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第65話 人間の子が大変な目にあっているんだけど
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「……っ。そうだったな」
アルグレートが何か言おうとはしているけど、声が出てくれないのか、或いは出したくないのかまではわからないけど、言葉にならないでいる。
「アルグレート……」
「……すまない」
ようやく言葉を切り出すも、彼は震える足で踵を返していった。
「……いっちゃった」
アルグレートには申し訳ないけど、これ以上一緒にいたら情が移る。もちろんまだどうすべきかは思いつかないけど、情が選択に悪影響を及ぼさないかが気になって怖いのだ。
「だめだよね、でも怖い……」
私、こんな事で臆病になるくらいメンタル不安定だったっけ? アルグレートからの誘いを断るくらいに落ち込んでいた? でも、今は何も考えたくない。
「……散歩だけでもしよう」
ここは身体を軽く動かしてさっぱりしよう。とはいえひとりだけで外をうろつくのは危ないので、メイドを3人くらい連れて屋敷を外周するようにして散歩する。メイド達はもしもの時に備えて武術を叩きこまれているそうなので、何もできない私からすれば安心だ。
それにしてもここら辺は本当に何にもない。のどかな風景が広がっている。
「屋敷周辺は本当に静かですね」
と、メイドに話しかけてみると、彼女達は顔を見合わせながらそうですね。と答える。
「最初こちらに来た時は驚きました。実家は市場の近くだったので夜中まで喧騒が聞こえていましたから」
「じゃあこっちとは真逆の感じですよね、いつ頃慣れました?」
「そうですねえ、こちらで働き始めて3か月くらいでしょうか。でも休暇で実家に帰るとまたあの環境が待っているので、完全に慣れたとは言えないかもです」
「そっかあ……」
3人の獅子人のメイドはいずれも市街地の方出身という事で、ある程度賑やかな環境の中で暮らしていたそうだ。
「ん?」
遠くからだが人の叫び声が聞こえてきた。なんだろう? というかこの辺りに人っているものなのだろうか?
「様子を見てまいります。オトネ様はこちらで待機してくださいませ」
「わかりました、お、お願いします」
メイドのひとりが声がした方へと駆け出していく。私の残りのメイドは屋敷の壁に身を隠して彼女が無事に戻って来るのを待った。
「お待たせしました。どうやら人間が亜人に襲われているようです」
「! た、助けなきゃ!」
「かしこまりました。助けに参りましょう……! 応援を要請してきます……!」
メイドが新たに2人やってきて現場へと赴くと、そこではこの世界に召喚された人間の少年が男の亜人から暴力を振るわれている。人間は大体中学生くらいだろうか、学ラン姿に黒いショートヘアとまだ少し幼さが残っているように見えた。
「何をしているんですか! やめなさい!」
「なんだてめえは?」
亜人の頭には茶色い犬の耳が生えている。なんかやくざみたいな雰囲気だけど、ここは彼の為にも引くわけにはいかない。
「無礼だぞ! このお方はグスタフ公爵夫人であらせられるぞ!」
メイドが私の前に立ちはだかると、いつもとは違う言葉遣いで亜人をにらみつける。いや、なんだか時代劇の殿様みたい。
「へ、グスタフ公爵夫人?」
メイドの叫びにぽかんと口を開けた亜人だったが、次第に私がここにいる事がどれくらいやばいかを理解したらしい。わかりやすく顔が青ざめていく亜人は両手を頬に当てて嘘だろ?! と天に向かって絶叫する。
「その子を元居た世界に返してあげてください。どのような理由があろうとも、です!」
「くっ……グスタフ公爵夫人にそう言われたら仕方ねえ……」
彼は魔術を使い、半泣き状態の彼を転送する事を約束した。人間の少年はやっぱり中学生で、彼の顔や手の甲などあちこちにあざや擦り傷が出来ている。
「オトネ様、医師を呼んできますね」
「お願いします……!」
中学生の子は授業を終えて下校中にいきなりこちらへと召喚されたようで、最近はやりの異世界転移ってやっぱりあるんだなと驚きつつも亜人から暴力を振るわれた事についてはショックを受けているようだった。
「っ……いたた……」
「無理に動かしちゃだめだよ。骨が折れていたり靭帯や筋肉とかが切れていたら大変だから」
と、声をかけて彼が無理に動こうとするのを引き留めると、中学生の少年は私を不思議そうに見つめる。
「お姉さんもしかして、俺と同じように転移してきた人? だって耳が俺と一緒」
「うん、そう。驚かせちゃってごめん」
「へえ……やっぱりそうなんだ。異世界転移って本当にあるんだ……二次元だけの世界だと思ってたからさ」
その後、亜人はメイドに捕縛されて、メイドが呼んできた医師によって手当を受けた中学生の少年を元の世界に戻してから彼女達が呼んできた皇帝警察へ引き渡されたのだった。元の世界に戻ればここにいた時の記憶はなくなるみたい。
「じゃあ、怪我とかはどうなるんですか?」
「多分、転んだとかそういう類の、都合の良い記憶に改ざんされるかと」
そしてどうやら亜人の方は生活に困窮し、黄金を召喚したらしかったが、失敗してなぜか中学生くらいの学ランの少年を召喚してしまい、その腹いせで暴力に及んでいたらしい。
「オトネ様、屋敷に戻りましょう」
「そうですね……疲れちゃいました」
「あの~……もしかして、私も元の世界に戻ったら、この時の記憶が消えちゃったりするのでしょうか?」
