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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
134. 狩猟
しおりを挟む第044日―8
―――南海洋上
「……カケル!」
ハーミルは自身の叫び声で飛び起きた。
一瞬、自分がどこにいるのか混乱したけれど、すぐにどこかのベッドの上である事に気が付いた。
ベッドの脇には、心配そうに自分を見つめるミーシアの顔があった。
「ごめんなさい、ミーシアさん。ここは?」
「結社イクタスの船の中よ。あの後、貴方は倒れてしまって……」
ハーミルの脳裏に、先程までの一連の出来事が、改めて思い返された。
カケルが自分の目の前で、いずこかへ連れ去られた。
なのに、自分には何もできなかった……!
握りしめた両の拳に力が入る。
そんなハーミルに、ミーシアが優しく声を掛けてきた。
「そんな思いつめた顔をしないの。私達で必ずカケル君をこの世界に連れ戻しましょう」
ハーミルとミーシアが、連れ立って甲板上に出ると、イクタス達が何かを相談中であった。
二人に気づいたイクタスが、ハーミルに、いたわるような声を掛けてきた。
「ハーミル、気が付いたんじゃな。大丈夫か?」
ハーミルはその場の皆に頭を下げた。
「イクタスさん、それに皆さん、お恥ずかしい姿をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「ハーミルよ、そこは頭を下げる所じゃないぜ?」
「そうとも。それより、カケルをむざむざ連れ去られた我等の方こそ、ハーミルに頭を下げねば」
皆の言葉に、ハーミルの目頭が熱くなった。
場が少し落ち着くのを待ってから、イクタスが皆に話しかけた。
「それにしても、先程の銀色のドラゴンの行動、不可解であったな」
ミーシアが頷いた。
「ええ。目の前でカケル君が連れ去られようとしているのに、それを悠然と眺めているだけなんて……ハーミルの叫び声だけでなく、私の届けた“囁き声”も無視されたわ」
銀色のドラゴンは、カケルを連れ去った“召喚門”と巨大魔法陣の消滅を見届けると、何事も無かったかの如く、北方へと飛び去って行った。
イクタスとミーシアの言葉を待たずとも、その場に居合わせた皆にとって、銀色のドラゴンの行動は不可解そのものであった。
銀色のドラゴンは、イクタスが口にした禁忌について、非常に神経質な反応を示していた。
そしてカケルが、『禁忌がこの世界に災いをもたらす時が来てしまった時の、最後の希望』であるとまで話していた。
にもかかわらず、カケルがこの世界から連れ去られるのを悠然と見送った……?
ガスリンが口を開いた。
「しかしイクタスの爺さんよ。あの銀色のドラゴン、あれは一体どういった存在だ? わしは知っての通り、今まで何十頭ものドラゴンを屠ってきた。しかしアレは、そうしたドラゴン達とは、全くの別モノに見えたんだが」
「ガスリンの見立て通りじゃ。アレは、姿はドラゴンじゃが、恐らく並みのドラゴンとは、その起源を異にする存在に相違ない」
ミーシアが二人の会話に参加してきた。
「私もあの神竜がただのドラゴンじゃ無いという意見には賛成よ。だってあの神竜が使用していた念話に、精霊の力を感じたわ」
話を聞く皆の目が大きく見開かれた。
「精霊の力? あの銀色のドラゴンが、精霊魔法を使用していたってか?」
「精霊魔法というよりは、もっと根源的な……ごめんなさい。それ以上は私にも分からないわ。だけど私の知る限り、そして始祖ポポロより連綿と私達に受け継がれてきた伝承によれば、この世界で精霊と交信し、その助力を得られるのは唯一、私達ハイエルフだけのはず。他の種族、そしてドラゴン含めてモンスターが精霊魔法を使用した例は、一切知られていないはずよ」
通常のモンスターとしてのドラゴンも、強力な存在である事は間違いない。
他のモンスター達とは異なり、彼らは数百年を生き、強大な体躯から繰り出される物理攻撃と、数々の強力な魔法、それに魔力の消費の不要なブレスを駆使して戦う。
中には人語を解するものも存在する。
しかしあの銀色のドラゴンのように、数千年を生き、守護者や霊晶石について、精霊の力の籠った念話を用いて語り、その先にあるであろう、禁忌について見通す程のものは存在しない。
しかも魔王エンリルは、状況から推測するに、銀色のドラゴンの寝こみを襲えたにもかかわらず、斃すのではなく、霊晶石の結界で封じ込める、という手段を選択している。
恐らく彼の力を以ってしても、銀色のドラゴンを斃しきるのは、相当なリスクを伴う、或いは不可能と言う事なのだろう。
皆の話を聞くハーミルの心に、暗い感情が灯った
それ程強大な存在であれば、何故みすみすカケルが連れ去られるのを、黙って見ていたのか?
