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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
189.宝玉
しおりを挟む16日目―――9
「アレはアルファの力を奪った冥府の災厄よ? 主のお許し無しでも、“尊像の額に嵌め込まれた宝玉に霊力を注ぎ込めば、宝玉が勝手に作動”してしまうかもしれないわ!」
エレシュのその言葉を受けて、僕は改めて目の前の白い女神像を観察してみた。
そしてその額部分に、瞳と同じ位の形と大きさの深紅の宝玉が縦に嵌め込まれている事に気が付いた。
僕はその宝玉に右手で触れ、霊力を流し込んでみた。
次の瞬間、視界が切り替わった。
そこは白く輝く不可思議な空間だった。
床は美しく磨き上げられた、しかし僕には材質を推測する事の出来ない素材が、石畳のように均一に敷き詰められていた。
そして天井と壁は輝きの中、判別する事が出来ない。
輝きに目が慣れて来た僕は、少し離れた場所に、巨大なクリスタルが浮遊している事に気が付いた。
そこには先程まで僕が居た聖空の塔1階の、あの大広間の情景が映し出されていた。
怒号を上げるエレシュと、無秩序な混乱状態にある4人の守護者達、それに数十人の剣奴達の姿も。
クリスタルの傍に置かれたソファから、何者かがゆっくりと立ち上がった。
ゆったりとした白く輝く不可思議な衣装で身を包み、
髪は美しく纏め上げられ、数々の精緻な装飾品が金色の輝きを放ち、
エメラルド色の双眸と、有り得ない程に完成され均整の取れた顔には、明らかな嘲りの表情が浮かんでいた。
「異世界人よ。まさかとは思っていたが、やはりお前は私と同質の力を持っているようじゃな。その力、どこで盗んできた?」
僕は女神をまっすぐに見据えながら言葉を返した。
「僕は誰からも何も盗んでいない。この力は、大切な人から継承したものだ」
「大切な人というのは、こいつの事か?」
女神のすぐ脇に、3本の輪で拘束された『彼女』が虚空から出現した。
『彼女』が叫んだ。
「カケル! 逃げて!」
僕は沸き起こる感情を一生懸命押さえながら、女神を睨みつけた。
「あなたの目的は僕のはずだ。『彼女』は関係ない。すぐに解放しろ」
女神の口元に酷薄な笑みが浮かんだ。
「なんじゃ、そんなにコレが気に入ったか? この顔も、体も、声も、性格も、みんな私が造ったものだ。お前はその造り物に、勝手に劣情を抱いておったというわけじゃ」
「『彼女』は造り物じゃない。ちゃんと生きている、かけがえの無い存在だ」
「造り物に劣情を抱くだけあって、気持ちの悪い事を考える奴じゃな。まあどのみち、お前はここで消滅する」
女神が右手を高々と掲げた。
彼女の手の平の上に、凄まじい圧を放つ光球が顕現した。
僕もまた、光球を顕現させた。
僕達の様子を見ている『彼女』が、拘束されたまま女神に懇願した。
「主よ! 罰なら私が受けます。ですからカケルだけは……」
女神が『彼女』をじろりと睨んだ。
「お前はそこで、愛しい少年が消滅するのを黙って見ておれ。造り物のくせにさかりおって」
そして僕に向き直ると、勝ち誇ったように言い放った。
「ここは私の聖域じゃ。今度はネズミに助けてもらう事も出来ぬぞ。消滅する覚悟は出来たか?」
僕は無言のまま、極限まで霊力を高めつつ、光球に手を伸ばした。
光球が僕の想いに応え、紫のオーラを纏う殲滅の剣へとその姿を変えた。
女神が、いかにもつまらなさそうな表情になった。
「何じゃ。何の工夫も見られぬ。興醒めじゃ。早々に終わらせるとしよう」
白く輝く空間全体が、突然無数の光球で埋め尽くされた。
そしてそれら全てが、殲滅の剣へと姿を変えていく。
女神が宣告してきた。
「神たる私の理が支配するこの聖域に入り込んできたのが、お前の敗因じゃ。この地であれば、お前如きを消滅させるのに、わざわざ審判の力を振るうまでも無い事、その身を以って知るが良い」
僕と女神はほぼ同時に殲滅の力を解き放った。