私はいてもたってもいられずにメイドへ質問を投げかけてみた。
アルグレートが何か言おうとはしているけど、声が出てくれないのか、或いは出したくないのかまではわからないけど、言葉にならないでいる。
「アルグレート……」
「……すまない」
ようやく言葉を切り出すも、彼は震える足で踵を返していった。
「……いっちゃった」
アルグレートには申し訳ないけど、これ以上一緒にいたら情が移る。もちろんまだどうすべきかは思いつかないけど、情が選択に悪影響を及ぼさないかが気になって怖いのだ。
「だめだよね、でも怖い……」
私、こんな事で臆病になるくらいメンタル不安定だったっけ? アルグレートからの誘いを断るくらいに落ち込んでいた? でも、今は何も考えたくない。
「……散歩だけでもしよう」
ここは身体を軽く動かしてさっぱりしよう。とはいえひとりだけで外をうろつくのは危ないので、メイドを3人くらい連れて屋敷を外周するようにして散歩する。メイド達はもしもの時に備えて武術を叩きこまれているそうなので、何もできない私からすれば安心だ。
それにしてもここら辺は本当に何にもない。のどかな風景が広がっている。
「屋敷周辺は本当に静かですね」
と、メイドに話しかけてみると、彼女達は顔を見合わせながらそうですね。と答える。
「最初こちらに来た時は驚きました。実家は市場の近くだったので夜中まで喧騒が聞こえていましたから」
「じゃあこっちとは真逆の感じですよね、いつ頃慣れました?」
「そうですねえ、こちらで働き始めて3か月くらいでしょうか。でも休暇で実家に帰るとまたあの環境が待っているので、完全に慣れたとは言えないかもです」
「そっかあ……」
3人の獅子人のメイドはいずれも市街地の方出身という事で、ある程度賑やかな環境の中で暮らしていたそうだ。
「ん?」
遠くからだが人の叫び声が聞こえてきた。なんだろう? というかこの辺りに人っているものなのだろうか?
「様子を見てまいります。オトネ様はこちらで待機してくださいませ」
「わかりました、お、お願いします」
メイドのひとりが声がした方へと駆け出していく。私の残りのメイドは屋敷の壁に身を隠して彼女が無事に戻って来るのを待った。
「お待たせしました。どうやら人間が亜人に襲われているようです」
「! た、助けなきゃ!」
「かしこまりました。助けに参りましょう……! 応援を要請してきます……!」
メイドが新たに2人やってきて現場へと赴くと、そこではこの世界に召喚された人間の少年が男の亜人から暴力を振るわれている。人間は大体中学生くらいだろうか、学ラン姿に黒いショートヘアとまだ少し幼さが残っているように見えた。
「何をしているんですか! やめなさい!」
「なんだてめえは?」
亜人の頭には茶色い犬の耳が生えている。なんかやくざみたいな雰囲気だけど、ここは彼の為にも引くわけにはいかない。
「無礼だぞ! このお方はグスタフ公爵夫人であらせられるぞ!」
メイドが私の前に立ちはだかると、いつもとは違う言葉遣いで亜人をにらみつける。いや、なんだか時代劇の殿様みたい。
「へ、グスタフ公爵夫人?」
メイドの叫びにぽかんと口を開けた亜人だったが、次第に私がここにいる事がどれくらいやばいかを理解したらしい。わかりやすく顔が青ざめていく亜人は両手を頬に当てて嘘だろ?! と天に向かって絶叫する。
「その子を元居た世界に返してあげてください。どのような理由があろうとも、です!」
「くっ……グスタフ公爵夫人にそう言われたら仕方ねえ……」
彼は魔術を使い、半泣き状態の彼を転送する事を約束した。人間の少年はやっぱり中学生で、彼の顔や手の甲などあちこちにあざや擦り傷が出来ている。
「オトネ様、医師を呼んできますね」
「お願いします……!」
中学生の子は授業を終えて下校中にいきなりこちらへと召喚されたようで、最近はやりの異世界転移ってやっぱりあるんだなと驚きつつも亜人から暴力を振るわれた事についてはショックを受けているようだった。
「っ……いたた……」
「無理に動かしちゃだめだよ。骨が折れていたり靭帯や筋肉とかが切れていたら大変だから」
と、声をかけて彼が無理に動こうとするのを引き留めると、中学生の少年は私を不思議そうに見つめる。
「お姉さんもしかして、俺と同じように転移してきた人? だって耳が俺と一緒」
「うん、そう。驚かせちゃってごめん」
「へえ……やっぱりそうなんだ。異世界転移って本当にあるんだ……二次元だけの世界だと思ってたからさ」
その後、亜人はメイドに捕縛されて、メイドが呼んできた医師によって手当を受けた中学生の少年を元の世界に戻してから彼女達が呼んできた皇帝警察へ引き渡されたのだった。元の世界に戻ればここにいた時の記憶はなくなるみたい。
「じゃあ、怪我とかはどうなるんですか?」
「多分、転んだとかそういう類の、都合の良い記憶に改ざんされるかと」
そしてどうやら亜人の方は生活に困窮し、黄金を召喚したらしかったが、失敗してなぜか中学生くらいの学ランの少年を召喚してしまい、その腹いせで暴力に及んでいたらしい。
「オトネ様、屋敷に戻りましょう」
「そうですね……疲れちゃいました」
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私はいてもたってもいられずにメイドへ質問を投げかけてみた。
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