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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
165. 大蛇
しおりを挟む12日目―――2
「もし、主とカケルが争う事になったら、私はカケルの側に立つ」
『彼女』がそう力強く口にした直後、突如轟音が響き渡り、宿屋の建物全体が揺れた。
同時にテーブルの上の水差しが倒れ、皿の上に乗った料理が跳ね飛び、宿屋のあちこちから悲鳴が上がった。
「な、なんだ!?」
「きゃああ!」
僕は『彼女』と顔を見合わせた。
「地震!?」
「分からぬが……外に出て確かめてみよう」
僕達は急いで宿屋の外へ飛び出した。
周辺は大騒ぎになっていた。
「なんだ、今のは!?」
「街全体が揺れたぞ!」
通りの人々が口々に騒ぐ中、通りの向こう、丁度街の中心部方向から、何かが破壊されるような音と悲鳴が上がった。
大勢の人々がパニックを起こしながら、こちらに逃げてくるのが見えた。
僕はその中の一人の初老の男性をつかまえて聞いてみた。
「あっちで何かあったんですか?」
「地面を突き破って、化け物がいきなり現れたんだ! あんた達も早く逃げないと、殺されるよ!」
そう言い残すと、その初老の男性は慌てて走り去って行った。
初老の男性の言葉を聞いた『彼女』が、信じられないと言った顔になった。
「街中に化け物!? 有り得ない」
「とにかく、行ってみよう」
僕と『彼女』は、逃げてくる人々の流れに逆らうように、街の中心部へ向かって走った。
道々、『彼女』が教えてくれた。
「神都とその周囲の街には、主の張られた加護の結界が存在する。モンスターはおろか、たとえ冥府の獣といえども、直接街中に出現するのは不可能なはずだ」
やがて、街の中心部の広場が見えてきた。
そこは、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
地面に大穴が穿れ、そこから這い出してきたのであろう、巨大な蛇のようなモンスターが、周囲を破壊しながら、逃げ惑う人々に襲い掛かっていた。
大勢の逃げ遅れた人々が、物陰で震えているのが見えた。
僕は目を閉じて、右腕に嵌めた腕輪に意識を集中してみた。
霊力の滑らかな流れが、僕の中を満たしてく。
再び目を開いた時、傍に光球が顕現していた。
僕は燦然と輝く光球に手を伸ばし、不可思議な紫のオーラに縁取られた剣に変えた。
そしてその剣を頭上に高々と掲げた。
霊力が剣へと凝集し、それは殲滅の力へと昇華していく。
何かを感じ取ったのだろう。
巨大な蛇のようなモンスターがこちらに鎌首を向けて来た。
―――シャァァァァァ!
咆哮を上げるモンスターに構わず、僕はその剣を振り抜いた。
解き放たれた殲滅の力はモンスターを直撃し、塵も残さず消滅させた。
モンスターの消滅を見届けた人々が歓声を上げた。
皆が僕への感謝を口にする中、しかしまだ僕の手の中にあった剣が、唐突に、僕の意図とは無関係に溶けるように消え去ってしまった。
その事に戸惑っていると、突如、天空より大きな声が響き渡った。
―――ヨーデの民よ、私はお前達を創造せし者……
「神様!?」
「神様が、私達に直接お言葉を……!」
街全体に、ざわめきが広がっていく。
そして人々は、女神への祈りの言葉を口にしながら、次々と跪いていく。
僕は『彼女』の方を振り返り、囁いた。
「あの声は、君の神様? だよね?」
「そうだ。しかし前例の無いことだ。主が直接、民に語り掛けるなど……」
そのまま『彼女』は、呆然としたように立ち尽くしてしまった。
そんな中、再び天空に声が響いた。
―――先程、冥府より獣が這い出した。そしてその獣を討ったのが、この男じゃ
声と共に、僕の姿が天空に大きく映し出された。
誰かが叫んだ。
「神よ! この者をお遣わし下さいました事、感謝致します!」
「神に栄光あれ!」
しかしそれらの叫びを打ち消すように、声が続けた。
