17 / 239
第一章 気が付いたら異世界
17.出立
しおりを挟む第006日―1
ミーシアさんから依頼達成の証明書を受け取り、換金所で報酬を手にしたところで、イクタスさんが僕達に声をかけてきた。
「ではカケル、メイ、ガスリン、わしは店に戻るとしよう」
「イクタスさん、ありがとうございました。これ、お礼の報酬です」
僕は受け取った報酬のうち、三分の一をイクタスさんに手渡した。
あとの三分の一はガスリンさんに渡して、残りの三分の一を僕とメイとで分ける事にしていたのだ。
「では遠慮なく受け取っておくぞ。ひまが出来ればまたいつでも遊びにきなさい」
イクタスさんは愉快そうに笑いながら店に戻っていった。
「ガスリンさんもこれどうぞ」
僕はガスリンさんにも、予定していた報酬を手渡した。
「わしも遠慮なく受け取っておこう」
僕は改めてお礼を言った。
「戦闘中はともかく、それ以外では色々教えてもらって、本当にありがとうございました」
「なあに、気にするな。わしも久々に若いやつと冒険出来て楽しかったしな。これでお前達も基礎は身についたはずだ。後は色々依頼を受けて精進していけばいい」
「それで……良ければ今後も一緒に冒険しませんか?」
たった三日間だけでも、彼からは多くの事を学ぶことが出来た。
ガスリンさんは豪快過ぎるけれど、良い人だし、冒険者としての知識や経験も豊富だし、今後も一緒に冒険してもらえれば、これ程心強い事は無い。
しかし僕の申し出を受けたガスリンさんは、少し困ったような顔になった。
「そうしてやりたいのは山々なんだがな……ちょいと事情があって、一旦故郷に戻らねばならん」
「そうなんですか。ガスリンさんの故郷って、結構ここから遠いんですか?」
「遠いぞ? 途中の森林地帯のモンスター共を見たら、グレートボアが可愛く見える」
ガハハ、とガスリンさんが豪快に笑った。
仕方ない。
「わかりました。また帰ってきたら色々教えてください」
「まあ、まずは宿に戻ろう。わしも出立は明日にしようと思っとるから、今夜はミーシアも誘って、パァ~っと御馳走でも食いに行こう」
明日からまたメイと二人か……
でも、“修業”した事だし、二人でも受けられる依頼の幅は広がったはず。
僕達は冒険者ギルドを出て、『宿屋タイクス』へと向かった。
――◇―――◇―――◇――
帝城の最奥、皇帝の居室―――
ノルンは、父である皇帝ガイウスに呼び出されていた。
「父上、お呼びでしょうか?」
「すまんな、急に呼び立てて。実はナイアから緊急の連絡が入った」
「勇者ナイアは確か北方で単身、魔王城へ至る道を探索していると聞いておりましたが」
ナイアはノルンと同年代の女性の身でありながら、幼いころより魔物を使い魔として従える才に秀で、加えて剣術や魔法に関しても非凡の才を発揮してきた。
そして当代の魔王の出現後、半年前、試練を突破した最初の勇者となっていた。
「【竜の巣】において宝珠を顕現せし者と交戦した、と知らせて参った」
彼女は移動速度に優れた使い魔を使役して、定期的に状況を帝都に連絡してきていた。
「【竜の巣】に宝珠の所持者が?」
ノルンの顔に緊張が走る。
【竜の巣】は確か北方に点在する魔物の拠点の一つ。
名前の通り、ドラゴン系統の魔物が巣くっている場所として知られていた。
「ナイアは、今も【竜の巣】周辺に留まっておるそうじゃ。そなたには手練れを連れて彼女と合流し、宝珠云々の件を詳しく調べてきてもらいたい」
「かしこまりました。急いで準備に取り掛かり、明日のカケル達への恩賞の儀が終わり次第、直ちに向かいます」
「事が事だけに、帝国を挙げて動くことが出来ぬ。そなたには不便をかけるな」
ノルンは一礼をして、皇帝の居室を後にした。
――◇―――◇―――◇――
僕達が『宿屋タイクス』に戻ってくると、何やら入り口に人だかりが出来ていた。
その中心に、瀟洒な馬車が止まっている。
何の騒ぎだろう?
