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第72話 婚約は破棄できず
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アダン様は国王陛下に書類とエミリアが書いたメモをありありと見せる。国王陛下はメモと書類を見比べる。
「確かに、アダンの言う通り筆跡が違うな……」
「そうでしょう、父上」
「いや、その書類はエミリアが書いた! そんな事をするわけがない!」
「だが、こんなに筆跡が違うぞ?」
国王陛下がそう告げると、エミリアの両親は何も言い返せず黙ってしまった。
「それに、エミリアからは今回の婚約は一方的なものと聞いているが、どういう事かお聞かせ願えるかな?」
「お、王太子殿下。それはエミリアがついた嘘です。父親の私の言う事が信じられませんか?」
「奥方は?」
「私も同じです。あの子がついた嘘です。結婚したくないのでしょう」
「ふん、娘が信じられないのか」
アダン様は疑り深い目を容赦なくエミリアの両親へ向けている。だが、そんな2人も引き下がろうとする姿勢は見せない。
「陛下お願いします。結婚させてやってくださいませ」
「理由は?」
「両家の繁栄の為でございます。それにこれはヨージス家から頂いた縁談です。断るなんてできません」
「私からもお願いします」
エミリアの両親は必死に頭を下げる。それほど娘を結婚させたいようだ。国王陛下はややあきれながらも勝手にしろと言って、玉座から立ち上がって、去っていく。アダン様が国王陛下に待ってくださいと叫んだが、彼が振り返る事は無かった。どうも、玉座に座るのもしんどいようだ。
エミリアの両親はほっと胸をなでおろしながら去る。アダン様はその様子を苦々しく見つめていたのだった。
(このまま結婚するのか)
それはそれでエミリアがかわいそうな気がしてならない。望んでもいない結婚など、嫌に決まっている。
その夜。私はアダン様の部屋に呼ばれた。彼に安楽椅子に座るように言われ、ゆっくりと腰掛ける。
(思ったより座り心地が良いな)
「エミリアはこのままだと、ジョージと結婚する」
「……私も聞いていました」
「父上も体調が悪いせいか、判断が鈍っている。昨日は体調良かったのに。あれでは……」
「……」
「どうするか、考えないと」
「そうですね……。とりあえず結婚式で、もう一度書類を見せて無効である事を伝えてはいかがでしょうか?裁判の者も連れていくとか」
「そうだね、専門的な人がいた方がいいか。それと俺も行こう。王太子である俺なら、決定には逆らえないはず。父上の代理という事にして出席しよう」
「それが良いかと」
アダン様に国王陛下の名代として結婚式に出席してもらう。そして結婚は無効であるという事を告げる。私達は何度も計画を確かめあった。
「ジャスミン、今の体調は?」
「薬が効いているようで、だいぶ楽にはなりました」
「良かった。無理はしないでね」
アダン様が私を抱き寄せて、そっと額にキスを落としてくれた。一瞬だけ私の心臓がどきっと跳ねる。
「ありがとう、ございます」
「ふふっ」
「では、失礼いたします」
「おやすみなさい」
そして、結婚式の当日の朝。朝食を食べ薬も飲んだ私はハイダとメラニーと共に結婚式が行われる宮廷からすぐ近くの教会へと歩いて向かう。
教会には多くの貴族が押しかけていた。かなり派手にやるようだ。私達は受付を済ませ、教会の中にある中央から右奥にある席に座ると、さっそくジョージが私を見つけて意気揚々とやって来た。
陰気な彼には似合わない歩き方だ。
「ジャスミン、来てくれたんだね」
「あら、エミリアの元にはいかなくていいのかしら?」
「エミリアは俺に顔を合わせたくないと言って会ってくれないんだ」
「あなたが嫌いなんじゃない?」
と、はっきりと言ってやったら、彼はすぐに顔を紅潮させて、そのような事は無いと激怒する。どうやら彼のちんけでお粗末なプライドにひびが入ったようだ。
「だってあなたに会いたくないって言ってるんでしょう? 心当たりは?」
「そんなものはないっ!」
「なら、仲直りできるように努力しなさい。あなたはエミリアと結婚するのでしょう? 結婚する前からそんなんじゃだめよ」
「ぐっ……」
ジョージは何か言おうとして口をぱくぱくさせたが、結局振り返ってその場から出ていった。
「なんか、気難しい方ね」
「彼、昔からああなんです。陰気で根暗でバカで。だから婚約破棄されて良かったです」
「そ、そうなのねえ。エミリアさんはどうなるのかしら……」
メラニーのいかにも心配そうな声が、教会内に響いた。それにしても教会のステンドグラスは日の光を受けてキラキラと虹のように輝いている。ガラスはやはり綺麗だ。見る度に光が変化していて飽きないうえに光も暖かくて心を落ち着かせてくれる。
招待客が次々と席に座る。そしてオーケストラとパイプオルガンの演奏が始まった。まだ国王陛下の名代であるアダン様は来ていない。
(遅れているのかな)
神父も現れ、いよいよ式が始まる。神父の近くには私の両親とエミリアの両親の姿もあった。互いに席こそはやや離れてはいるものの、親しそうに笑顔を見せたりしている。
