【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

86. 変化

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第033日―6


周囲を包む眩いばかりの転移の光が薄れると、ナブーの周囲の風景は見慣れた自分の研究所、通称“人形製作所”内の自室に切り替わっていた。
“人形”をあの守護者の少年に捕獲されたと気付いた時には、肝を冷やした。
しかし少年の優柔不断な性格のお陰で、こうしてなんとか奪還に成功した。
そう言えばあの少年は、転移の直前、光球を“人形”に投げつけて来ていた。
“人形”に何か影響が出たりはしていないだろうか?
チラリと横目で“人形”の方を見たが、別段変わった様子は見られない。
なんにせよ、すぐに次の任務に使用できるように、霊力の補充を行わなければならない。

「すぐに“調整”を行う。ついて来い」
「はい」

ナブーは調整室に向かおうとして……その足を止めた。
今、“人形”が「はい」と返事しなかったか?
彼は、“人形”の方を振り向いた。

「今、返事をしたか?」
「はい、返事をしました」

ナブーは目を見開いた。
“人形”は、ナブーが霊晶石を核として作り出したホムンクルスであった。
そこには仮初かりそめの命しか宿っておらず、発語は愚か、自意識すら存在しないはず。

「……いつから声が出せるようになった?」
「声が出せるようになったのは、あの少年に捕えられた時からです」
「もしや、自分が何者か……分かるか?」

ナブーの言葉に、“人形”は少し怪訝そうな表情をした。

「ナブー様の“人形”……ではないのでしょうか?」

間違いない。
“人形”が自我を持ち、言葉を発している!
守護者の少年との接触か何かが、“人形”に影響を与えている?

元々“人形”には、帝国とボレアとの和睦を阻止するため、ボレアの城壁に陣取って、帝国軍に攻撃を加えるよう命じていた。
そして任務遂行不能になった場合、“人形”は“ボレアの城壁上”で、“街と帝国軍を巻き添えに自爆”する事になっていた。

「お前にはボレアでの任務遂行不能になった場合、自爆するよう命じていたはずだが?」
「自爆しようと額に手を伸ばした所、あの少年に、行動不能にされました」

どうやら少年に捕縛され、ボレアの城壁から別の場所に移動させられた事で、“自爆命令”が解除されてしまったらしい。
どのみちこの“人形”に起こっている事象は、少し詳しく調べる必要がありそうだ。
本来、道具に過ぎない“人形”に自我は不要。
万一、自分の作り出した“人形”に裏切られでもしたら、目も当てられない。
ナブーは“人形”を連れて、調整室へと向かった。


――◇―――◇―――◇――


第034日―1


翌朝、ガイウスは遠征軍の幹部を集め、今後の指針を協議した。
その結果、ボレア獣王国の降伏を正式に認め、その事後処理のため五千の兵を此の地に残し、残りの全軍で、このままヤーウェン共和国へ向けて進軍する事となった。
カケル、ハーミル、ジュノの三名は、引き続き従軍するよう命じられた。



午前中の内に先発隊が次々とヤーウェンに向けて進軍を開始していく中、ノルン様が僕達の幕舎を訪ねてきた。

「ノルン様!」
「ノルン!? どうしたの、急に」

驚く僕達に、笑顔のノルン様が声を掛けてきた。

「いや、ボレアでのおぬし達の働き、素晴らしいものであった。私からも一言礼を申しておこうと思ってな」
「ですが結局、ヴィンダを滅ぼした【彼女】を取り逃がしてしまって……」
「カケル、そこは恥じるところでは無い。そなたのその優しさが、ボレアを悲劇から救ったのだ。逃げた【彼女】の事は、また次の機会に考えればよい」

ノルン様は僕に、優しい表情を向けながら言葉を続けた。

「次に向かうヤーウェン共和国に関しては、いまだ詳細な事情が伝わってきていない。だが、出来るなら極力流血を避ける方向で事が収まれば、と強く願っておる」
「ヤーウェン共和国の反乱騒ぎも、ボレア獣王国同様、魔王が裏で関っているのかもね。帝国内がごたごたしている方が、魔王には色々都合が良いでしょうし」
「ハーミルの申す通りだ。今は国内で相争っている時ではない。おぬし達も、ボレアの時同様、良い策があれば、今後も遠慮無く申し出てもらいたい」

ノルン様はその後、しばらく僕達と他愛もない会話を楽しんだ後、幕舎を出て行った。
彼女の態度や話しぶりから類推すれば、恐らく【彼女】関連で僕の事を気遣って、の来訪だったのだろう。
僕は改めて、ノルン様の気遣いに心の中で感謝した。


