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第10話 夜が満ちていく
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「そうか。俺は薬にはそこまで詳しくはないのだが……君のやっている事は素晴らしい事だと思う」
「そうですか?」
私の目が導かれるかのように大きく開かれていく。
「君は素晴らしい薬師だと思う」
「あっ……ありがとうございます……!」
「俺も頑張らないとだな」
それから一体どのような話を交わしたか、はっきりとは覚えていない。それだけ私の意識が浮ついていたのだろう。
気がつけばお皿は空っぽになっていて、ほどよい満腹感が胃の底からあふれ出してきていた。
「お皿、こちらで片付けておきます」
「いや、持っていくよ。君ばかり片付けをさせるのも気が引ける」
「お気持ちはありがたいのですが……何かあってはいけないですし、私がやりますから」
お皿を片付けた後、私は人肌くらいの体温になったお湯にふかふかの白いタオルを浸した。後ろから何をしているんだ? とレイルド様が首を傾げて尋ねてくる。
「こちら、身体を清拭する為のタオルを用意している所でして。今日はシャワーを浴びたりはしない方が良いでしょうから」
「そうだな……君の判断を信じよう」
「ちょっと待っててくださいね」
さっと絞ってタオルを渡す。彼は片手でありがとう。と言って受け取ってくれた。
「あっ、お背中お拭きいたしましょうか?」
ちらりとレイルド様を見てみると、彼の頬はさあっと赤みが出始めてきた。
「いや、大丈夫だ」
「お顔が赤くなっているようですが」
「う゛っ……見なかった事にしてくれ。体調は問題ないから」
結局彼は私に背を向けて、部屋へと消えていった。ドアにはカギがかけられ、中には入れない。ここは彼が身体の清拭を終えるまで待った方がいいだろう。
体感にして10分後、部屋の扉がゆっくりと開かれた。
「待たせてしまってすまない」
「もう終わりましたか?」
「ああ、汚れていないと良いのだが」
とは言ったものの、血痕などの汚れは全くない。少しほっとした私はタオルを受け取って洗濯物を入れる木籠の中にタオルを収めたのだった。
「もうお休みになられますか?」
窓の向こうは不気味な暗闇が辺り一帯を支配している。静かだが、何か鳴き声めいたものも聞こえ始めていた。
「そうだな。ん、このほーほーと言った声、魔獣か?」
この鳴き声はおそらくふくろうだと思われるのだが……魔獣の可能性も否定できない。正直に伝えるとレイルド様はなるほどな……と腕組みをして呟いた。
「君はここにひとりで住んでいるのか?」
「はい、そうです」
「このシャクラ山脈、魔獣はどれくらい見る?」
「よく見かけますが、人間と敵対するような個体は稀です。皆友好的です」
さっきお世話になったルシャーラをはじめ、友好的な個体を何種類か紹介した。彼はもっとシャクラ山脈に生息する魔獣の調査をしなければ……などと独り言をつぶやき始める。
「何かありました?」
「はっ……すまない。あれこれ考えすぎていたようだ。ではもう寝るとする。君も無理はしないでほしい」
「お気遣いありがとうございます。では寝る前にお白湯をご用意いたしますね」
お白湯をティーカップに注ぎ、ソーサーごとレイルド様の横たわるベットの右横にある机に置いた。
「ありがとう。助かるよ」
「いえ。では……また身に来ます」
レイルド様は一瞬だけ口をごもごもと動かしたが、すぐに瞳をぎゅっと閉じたのだった。これ以上彼を妨げるのは野暮だろう。私は静かに部屋から立ち去り、工房内にある簡易ベッドの上に横たわった。
「……すごい、静か」
目を閉じて意識を手放そうとするけど中々眠気が訪れてくれない。
いつの間にかに鳴き声は消え、静寂が全てを支配している。何かが起こりそうだとの直感が背筋をぶわっと震えさせた。
「何も起こらないと良いけど……」
こういう時の勘をバカにしてはいけないよ。とクワイおじいちゃんから言われていたのを思い出した。
「……様子を見に行こうかしら……」
カンテラにろうそくを立て、マッチ棒に火を灯してろうそくにつける。たったこれだけの作業なのに終始私の指先は小刻みに震えっぱなしで、力の入れ具合が狂う一歩手前だった。
部屋の扉に向けて軽くノックをしてからドアノブを握る。
「……失礼いたします。眠れていますか?」
「ああ……」
カンテラのか細い光から見えるレイルド様の顔は、特に苦しそうな感じはない。呼吸音も荒れていないようだ。
さっきよりかは落ち着いていらっしゃる。そう心の中でつぶやいた。
「様子を見に来てくれたのか?」
「ええ、はい。お休みの所申し訳ございません。様子が気になったもので……」
「いや、むしろ来てくれて良かった。ナイスタイミングというか……実は、君に話したい事があるんだ」
突然の告白に、思わず私はごくりと唾を飲み込む事しかできなくなる。ああ、やっぱりクワイおじいちゃんの言葉を思い出してよかったかもしれない。
「話したい事、でございますか」
「そうなんだ。打ち明けるべきか否かで迷ったが……君の真面目で献身的な態度を見て、話す事に決めた。どうか受け入れてほしい……」
彼の意志の強そうな声音に、私はカンテラの光だけでは頼りないと感じ、部屋の照明を点灯させた。
「はい、私がレイルド様のお力になれるかどうかまではわかりませんが……ぜひ、お話してくださいませ」