そしてジョージが歩いてきた。彼は神父の前に到着した際。次は花嫁の入場ですというアナウンスが流れる。
「……?」
しかし、花嫁であるエミリアは現れない。
「確かに、アダンの言う通り筆跡が違うな……」
「そうでしょう、父上」
「いや、その書類はエミリアが書いた! そんな事をするわけがない!」
「だが、こんなに筆跡が違うぞ?」
国王陛下がそう告げると、エミリアの両親は何も言い返せず黙ってしまった。
「それに、エミリアからは今回の婚約は一方的なものと聞いているが、どういう事かお聞かせ願えるかな?」
「お、王太子殿下。それはエミリアがついた嘘です。父親の私の言う事が信じられませんか?」
「奥方は?」
「私も同じです。あの子がついた嘘です。結婚したくないのでしょう」
「ふん、娘が信じられないのか」
アダン様は疑り深い目を容赦なくエミリアの両親へ向けている。だが、そんな2人も引き下がろうとする姿勢は見せない。
「陛下お願いします。結婚させてやってくださいませ」
「理由は?」
「両家の繁栄の為でございます。それにこれはヨージス家から頂いた縁談です。断るなんてできません」
「私からもお願いします」
エミリアの両親は必死に頭を下げる。それほど娘を結婚させたいようだ。国王陛下はややあきれながらも勝手にしろと言って、玉座から立ち上がって、去っていく。アダン様が国王陛下に待ってくださいと叫んだが、彼が振り返る事は無かった。どうも、玉座に座るのもしんどいようだ。
エミリアの両親はほっと胸をなでおろしながら去る。アダン様はその様子を苦々しく見つめていたのだった。
(このまま結婚するのか)
それはそれでエミリアがかわいそうな気がしてならない。望んでもいない結婚など、嫌に決まっている。
その夜。私はアダン様の部屋に呼ばれた。彼に安楽椅子に座るように言われ、ゆっくりと腰掛ける。
(思ったより座り心地が良いな)
「エミリアはこのままだと、ジョージと結婚する」
「……私も聞いていました」
「父上も体調が悪いせいか、判断が鈍っている。昨日は体調良かったのに。あれでは……」
「……」
「どうするか、考えないと」
「そうですね……。とりあえず結婚式で、もう一度書類を見せて無効である事を伝えてはいかがでしょうか?裁判の者も連れていくとか」
「そうだね、専門的な人がいた方がいいか。それと俺も行こう。王太子である俺なら、決定には逆らえないはず。父上の代理という事にして出席しよう」
「それが良いかと」
アダン様に国王陛下の名代として結婚式に出席してもらう。そして結婚は無効であるという事を告げる。私達は何度も計画を確かめあった。
「ジャスミン、今の体調は?」
「薬が効いているようで、だいぶ楽にはなりました」
「良かった。無理はしないでね」
アダン様が私を抱き寄せて、そっと額にキスを落としてくれた。一瞬だけ私の心臓がどきっと跳ねる。
「ありがとう、ございます」
「ふふっ」
「では、失礼いたします」
「おやすみなさい」
そして、結婚式の当日の朝。朝食を食べ薬も飲んだ私はハイダとメラニーと共に結婚式が行われる宮廷からすぐ近くの教会へと歩いて向かう。
教会には多くの貴族が押しかけていた。かなり派手にやるようだ。私達は受付を済ませ、教会の中にある中央から右奥にある席に座ると、さっそくジョージが私を見つけて意気揚々とやって来た。
陰気な彼には似合わない歩き方だ。
「ジャスミン、来てくれたんだね」
「あら、エミリアの元にはいかなくていいのかしら?」
「エミリアは俺に顔を合わせたくないと言って会ってくれないんだ」
「あなたが嫌いなんじゃない?」
と、はっきりと言ってやったら、彼はすぐに顔を紅潮させて、そのような事は無いと激怒する。どうやら彼のちんけでお粗末なプライドにひびが入ったようだ。
「だってあなたに会いたくないって言ってるんでしょう? 心当たりは?」
「そんなものはないっ!」
「なら、仲直りできるように努力しなさい。あなたはエミリアと結婚するのでしょう? 結婚する前からそんなんじゃだめよ」
「ぐっ……」
ジョージは何か言おうとして口をぱくぱくさせたが、結局振り返ってその場から出ていった。
「なんか、気難しい方ね」
「彼、昔からああなんです。陰気で根暗でバカで。だから婚約破棄されて良かったです」
「そ、そうなのねえ。エミリアさんはどうなるのかしら……」
メラニーのいかにも心配そうな声が、教会内に響いた。それにしても教会のステンドグラスは日の光を受けてキラキラと虹のように輝いている。ガラスはやはり綺麗だ。見る度に光が変化していて飽きないうえに光も暖かくて心を落ち着かせてくれる。
招待客が次々と席に座る。そしてオーケストラとパイプオルガンの演奏が始まった。まだ国王陛下の名代であるアダン様は来ていない。
(遅れているのかな)
神父も現れ、いよいよ式が始まる。神父の近くには私の両親とエミリアの両親の姿もあった。互いに席こそはやや離れてはいるものの、親しそうに笑顔を見せたりしている。
そしてジョージが歩いてきた。彼は神父の前に到着した際。次は花嫁の入場ですというアナウンスが流れる。
「……?」
しかし、花嫁であるエミリアは現れない。
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