訝しんでいると、馬車からちょうど降りてきた温厚そうな人物が、声を掛けてきた。
「おおっ! これは丁度良かった。カケル殿にメイ殿、それにガスリン殿も。ご無沙汰しておりますな」
「リュート様!? その節はお世話になりました」
僕は声を掛けてきた人物が、確かリュート公と呼ばれるこの街の知事であった事を思い出し、頭を下げた。
ガスリンさんが不思議そうな顔で問い掛けた。
「リュート公か、こんな場末の宿に何の用だ?」
「先日の恩賞の件で、帝都からカケル殿とメイ殿に来てもらいたい、と連絡があったのです」
恩賞?
そう言えば、ノルン様がそんな事を話していたっけ?
僕は戸惑いながら、リュート公に言葉を返した。
「そんな大した事してないんですが……」
いまだにどうやってあのモンスターを斃したのか、さっぱり思い出せないけれど、状況証拠から類推するに、あれは火事場の馬鹿力みたいなものだったのだろう。
つまり、まぐれで斃した? 僕なんかに恩賞云々って話は、僕の方が逆に恐縮してしまうわけで。
「ははは、ご謙遜を。とにかく、ノルン殿下も父君であらせられる陛下もいたく感謝しておられる。ついては早速ご同行頂ければ有難いのですが」
「今すぐですか?」
僕はガスリンさんとメイの方に顔を向けた。
「ガハハ、善は急げと言うではないか。ちょうど良い機会だ。この際、ゆっくり帝都見物でもしてきてはどうだ?」
ガスリンさんはいつも通り豪快に笑って、僕に帝都行きを勧めてきた。
メイはと言えば、相変わらずぼーっとしており、そもそも関心が無さそうであった。
「わかりました。ここにはいつ帰って来られるでしょうか?」
「今夜は帝都にお泊り頂いて、予定では明日、恩賞の儀が行われるでしょうから、早くて明後日かと」
「帝都って、アルザスの街から近いのでしょうか?」
「本来なら、馬車だと片道一週間といった所でしょうか? 今回は、転移の魔法陣で送らせてもらうので、行き来は一瞬ですよ」
どうやら、僕とメイは、転移の魔法陣で送迎してもらえるらしい。
ガスリンさんは招待されておらず、このまま今夜は『宿屋タイクス』に宿泊して、明朝故郷に出発するとの事であった。
ここ数日、一緒に過ごしたガスリンさんとここでいきなり別れるのは、やはり少し寂しいものがあった。
「なにしみったれた顔をしとる! またすぐどこかでばったり会うだろうよ」
そう口にしながら、ガスリンさんが僕の背中をバンバン叩いてきた。
彼なりに別れを惜しんでくれているのだろうが、叩かれた背中が結構悲鳴を上げていたのはここだけの話だ。
「それでは、宿の部屋から自分達の荷物を取ってきますね」
僕はリュート公にそう声をかけてから、メイと連れ立って、一旦部屋に戻った。
そして荷造りをしてから、再び階下に下りてきた。
「ルビドオさん、短い間でしたがお世話になりました」
今日までの宿泊費を清算して、僕は宿の主人、ルビドオさんに頭を下げた。
「ははは、またアルザスの街に戻って来た時は、是非うちに泊まっておくれ」
ルビドオさんやガスリンさん達に見送られ、僕とメイは、リュート公の用意してくれた馬車に乗り込んだ。
そして僕達を乗せた馬車は、この街に設置されている転移の魔法陣に向かって、ゆっくりと走り出した。
---------------------------------------
馬車の屋根の上に、薄紅色のローブを目深にかぶったハーフエルフの少女が、右耳のピアスを触りながら、一人腰を下ろしていた。
彼女のローブには、透明化の加護がかかっており、誰も彼女の存在には気付かない。
「……今移動中……」
『“彼女”が帝都に赴くか……』
「皇帝は……彼女の正体に……気付く……でしょうか?」
『ノルンでさえ気付かなんだ。それに、例えガイウスが気付いたとしても、今回の帝都行きでは、確か何も起こらないはずじゃ。ともあれ油断は禁物。レルムス、引き続き二人の見守り、頼むぞ』
「……はい」
---------------------------------------
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる