【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

137. 厩舎

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2日目―――5


「ねえ、良かったら、私が神都まで案内しようか? 私、3年前にお父さんに付いていった事あったし。道、覚えているよ?」

彼女の申し出は、僕にとってはとても有り難かったけれど……

「でもそれは悪いよ。行きはともかく、帰りはもしかしたら、セリエ一人でって事になるかもしれないし。帰り道でモンスターとかに襲われたら大変だよ?」
「大丈夫だよ。私もう14歳だし、街道沿いは神様のお力で護られているから、モンスターなんか出ないよ」

そして彼女は、祖父のゼラムさんに視線を向けた。

「お爺ちゃん、カケルと一緒に神都に行ってきてもいいよね?」

ゼラムさんは少しばかり驚いたような顔をしていたが、すぐに笑顔で頷いた。

「そうじゃな。もしかすると、父親に会えるかもしれないしのう」
「お爺ちゃん、だ~い好き」

セリエに抱き着かれ、祖父のゼラムさんの目が細くなった。

「カケル殿、うちのセリエの事、宜しく頼みますぞ」

結局、僕はセリエの案内の元、神都に向かう事になった。



3日目―――1


翌朝、僕とセリエは集落の獣人達に見送られて洞窟をあとにした。
セリエの祖父ゼラムさんが、僕達の旅費にと、少ないたくわえからなけなしのお金を工面してくれた。
その気遣いに、僕は心の底から感謝した。

今日も朝から天気が良かった。
今日は人間達の村、マーバを目指す予定になっていた。
獣人特有の感性の鋭さによるものであろうか?
途中の道なき道を、セリエは迷うことなくどんどん進んで行く。
僕はセリエに声を掛けた。

「マーバの村には何度か行った事あるの?」
「うん、あるよ。一週間に一回くらい、森で採れた木の実や作った小物を売りに行ったりするんだ」
「その村の人って、もしウサギや小鹿捕まえて持っていったら、買ってくれないかな?」
「買ってくれるけど……」

そこで言葉を切ったセリエは、少し怒ったような顔で僕の方を振り返ってきた。

「もう何の準備も無しで、森に入ったりしたらダメだからね? またモンスターに襲われたらどうするの?」
「ケルベロス位ならなんとかなったし、ちょっと旅費を稼ぐのもいいかな~って」
「ダメったらダメ! 昨日はたまたまやっつけられたし、すぐに傷治ったから良かったけど、食べられちゃったらどうするの?」

そこまでは考えていなかった。
塵からも復活できたし、食べられても何とかなりそうだけど、若干グロい事になりそうな。

やがて夕闇が迫る頃、行く手に粗末な木柵に囲まれた場所が見えてきた。

「あれが、マーバの村だよ」

そう口にして駈け出したセリエの後を、僕は慌てて追いかけた。
木柵の内側には、十数軒の粗末な民家がのきつらねていた。
ざっと見渡した所、この村の住人は全員人間ヒューマンのようであった。
セリエはその中の何人かとは知り合いらしく、簡単な挨拶を交わしている。

「カケル! ボーザさんが馬小屋の隅貸してくれるって」

この小さな村には、専門の宿泊施設が存在しなかった。
そのためセリエは知り合いに掛け合って、今夜の寝床として、馬小屋の一角を借り受ける事にしたようであった。
僕とセリエは、干し草の中に並んで潜り込み、眠くなるまで取り留めのない話をした。
こうして僕がこの世界に来て三度目の夜は更けて行った……



4日目―――1


翌朝、僕とセリエは、まだ日の昇る前の早い時間に起床した。
そして簡単な食事を摂ってから、マーバの村を後にした。
それにしてもこの世界は、ナレタニア帝国が存在した前の世界と比べて、随分とさびれた印象を受ける。
前の世界は、ナレタニア帝国が大陸のほぼ全域を制覇している、という事情もあったとは思うけれど、主要な街道は石畳で整備され、往来も割りとにぎやかだった。
しかしこの世界では、神都まであと二日で到着出来るはずのこの場所ですら、街道が整備されている感じでは無い。
ようやくそれと分かる、雑草がぼうぼう生えている土道が続いている。
すれ違う人々や荷馬車のたぐいほとんど見かけない。

