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第3話 女嫌いの噂?
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横向きに吠える金獅子の勲章は騎士団長しかつけられないと、タタおばあさんが言っていたはず。そんな方がここに倒れているなんて、一体なにがあったのだろう。
私は彼の両脇に手を入れ込んで引きずる。やっぱり重い。クワイおじいちゃんの倍以上は重いような気がする。
「ぐっ……う、っ……」
激しく身体を揺さぶったら余計に病状が悪化してしまう危険もある。とはいえこちらの体力はもう限界ぎりぎりだ。
そんな時、ぴぃぴぃと甲高い鳴き声がこだまする。はっと息を呑みながら鳴き声がした方を見上げた。
「あっ……ルシャーラだ……」
ルシャーラ。猫のような耳に鳥のような顔。虎のような胴体に茶色い羽が背中から生えている魔獣の一種だ。私と同じくらいの大きさがあって、危険性は個体によってまちまち。
そんなルシャーラがばさばさと大きな羽音を立てながら降りて来る。
「……ごめんなさい、この方をおうちに連れていくのを手伝ってくれる?」
ルシャーラはぴぃ! と鳴くと若い男性のマントを嘴で掴んで引っ張ってくれた。見た目以上の力の強さに私はおおっと小さく驚きの声を挙げる。
ルシャーラのおかげで家の中までなんとか戻る事が出来た。ルシャーラにお礼を言って見送ってから私の部屋を少し片づけベッドに寝かせる。
「とりあえずは気付け薬を飲まそう。ええっと、一番効果が高いのは……」
工房内の四方八方を囲むようにして配置された棚のうち、左上から4番目の棚に目星を付ける。
「これだ。鹿の角とハーブとブラックスワンベリーが入っているやつ」
瓶を手に取り、粉末を香油で溶かす。溶かし終えた後はコットンに染みこませたら、コットンごとお皿に乗せて横たわる男性の顔のそばまで近づけさせた。
「どうかな……」
気付け薬独特の強烈なにおいが部屋の中に充満する。だいぶ慣れてきたとはいえ、まだまだこの毒々しい匂いは苦手意識がぬぐえないままだ。
すると若い男性の瞼がぴくぴくと動き出す。
「あ……」
開かれた瞼から見えたのは、薄い紫色の瞳だった。例えるなら夜明けの空の如き色合いで、これまでこんな瞳を持っている人物はおおよそ知らない。やはりこの方はエルドランド王国生まれではないのか?
それとも騎士団長がいそうな王都だとそこまで稀でもないのかも?
「ここは……一体……」
低めだが澄み切った声音とエルドランド語をしっかりと聞き取ることが出来た。まだ弱弱しさはあるけど、反応を見る限り意識はちゃんと戻ってきている。
「あの、お気づきになりましたでしょうか?」
「あ、ああ。っく、その匂い、強烈だな……」
ぎゅっと眉間にしわを寄せ、鼻を掴む彼を見て、慌ててコットンの乗ったお皿を遠ざけた。
「申し訳ございません。一番効果のある気付け薬を使いましたので」
「そうだったのか……待て。君が助けてくれたのか?」
「ええ、そうですけど」
見るからに紫色の瞳を丸くさせている。そこまで目を大きく見開くなんて、私が助けたのが意外なのか?
「私は薬師のクララ・シャープリゼと申します。家の近くであなたが倒れていたので……」
「クララが君の名前か。では俺が誰だって、知っているのか?」
「騎士団長様ですよね?」
そうだ。と即座に答えが返って来た。ちゃんとタタおばあさんの話を聞いておいてよかったと思っていた時。
「いやまて。俺を知っているという事は……俺の女嫌いだというの噂、知らないのか?」
女嫌いの噂と言われても、知る訳がない。
「え、そうなんですか? 私はそういう王国の事情については知らないので……」
当たり障りのない返答になってしまった。すると彼はふむ……と天井を見上げながら考え込むような仕草を見せる。
「そ、そうか。ならまあ……」
「あの、あなたのお名前は?」
「俺はレイルド。レイルド・ブリアント。ブリアント侯爵家次期当主であり、騎士団長を務めている」
「やはり高貴なお方でしたか……」
するとレイルド様の顔色がゆっくりと紅潮していく。眉間には深くしわが刻まれしかめっ面をしだした。
ぐっ……と如何にも苦しそうなうめき声を出すやいなや、歯を食いしばり、必死に何かに耐えるレイルド様。見ているだけで痛々しいのが伝わって来る。
まさか、容体が急変?!
