【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

75. 調査

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第025日―3


父親への休暇の報告を終えたハーミルは、カケルの部屋へと向かった。

家には父の介護をしてくれる要員が、24時間交代で来てくれている。
時間もお昼時を回っており、カケルと一緒に外食するのも悪くない。
そう言えばこの前、街を歩いた時に、新しいレストランがオープンしているのを見かけたっけ?

そんな事を思いつつ、カケルの部屋の扉をノックした。
しかし応答が無い。
以前、カケルが拉致された時の嫌な記憶が蘇り、急いで扉を開くと、床に倒れているカケルに気が付いた。

「カケル!?」

慌てて駆け寄ったけれど、気を失っているのか、カケルは目を閉じて動かない。
ハーミルはカケルを抱えてベッドに横たえると、自分の右耳のピアスに指を添えた。

「カケルが、倒れている! どうしよう。また襲撃者かも!?」
『ハーミル、落ち着け。カケルは霊力を消耗しただけだ』
「霊力を?」
『今のカケルの身体では、使用できる霊力量に制限があるのだ。しかし今しがた、カケルは許容範囲を超える霊力を展開しようとした。故に一時的に霊力が枯渇して気を失ったのだ』
「もしかして、何かから身を守ろうとして?」
『実は貴女の家は、レルムスが既に外を警戒しておる。彼女からの報告では、カケルは誰かと戦うために霊力を展開したのでは無い、という事だ』

レルムス、いつの間にか家の外に居たのね。

結社の手回しの良さに、ハーミルは少し苦笑した。
しかしそれならば、カケルはそんな膨大な霊力を展開して、何をしようとしたのだろうか?

『あと、あんまりカケルに根掘り葉掘り聞いてやるなよ? カケルが自分から話すなら別だが……』
「何か知っているのね?」
『想像はつくが、正確な所は分からぬ……とにかく安静にしておれば、紫の結晶から霊力の補充を受けて、じきに目覚めるはず』


――◇―――◇―――◇――

……
…………
……どれ位気を失っていたのであろうか?
目を開けると、自分を心配そうに覗きこむハーミルと目が合った。

「カケル!」

僕が目を開けた事に気付いたハーミルが、抱き着いてきた。

「何があったの? 誰かにまた襲われた?」

彼女の話によれば、一緒に昼食を、と僕の部屋を訪れて、気を失って床に倒れている僕を発見した。
慌てて僕をベッドに運び、様子を見守っていたら、僕が目を覚ました、という事らしい。

なんと答えようか?

僕は少し考えて、“正直”に話す事にした。

「ちょっと霊力使って、故郷に転移できるか実験してみたら、多分だけど、霊力の使い過ぎで倒れたみたいなんだ」

まあ、ただ単に“故郷”って言ったけど、九分九厘、僕の“故郷”は、こことは別の世界に存在するはずで。

ハーミルは少しの間、探るような視線を僕に向けてきた後、ふっと表情を和らげた。

「そういう実験するなら、今度から私が一緒にいるときにしてね。いきなり倒れたらびっくりするでしょ?」

そう口にしたハーミルは、僕が拍子抜けするぐらい、あっさりと話題を変えてきた。

「そうそう、もうお昼だし、外に食べに行かない?」


第026日―1


翌朝、僕達は迎えの馬車に揺られて、帝城に参内した。
ちなみにジュノは治療院で見てもらった結果、特に加療の必要は無く、今はハーミルの家から程近い宿屋に滞在している。
皇帝ガイウスの居室に案内された僕達は、促されて部屋のソファに腰掛けた。

「すまぬな、せっかくの休暇を中断させてしまって」
「そんな事ありませんよ。何か大変な事が起こっているんですよね? 陛下やノルン様にはいつもお世話になっていますし、僕で出来る事なら喜んで協力させてもらいます」
「そう言ってもらえるとありがたい。実はもう聞き及んでいるとは思うが、突然ヴィンダの街が壊滅した。いまだ詳細は不明じゃ」

その話は昨日、ノルン様から聞かされていた。
僕の脳裏に、400年前、ヴィンダの街の郊外で、サツキと初めて会った時の事が思い起こされた。
その街が壊滅した。
僕の心に複雑な感情が沸き起こってきた。

「ヴィンダへは、既に軍の派遣を命じておるのだが、カケルはその力で、ヴィンダの街の壊滅要因を探ったりは出来ぬか?」

僕は少し思案した。
以前第40話、北の塔で、何が起こったのか分かった事があった。
霊力を使えば、ヴィンダの街でも何が起こったのか“視える”かもしれない。

「出来るかどうかわかりませんが、現地に行って、試してみましょうか?」
「おおっ! それは助かる。では早速そなたら二人で、現地へおもむいてもらおう」

そう口にした皇帝ガイウスは、あらかじめ用意していたと思われる書状を一通、差し出して来た。

「現地には、先遣隊が到着しておるはずじゃ。その者らにこの書状を示せば、何かと協力してもらえよう」

ヴィンダの街に元々あった転移の魔法陣は、破壊されて使用不能になっていた。
ただ、僕の霊力を使用すれば、ヴィンダの街なら転移出来そうではあった。
しかしそれは、皇帝ガイウスによってやんわり反対された。

「予の書状をたずさえる以上、現地へは正規の手段で向かってもらいたい。そのための手配も既に済ませてある」

結局僕達は皇帝ガイウスの指示で、ヴィンダに一番近い転移の魔法陣がある街、メルヴィンに、帝都から魔法陣を介した転移を行い、そこから馬車で二日行程のヴィンダへ向かう事になった。


皇帝ガイウスのもとを辞して、帝城の大門を出たところで、僕は一応ハーミルに聞いてみた。

「ジュノはどうする?」
「まあ、今回は冒険じゃないし、皇帝陛下直々じきじきの調査依頼だし、ほっといていいんじゃない」
「でも、数日は戻って来られないかもだし、一応、知らせといた方が良いよね?」

明らかに乗り気ではないハーミルを連れて、僕達はジュノが泊まっている宿屋に向かった。


宿屋に到着して来意を告げると、宿屋の従業員がジュノを呼びに行ってくれた。
程なくして、ジュノが宿屋の階段を降りてきた。

「もしかして、早速冒険か?」

目を輝かせているジュノに、僕は今から皇帝ガイウス直々の依頼で調査に赴く事、数日は戻れない事を簡単に告げた。

「それ、オレもついて行ったらダメか?」
「う~ん、冒険じゃないからね……今回は無理かな」
「荷物持ちでもなんでもやるからよ。なんなら、オレが直接皇帝陛下にかけあって……」
「ジュノごめん。もしかしたら相当危険かもしれないし、今回は遠慮してくれないか」

ジュノは明らかに落胆した雰囲気で、うつむいてしまった。
しかしこれは僕の本音だ。
ヴィンダが壊滅したと思われる日の晩、僕は霊力を操る【彼女】の“襲撃”を受けた。
二つの出来事に関連性が有るかどうかはまだ分からないけれど、どちらにせよ調査におもむいた先で、“相当危険”な事態に直面する可能性は否定できないはずだ。

「帰ってきたら連絡するよ。もし宿屋を変える事があったら、ハーミルの家に知らせといて」


ハーミルの家に戻り、午前中の内に出立の準備を終えた僕達は、簡単にお昼を済ませた後、早速、転移の魔法陣を使用してメルヴィンの街へと転移した。
メルヴィンの街では、従者を従えた、五十代の痩せぎすの男性が僕達を出迎えてくれた。

「カケル殿にハーミル殿ですな? お待ちしておりました。私がメルヴィンの知事、トテオで御座います」

既に帝都より連絡を受けていたらしいトテオさんが、僕達を知事の公邸へと案内してくれた。

「馬車を御用意しております。護衛の兵士は不要との事ですが……」

多分トテオさん的には、ハーミルはともかく、僕は頼りなく見えたのかもしれない。
心の中で苦笑しつつ、言葉を返した。

「トテオ様、お申し出ありがとうございます。ですが僕達なら大丈夫ですので、お気遣いは無用になさって下さい」
「まあ、剣聖殿がいらっしゃれば、確かに護衛は不要かもしれませんな。ですが近隣のボレア獣王国に不穏な動きがあるようです。道中、くれぐれもお気を付け下さい」

トテオさんの話では、ここ数日、ボレア獣王国の首都ボレアへの転移が出来なくなっているらしい。
ただ、ボレアの街自体は、ヴィンダのように壊滅しておらず、一応転移の魔法陣の不調との説明が先方からあったという。
しかしトテオさんがひそかに調査したところでは、転移の魔法陣の不調を理由に、今回の全諸王侯招集にも応じておらず、なおかつ兵を集めている兆候が見られるという。
ヴィンダまでの道中は、ボレア獣王国の領域付近を通らなければならない。

「獣人どもは、元々表裏のある連中でしたからな」

過去に何かあったのであろうか?
そう吐き捨てるトテオさんの顔には、僕にもわかる位の、獣人達への嫌悪感が浮かんでいた。

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