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第一章 気が付いたら異世界
19.恩賞
しおりを挟む第007日―1
「そなたらの席はこちらだ」
ノルン様が、僕達を要人達の座る座席の一番前、貴賓席と思われる場所に誘導してくれた。
着席し、ふと見上げると、前方に一段と高い壇が設けられており、恐らく皇帝が着席するのであろう、立派な玉座が置かれていた。
そっと周りの様子を窺ってみると、多くの参列者達が、こちらに視線を向けてきていた。
その事にまた少し緊張感を覚えかけた時、数十名の参列者達が一斉に立ち上がり、臣礼を取った。
慌てて僕もメイを促して、彼等に倣った。
僕の視界の中、紫紺のマントを羽織り、壮麗な衣装に身を包んだ長身痩躯の男性が、ゆっくりと壇上に上がるのが見えた。
その男性は、僕達の方にチラッと視線を向けてきた後、そのままゆっくりとした動作で玉座に腰を下ろした。
ナレタニア帝国第20代皇帝ガイウス。
圧倒的なまでの威厳、風格を備えたその男性、皇帝ガイウスが口を開いた。
「カケル、メイ、その方らの此度の忠節、誠に殊勝。よって恩賞を与える。これへ」
僕はメイと共に、事前に教えてもらっていた通りの手順に従って、皇帝ガイウスの前に進み出た。
彼は傍に侍る廷臣と思われる男性を介して、僕達にハガキ大の包みを渡させた。
僕はそれを、昨晩執事のデニスさんに教わった通りの所作で受け取った。
包みの中には、白銀色のカードが1枚収められていた。
皇帝ガイウスが重々しく告げて来た。
「それは転移の魔法陣の無制限使用許可証じゃ。そなたらは冒険者であると聞く。それを有効利用し、帝国の発展のために益々尽くすが良い」
僕はメイと並んでその場で片膝をつき、臣礼を取った。
「ははっ。非才な臣には身に余る光栄。帝国の発展のため、益々忠を尽くさん事をお誓い申し上げます」
昨晩教わった通りに出来ているであろうか?
内心不安でいっぱいになりながらも、僕はメイの所作を横目で盗み見しながら、なんとか儀礼の手順をこなしていった。
恩賞の儀が終わると、皇帝ガイウスは出席者が起立して見送る中、一足先に退出して行った。
参列していた要人達も三々五々、散会していく中、ノルン様が僕達に声を掛けてきた。
「どうしたカケル? 晴れの舞台であるはずの場で、そなた、げっそりしておるぞ」
ノルン様は悪戯っぽい表情を浮かべていた。
「少しはメイを見習うがよい。さすがに泰然としておる」
いつも通りぼーっとしているメイに目をやり、僕は苦笑した。
「いえ、メイはただ、あんまりよく分かってないだけだと思いますよ」
そして改めて恩賞の内容を考えてくれたのであろう、ノルン様に頭を下げた。
「でも、転移の魔法陣の無制限使用許可証、本当に有り難うございます。正直、物凄く嬉しいです」
転移の魔法陣は便利な反面、それなりに費用もかかる。
それが今後無料で使い放題と言うのは、言葉通り、感謝してもしきれない。
「なぁに、冒険者なれば、そういった移動時間を短縮できる道具は重宝する、と聞いておったからな」
ノルン様は笑顔でそう話した後、話題を変えてきた。
「そうそう、この後少し時間を貰えぬか? 実は父上がもう少しそなた達と話がしたいらしくてな。なに、先程のような堅苦しいのは抜きだ」
さっきの恩賞の儀でかなり精神的に疲れたし、正直、早く帰りたいんだけど……
とは言え、移動が滅茶苦茶便利になるアイテム貰えたし、無下に断るのも失礼に当たるだろうし……
少しの間悩んだ後、結局、僕とメイはノルン様の案内で、皇帝ガイウスの居室に向かう事にした。
皇帝ガイウスは先程とは打って変わって、打ち解けた様子で僕達を迎え入れてくれた。
「そこに掛けるが良い。娘を救ってくれた事、改めて礼を申すぞ」
「改めて過分な恩賞、有り難うございました」
僕は頭を下げて、促されるまま、部屋のソファにメイと並んで腰かけた。
向かいに皇帝ガイウスが腰を下ろし、ノルン様が手ずから紅茶を人数分用意してくれた。
紅茶に口をつけながら、皇帝ガイウスが僕に問い掛けてきた。
「カケルと申したな。ウルフキングを一刀のもとに切り捨てたとか。冒険者としてのキャリアは長いのか? いずこの出身じゃ?」
出身地?
なんて答えれば良いのだろう?
