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第1.5話「インチキ霊能力者をぶっ倒せ!」
壱:パチモン開運グッズを返品しに行こう!
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陽斗と蒼劔が出会った土曜日の朝。
二人は節木市の隣にある名曽野市の高層ビルの前に立っていた。ビルは夏の強い日差しを受け、壁や窓がピカピカと光っていた。
「……本当に行くの?」
陽斗は隣に立つ蒼劔を不安そうに見上げる。陽斗の背中にはパンパンに膨れたリュックがあった。
陽斗の疑問に対し、蒼劔は「あぁ」と頷いた。彼も陽斗のリュック以上に大きく膨れた風呂敷を背負っていたが、中身を風船と入れ替えたのかと疑ってしまうほど軽々と担いでいた。
「お前は俺の言った通りに動いてくれればいい。あとは任せろ」
「う、うん」
行くぞ、と蒼劔はビルのエントランスへと歩き出す。
陽斗も緊張した面持ちでリュックを背負い直し、共に入口の自動ドアをくぐった。
・
陽斗と蒼劔が名曽野市の高層ビルへ向かう二、三時間前。
自室の布団で寝ていた陽斗が目を覚ますと、蒼劔が押入れの中で風呂敷を広げ、何かを包もうとしていた。それは陽斗が今まで購入した、自称開運グッズだった。
「ちょ、ちょっと、蒼劔君?! 僕の開運グッズ、何処に持って行くつもり?!」
陽斗は布団から飛び起き、壺を風呂敷の上に置こうとした蒼劔の手を掴んだ。寝起きでぼーっとしていた意識が、一気に覚めた。
蒼劔は構わず壺を風呂敷の上に置きつつ、質問に答えた。
「全部返品しに行く」
「ぜ、全部?!」
陽斗は節木市に引っ越してきてからというものの、胡散臭い霊能力者や占い師から怪しげな開運グッズを買わされていた。
いずれも高額で、明らかに詐欺だったが、陽斗は彼らの話を信じ、押入れの中で大切に保管していた。
「調べたところ、これらのグッズは全て偽物だった。何らかの術が施されている訳でもなければ、特殊な力が込められている訳でもない。芸術品としても骨董品としても一切価値のない、パチモンだ」
「嘘ぉっ?!」
陽斗は両手で自分の頬を挟み、悲鳴を上げた。
「何で?! どうして?! 売ってくれた人はみんな、本物の開運グッズだって言ってたのに!」
「口だけならなんとでも言える。常人では見分けもつかんしな。そもそも、本物の魔具が表の世界に出てくることなど、滅多にないことだ」
「魔具って?」
蒼劔は他の開運グッズも風呂敷に包みながら説明した。
「お前の言う、開運グッズに近い代物だ。手軽に特殊な能力が使えるよう、道具に術や妖力が込められている。稀に、配送ミスで人間の店に商品として置かれていたり、路上に転がっていたりすることはあるが、表立って売られることはない。異形や術者が、一般人に魔具を売る事は禁止されているからな」
「ってことは……本物の魔具を使えば、僕の運気は上がるって事?! そうだよね!」
途端に、陽斗は目を輝かせる。自分に都合のいいことしか耳に入っていなかったらしい。
すかさず、蒼劔が彼の額を指で小突いた。
「あぅっ」
「魔具は強い効力を持っていれば持っているほど、相応の対価が必要になる。物によっては、命を落とすことだってあるんだぞ」
「そんなに強くなくていいよぉ。時間外労働が無くなるとか、給料の未払いが無くなるとか……ちょっとしたラッキーなことが起きてくれれば、それでいいんだってば」
「……お前は堅実そうに見えて、博打を打とうとする性格のようだ。後学のために、"猿の手"の話を聞かせてやろう」
「お猿さんの手?」
初めて聞くタイトルだった。
陽斗の頭の中で、可愛らしい猿のキャラクターが手で頭をかきながら、ぴょんぴょんと跳ねる。そのイメージから「子供向けのお話かな?」と陽斗は思い込んだ。
「イギリスの小説家、W・W・ジェイコブズが書いた短編小説だ。お前が望んでいるような能力を持つ道具が登場するぞ。返品しに行く道中に聞かせてやろう」
「わぁい、楽しみ! 珍しく日雇いのバイトが休みの日で良かったよー!」
正確には休みではなく、経営していた会社が検挙され、バイトそのものが無くなったからだったが、末端のバイトである陽斗には知らされていなかった。
陽斗は自分のリュックにも開運グッズを名残惜しそうに詰め、出かける支度を済ませた。
