贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第1話「映える心霊スポット」

弐:陽斗、連れ去られる

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「じゃ、また明日ー」
「えぇ。またね」
「バイト、頑張れよー!」
 一日の授業が全て終わると、陽斗は教室を後にし、帰途についた。今日はこの後すぐ、コンビニのバイトに行かなければならないのだ。
 飯沼は掃除当番で教室に残り、成田は所属しているオカルト研究部の部室へ向かう。時間が合えば三人で帰ることもあったが、今日は陽斗一人で帰ることになった。
 校舎から一歩外へ出ると、灼熱地獄だった。日差しが強く、風は全く吹いていない。どの部屋もクーラーがガンガンに効いている校舎が無性に恋しかった。
「あっつ……もうすぐ夏休みだもんなぁ」
 陽斗はクーラーの誘惑にも負けず、校門を出て自宅のアパートを目指した。
 暑さのせいか、外を歩いているのは陽斗だけだった。他の生徒は皆、部活に行っているのだろう。
 人がいない代わりに、無数の蝉達がけたたましく鳴き声を上げていた。歩道沿いに植えられた低木にも一匹止まっており、孤独に鳴き続けていた。
 低木の葉の裏には蝉の抜け殻も張りついており、つぶらな丸い瞳に陽斗の姿が映っていた。陽斗はその抜け殻を見つけるなり、ボソッと呟いた。
「……あれ、食べられるかな?」

       ・

 陽斗は苦学生である。
 高校に入学してからというものの、複数のバイトを掛け持ちし、放課後と休日は連日バイト漬けの日々を過ごしていた。労働可能時間ギリギリまでシフトを入れ、コンビニのバイトが終わったらファミレスのバイトへ、ファミレスのバイトが終わったら、別のコンビニのバイトへと、一日に何軒ものバイト先をはしごすることがザラにあった。
 と言うのも、陽斗には両親がいなかった。彼が幼い頃、事故に遭って亡くなったのだ。
 その後は唯一の肉親である祖母に育てられたが、その祖母も陽斗の小学校の卒業式の日に亡くなり、高校に進学するまでは施設で育った。
 以降、陽斗に金銭的援助を行う大人はいなくなってしまった。祖母や両親の遺産は相続したものの「あのお金は形見だから、なるべく使いたくない」と手をつけようとはしなかった。
 よって、一人暮らしをしながら高校へ通うことになった陽斗は、自らの力で生活費と授業料を払うべく、バイトを始めた。
 しかし持ち前の鈍感さと、度が過ぎたお人好しのせいで、給料の未払いやサービス残業、不当解雇などの問題が立て続けに起こり、労力に見合った給料を得られないことが多かった。
 さらには、街中でキャッチセールスや見るからに胡散臭そうな占い師に声をかけられ、「幸運を呼ぶお守り」と称した安物を法外な値段で買わされた。おかげで幸運を呼ぶどころか、金がどんどん減っていく不幸を呼び込んでしまった。
 当初は「節約するために」始めた三食モヤシのみの生活が、今では「モヤシしか買えないから」という理由で食べるようになっていた。もしも高校で飯沼と出会わなければ、陽斗はとっくに餓死していたかもしれない。
 このような度重なる苦難に立たされ、貯金が一向に増えないことに疑問を持ちながらも、
「まだ、食べられる物があるから大丈夫だよね!」
「頑張っていれば、いつか貯まるよ!」
 と陽斗はポジティブに考え、今日も明るく生きていた。

       ・

「パリパリしてて美味しそう! 一口かじってみよっと」
 陽斗がセミの抜け殻へ手を伸ばしたその時、背後から首の後ろを軽く叩かれた。
「ほぇ?」
  陽斗は自分の身に何が起こったのか分からないまま、意識を失う。
 そのまま前方へ体が傾き、低木に激突しそうになったが、彼を手刀で気絶させた朱羅が後ろから抱きとめ、支えた。
「……手荒な真似をしてしまい、申し訳ございません」
 朱羅は謝罪したのち、陽斗を小脇に抱え上げると、路地裏に止めていた白いワゴン車へと彼を運んだ。
 後部座席のシートへ横にして寝かせ、両手足を結束バンドで縛り、口にガムテープを貼る。鞄は座席の足元に置いた。
 朱羅は陽斗を運び終わると、運転席へ移動し、席に座ってシートベルトを締めた。隣の助手席には、シートベルトを締めて待っていた黒縄が座っていた。
「誰にも見られていないだろうな?」
「はい。ちょうど車も通っていませんでしたし、大丈夫かと」
「常人にはお前の姿は見えねェとはいえ、騒ぎになったら面倒だからな。蒼劔や術者共が嗅ぎつけてくるとも限らねェ」
 悪く思うなよ、と黒縄は後部座席で眠る陽斗を振り返り、ニヤリと笑った。
 朱羅も可哀想なものを見るように陽斗を一瞥した後、浮かない顔のまま車を発進させた。

       ・

 蒼劔は三人を乗せたワゴン車が走り去っていくのを、電柱の上からジッと見下ろしていた。電柱はワゴン車が止まっていた路地裏から五百メートルほど離れた通り沿いにあり、黒縄も朱羅も彼の存在には気づいていなかった。
 蒼劔はワゴン車が発進した後も、しばらく電柱の上に留まっていた。小豆のアイスバーをかじりながら、ワゴン車の行方を目で追っていく。この猛暑の中、汗一つかいていなかった。
 やがて車が視界から外れそうになると、残りのアイスを歯で棒から外して噛み砕き、アイスの棒を電柱の真下にある自動販売機のゴミ箱へと捨てた。
 アイスの棒がゴミ箱の中に到達する頃には、彼は電柱の上から姿を消していた。
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