あの銀色のドラゴンこそ、カケルの“拉致”に何らかの関わりを持っているのでは無いだろうか?
ハーミルはふと、以前、カケルが魔神(?)と思しき存在と出会った虚無なる空間に干渉してきたという、“サツキの別人格”の話を思い出した。
“彼女”ならば、この事態を打開出来るのでは無いだろうか?
確かサツキは、“彼女”が、『彼方の地』に今も存在すると話していた……
「ともかく一度本部に戻り、サツキも交えて善後策を話し合おうぞ。サツキなれば、カケルの持つ紫の結晶の現在位置を、異なる世界の壁を越えても探知出来るやもしれん」
イクタスの言葉に一同が頷く中、ハーミルが口を開いた。
「ごめんなさい。私は一度、皇帝陛下の軍営に戻るわ」
――◇―――◇―――◇――
2日目―――2
森に入ってすぐ、僕は右腕に嵌めた腕輪に意識を集中してみた。
相変わらず微弱な流れしか感じられないけれど、どうやら霊力自体は展開出来るようだ。
僕はその微弱な霊力を使って、周囲の感知を試みた。
なんとか半径50m程の範囲に感知の網を広げたところで、一匹のウサギのような小動物を発見した。
僕は霊力を使って、そのウサギを昏倒させようと試みた。
「よし!」
「どうしたの?」
セリエからすると、森に入って、いきなり静かになって目を瞑っていた僕が、突然声を上げたので驚いているようであった。
「あ、ごめん。ほら、こっち。ウサギを1匹捕まえたよ」
僕は藪漕ぎをして昏倒させたウサギに近付いた。
そしてそれを回収してからセリエの所まで再び戻って来た。
それを目にしたセリエが、目を真ん丸に見開いた。
「すごいすごい! どうやったの?」
「ちょっとした魔法みたいなものだよ。まあ、多分ウサギ程度しか仕留められないとは思うけど」
話しながら、僕は少しホッとしていた。
前の世界では、隣にいつもハーミルがいてくれた。
ジュノもいたし、時々うまいタイミングで、イクタスさんやミーシアさんも手助けしてくれた。
しかしこの世界では、僕はただ一人。
今、微弱な霊力しか使用出来ない自分が、果たしてどこまで出来るのか?
それを確認しておきたいという意味合いもあって、森に入って獲物を捕まえてみようと提案したのだ。
そんな僕に、セリエが尊敬したような眼差しを向けてきた。
「魔法を使えるなんて、カケルは凄いね」
いつの間にか、“お兄さん”から“カケル”に呼び方が昇格(?)したようだ。
感心しきりなセリエを横目に、僕は再び霊力による感知を試みた。
そしてそのまま、ゆっくりと森の奥へ向かおうとして……セリエに袖を引っ張られた。
「あんまり奥に行ったら危ないよ」
「森の奥に、何かあるの?」
「森の奥では、凶暴なモンスターが出るんだって。前に近所のおじさんが話していたよ」
モンスター、この世界にもやっぱりいるんだ。
まあ、霊力の感知網を展開しているし、そうそう奇襲されないとは思うけれど。
「わかった。奥に行かずに、森の外周探って、もう少し獲物捕まえたら戻ろう」
それから1時間ほどで、僕達はウサギ4匹、小鹿1頭を捕らえる事に成功していた。
捕らえた獲物は、セリエが即席で森の植物を使って器用に編んだ袋に収められている。
ずっしりとしたその袋の重さからも、そろそろ限界かな?
「じゃあ帰ろうか?」
僕がセリエに声を掛けるのとほぼ同じタイミングで、セリエが何かに反応するかのように、耳をピクっと震わせ、叫び声を上げた。
「ケ、ケルベロス!」
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