「それで、何処に行けば返品出来るの?」
「名曽野市だ。開運グッズと一緒に仕舞われていた保証書や請求書などの書類によれば、お前を騙した連中の元締めの会社や店が、その街に拠点を置いているらしい」
名曽野市は節木市よりも大きな街で、高層ビルが多く建ち並び、日夜観光客や学生で賑わっている。遠方から名曽野市の職場に通っている会社員も多く、夜は何処の居酒屋も仕事を終えた勤め人でごった返していた。
陽斗は一時期バイトで通っていたことはあるものの、働いて帰るだけだったため、詳しくは知らなかった。ただ、節木市の駅から名曽野市の駅まで電車で行くと片道いくらかかるのかだけは、ハッキリと覚えていた。
「……ってことは、電車を使うってこと? 僕、片道分のお金しか持ってないよ?」
「安心しろ。お前を騙した連中から金を取り戻せば、帰って来られる」
「そっか! じゃあ大丈夫だね!」
陽斗はホッとした。
一人で行っても取り戻せる自信はないが、今は蒼劔がいる。蒼劔ならば、どんな困難なことでも解決してくれる……そう陽斗は確信していた。
・
節木荘から歩いて十分ほどで、最寄りの節木駅に到着した。休日ともあり、構内は混雑している。
陽斗は緊張で手をぶるぶると震わせながら小銭をつまみ、切符を一枚購入した。
「五百円……帰りの分も合わせて、千円……千円もあったら、モヤシ何個買えるんだろう? ふふ、ふふふ……」
「陽斗、後がつかえてるぞ。早く買え」
「蒼劔君、もう切符買ったの?」
「俺は駅員には見えないから、いいんだよ」
改札を通り、プラットホームへ出ると、既に名曽野市行きの電車が止まっていた。車内は空いており、冷房が効いていて涼しかった。
陽斗は二人掛けの座席を選び、蒼劔と並んで座った。
「バイト以外で名曽野市に行くなんて、初めて! 遊びに行くわけじゃないって分かってても、ワクワクするよ!」
「そうか、良かったな。では、名曽野市に着くまで、"猿の手"の話を聞かせてやろう」
「よっ、待ってましたー!」
警笛が鳴り、陽斗と蒼劔を乗せた電車は名曽野市を目指して走り出した。
道中、蒼劔は約束通り、陽斗に「猿の手」の話を聞かせた。
陽斗は最初こそ、期待に満ちた眼差しで話を聞いていたが、徐々に話の流れが不穏になっていくにつれて、その表情は曇っていった。そして話が終わり、結末を知った頃には、虚な目で電車の天井を見上げていた。
「ボク、モウ運ニハ頼ラナイ」
「その方がいい。運に頼ると、余計な出費がかかるからな」
蒼劔は陽斗が購入した開運グッズの請求書と、その総額を思い返し、強く頷いた。
二人は節木市の隣にある名曽野市の高層ビルの前に立っていた。ビルは夏の強い日差しを受け、壁や窓がピカピカと光っていた。
「……本当に行くの?」
陽斗は隣に立つ蒼劔を不安そうに見上げる。陽斗の背中にはパンパンに膨れたリュックがあった。
陽斗の疑問に対し、蒼劔は「あぁ」と頷いた。彼も陽斗のリュック以上に大きく膨れた風呂敷を背負っていたが、中身を風船と入れ替えたのかと疑ってしまうほど軽々と担いでいた。
「お前は俺の言った通りに動いてくれればいい。あとは任せろ」
「う、うん」
行くぞ、と蒼劔はビルのエントランスへと歩き出す。
陽斗も緊張した面持ちでリュックを背負い直し、共に入口の自動ドアをくぐった。
・
陽斗と蒼劔が名曽野市の高層ビルへ向かう二、三時間前。
自室の布団で寝ていた陽斗が目を覚ますと、蒼劔が押入れの中で風呂敷を広げ、何かを包もうとしていた。それは陽斗が今まで購入した、自称開運グッズだった。
「ちょ、ちょっと、蒼劔君?! 僕の開運グッズ、何処に持って行くつもり?!」
陽斗は布団から飛び起き、壺を風呂敷の上に置こうとした蒼劔の手を掴んだ。寝起きでぼーっとしていた意識が、一気に覚めた。
蒼劔は構わず壺を風呂敷の上に置きつつ、質問に答えた。
「全部返品しに行く」
「ぜ、全部?!」
陽斗は節木市に引っ越してきてからというものの、胡散臭い霊能力者や占い師から怪しげな開運グッズを買わされていた。
いずれも高額で、明らかに詐欺だったが、陽斗は彼らの話を信じ、押入れの中で大切に保管していた。
「調べたところ、これらのグッズは全て偽物だった。何らかの術が施されている訳でもなければ、特殊な力が込められている訳でもない。芸術品としても骨董品としても一切価値のない、パチモンだ」
「嘘ぉっ?!」