まさか日本の某地方都市です、と正直に答えるわけにもいかないだろうし……
なので、僕は“いつも通り”の説明を行った。
「遠方の田舎町出身でして、冒険者としてもまだ一週間程の駆け出しです」
「一週間!? それでウルフキングを倒すとは。もしや幼き頃より武術の修練でも?」
出身地をぼかした事よりも、駆け出しの冒険者が強力なモンスターを倒したことの方に関心が向いたらしい皇帝ガイウスが、身を乗り出してきた。
「実は倒した時の状況、無我夢中だったせいか、よく覚えていないんです。冒険者としても、ようやく最近、メイと二人がかりで、グレートボアを仕留められるようになった程度の実力です。武術の修練も冒険者になってからです」
一応、ガスリンさんの修業は“武術の修練”に入れても良いはず。
本当に言葉通り、死なない程度に格上モンスターと連戦させられたわけだし。
皇帝ガイウスが、意外そうな顔でノルン様に顔を向けた。
それに応じるかのように、ノルン様が口を開いた。
「カケルが放った斬撃が、一撃でウルフキングを両断しました。私がこうして生きてここにいるのが何よりの証拠でございます」
「ほう、それは興味深い。カケルには何か秘めたる才能があるやもしれぬな。希望すれば、帝都で適当な武術師範を紹介するが」
「お気持ちだけ有り難く頂いておきます。身の丈にあった範囲で、冒険者として頑張ろうかと考えていますので」
皇帝ガイウスは笑って頷き、次にメイに視線を移した。
一瞬、彼の顔が強張ったように見えた。
しかしそれはすぐに消え、彼は笑顔でメイに話しかけた。
「メイは魔術師のようじゃが、どこぞ名のある魔術の家の出か?」
「?」
メイは小首を傾げている。
代わりに僕が答えた。
「申し訳ございません。実はメイには記憶が無くて……」
僕はメイと出会った経緯について、簡単に説明した。
「それは気の毒な。優秀な治療師を何人か紹介する故、今度診てもらうがよいぞ」
「ありがとうございます」
相変わらずぼーっとしているメイに代わって、僕が皇帝ガイウスに頭を下げた。
と、唐突に皇帝ガイウスが立ち上がった。
そしてやおらメイに近付くと、彼女の右の頭部に差している髪留め――僕がプレゼントしたやつだ――に手を伸ばし、それを外した。
「父上?」
「陛下?」
皇帝ガイウスの奇行にも見える行動に、僕とノルン様が驚きの声をあげ、メイ自身は目を見開いて固まってしまった。
彼は少しの間、彼女の右の頭部に視線を向けた後、照れ笑いを浮かべた。
「すまんすまん。少しずれておったようでな。どれ、さし直してやろう」
メイの髪に髪留めを戻した皇帝ガイウスは、ソファに座り直しながら、ノルン様に声を掛けた。
「ところでノルンよ、例の調査の人選は進んでおるか?」
ノルン様は、何故か僕達に視線を向けながら問い直した。
「父上、その件はこの場でご報告しても?」
「構わぬ。むしろ、まだ人選中であるなら、彼等もその調査に加えては? と思ってな」
「確かにまだ人選中ですが……」
頭越しに何やら不穏な相談が始まった事に、僕は不安になって聞いてみた。
「なんのお話でしょうか?」
「なに、北の方でちょっとおかしなことがあってな。ノルンに内密に調べてもらおうとしておったのじゃ」
「僕達なんかじゃ、かえって足手まといになるんじゃ?」
こっちは駆け出し冒険者と記憶喪失の女の子だ。
詳しい話を聞かなくても、役に立たない自信だけはある。
「何を申すか。ウルフキングを一撃で屠れるなら、むしろそういった人材こそ是非欲しいところよ。恩賞は惜しまぬ。ノルンに協力してやってくれぬか?」
何か激しく厄介事のにおいしかしないけれど、『皇帝』に『内密の調査』への参加を求められている。
断ったら、“城門出たら怪しい襲撃者が出現”、とかはならないとは思うけれど、ノルン様とも気まずくなりかねない。
僕はメイに視線を向けた。
「メイハ カケルニ ツイテイクダケ」
どうやら、アルザスの街の皆との再会は、少し先送りになりそうだ。
皇帝ガイウスとノルン様から改めて詳しい内容を聞かされた僕は、仕方なく調査に協力する事にした。
――◇―――◇―――◇――
ガイウスは1人、居室の窓辺に立ち、外を眺めていた。
ノルンを含め、余人は既に退出し、今頃は明日の出立の準備を急いでいるはずだ。
窓から差し込む西日が、彼の顔を赤く照らし出していた。
「あの時の……」
そっと目を閉じると、瞼の内側に、あの時の光景がはっきりと現れた。
半狂乱で許しを乞うディースの腕の中、右の片角を折られ、白い頭髪を赤く染める“彼女”。
彼は剣を振り上げ、ディースは腕の中の“彼女”を庇うようにガイウスに背中を向けて……
「もし“彼女”がナイアの知らせにあった、第二の宝珠の所持者であったのなら……」
全ては北方の地で解き明かされるはずである。
ガイウスはいつまでもその場に立ち尽くしていた。
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