正午過ぎ、僕達の所属する皇帝ガイウスの本隊もこの地を離れ、進軍を開始した。
次の目的地であるヤーウェン共和国の首都ヤーウェンには、三日ほどで到着する予定だ、と聞かされている。
道中特に何も起こらず、大きく傾いた西日が辺りを茜色に染め上げる時間帯に、僕達は今夜の宿営予定地に到着した。

宿営予定地に到着してすぐ、僕達は皇帝ガイウスからの呼び出しを受けた。
ハーミル、そしてジュノと共に三人で皇帝ガイウスの幕舎を訪れると、いつになく険しい表情をした皇帝ガイウスが僕達を中に招き入れてくれた。
何かあったのであろうか?
傍に立つノルン様、そしてジェイスンさん他、皇帝ガイウスの近臣達も、軒並み険しい表情をしている。
皇帝ガイウスは僕達をそばに招き寄せると、おもむろに話を切り出した。

「帝城内で、すこし気がかりな出来事があったようだ」
「気がかりな事、ですか?」

皇帝ガイウスがうなずいた。

「実は先程、帝都の留守を任せてあるテミス第73話からの使者が到着した。その使者がたずさえておった書状によると、帝城に残してきた宮廷魔導師達が、予の居室前の廊下で、不審な魔力の残滓を感知したらしい。ただ、今のところ、帝城内、予の居室含めて異常は見られない、とも知らせてきておる」

そこまで話すと、皇帝ガイウスは嘆息した。

「魔力の残滓は、侵入者の転移の痕跡なのか、他の要因なのか不明なようじゃ。加えて、テミスはわが息子ながらしっかりしておらぬ。あやつに任せておいては、らちが明かぬ。そこでノルンやジェイスン達に、改めてその魔力の残滓について調べさせたい。ついてはカケルよ、そなたは彼等と共に、ここから帝都へ転移する事は可能か?」

僕は少し考えてから言葉を返した。

「少人数でしたら、恐らく一緒に転移出来るかと。あと、帝都とここを繋ぐ門を作り出す事も出来るかもしれません」

僕の言葉を聞いたジュノが大きく目を見開いた。
そして僕にそっとささやきかけてきた。

「カケル……お前、そんな事まで出来るのか?」

僕はジュノに苦笑を返しつつ、目を閉じて右腕の腕輪に意識を集中してみた。
全身を霊力が駆け巡り、感覚が研ぎ澄まされて行く。
次に目を開けた時、僕のかたわらに光球が顕現していた。
その場にいる人々全員の食い入るような視線を感じつつ、僕は以前何度か訪れた事のある皇帝ガイウスの居室を心の中に思い浮かべながら、光球に手を伸ばした。
光球が消滅すると同時に、そこには不可思議な揺らめきに縁取られた、人一人がくぐれる位の黒い穴が出現した。

「この穴の向こう側は、陛下の居室に繋がっているはずです。一応、確認してきますね」

そう皆に声を掛けた僕、そして当然のような顔をして付いて来たハーミルとで黒い穴を潜り抜けると、その先は見覚えのある皇帝ガイウスの居室の中であった。
どうやら今回もうまくいったらしい。
ホッと胸を撫でおろしながら、再びハーミルと二人で黒い穴をくぐりぬけて戻って来た僕が、転移門の設置に成功した事を告げると、皆が一斉にどよめいた。



その場の人々がどよめく中、ガイウスの表情だけは益々険しくなっていた。
帝城は魔法的な結界により、何重にも守られている。
その結界を突破して帝城内へ転移出来る者など、魔王のような凄まじい魔力を有する者以外、不可能とされていた。
それをカケルはいとも簡単に、しかも帝城内の自身の居室との間に転移門を設置したという。
今、彼は自分に対して協力してくれている。
しかし、人の心とはうつろいやすいモノ。
いつ何時なんどき、彼が自分と敵対する道を選択しないとも限らない。
その可能性を少しでも下げるためには、やはり彼の心を早急に、帝国側に縛る必要があるだろう。
一番簡単に人の心を縛るのは、情愛の念だ。
ここは当初の計画を前倒しで進めるべきかもしれない……

しかしガイウスはそうした心の動きをおくびにも出さず、笑顔でカケルをねぎらった。

「さすがはカケルじゃ。では、早速、調査の方を頼んだぞ」

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