僕の放った殲滅の力が、女神を護る霊力の盾に阻まれ、虹色の煌めきを残して霧散するのが見えた瞬間……
僕の……意識が……
…………
……
異世界人の放った殲滅の力は、女神を護る盾に阻まれ、力なく霧散した。
対して女神の意思に応じて周囲全ての殲滅の剣から放たれた力は、その焦点に当たる異世界人へと収束し、閃光を放った。
「カケル!!」
守護者アルファが絶叫した。
そして閃光が消え去った時、そこには何も残されてはいなかった。
「カケル……そんな……」
3本の輪で拘束されたままの守護者アルファの意識が落ちた。
それをチラッと横目で確認した女神は、退屈そうに欠伸をしようとして……
その動きが止まった。
先程、異世界人を消滅させたはずのその場所で、何かが凝集し始めていた。
それは次第に人型を形成していく。
女神の表情が険しくなった。
「私の聖域にあってなお、不滅性を失わないというのか? こやつは一体……」
そしてふっと大きく息をついた。
「まあ良い。私の聖域で、こやつ如きを消滅させるのに審判の力を使用しなければならないのは業腹(※非常に腹が立つ事)じゃが、致し方あるまい」
女神は再び高々と右手を掲げた。
その手の平の上に、黒く禍々しい力が渦を巻き始めた。
……
…………
……僕自身の存在が、しゅうしゅうと湯気を上げながら、再構成されていくのが感じられる。
次第に意識がはっきりして来るにつれて、僕の心の中を絶望感が満たしていく。
僕の力は、まるで女神に通用しない。
ポポロは霊力を従えるな、女神と同じ理で戦うな、と話していた。
しかし具体的にどうすれば良いのか、見当もつかない。
そもそも、相手はこの世界を精霊達から奪い、造り変え、命までも創造してしまえる存在だ。
あの女神の言葉を待つまでも無く、所詮人の身である自分なんかが敵うはずが無かったのかもしれない。
視界の中、女神が僕の方へ険しい視線を向けてきていた。
高々と掲げられた右の手の平の上に、黒く禍々しい審判の力が凝集しているのも見えた。
恐らく、完全復活した“形ある存在”にならないと、審判の力の対象にならないのであろう。
皮肉にも、完全復活したその時こそ、僕が真の意味で消滅する瞬間というわけだ。
結局、この世界を救う事は出来なかった。
ふいに、僕の事を救世主と呼んでいたシャナの事を思い出した。
「ごめん、シャナ。やっぱり僕には無理だったよ……」
突然、囁き声が届いた。
『カケル、あなたは一人ではない。今こそ私を呼んで』
「シャナ!?」
シャナは別れ際、手を触れ、念じれば、彼女を召喚できるという宝石をくれた。
宝石自体は、既に胸元に再生しているのが感じ取れた。
しかしまだ手には力が入らず、その宝石に触れる事は出来そうにない。
脳裏にシャナを含めて、この世界に来て出会った全ての人々の事が、走馬灯のように駆け巡った。
勝手に涙が溢れ出し、視界が霞んでいく。
女神が審判の力を解き放とうと予備動作に入るのが見えた。
「みんな……今までありがとう……こんな僕に期待してくれてありがとう……だけど……もう……」
全てを諦め手放して、女神が審判の力を僕に向けて解き放つのが見えて……
『あなたが諦めるというのなら、私は誓いを果たすまで』
―――ゴォォォ……
女神の理が全てを決するはずのこの聖域に、吹くはずの無い一陣の風が吹き抜けた。
女神が解き放った審判の力は、直前まで異世界人がいたはずの場所で、目標を見失い霧散した。
そしてそこから10m程離れた場所に、床に手をつき、肩で息をする異世界人と、彼にそっと寄り添うように立つ精霊の娘の姿があった。
僕は隣に立つシャナに顔を向けた。
「どうやって、ここへ?」
「あなたが願ってくれたから」
「でも宝石、触ってないよ」
「それはきっと、私がそれ以上に強く、あなたの傍に行きたいと願ったから」
そう話すとシャナは、にっこりと微笑んだ。
――◇―――◇―――◇――
次回、ついに『決戦』
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