【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第ニ章 北の地にて明かされる真実

25.奇妙

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第009日―4


……
…………
……ゆっくりと意識が覚醒していく……

目を開けると、質素な木造の、しかし見慣れない天井が視界に飛び込んできた。
何だか全身の生命力を消耗したかのように体が重たい。
背中の柔らかさから察するに、どうやら僕はベッドの上に寝かされているらしい。
そのままの態勢で、手足が動くか試してみて……

僕の右手を握ったままベッドに寄りかかって眠っているメイに気が付いた。

僕は彼女を起こさないように慎重に自分の右手を彼女の手から外し、ベッドの上で身を起こした。
見渡すと、そこは質素な作りだけど、落ち着いた雰囲気の一室である事が分かった。


―――ノルン様とハーミルはどこだろう?


僕はまだ少しふらつく足でベッドから抜け出し、そっと部屋の扉を押し開けた。
扉はすぐに隣の部屋に通じていた。
そしてそこに、椅子に腰掛け、何か話をしているノルン様とハーミルの姿が有った。
僕に気付いた二人が笑顔を向けて来た。

「あ、カケル! 目が覚めたのね」
「カケル、身体はなんともないか?」

二人の無事を改めて確認出来て、僕はホッとした。

「すみません、あれからどうなったんでしょうか?」

ノルン様がやや不安そうな面持ちで、僕に問い掛けてきた。

「もしや……何も覚えておらぬのか?」

僕は改めて、自分の記憶を辿たどってみた。

「確か突然光球が現れて……それに手を伸ばすと剣に変わって……その剣を振り回していたら、あのマルドゥクが逃げ出した……って所で記憶が途切れています」

僕の話を聞いていたノルン様とハーミルが顔を見合わせた。

「マルドゥクはそなたの力に恐れをなして逃げ去った。その後、気を失ってしまったそなたを、皆で村長の屋敷に運び込んだのだ」
「そうだったんですね、すみません。何だか面倒を掛けてしまって」

僕は頭を下げた。

「何言ってるの。カケルのお陰で村の皆も助かったのよ。それに、私をかばって刺されて……面倒なんて、もっと掛けないと全然割に合わないわよ」

そう口にしたハーミルの表情が歪み、その目に涙が滲むのが見えた。
慌てて僕はハーミルに、自分が無傷であることをアピールした。

「ほ、ほら。ノルン様のおかげで怪我も元通り」
「その事だがな、カケル」

ノルン様が少し言いにくそうに言葉を繋いだ。

「そなたの傷は誰も癒しておらぬ。心臓を魔剣で貫かれたそなたはその……勝手に傷が塞がり、生き返ったのだ」
「えっ!?」

僕はノルン様の言葉に絶句した。
そんな、勝手に傷が……?

と、僕はふいにある事を思い出した。
数日前の“修業第16話”の時、イクタスさんに自動回復の魔法を掛けてもらったお陰で、本当なら絶対に死んでいそうな傷も、あっという間に治っていた。
僕はその話を持ち出してみた。

「……実は数日前に、知り合いの魔術師の方に、自動回復の魔法を掛けてもらって修業していたんですが、それって関係あるでしょうか?」

ノルン様が怪訝そうな表情になった。

「自動回復?」
「瀕死の重傷を負っても、その魔法が効いている間は、怪我がすぐに塞がってしまうんですよ。しゅうしゅう湯気出しながら」

修業中は、ガスリンさんのスパルタ特訓にピッタリすぎるその魔法の威力を、恨めしくも思ったものだけど……

しかし、その言葉を聞いたノルン様の顔が険しくなった。

「……カケル、私の知る限り、そのような魔法は存在しない」
「えっ?」

驚く僕の反応を確認する素振りを見せながら、ノルン様が説明してくれた。

「治癒の魔法は詠唱し、魔力を展開している間しか発動しない。モンスターはともかく、人間相手に、最初にかけておくだけで持続的に傷を癒す、つまり半分不死身にしてしまうような魔法は、理論上、有り得ないのだ」
「で、でも確かイクタスさんは……」

