【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

100. 解呪

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第036日―2


ノルンはそのままキースの部屋を訪れた。
オルダが臣礼を取り、ノルンはベッドに横たわるキースに近付いた。

「あれから2年か……なかなか良くならぬな」
「左様でございます。あれだけ強く高潔な剣士でいらっしゃった方が……」

オルダが横たわるキースにいたわりの目を向けながら、ノルンの言葉に同調した。
そんな彼女にノルンが声を掛けた。

「少し試したい事がある。オルダよ、私が呼ぶまで席を外しておいてくれ」

ノルンはオルダが退出するのを待ってから、詠唱を開始した。
ノルンの額が青く輝き、宝珠が顕現した。
そのまま彼女は詠唱を続けた。
部屋の中に、彼女のいやしの魔力が満ちていく。
彼女はキースに掛けられた呪詛の結び目を、一つ、また一つと丹念に解いていった。
1時間を越える詠唱と解呪のための魔力の展開を経て、遂に彼女は、最後の結び目を解く事に成功した。
その瞬間、彼女は意識を失い、床に倒れ込んでしまった。


どれほど気を失っていたのであろうか?
気付くとノルンは、ハーミルの家の一室に寝かされていた。
メイとオルダが、心配そうに自分の顔をのぞきこんでいる。
目を開けたノルンに気付いたメイが、ホッとした様子で話しかけてきた。

「良かった……気分はどうですか?」
「メ……アルか。キースはどうなった?」

ノルンの問いかけに、メイとオルダが部屋の一角に視線を向けた。
二人の視線の先に、痩せこけてはいるが、炯々けいけいと輝く瞳に強い意思を感じさせる元帝国剣術師範、キースが座っていた。
キースはノルンが起き上がったのを確認すると、深々と頭を下げた。

「ノルン様、身を挺して拙者を癒して下さったとの事、キース、お礼の申し上げようも御座いません」

キースの身体からは、呪詛の魔力は消え去っていた。
となれば自分の解呪が成功したらしい。
メイから託された想いに答える事が出来たと知り、ノルンは心底安堵した。

「キースよ、良かった。まあ、私のダメ元の神聖魔法が、無事功を奏してくれたようだな」

ノルンはメイにだけわかるように、彼女に対してウインクして見せた。
安心したのか、少し涙ぐんでいたメイが、そんなノルンにそっと頭を下げた。

「ハーミルにすぐ教てえやろう。オルダよ、すまぬが表に待たせてある馬車と衛兵に、帝城へこの事をすぐ知らせるよう、伝えて貰えぬか?」

オルダが臣礼を取り、部屋を退出すると、ノルンは改めてキースに向き直った。

「おぬしは自覚が無いかもしれぬが、2年もの間、ほぼ寝たきりだったのだ。今は養生に努めよ」
「ありがたきお言葉。しかし聞けば、帝国は今、陛下自ら親征なさっている最中とか。拙者も是非、軍の末席にお加え頂きたく……」
「おぬしの心意気、しかと陛下にお伝えするゆえ、安心せよ。しかしまずは養生だ。それからこの2年の間に起こった変化についても色々学ぶが良い。おぬしの武勇、帝国が必要とする場面は、これからも多々あろう」



午後、予定通りの時間に僕が開いた転移門を通じて、皇帝ガイウスの軍営に驚くべき知らせがもたらされた。

「お父さんが……目を覚ました?」

その知らせに接したハーミルは一瞬、言葉を失っていた。
しかしすぐに彼女は皇帝ガイウスに、家に戻って、自らの目で確かめたい、と申し出た。
彼女の要望は直ちに認められ、僕とハーミルは、一旦、ハーミルの家に戻る事になった。

「積もる話もあろう。ハーミルは、今夜は家で過ごし、明日、カケルが開く転移門で軍営に戻って参るがよい。カケルはすまぬが、ノルンを連れて出来るだけ早くここへ戻り、キース覚醒の詳報を知らせてくれ」

皇帝ガイウスの言葉を受けた僕は、ただちにハーミルの家、僕の部屋へと転移門を開いた。
僕の部屋に転移したハーミルは、そのまま廊下に飛び出し、彼女の父、キースさんが療養しているはずの部屋へと駆け出して行った。
僕も慌てて後を追いかけた。


