだ何とか行けそう。あと甘ったるいものはあんまり受け付けたく無いかもしれない。
(食べられそうなものを食べよう)
その後も食べられそうなものを適度につまみながら、気持ち悪さと戦っていくのだった。医師曰く食べづわりもあるとの事だが、あまり食べ過ぎて太るのも良くないらしい。
(バランスだな……)
夕方。宮廷にエミリアの両親が現れた廊下で立ち話をしていたメイドから聞きつけ、ハイダとメラニーを連れてエミリアの両親がいる王の間へと向かう。
「エミリアがいないんです!」
「陛下、私達はどうしたら……」
玉座に座る国王陛下は、息をはあはあと苦しく吐きながらエミリアの両親の話に耳を傾けつつ、心当たりはあるかと尋ねる。
「あ、ありません……」
「ヨージス家との結婚式があるくらい」
「それではないか?」
「へ、陛下。恐れながら父として娘がそのような事を」
「するはずがないって?」
「お、王太子殿下?!」
玉座の裏からアダン様が従者を引き連れて現れた。その手には婚約に関する書類が雑に握られている。
「ここには本人のサインが無いみたいだね?」
「な、なぜそれを」
「王太子特権だよ。彼女の意思を無視してヨージス家に嫁がせるなんて、酷いな」
「アダン、本当か?」
「はい、父上。これを見てください」
しばらく経ってエミリアがメラニーと共に婚約に関する書類を持って部屋に戻って来た。はあはあと息を肩で吐きながら、椅子に座りつつアダン様に見せる。
更に彼女の左手には大きなトランクが握られていた。
「エミリアさん、それは……」
「一応、私の荷物もまとめて来ました。家出の準備と言いますか……」
彼女の目は据わっている。基本宮廷の関係者以外は宮廷では寝泊まり出来ない。その為彼女は宮廷のすぐ近くにある修道院に泊まって貰う事になった。
「分かりました」
「この書類はこちらで預かる。エミリア。試しにこの紙にサインをしてほしい」
「はい」
アダン様に言われてエミリアはアダン様が渡した紙に自身の名前をさらさらと書く。確かに書類に書かれたサインとは筆跡が随分異なっていた。
(確かに筆跡が違う)
「これ、よく見たらお父様の字ですね」
「分かるんだ」
「ええ、はい。力強いというか、やや癖があるというか」
「成る程ね。その紙も貰おう」
「お願いします」
エミリア直筆のサインが書かれた紙をアダン様が回収しひとまずは解散となる。メラニーが修道院にエミリアを連れて行き、私達も医務室へと戻る事にした。
「医薬師長。一応、医者に診てもらった方が」
「で、ですよね……」
「俺も同行する。ジャスミンは部屋で待機していて」
「はい。あの、この事は内緒と言いますか、誰にも言わないでいただけますかね?」
「勿論だ」
「約束します」
2人の返事を聞いて、私はほっと息を吐いたのだった。
自室にて、静かに密やかに診察が行われる。結果はやはり、アダン様との子を身籠っていた。
「おめでとうございます」
そう祝福する医師とハイダの声は静かだが、確実に私の耳に届いた。
「良かった」
短いアダン様の声も、静かだが私の耳にはしっかりと届いている。
「後で吐き気止めの薬渡しますね」
「ありがとうございます。ハイダさん」
「この事は皆様内緒でお願いしますね」
ハイダが医師とアダン様にそう確かめるようにして告げると2人はしっかりと首を縦に振る。
「それで、医薬師長仕事はどうしますか? つわりが落ち着くまではしばらく休んだ方が良いような気もしますが」
「そ、そうですよね……」
かといって、私にとって実家は帰りたくない場所でもあるので難しい所だ。
「少しだけここで休んで、また働きます」
「わかりました」
「ジャスミン、無理はしないでね」
「はい。勿論です」
「それでさ、今後はどうするつもり?」
今後。それはおそらく王太子妃になるか医薬師長のまま働くかのどちらを選ぶのかという事だろう。私の意見としては医薬師長として働きたいが、アダン様は王太子。となるとやはり結婚するしか無いのか等と思案するが、中々しっくり来ない。
「すみません。考えさせてください」
「了解。焦らなくていいから」
「は、はい……」
その夜。私はベッドの中で1人、もの想いに更けていた。最近も何度か私はこの部屋やアダン様の部屋で彼に求められるがままに身体を重ねていたが、そのどこかで妊娠したのだろう。
(私がアダン様の子を身籠った)
性別はどちらだろう。男子だったら、いずれ後継者になる存在になる。王妃アネーラの言葉が一瞬響いてはすぐに消えた。それに今の仕事が単純に楽しくてやり甲斐も感じているので医薬師長という立場と仕事を手放したくは無いのだ。
(権力を握るような事はしたくないし、薬師として働けないのもちょっとなあ……)
ただ、王太子妃にならないとアダン様は私とは違う女性を迎えて彼女を王太子妃に据えるかもしれない。それはそれで寂しい。
(わがままになる……)
考えても答えが出ないので、考えるのを止めて目を閉じたのだった。
翌朝。朝食のフィッシュアンドチップスとスクランブルエッグだけは何故かは分からないが何とかいただけた。ライス系は匂いが駄目。パンならまだ何とか行けそう。あと甘ったるいものはあんまり受け付けたく無いかもしれない。
(食べられそうなものを食べよう)
その後も食べられそうなものを適度につまみながら、気持ち悪さと戦っていくのだった。医師曰く食べづわりもあるとの事だが、あまり食べ過ぎて太るのも良くないらしい。
(バランスだな……)
夕方。宮廷にエミリアの両親が現れた廊下で立ち話をしていたメイドから聞きつけ、ハイダとメラニーを連れてエミリアの両親がいる王の間へと向かう。
「エミリアがいないんです!」
「陛下、私達はどうしたら……」
玉座に座る国王陛下は、息をはあはあと苦しく吐きながらエミリアの両親の話に耳を傾けつつ、心当たりはあるかと尋ねる。
「あ、ありません……」
「ヨージス家との結婚式があるくらい」
「それではないか?」
「へ、陛下。恐れながら父として娘がそのような事を」
「するはずがないって?」
「お、王太子殿下?!」
玉座の裏からアダン様が従者を引き連れて現れた。その手には婚約に関する書類が雑に握られている。
「ここには本人のサインが無いみたいだね?」
「な、なぜそれを」
「王太子特権だよ。彼女の意思を無視してヨージス家に嫁がせるなんて、酷いな」
「アダン、本当か?」
「はい、父上。これを見てください」
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