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第8話 ありがとうと言われて
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レイルド様は丸薬をおそるおそる口の中に含み、お湯を3口ほど飲む。その間私の心臓はどくどくと激しく鼓動を鳴らし続けていた。
はあ……と彼の口から息がこぼれるのを食い入るように見つめていると、レイルド様は私の名前を呼ぶ。
「い、いかがでしょうか?」
「苦しい感覚が、少し落ち着いてきているのを感じる」
「ほ、ほんとですか?」
ちゃんと効果が出てきているようで安堵感に包まれる。顔色がよくなっていくレイルド様を見て本当によかった……と声に出してしまったのと彼と視線が交錯するのがほぼ同時だった。
「クララ?」
「あっ、レイルド様が楽になれたようでよかったなって思いまして」
「そうか……君には助けられたな。ありがとう」
これまでたくさんの人からありがとうと言われてきたが、こんなにも胸の奥が弾むくらい嬉しさを覚えるなんて。
予想外の気分に、なんて返せば良いかわからなくなる。それに顔が赤くなって、レイルド様の顔をずっと眺めていたくなってしまう。
「どうした? 俺は何か変な事を言ってしまったか?」
「そのような事はございません!」
ごほんと咳ばらいをしてから、私はすっと膝を伸ばして胸を張った。
「いえ、私は薬師として出来る事をしたまでです。あなたのような困った方を助けるのが、薬師の務めですから」
「クララ……」
「念のため今日はここでお泊りになられた方がよいでしょう。何かあったらすぐ頼ってください」
「ふむ……優しい薬師だな。騎士団や実家の薬師にも、君ほどまでに献身的な薬師はいない」
ごくりと唾を飲み込み、彼の言葉を何度も反芻する。まだ緊張感こそ幾分残っているものの穏やかに口角を綻ばせるレイルド様が視界に映りこむと、私は彼の顔から視線を逸らせなくなってしまった。
「お褒め下さり、ありがとうございます。精一杯、頑張ります」
「でも無理はするなよ」
「いえ。これが私の務めですから。でもお気遣いありがとうございます」
シルバートレイごと食器を取り下げ、流しに置く。その間レイルド様から言われた「ありがとう」の言葉がほわほわと脳内で浮かび続けていた。
こんなに嬉しいの、いつぶりだろう。薬師の免許を取った時以来かもしれない。魔力を持たない平民の私でも高貴な騎士団長様をお助けできると考えたら、本当に不思議だ。
しかし、何かを忘れている気がしてくる。
「あ、レイルド様になんでこうなったのか聞くの忘れてた……!」
慌てて彼の元へ向かおうとしたが、ずばっと聞いてしまったらあの穏やかな笑顔を崩してしまいそうになると一抹の恐怖心が芽生えてしまった。そのまま恐怖心に負けた私は聞くのはやめて、一旦はレイルド様の様子を見守るのに徹する事にした。
◇ ◇ ◇
夕方。木々の間から夕暮れの太陽光が漏れ落ちてきている。と同時に暗闇が顔を覗かせ始めていた。
あれからレイルド様は特に急変はない。緊張が解けたのかこんこんと眠り続けている。私はそんな彼を起こさないように、夕食の準備を進めている最中だ。
私以外の人の分も作るのは、いつぶりだろう。いつもなら小さな片手鍋で事足りるけど、今日ばかりは寸胴鍋を棚から取り出して使っている。
鍋の中でぼこぼこと赤茶色の泡を出しているのは、この近くで採れた野菜を使ったスープ。シャクラ菜と呼ばれる緑色の葉野菜を中心に根野菜が2種類。あとは鳥肉と豆も入っている栄養満タンのスープだ。
シャクラ菜は薬にも使われる野菜で、気の流れを整える効果がある。魔力暴走へも効き目を期待できる代物だ。
「良い匂いがしてる……!」
今日のメニューはこのスープと、くるみとチーズのパン、余った鳥肉を焼いたものに、テリーヌケーキ。パンは思った以上にふわふわで柔らかい質感に仕上がったので、これくらいならスープに付けて食べるとよりレイルド様の身体にも優しいだろう。
かまどの火を止め、寸胴鍋を持ち上げると、あまりにも重すぎて持ち上げられない。
「うっ……作りすぎたかな……」
しかしながらレイルド様は病人。頼る訳にはいかない。自分の力でリビングまで持っていかなければと気合を入れた途端、後ろから足を擦る音が響いてきた。
