婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

文字の大きさ
85 / 88

第76話 深手

 すぐに私は医師を呼んだ。医師は近くに控えていたらしく兵と共に急いで駆け寄ってくる。群衆はアダン様の勝利を祝い彼の近くに来ようとしていたが、兵がそれを阻止している。 
 医師と私の要請で担架が運ばれ、2人はそれぞれ兵の手によって乗せられ移動していく。

「ジョージ・ヨージス殿は既に亡くなっています」
「そうですか……」

 ジョージの死亡宣告。それを聞いた私は1つ頷く。そして気を失っているアダン様に対して、頬や肩をパチパチと手で叩いて刺激を与えて起こそうと試みると、担架の上でゆっくりと目を開いてくれた。

「し、ジャスミン……」
「アダン様、しっかり! 誰か、包帯を! 早く!」

 医師からも気を確かに! と大きな声で告げられる。彼の意識は見るからに不安定だ。兵が包帯を持って来てくれたのですぐに止血を施す。

「はあっ……」
「アダン様。気を確かに持ってください!」
「そうだ、ね……ジャスミン……」

 アダン様は急ぎ、宮廷へと運ばれた。ジョージの遺体はそのままヨージス家の屋敷へと移送された。私達含めて医師と薬師が全員駆けつけ、彼が着用している鎧を外すのと同時に傷の手当が行われる。
 アダン様は何とか意識を繋いでいる。時折苦しそうにうめき声を上げ、痛そうにしているのを見た私は気つけ薬と共に痛み止めの薬も彼に飲ませた。痛みを取り除けられたら多少は楽になれるはずだ。

「はあーーっ……」
「アダン様、どうですか?」
「少しは楽になったかな。ありがとう、ジャスミン」
「いえ。ウィリアさん。新たな包帯をお願い」
「分かりました」

 包帯は数時間置きに取り替えなくてはならない。アダン様の血で溢れた包帯を解いて、止血薬を塗り新しい包帯を新たに巻く。その繰り返しだ。私は医薬師長として、ずっと彼のそばにつく。アダン様の為にも薬師としても彼のそばから離れる訳にはいかない。
 薬師になったばかりの私なら臆していたかもしれない。だが今はその時から立場も意思も変わったのだ。

(眠さも食欲も感じない)
「ジャスミン……」
「どうなさいました?」
「頭がふわふわする……」

 出血のせいか彼は貧血の症状が新たに現れ始めたので、私は貧血に効果がある薬を更にアダン様に飲ませ、更にお肉をしっかりと食べてもらうように進言した。薬だけでは追いつかないと判断したからだ。

(薬だけでは駄目だ。しっかり食べて食材からも摂取してもらわないと)
「アダン様、好きな肉料理はありますか?」
「そうだな……ローストとか?」
「ではそれをお出しします。メイドの方々。厨房へ注文をお願いします。出来れば柔らかめで」
「かしこまりました」
 
 時折アダン様の右手を握りながら、私は早く傷が塞がるように神へと祈りを捧げる。
感想 4

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。