僕は昨日同様、元気に前を歩いて行くセリエに聞いてみた。

「神都って、この世界の中心ってわけじゃないのかな?」

セリエが不思議そうな顔をして振り返ってきた。

「? 世界の中心だよ。神様が住んでらっしゃるんだから」
「ごめんごめん、聞き方が悪かったかな? つまり他にもいっぱい国があるのかなって」
「クニって?」

どうやら質問の意味が分からなかったらしいセリエは、小首をかしげてしまった。
僕は質問の仕方を変えてみた。

「つまりこの世界の人々全員が、神都に住んでいる神様に従っているわけじゃなくて、他にも王様とか別の神様なんかがいたりするのかな?」
「神様は一人だけだよ? この世界と私達を創って下さったんだから。いっぱいいたらおかしいよ?」

少なくともセリエの理解に従えば、神都の勢力が全世界を統治している、という事になりそうだ。
ならばこのさびれようは、単にこの世界の経済状況が、ナレタニア帝国よりも格段に悪いだけ、と言う事なのかもしれない。

「セリエは神都に行った事、あるって言っていたよね?」
「そうだよ。3年前にお父さんが剣奴けんどになる時、お爺ちゃんや皆と一緒に付いて行ったんだ」
「神都って、どんな所? 結構たくさん人が住んでいたりするの?」

前の世界での帝都は、ナレタニア帝国の中心地だけあって、とてもにぎやかだった。
人間ヒューマン、ドワーフ、エルフ、獣人……様々な種族が、それぞれの暮らしをいとなんでいた。

「うん。セリエ達の村と全然比較にならない程、たくさん住んでいるよ」
「でも獣人族は、あんまりいないんだよね?」

セリエの祖父、ゼラムさんの口振りからは、そんな印象を受けたけれど。

「獣人族だけじゃなくて、人間ヒューマンもドワーフもそんなに多くないよ」
「えっ?」
「いても、剣奴とか普通の奴隷とかだよ」
「!」

それはどういう事だろうか?
人間ヒューマンもドワーフも獣人族もそういう扱いだとしたら、その都市の住民とは?

首を捻っていると、セリエがさらに言葉を続けた。

「神都って、丸いんだ」
「丸い?」
「うん。中心に神様の住んでらっしゃるすっごく高い塔があって、その周りには、いっぱい魔族が住んでいて、さらにその外側にはエルフが住んでいるよ」
「普通の……例えば奴隷じゃない人間ヒューマンとかは住んでいないの?」
「う~ん、前に行った時には見かけなかったかな……」

セリエは首をかしげている。

どうやら神都は、円形の都市構造をしているらしい。
それにしても、魔族とエルフの都市か……
両種族とも、ナレタニア帝国が存在した前の世界では少数派だった。
特に魔族は、北方の辺境の地で、魔王を中心に虎視眈々こしたんたんと世界征服を狙っているイメージだ。
それがこの世界では、中心地ともくされる神都の多数派だという。
つまりここは、魔族やエルフの支配する世界、と言えるのかもしれない。

とすれば、少々気になるのが……

「……一応、確認だけど、魔族やエルフじゃない僕達が神都に行っても、いきなり奴隷にされたりはしないよね?」
「それは無いと思うけど。でも、もし奴隷にされちゃったら、それは神様のおぼしだね~」

あっけらかんと答えるセリエに、僕はこの世界に来てから何度目かの違和感を抱いた。
セリエの価値観の真ん中には、常に神様が存在する。

“神様がする事に、間違いはない”

セリエの言動からは、神様なる存在への盲目的な信仰心(?)が感じられた。
これはセリエ個人の価値観なのか、この世界では一般的な価値観なのか?
それを判断するには、あまりに情報不足である事に、僕は今更ながら気が付いた。


風景はやがて、両脇に鬱蒼うっそうと茂る木々の迫る山間部へと変わっていった。
つづら折りの山道を登る僕の息は上がり、身に着けている衣服は汗でびしょびしょになってしまった。
そんな僕とは対照的に、セリエに疲れた様子は見受けられない。
彼女は鼻歌交じりでどんどん先に進んで行く。

セリエは獣人だから体力あるんだよね?
僕が単なる運動不足ではありませんように。

そんな事を考えながら懸命に登っていくと、やがて視界が開け、見晴らしが良い場所へと辿たどり着いた。
セリエが僕達の進行方向、はる彼方かなたを指差した。

「見て! あれが神都だよ」

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