【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

148. 無聊

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7日目―――3


「ところで……“サツキ”とは何者だ?」

『彼女』が意外な名前を口にした事に少々驚いた僕は、思わず聞き返してしまった。

「えっ? なんで『サツキ』の事、知っているの?」
「詳しくは知らん。だがお前が私に向かって、さっきそう叫んでいた。それももしかして、忘れてしまったか?」

ジャイアントアネモネに殺されそうになっていた『彼女』を目にして、思わずその名で呼んでしまった事を思い出した。
なんだか今の『彼女』は、最初に“冥府の災厄!”なんて口走りながら斬りかかって来ていた時と、随分雰囲気も変わっている。
話してみてもいいかもしれない。

そう考えた僕は、おもむろに切り出した。

「僕の腕輪、大事な人から貰ったって言ったの、覚えている?」
「もちろん。なにしろその腕輪、私の物と瓜二つだからな」
「腕輪に嵌め込まれている紫の宝玉をくれたのが、『サツキ』って人なんだ。それと、恐らくこの腕輪もその人が用意してくれたんじゃ無いかなって個人的には感じている。あとこれは聞いた話なんだけど、『彼女サツキ』が僕に、霊力を継承させたらしいんだ」

僕の話を聞いた『彼女』の目が、大きく見開かれた。

「もしかすると『サツキ』とやらは、お前のいた世界の創造神に近しい存在か?」
「僕が前にいた世界には、少なくとも僕の知っている範囲では、この世界みたいに、実体を伴った神様みたいな存在はいなかったよ」

『彼女』が大きく目を見開いた。

「創造神抜きで、お前のいた世界が誕生したというのか?」
「ごめん。その辺の話、実は全然詳しくないんだ」

ナレタニア帝国には神殿があり、神官も存在した。
しかし少なくとも皇帝ガイウスは、明らかに自分よりも上位の存在――例えば神様みたいな存在――に敬意を払っている、といった雰囲気は感じられなかった。
他の皆――ハーミルやミーシアさんやジュノやイクタスさんや――も、この世界の人々程、“神様のおぼし”を口にしたりはしていなかった。

「それで、これは僕が驚いた事なんだけど、『サツキ』は君とそっくりなんだ」
「そっくりとは?」
「言葉通りだよ。顔も、声も、霊力使える所も、守護者を名乗っていて、最初は名前は無いって言っていた所も……」

僕は目の前の『彼女』に、『彼女サツキ』の話を語って聞かせた。


――◇―――◇―――◇――


―――聖空の塔、最上階、始原の地

美しく磨き上げられた材質不明の素材で構成された、その白い広間の中央に、巨大なクリスタルが浮遊していた。
そこに、「4」の円形闘技場に配置していた巨大なイソギンチャクの化け物――ジャイアントアネモネ――の最後が映し出された。

ソファーに腰を沈め、その情景を眺めていた女神が感心したようにつぶやいた。

「ほう……あの異世界人、この世界でも、あれ程の霊力が使用出来るのか……」

女神はカケルが気を失い、彼の手の中の霊力の剣が消滅するのを見届けると、頭に装着していた白銀色の不可思議なオーラに縁どられたカチューシャを外し、そばに置いた。
クリスタルに映し出されていた情景が、かすむように消えていく。
このカチューシャは女神自身が創り出した神器の一つ。
守護者達に与えた“守護者の腕輪”とリンクしており、装着する事で、その腕輪の持ち主周辺の情景をつぶさに見ることが出来る。

女神のこの世の物とは思えない程整った顔に、酷薄な笑みが浮かんだ。

「こうで無くては、我が無聊ぶりょう(※退屈)もなぐさめられぬというもの。次はどんな風に楽しませて貰おうか」


――◇―――◇―――◇――


話を聞き終えたアルファが、ポツリと呟いた。

「……『サツキ』が羨ましいな」
「羨ましい?」
「結局『サツキ』は、自らの意思で『彼方かなたの地』を去り、自らの意思で、お前に“霊力を継承させた”のであろう?」

それに引き換え、自分は……
しゅに創造され、しゅにお仕えし、しゅの定めたことわりと規則に従い……
今まで、何かを自分の意思で決めた瞬間などあったであろうか?
アルファは、サツキに対して嫉妬にも似た感情を覚えていた。
そんな彼女にカケルが声を掛けてきた。