部屋に入ると、ノルン様、オルダさん、メイ、そして……床に居住いずまいを正して正座するキースさんの姿が有った。
彼の姿を目にしたハーミルの目から、涙が溢れ出した。

「お父さん!?」

ハーミルはキースさんに駆け寄り、すがりついて幼児のように泣き出した。

「ハーミル、苦労を掛けたようだな」
「……お父さん……私……ごめ……あの……」

ハーミルは何かを一生懸命話そうとするものの、完全に決壊してしまった感情に押し流され、言葉にならない様子であった。
そんな彼女の背中を、キースさんはただ優しく撫ぜ続けた。
やがて気持ちが落ち着いてきたのか、ようやくハーミルが顔を上げた。
彼女は今更ながら少しバツの悪そうな顔になった。
そして傍で二人の様子を微笑まし気に眺めていたノルン様に頭を下げた。

「なんかカッコ悪いところ、見せちゃったね。でもノルン、本当にありがとう。ノルンが私の父のために、高度な神聖魔法を試してくれたのよね?」
「まあ、まぐれ当たりみたいなものだ。うまくいって、私の方が驚いている」

ノルン様はおどけた雰囲気でそう口にしたけれど、彼女の目にも、うっすら光るものがあった。

ハーミルが改めて僕達の事を、キースさんに紹介してくれた。

「お父さん、こちらはカケル。今、私とカケルと、もう一人ここにいないジュノって子の三人で、親征中の陛下のお手伝いをさせて頂いているの。で、こっちは“アル”って子で、ちょっとした知り合いなの。二人共、うちの“食客”ってとこよ」

ハーミルの言葉を受けて、僕とメイも、改めて自己紹介をした。
キースさんはそんな僕達に、穏やかな笑顔を向けてきた。

「カケル殿にアル殿か。今後もハーミルの事、宜しくお願い申す」

僕達はしばし歓談した。
僕とノルン様がハーミルの家を辞し、皇帝ガイウスの軍営に戻ったのは、夕闇の迫る頃であった。


幕舎の中で皇帝ガイウスと対面した僕とノルン様は、直ちにキース覚醒の次第を報告した。
皇帝ガイウスはノルン様に、いたわわるような視線を向けた。。

「そうか……よくやった。しかし1時間以上も解呪のために魔力を展開し続けるとは、そなたも疲れたであろう」
「キースの2年間に比較すれば、私の1時間など、比較のしようもございません」

皇帝ガイウスが、そばにいる人々に明るい口調で言葉を掛けた。

「それにしてもノルンがキースの解呪に成功するとは。我が帝国の魔導師どもは、軒並みノルンに弟子入りせねばならぬな」
「ではこのジェイスン、明日から早速、ノルン様に教えを乞わねば……」
「いえ、解呪に成功しましたのは、あくまでも偶然の賜物。恐らく二度目の再現は不可能で御座います」

皇帝ガイウスの軽口に、場の皆が笑い合い、キースさんの覚醒を改めて喜び合っていた。


小一時間程歓談した後、僕とノルン様は、一緒に皇帝ガイウスの幕舎を辞した。
日はすっかり暮れていた。
初夏の頃合いとはいえ、北方に位置するヤーウェン共和国まで1日行程のこの地の夜風は、やや肌寒かった。
僕は彼女を幕舎に送る途中、気になっていた事をたずねてみた。

「そう言えば、メイとはお話し出来ましたか?」
「ん? ああ、もちろんだ。今後の生活について、色々不安もあったようだ。見ての通り、私は近くにいてやることが出来ぬ。これからもメイに関しては、カケルを頼らせてもらう事が多いと思うが、宜しく頼む」

そこで少し言葉を区切り、ノルン様が珍しく、悪戯っぽい笑顔を浮かべて僕の顔を覗き込んできた。

「そうそう、メイにかかりきりで、ハーミルをおろそかにしてもいかんぞ? 一途な者はやきもちも焼きやすいと聞くからな」
「やきもち? 僕とハーミルはそんな関係じゃないですよ。もちろん、メイともそんな関係じゃないので、ご安心を」

どうやらノルン様は僕達の関係性を勘違いしているらしい。
そう考えた僕は、思わず苦笑してしまった。
しかしノルン様は何故か少し嘆息した。

「やれやれ、これでは二人も大変であろうな……」

その時、僕はふと、何か嫌な気配を感じた。
霊力とは明らかに異なる、しかし身体にまとわりついてくるような、得体の知れない気持ち悪さ。
これは一体?

僕はノルン様に声をかけた。

「……何か感じませんか?」

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