世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん

文字の大きさ
1 / 12

第1話 山ごもり薬師

しおりを挟む
 ここは夏場でもひんやりとしていて、大事な薬草が腐らないから本当に便利な土地だ。
 エルドランド王国は四方を山で囲まれた小国で、私クララ・シャープリゼが住まう国境沿いの辺境・シャクラ山脈は古来より手つかずの自然にあふれた地だ。

「クララおはよう! ハーブを買いに来たわよぉ!」

 聞きなれた声に対してはぁい! と間延びした返事を送りながら、読んでいた古本の表紙をそっと閉じた。
 リビングから早歩きで移動し玄関の姿見を見つつ髪を束ねる。黄色と茶色の衣服に白いエプロンには汚れはなし。瞳の色と同じこげ茶色のうねった長髪は後頭部でお団子にしてまとめ、派手なほつれ毛はないかをさっと確認してから扉に手を掛けた。
 扉を開けると、タタおばあさんが白樺の木でつくられた杖をついて立っている。真っ白な髪を後ろで三つ編みにしている彼女の顔は、ふくふくと穏やかそうな笑みに彩られていた。
 足元にはタタおばあさんの飼い猫である黒猫のルルシーも一緒だ。

「タタおばあさん! おはようございます! あとお久しぶりです。お元気ですか?」

 タタおばあさんは占い師の渡り人。各地を巡り、占いで生計を立てている。占いの技術は本人が言うには百発百中だとか。
 占いにはあれこれ道具が必要らしく、そのうちのひとつであるハーブを買いに、タタおばあさんは約半年に一度のペースでここへやって来る。私にとっては唯一と言っていい客人だ。

「元気そうで何よりよ。おぬしさてはまだ朝ご飯を食べ取らんな?」
「あっ、そうです。言い当てられちゃいました……」
「すまんのぅ。よかったらこれ、美味しく食べとくれ。口に合うか分からんが……」
 
 タタおばあさんの目線はルルシーが咥えているバスケット。彼女に近づいてバスケットを受け取ると中には深い青色をしたベリーが数種類、握りこぶしくらいのガラス瓶の中に詰められていた。
 コトコト煮詰めたらソテーソースやジャムに加工できそうだし、このまま食べても美味しそう!

「ありがとうございます! わあ、綺麗……!」
「ほほ、そうじゃろう。さっき見かけたんで採ってきた新鮮なものじゃ。ささ、全部受け取ると良い」
「はい! ありがたく受け取ります! えっと、いつもの占いで使うハーブですよね……! ちょっと待っててください……!」

 リビングの奥にある工房から、占術用のハーブを粉末にしたものを白い紙袋に入れる。そしてルルシーのバスケットの中に収めた。

「これでよし、と……。全部で100フォクアになります」
「ほい。これでぴったり100フォクアじゃ」
「ありがとうございます。これからタタおばあさんはどちらに?」
「ここから南の果てにある、サラマンドの港まで行こうかと思っておる。そなたはまだこの山にこもっておるのか?」

 はい。とすぐに答えると、タタおばあさんはほっほっほ……! と目を細めて大きく笑った。

「「山ごもり薬師」らしいのぉ。シャクラの地はエルドランド王国の中では最も神秘が宿る地じゃ。独り占めできるクララがうらやましい」
「山で暮らすのは悪くないですよ。静かですし、鳥の鳴き声や色とりどりの花々を見ていると癒されますから」

 山ごもりとはいっても年がら年中ずっといる訳ではない。薬師である以上、招集が下ればふもとの病院か娼館まで降りなきゃいけないのだ。正直移動とか面倒な部分はあるけど、症例を集めたり研究がはかどる点はしっかりあるから一長一短だろう。

「ほほ。ではもうしばらく豊かなシャクラの自然を楽しんでから行こうとするかの。ではまた。ほれ、ルルシー行くぞい」

 100フォクア分の金貨をぎゅっと握りしめてタタおばあさんとルルシーの背中を見送る。ごまのように小さくなってから私は家に戻って朝食づくりに取り掛かる事にした。
 かまどに火をつけ、鍋に昨日採った山野菜と保存しておいたベーコンを入れてスープを作る。ぼこぼこと泡を立てて沸騰している鍋を見つめていると、エリおばあちゃんがよく火から目を逸らしてはいけないよ。と言われていたのを思い出した。

◇ ◇ ◇

 私は生まれる前に父親を戦争で亡くし、生まれて数年後に母親も病気でこの世を去った。物心がつく前に孤独の身となった私を引き取ってくれたのは、シャクラ山脈の北側に立地しているこの家に住まう祖父母だった。
 父親については軍の医者だったという点しか知らない。母親の記憶もほぼ無いので、私にとって祖父母はもはや実の両親同然の存在と言えるだろう。

 祖父母はどちらも穏やかで優しい人物だった。祖父のクワイおじいちゃんは猟師としてほぼ毎日仕留めた魔獣を山の麓で食肉として売りさばいていた。祖母のエリおばあちゃんは私と同じ薬師で、私が薬師を目指したいと考えるようになったきっかけのひとりでもある。

 私はそんな彼らの元で文字の読み書きと魔法薬の作り方を筆頭に様々な知識を吸収していった。
 編み物に、シャクラ山脈に住まう魔獣達の種類と彼らとのコミュニケーションの取り方、後は炊事洗濯……この地で生きていくのに欠かせないモノは一通り習ったと思う。
 その中で私が最も興味を抱いたのは魔法薬の研究だった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...