「君も今、自分の意思で行動しているじゃない」
「私の意思ではない。ここでこうしているのも、しゅの御心に沿おうと……」

カケルの言葉を否定しようとして、アルファは言葉に詰まってしまった。
しゅはカケルを“冥府の災厄”であると言われた。
しゅの命に従うなら、自分はカケルを殺さなければならない。
ところが、今の自分の気持ちは……?
カケルの事は、もはや“冥府の災厄”だとは思えない。
さらに付け加えれば、カケルを殺したいとも思えそうにない。
だからアルファは、カケルに問いかけた。

「私はこれからどうするべきであろうか?」



どうするべきか?
そう問いかけてきた彼女の顔には、自信なさげな表情が浮かんでいた。

「どうするべきって……それは君が決める事だよ。まあ僕としては、少なくともここから出られるまでは、このまま共闘してもらえると助かるんだけど」
「ここから出た後は?」
「それは……」

重ねて問いかけられて、僕は少々戸惑った。
そもそも『彼女』は、どうしてこんな事を、自分に聞いてくるのであろうか?

『彼女』の意図を図りかねた僕は、だから無難な言葉を返す事にした。

「それはもちろん、君は、君のしたいようにすれば良いと思うよ」
「したいように?」
「僕の大事な仲間の一人が、いつも言っていたんだけど、自分の本当にしたい事、我慢しすぎると、胃に穴が開くらしいよ」

それはハーミルが良く口にしていた言葉。
まさか自分がその言葉を、アドバイスとして口にする瞬間が来るとは思わなかったけれど。

「なにはともあれ、まずはこの変な空間から外に出る方法を探そう。その後の事は、地上に戻ってから決めたら良いんじゃないかな?」

『彼女』が小さくうなずくのを確認してから、僕は改めて壁のレリーフに近付き手を触れた。
人の顔が模されたレリーフが、口を開いた。

『汝に問う。次の数字は?』

今までの事を思い返すと……

最初の部屋には、ファイアーアントがいた。
「2」と答えると、飲食物のある空間へ。
「3」と答えると、キラースパイダーがいた空間。
「4」と答えると、ジャイアントアネモネいたこの円形闘技場のような場所。

「でもまあ、結局は、こう答えざるを得ないよな……」

僕が「5」と答えると、レリーフは閃光を発した。
そして僕達二人は、またも別の空間へと転移させられた。
石畳が敷き詰められたその床の上に、出所不明の一人分の飲食物が置いてあった。
30cm位の長さの黒い固焼きパンと、フルーツ、それに並々と水がつがれた水差しが一つ。

「え~と、どうなっているんだろ?」
「気をつけろ、何かの罠かもしれぬ」

僕は慎重にその飲食物に近付き、手に取って確かめてみた。
2番目の空間に置いてあった飲食物と大差無いように見える。
相変わらず閉鎖空間の中なので、正確な時刻は不明だったけれど、お腹が空いているのも事実。

「話した通り、私は飲食する必要が無い。空腹ならお前が食べておけ」

彼女の言葉を受けて、僕はその飲食物を有り難く頂く事にした。


食べ終えると2番目の部屋の時と同じく、急速に眠気が襲ってきた。
僕は『彼女』に声を掛けた。

「また眠くなってきたんだけど、君は寝なくても大丈夫なの?」
「守護者は睡眠が必須と言うわけでは無いから、心配するな。一応この空間にモンスターの気配は無いが、私が見張りをしておこう。お前は見た所、この世界の他の住人と同じく、睡眠や飲食が必要なのであろう? 休める時に、しっかり休んでおけ」

『彼女』が僕を安心させるかのように微笑んだ。
僕は『彼女』に感謝の気持ちを伝えて、眠りについた。


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