レイルド様は一瞬だけ口を半開きにするとすぐにぎゅっと閉じて、首を縦に振った。
「実は……俺は、女性の胸が大好きなんだ」
「そうですか?」
私の目が導かれるかのように大きく開かれていく。
「君は素晴らしい薬師だと思う」
「あっ……ありがとうございます……!」
「俺も頑張らないとだな」
それから一体どのような話を交わしたか、はっきりとは覚えていない。それだけ私の意識が浮ついていたのだろう。
気がつけばお皿は空っぽになっていて、ほどよい満腹感が胃の底からあふれ出してきていた。
「お皿、こちらで片付けておきます」
「いや、持っていくよ。君ばかり片付けをさせるのも気が引ける」
「お気持ちはありがたいのですが……何かあってはいけないですし、私がやりますから」
お皿を片付けた後、私は人肌くらいの体温になったお湯にふかふかの白いタオルを浸した。後ろから何をしているんだ? とレイルド様が首を傾げて尋ねてくる。
「こちら、身体を清拭する為のタオルを用意している所でして。今日はシャワーを浴びたりはしない方が良いでしょうから」
「そうだな……君の判断を信じよう」
「ちょっと待っててくださいね」
さっと絞ってタオルを渡す。彼は片手でありがとう。と言って受け取ってくれた。
「あっ、お背中お拭きいたしましょうか?」
ちらりとレイルド様を見てみると、彼の頬はさあっと赤みが出始めてきた。
「いや、大丈夫だ」
「お顔が赤くなっているようですが」
「う゛っ……見なかった事にしてくれ。体調は問題ないから」
結局彼は私に背を向けて、部屋へと消えていった。ドアにはカギがかけられ、中には入れない。ここは彼が身体の清拭を終えるまで待った方がいいだろう。
体感にして10分後、部屋の扉がゆっくりと開かれた。
「待たせてしまってすまない」
「もう終わりましたか?」
「ああ、汚れていないと良いのだが」
とは言ったものの、血痕などの汚れは全くない。少しほっとした私はタオルを受け取って洗濯物を入れる木籠の中にタオルを収めたのだった。
「もうお休みになられますか?」
窓の向こうは不気味な暗闇が辺り一帯を支配している。静かだが、何か鳴き声めいたものも聞こえ始めていた。
「そうだな。ん、このほーほーと言った声、魔獣か?」
この鳴き声はおそらくふくろうだと思われるのだが……魔獣の可能性も否定できない。正直に伝えるとレイルド様はなるほどな……と腕組みをして呟いた。
「君はここにひとりで住んでいるのか?」
「はい、そうです」
「このシャクラ山脈、魔獣はどれくらい見る?」
「よく見かけますが、人間と敵対するような個体は稀です。皆友好的です」
さっきお世話になったルシャーラをはじめ、友好的な個体を何種類か紹介した。彼はもっとシャクラ山脈に生息する魔獣の調査をしなければ……などと独り言をつぶやき始める。
「何かありました?」
「はっ……すまない。あれこれ考えすぎていたようだ。ではもう寝るとする。君も無理はしないでほしい」
「お気遣いありがとうございます。では寝る前にお白湯をご用意いたしますね」
お白湯をティーカップに注ぎ、ソーサーごとレイルド様の横たわるベットの右横にある机に置いた。
「ありがとう。助かるよ」
「いえ。では……また身に来ます」
レイルド様は一瞬だけ口をごもごもと動かしたが、すぐに瞳をぎゅっと閉じたのだった。これ以上彼を妨げるのは野暮だろう。私は静かに部屋から立ち去り、工房内にある簡易ベッドの上に横たわった。
「……すごい、静か」
目を閉じて意識を手放そうとするけど中々眠気が訪れてくれない。
いつの間にかに鳴き声は消え、静寂が全てを支配している。何かが起こりそうだとの直感が背筋をぶわっと震えさせた。
「何も起こらないと良いけど……」
こういう時の勘をバカにしてはいけないよ。とクワイおじいちゃんから言われていたのを思い出した。
「……様子を見に行こうかしら……」
カンテラにろうそくを立て、マッチ棒に火を灯してろうそくにつける。たったこれだけの作業なのに終始私の指先は小刻みに震えっぱなしで、力の入れ具合が狂う一歩手前だった。
部屋の扉に向けて軽くノックをしてからドアノブを握る。
「……失礼いたします。眠れていますか?」
「ああ……」
カンテラのか細い光から見えるレイルド様の顔は、特に苦しそうな感じはない。呼吸音も荒れていないようだ。
さっきよりかは落ち着いていらっしゃる。そう心の中でつぶやいた。
「様子を見に来てくれたのか?」
「ええ、はい。お休みの所申し訳ございません。様子が気になったもので……」
「いや、むしろ来てくれて良かった。ナイスタイミングというか……実は、君に話したい事があるんだ」
突然の告白に、思わず私はごくりと唾を飲み込む事しかできなくなる。ああ、やっぱりクワイおじいちゃんの言葉を思い出してよかったかもしれない。
「話したい事、でございますか」
「そうなんだ。打ち明けるべきか否かで迷ったが……君の真面目で献身的な態度を見て、話す事に決めた。どうか受け入れてほしい……」
彼の意志の強そうな声音に、私はカンテラの光だけでは頼りないと感じ、部屋の照明を点灯させた。
「はい、私がレイルド様のお力になれるかどうかまではわかりませんが……ぜひ、お話してくださいませ」
レイルド様は一瞬だけ口を半開きにするとすぐにぎゅっと閉じて、首を縦に振った。
「実は……俺は、女性の胸が大好きなんだ」
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