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第一章 気が付いたら異世界
12.宝珠
しおりを挟む第002日―5
ミーシアさんはこちらに向かって手を振りながら、受付カウンターとロビーとの間の間仕切りを開け、僕等の方に近付いて来た。
よく見ると彼女は私服姿であった。
そして昼間、彼女が座っていた受付カウンターには、僕の知らない初老の男性の姿が有った。
僕は、傍までやってきたミーシアさんに話しかけた。
「ミーシアさん! 今日は遅いんで、もうお会い出来ないかと思っていました」
「仕事はもう終わったんだけどね。ちょっと友達と話していたら、ついついこんな時間。でも、こんなに遅くなるなんて、教えた場所にヒール草なかった?」
「ミーシアさんの情報通り、ヒール草はすぐ見つけられたんですが……」
僕はリュックの中のヒール草と共に、魔結晶も見せながら、今日の出来事を手短にミーシアさんに説明した。
彼女が驚いたような表情になった。
「キラーウルフにウルフキングまで!?」
話していると、向こうからガスリンさんが、僕等の方に近付いて来た。
彼はミーシアさんに、よっという感じで軽く手を上げた。
「ミーシア! 久しぶりだなぁ」
「ガスリンさん!? 本当にお久しぶり。ここ数年どうされていたんですか?」
「色々わしも忙しくてな。ついつい、この街に立ち寄りそびれていたんだ」
どうやら、ミーシアさんとガスリンさんは、見知った間柄のようだ。
まあ、ミーシアさんは何十年(本人談)も受付しているって言っていたし、ガスリンさんも相当の有名人らしいし、お互い知り合いじゃないほうが不思議かも?
「ウルフキングは、確かにそこのカケルが斃したみたいだぜ? キラーウルフの魔石は、行きがけの駄賃みたいなもんだ」
僕は、少し気になっていた事を聞いてみる事にした。
「あの……ウルフキングはともかく、キラーウルフ達を斃したのは、多分、僕じゃ無くて、ノルン様を護衛していた人達だと思うんですよ」
「まあ、わしは見てないから何とも言えんが、お前がそう言うのなら、そうかもしれんな。それがどうかしたのか?」
「だったらその……」
僕はガスリンさんとミーシアさんの反応を確かめながら言葉を続けた。
「護衛の人達の御家族さんとかにお渡しした方が……」
「ガッハッハッハ!」
ガスリンさんが豪快に笑った。
「お前は意外とせせこましい事を考えるんだな。あの姫さんの護衛の遺族たちには、リュート公から慰留の金品が送られるはずだから、お前がそんな事心配する必要は無いぞ」
「そうね、経緯はどうあれ、犯罪絡みでなければ、魔結晶は持ち込んだ人の所有物ってみなされるわ」
なんだか釈然としない思いが残るが、二人がそう言うのなら、それがこの世界のルールって事なのだろう。
改めてミーシアさんが、僕の見せた魔石を手に取りながら説明してくれた。
「キラーウルフの魔結晶は、金貨1枚、ウルフキングの魔結晶なら、金貨10枚にはなるわね」
金貨1枚は、銀貨100枚、銅貨なら10,000枚だったはず。
という事は……!
「そ、そんなに?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
もしかして、いきなり自転車操業からの卒業達成!?
「キラーウルフ、人語を話していたでしょ? 特に高位のモンスターにならないと人語を話せないのよ。そういう魔物の魔結晶は特に高値で取引されるの」
確か、リュックの中にはキラーウルフのは9個、ウルフキングのが1個入っているはず。
僕は隣に立つメイに声を掛けた。
「良かったなメイ、今夜も宿屋に泊まれそうだよ」
僕の言葉を聞いたミーシアさんが噴き出した。
「ちょっと、カケル君! 宿屋どころか、安い家なら買えちゃうわよ?」
そして少し眉を顰めながら言葉を続けた。
「それにしても変ね。この辺でウルフキングって聞いたことも無いわ」
確か知事のリュートさんも、ウルフキングは北方のモンスターだって話していたっけ?