ノルン様が驚いたような声で僕の言葉をさえぎった。

「待てカケル、今イクタスと申したか? そなた、イクタス殿にお会いした事があるのか?」
「? 会ったというか……メイに魔法を教えてくれて、僕にその半分不死身になる魔法をかけてくれた当人ですよ」

僕はノルン様の反応に戸惑いながらも、数日前の『修業』について、簡単に説明した。
話を聞き終えたハーミルが口を開いた。

「そう言えば、マーゲルの街での例の騒ぎの時、メイが“イクタスハ キャンセル オシエテクレナカッタヨ”って、言っていたわよね」
「そうであったか……」

話しながら、ノルン様は、ハーミルに冷ややかな視線を投げかけた。

「あの時は、誰かさんのせいで巻き起こった騒ぎの落とし所考えるのに頭が一杯で、聞き逃していたようだ」
「まさかの藪蛇!? だから、火球打ち上げたのは私じゃないって」

ハーミルは大袈裟に怯えて見せて、僕の後ろに隠れる素振りを見せた。
僕は背中に回り込んできたハーミルを、さりげなく元の席に押し戻しながら聞いてみた。

「ところで、ノルン様はイクタスさんとはお知り合いなんですか?」

ノルン様が首を振った。

「直接お会いしたことは無い。それに、現在は所在不明のはずだ。しかし、かの偉大なる魔導士の名、魔術を多少なりともたしなむ者で、知らぬ者はおらぬ」
「イクタスさんって、確かに凄い魔法使っていましたけど、所在不明って……アルザスの街で魔法屋、やっていましたよ?」

僕は、ガスリンさんに連れられて行った、あの魔法屋第14話を思い起こした。
店内の奇妙な香りが、今は妙に懐かしい。

「それはまことか? ならばこの調査が終わったら、是非一度案内してもらいたい」
「いいですよ。どのみち僕もメイも、アルザスの街に戻ったら、一度挨拶に行こうと思っていましたから」
「イクタス殿は魔術の全てを極め、異界への扉も開いた、と噂される大魔導士だ。彼ならば、半分不死身になるような加護をカケルに授けるのも、不可能では無いやも知れぬ」
「イクタスさんって、単なる怪しい魔法屋の店主じゃなかったんですね……」

イクタスさんって、実は凄い人だったんだ。
まあ、凄い魔法使いイクタスと、凄い冒険者ガスリンがプロデュースしていたからこそ、あんな滅茶苦茶な“修行”が成立した、とも言えるかもだけど。

僕がそんな事を考えていると、ノルン様が話題を変えてきた。

「ところでカケル、先程、光球がどうとか申しておったな?」

僕はあの、虚無としか表現出来ない場所の事を思い起こしながら説明した。

「はい、気が付いたら目の前にこう……両手で作った輪っかよりも少し大きい位の光球が浮いていたんですよ。それで、その光球を右手でつかもうとしたら、いつの間にか剣を手にしていました」
「その光球なるもの、今出せるか?」

僕は目を閉じてみた。
しかしいくら念じてみても、あの光球を呼び出せそうな感じはしない。

「……すみません、無理みたいです。と言うより、光球がどうして目の前に浮いていたのか、よく分からないんです」

あの虚無としか表現出来ない場所は、結局、何だったのだろう?
あの場所で、懐かしい誰かが話しかけてきた気がするのだけど……

あの場所の事をよりはっきりと思い出そうとすると、逆にその記憶が忘却の彼方かなたに去りそうな、奇妙な感覚に襲われた。

ノルン様が改めて問い掛けてきた。

「そうなのか。もしや、以前ウルフキングを倒した時もやはり光球が?」
「ウルフキングの時の事は、光球どころか、どうやって倒したのか、いまだに思い出せないんですよ」

場の雰囲気を変えようとしたのか、ハーミルが口を開いた。

「ま、ともかく皆無事で良かったじゃない。それより、そろそろ村長さんにカケルが起きた事、知らせに行かない?」

僕達は、連れ立って村長の居室に向かった。
そして夕食を御馳走になった後、今夜は村長の屋敷に宿泊し、明朝、改めて竜の巣の調査について相談する事になった。

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