―――ヨーデの民よ、騙されるでないぞ! この男こそ、冥府より獣を召喚せし災厄じゃ。災厄は自ら召喚した獣を、お前達の目の前で討って見せて、お前達の心を魅了しようとした
「なんだって?」
「こいつが、冥府の災厄……?」
周囲の人々が、天空に映し出された僕の姿と、実際にその場に立つ僕とを見比べながら騒ぎ出した。
―――残念ながら、私に仕える守護者も一人、この男に魅了され、力を奪われた。この男はお前達をも魅了して、さらなる力を得ようと企んだのじゃ
「冥府の災厄め! 自作自演しやがって」
「俺の父ちゃんを返せ!」
周囲の人々が、僕に憎悪の籠った視線を向けてきた。
「くたばれ!」
どこからか飛んできた石が、僕の頭に当たった。
こめかみに血が滲む。
「カケル!」
思わずよろめいた僕の身体を、『彼女』が慌てて支えてくれた。
―――ヨーデの民よ、この男を殺せ。冥府の災厄を討った暁には、お前達の魂をさらなる高みへと引き上げてやろう
「殺せ!」
「冥府の災厄を討て!」
街全体を異様な熱気が包み込んで行く。
そして周囲の人々が、熱病にうなされたような雰囲気で、口々に僕を罵りながら、距離を詰めてきた。
まずい。
とりあえずここから転移しよう。
そう考えた僕は霊力の展開を試みた。
しかし何故か、全く霊力の流れを感じる事が出来ない。
自然、呼吸と心臓の鼓動が早くなっていく中、僕は隣の『彼女』に声を掛けた。
「どうしよう? 霊力が使えなくなっている」
『彼女』の表情が一気に険しくなった。
「とにかく、この場を離れよう」
『彼女』は剣を抜き放ち、周囲の人々を威嚇した。
そして人々が怯んだ隙に、僕の手を引いて駈け出した。
「逃げたぞ!」
「捕まえろ!」
大勢の住民達が、僕達の後を追いかけて来た。
その間も、天空には、逃げる僕達の様子が、大きく映し出され続けている。
やはり女神は、何らかの手段で、僕と『彼女』の様子を詳細に知る事が出来るようであった。
「あの空の映像、何とかしないと、逃げ切れないよ」
「街を出るか、住民達を振り切れば、何らかの算段も立てられよう。とにかく、走れ!」
弱音を吐く僕を、『彼女』が叱咤した。
僕達は何とか住民達を振り切ろうと、入り組んだ路地へと飛び込んだ。
そのまま滅茶苦茶に走り続けていく内に、次第に背後の叫び声が遠のいていく。
しかし路地は迷路のように入り組んでおり、僕達は進むべき方向を見失ってしまった。
さらに悪い事に、前方に突き当りの壁が見えて来た。
壁は数m程の高さがあり、乗り越えられそうにない。
そして遠のいたとはいえ、まだ住民達の怒号は背後から聞こえてきている。
『彼女』が僕に囁きかけてきた。
「仕方ない。少し引き返そう」
頷きを返した瞬間、『彼女』ではない囁き声が耳元に届いた。
『こっちよ……』
「!?」
声が誘う方向に目をやると、すぐ右手にある建物の扉に張り付くように、小さな光が浮かんでいるのが見えた。
正体不明の囁き声と何か関係があるのだろうか?
一瞬迷ったけれど。このままではどのみち住民達に追いつかれてしまうだろう。
覚悟を決めた僕は、『彼女』に声を掛けた。
「こっちへ行こう」
そして小さな光に導かれるように、その建物の扉を開いた。
扉の向こうは、古い廃屋だった。
小さな光は廃屋の中を誘うように、フワフワ移動していく。
そして部屋の隅に置かれた大きな壺の所で停止した。
小さな光はそのまま動かない。
もしかして……?
僕は試しに、その大きな壺を動かしてみようとした。
しかし床に張り付いたかのように、微動だにしない。
『彼女』が問い掛けてきた。
「カケル、どうした?」
「これ、動かしたいんだけど」
「この壺をか? 動かしたら、何かあるのか?」
「これを動かしたら、下に隠し扉でもあるのかなって」
僕の言葉を聞いた『彼女』は、腰の剣を抜いて、その大きな壺に斬りつけた。
―――ガキン!
甲高い音と共に、壺は真っ二つになった。
そしてその下から期待通り、地下に続くと思われる、隠し扉が現れた。
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