「クララ、何をしているんだ?」
「あ、レイルド様?」
後ろを振り返ると、レイルド様が半開きの右目をこすりながら立っていた。
はあ……と彼の口から息がこぼれるのを食い入るように見つめていると、レイルド様は私の名前を呼ぶ。
「い、いかがでしょうか?」
「苦しい感覚が、少し落ち着いてきているのを感じる」
「ほ、ほんとですか?」
ちゃんと効果が出てきているようで安堵感に包まれる。顔色がよくなっていくレイルド様を見て本当によかった……と声に出してしまったのと彼と視線が交錯するのがほぼ同時だった。
「クララ?」
「あっ、レイルド様が楽になれたようでよかったなって思いまして」
「そうか……君には助けられたな。ありがとう」
これまでたくさんの人からありがとうと言われてきたが、こんなにも胸の奥が弾むくらい嬉しさを覚えるなんて。
予想外の気分に、なんて返せば良いかわからなくなる。それに顔が赤くなって、レイルド様の顔をずっと眺めていたくなってしまう。
「どうした? 俺は何か変な事を言ってしまったか?」
「そのような事はございません!」
ごほんと咳ばらいをしてから、私はすっと膝を伸ばして胸を張った。
「いえ、私は薬師として出来る事をしたまでです。あなたのような困った方を助けるのが、薬師の務めですから」
「クララ……」
「念のため今日はここでお泊りになられた方がよいでしょう。何かあったらすぐ頼ってください」
「ふむ……優しい薬師だな。騎士団や実家の薬師にも、君ほどまでに献身的な薬師はいない」
ごくりと唾を飲み込み、彼の言葉を何度も反芻する。まだ緊張感こそ幾分残っているものの穏やかに口角を綻ばせるレイルド様が視界に映りこむと、私は彼の顔から視線を逸らせなくなってしまった。
「お褒め下さり、ありがとうございます。精一杯、頑張ります」
「でも無理はするなよ」
「いえ。これが私の務めですから。でもお気遣いありがとうございます」
シルバートレイごと食器を取り下げ、流しに置く。その間レイルド様から言われた「ありがとう」の言葉がほわほわと脳内で浮かび続けていた。
こんなに嬉しいの、いつぶりだろう。薬師の免許を取った時以来かもしれない。魔力を持たない平民の私でも高貴な騎士団長様をお助けできると考えたら、本当に不思議だ。
しかし、何かを忘れている気がしてくる。
「あ、レイルド様になんでこうなったのか聞くの忘れてた……!」
慌てて彼の元へ向かおうとしたが、ずばっと聞いてしまったらあの穏やかな笑顔を崩してしまいそうになると一抹の恐怖心が芽生えてしまった。そのまま恐怖心に負けた私は聞くのはやめて、一旦はレイルド様の様子を見守るのに徹する事にした。
◇ ◇ ◇
夕方。木々の間から夕暮れの太陽光が漏れ落ちてきている。と同時に暗闇が顔を覗かせ始めていた。
あれからレイルド様は特に急変はない。緊張が解けたのかこんこんと眠り続けている。私はそんな彼を起こさないように、夕食の準備を進めている最中だ。
私以外の人の分も作るのは、いつぶりだろう。いつもなら小さな片手鍋で事足りるけど、今日ばかりは寸胴鍋を棚から取り出して使っている。
鍋の中でぼこぼこと赤茶色の泡を出しているのは、この近くで採れた野菜を使ったスープ。シャクラ菜と呼ばれる緑色の葉野菜を中心に根野菜が2種類。あとは鳥肉と豆も入っている栄養満タンのスープだ。
シャクラ菜は薬にも使われる野菜で、気の流れを整える効果がある。魔力暴走へも効き目を期待できる代物だ。
「良い匂いがしてる……!」
今日のメニューはこのスープと、くるみとチーズのパン、余った鳥肉を焼いたものに、テリーヌケーキ。パンは思った以上にふわふわで柔らかい質感に仕上がったので、これくらいならスープに付けて食べるとよりレイルド様の身体にも優しいだろう。
かまどの火を止め、寸胴鍋を持ち上げると、あまりにも重すぎて持ち上げられない。
「うっ……作りすぎたかな……」
しかしながらレイルド様は病人。頼る訳にはいかない。自分の力でリビングまで持っていかなければと気合を入れた途端、後ろから足を擦る音が響いてきた。
「クララ、何をしているんだ?」
「あ、レイルド様?」
後ろを振り返ると、レイルド様が半開きの右目をこすりながら立っていた。
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