そんな事を考えていると、僕はあのウルフキングがノルン様に“宝珠を寄越せ”と要求していた事を思い出した。
僕はその事について、二人に話してみた。
途端に、なぜか二人の表情が険しくなった。
「カケル、そいつは本当に、あの姫様に宝珠を寄越せと?」
「確かそう言いながら馬車に近づいていたような……」
二人の(僕にとっては)過敏に見える反応に、やや戸惑っていると、ミーシアさんとガスリンさんが、険しい表情のまま言葉を交わし始めた。
「宝珠って、そもそも奪えるものか? よしんば、奪えたとして、モンスターが持っていても何の役にも立たないはずだが」
「魔王が宝珠を欲しているという事かしら? でも何のために?」
「魔王にとっても、通常は何の役にも立たないがはずだが……まさか?」
そう言えば、宝珠って何だろう?
僕がその疑問を口にしようとした矢先、隣に立つメイに袖を引かれた。
「カケル ネムイ」
見ると、すっかり退屈した感じのメイの瞼が、明らかに重くなっていた。
それに気付いたらしいミーシアさんが微笑んだ。
「そうね。今夜は遅いし、ちゃっちゃと換金しちゃって、宿でゆっくり休んだら?」
僕達は換金所でヒール草採集の報酬を受け取り、ついでに魔結晶の換金も行った。
お金が入った袋がずっしり重い。
「うわぁ……いきなりお金持ちになってしまった」
「ガハハ、貴族御用達の高級宿泊施設も泊まり放題だな」
「いきなり豪勢過ぎると落ち着かないですよ。普通の宿屋でいいですよ」
ミーシアさんに見送られて冒険者ギルドを出ると、ガスリンさんが口を開いた。
「カケル、わしの馴染みの宿があるんだが、行ってみないか?」
「それはもう、是非お願いします」
時間も遅いし、地理不案内なこの街で今から宿探しせずに済むのは、正直滅茶苦茶助かる話だ。
ガスリンさんの“馴染みの宿”は、冒険者ギルドから歩いて10分程の場所にあった。
看板には『宿屋タイクス』とある。
宿屋の主人であろう、恰幅の良い初老の男性が、僕達を出迎えてくれた。
「ガスリン! 久し振りじゃないか」
「ルビドオ! お前もまた一段と額の面積が広がったな」
旧知の間柄だという二人は互いの体を叩き合って、久方ぶりの再開を喜び合っていた。
若干、ルビドオさんの手に力がこもっている気がしないでもないが、多分額云々の発言とは無関係であろう。
「一泊、1部屋朝夕食事つきで銀貨1枚だ。1部屋にベッドは二つまで置けるがどうする?」
ルビドオさんの問い掛けに、メイが口を開いた。
「カケルト オナジヘヤ」
「メイはカケルとほんと仲良いな。もしかしてデキてるのか?」
ガスリンがニヤニヤしながら茶化してきた。
「違いますよ。ただ、メイは記憶喪失なので、一人は不安ってだけの話ですよ」
「じゃあ、ガスリンの部屋とカケル君、メイちゃんの部屋、合計二部屋でいいかな?」
ルビドオさんの問い掛けに、ガスリンさんが言葉を返した。
「おう、それでいいぜ。あと、飯はいつもので頼む」
「分かったよ。ほれ、これが部屋の鍵だ」
部屋の鍵を受け取った僕達は、明日起きた後、階下の食堂で一緒に朝食をとる約束を交わしてから、二階の客室に続く階段に向かった。
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深夜、皆が寝静まった中、食堂で二人の男が話していた。
「で、彼が例の?」
「そうだ。昼間はウルフキングを一撃で屠った」
「ほう……まあ、『力』を振るったのであれば、ウルフキング如きでは相手にはなるまい」
「それよりも、魔王が宝珠に関心を示している……らしい」
「宝珠なんかどうするんだ……まさか?」
「イクタスの話では、どうも、そのまさからしい。もう一度こじ開けても、せいぜい霊晶石補給する位しか目的思い当たらんが……ところで、当代の魔王を何と見る?」
「今までの伝承の中の魔王とは受ける印象が異なるな。そう、非常に狡猾、かつ用意周到に見える」
「数カ月前に北方に向かった勇者ナイアも、未だはかばかしい成果を挙げられずにいるらしい」
「勇者と言えば、アレルという若者が、新たに試練を突破したとか」
「それは私も聞いたが、勇者が二人という事は……」
二人の右耳のピアスを通じて念話が届く。
『心配は無用だ。伝承は完全にお伽噺になった。二度と再現されぬ』
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