「あの、いかがなさいましたか?!」
私は彼の両脇に手を入れ込んで引きずる。やっぱり重い。クワイおじいちゃんの倍以上は重いような気がする。
「ぐっ……う、っ……」
激しく身体を揺さぶったら余計に病状が悪化してしまう危険もある。とはいえこちらの体力はもう限界ぎりぎりだ。
そんな時、ぴぃぴぃと甲高い鳴き声がこだまする。はっと息を呑みながら鳴き声がした方を見上げた。
「あっ……ルシャーラだ……」
ルシャーラ。猫のような耳に鳥のような顔。虎のような胴体に茶色い羽が背中から生えている魔獣の一種だ。私と同じくらいの大きさがあって、危険性は個体によってまちまち。
そんなルシャーラがばさばさと大きな羽音を立てながら降りて来る。
「……ごめんなさい、この方をおうちに連れていくのを手伝ってくれる?」
ルシャーラはぴぃ! と鳴くと若い男性のマントを嘴で掴んで引っ張ってくれた。見た目以上の力の強さに私はおおっと小さく驚きの声を挙げる。
ルシャーラのおかげで家の中までなんとか戻る事が出来た。ルシャーラにお礼を言って見送ってから私の部屋を少し片づけベッドに寝かせる。
「とりあえずは気付け薬を飲まそう。ええっと、一番効果が高いのは……」
工房内の四方八方を囲むようにして配置された棚のうち、左上から4番目の棚に目星を付ける。
「これだ。鹿の角とハーブとブラックスワンベリーが入っているやつ」
瓶を手に取り、粉末を香油で溶かす。溶かし終えた後はコットンに染みこませたら、コットンごとお皿に乗せて横たわる男性の顔のそばまで近づけさせた。
「どうかな……」
気付け薬独特の強烈なにおいが部屋の中に充満する。だいぶ慣れてきたとはいえ、まだまだこの毒々しい匂いは苦手意識がぬぐえないままだ。
すると若い男性の瞼がぴくぴくと動き出す。
「あ……」
開かれた瞼から見えたのは、薄い紫色の瞳だった。例えるなら夜明けの空の如き色合いで、これまでこんな瞳を持っている人物はおおよそ知らない。やはりこの方はエルドランド王国生まれではないのか?
それとも騎士団長がいそうな王都だとそこまで稀でもないのかも?
「ここは……一体……」
低めだが澄み切った声音とエルドランド語をしっかりと聞き取ることが出来た。まだ弱弱しさはあるけど、反応を見る限り意識はちゃんと戻ってきている。
「あの、お気づきになりましたでしょうか?」
「あ、ああ。っく、その匂い、強烈だな……」
ぎゅっと眉間にしわを寄せ、鼻を掴む彼を見て、慌ててコットンの乗ったお皿を遠ざけた。
「申し訳ございません。一番効果のある気付け薬を使いましたので」
「そうだったのか……待て。君が助けてくれたのか?」
「ええ、そうですけど」
見るからに紫色の瞳を丸くさせている。そこまで目を大きく見開くなんて、私が助けたのが意外なのか?
「私は薬師のクララ・シャープリゼと申します。家の近くであなたが倒れていたので……」
「クララが君の名前か。では俺が誰だって、知っているのか?」
「騎士団長様ですよね?」
そうだ。と即座に答えが返って来た。ちゃんとタタおばあさんの話を聞いておいてよかったと思っていた時。
「いやまて。俺を知っているという事は……俺の女嫌いだというの噂、知らないのか?」
女嫌いの噂と言われても、知る訳がない。
「え、そうなんですか? 私はそういう王国の事情については知らないので……」
当たり障りのない返答になってしまった。すると彼はふむ……と天井を見上げながら考え込むような仕草を見せる。
「そ、そうか。ならまあ……」
「あの、あなたのお名前は?」
「俺はレイルド。レイルド・ブリアント。ブリアント侯爵家次期当主であり、騎士団長を務めている」
「やはり高貴なお方でしたか……」
するとレイルド様の顔色がゆっくりと紅潮していく。眉間には深くしわが刻まれしかめっ面をしだした。
ぐっ……と如何にも苦しそうなうめき声を出すやいなや、歯を食いしばり、必死に何かに耐えるレイルド様。見ているだけで痛々しいのが伝わって来る。
まさか、容体が急変?!
「あの、いかがなさいましたか?!」
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