陽斗は両手で自分の頬を挟み、悲鳴を上げた。
「何で?! どうして?! 売ってくれた人はみんな、本物の開運グッズだって言ってたのに!」
「口だけならなんとでも言える。常人では見分けもつかんしな。そもそも、本物の魔具が表の世界に出てくることなど、滅多にないことだ」
「魔具って?」
蒼劔は他の開運グッズも風呂敷に包みながら説明した。
「お前の言う、開運グッズに近い代物だ。手軽に特殊な能力が使えるよう、道具に術や妖力が込められている。稀に、配送ミスで人間の店に商品として置かれていたり、路上に転がっていたりすることはあるが、表立って売られることはない。異形や術者が、一般人に魔具を売る事は禁止されているからな」
「ってことは……本物の魔具を使えば、僕の運気は上がるって事?! そうだよね!」
途端に、陽斗は目を輝かせる。自分に都合のいいことしか耳に入っていなかったらしい。
すかさず、蒼劔が彼の額を指で小突いた。
「あぅっ」
「魔具は強い効力を持っていれば持っているほど、相応の対価が必要になる。物によっては、命を落とすことだってあるんだぞ」
「そんなに強くなくていいよぉ。時間外労働が無くなるとか、給料の未払いが無くなるとか……ちょっとしたラッキーなことが起きてくれれば、それでいいんだってば」
「……お前は堅実そうに見えて、博打を打とうとする性格のようだ。後学のために、"猿の手"の話を聞かせてやろう」
「お猿さんの手?」
初めて聞くタイトルだった。
陽斗の頭の中で、可愛らしい猿のキャラクターが手で頭をかきながら、ぴょんぴょんと跳ねる。そのイメージから「子供向けのお話かな?」と陽斗は思い込んだ。
「イギリスの小説家、W・W・ジェイコブズが書いた短編小説だ。お前が望んでいるような能力を持つ道具が登場するぞ。返品しに行く道中に聞かせてやろう」
「わぁい、楽しみ! 珍しく日雇いのバイトが休みの日で良かったよー!」
正確には休みではなく、経営していた会社が検挙され、バイトそのものが無くなったからだったが、末端のバイトである陽斗には知らされていなかった。
陽斗は自分のリュックにも開運グッズを名残惜しそうに詰め、出かける支度を済ませた。
「それで、何処に行けば返品出来るの?」
「名曽野市だ。開運グッズと一緒に仕舞われていた保証書や請求書などの書類によれば、お前を騙した連中の元締めの会社や店が、その街に拠点を置いているらしい」
名曽野市は節木市よりも大きな街で、高層ビルが多く建ち並び、日夜観光客や学生で賑わっている。遠方から名曽野市の職場に通っている会社員も多く、夜は何処の居酒屋も仕事を終えた勤め人でごった返していた。
陽斗は一時期バイトで通っていたことはあるものの、働いて帰るだけだったため、詳しくは知らなかった。ただ、節木市の駅から名曽野市の駅まで電車で行くと片道いくらかかるのかだけは、ハッキリと覚えていた。
「……ってことは、電車を使うってこと? 僕、片道分のお金しか持ってないよ?」
「安心しろ。お前を騙した連中から金を取り戻せば、帰って来られる」
「そっか! じゃあ大丈夫だね!」
陽斗はホッとした。
一人で行っても取り戻せる自信はないが、今は蒼劔がいる。蒼劔ならば、どんな困難なことでも解決してくれる……そう陽斗は確信していた。
・
節木荘から歩いて十分ほどで、最寄りの節木駅に到着した。休日ともあり、構内は混雑している。
陽斗は緊張で手をぶるぶると震わせながら小銭をつまみ、切符を一枚購入した。
「五百円……帰りの分も合わせて、千円……千円もあったら、モヤシ何個買えるんだろう? ふふ、ふふふ……」
「陽斗、後がつかえてるぞ。早く買え」
「蒼劔君、もう切符買ったの?」
「俺は駅員には見えないから、いいんだよ」
改札を通り、プラットホームへ出ると、既に名曽野市行きの電車が止まっていた。車内は空いており、冷房が効いていて涼しかった。
陽斗は二人掛けの座席を選び、蒼劔と並んで座った。
「バイト以外で名曽野市に行くなんて、初めて! 遊びに行くわけじゃないって分かってても、ワクワクするよ!」
「そうか、良かったな。では、名曽野市に着くまで、"猿の手"の話を聞かせてやろう」
「よっ、待ってましたー!」
警笛が鳴り、陽斗と蒼劔を乗せた電車は名曽野市を目指して走り出した。
道中、蒼劔は約束通り、陽斗に「猿の手」の話を聞かせた。
陽斗は最初こそ、期待に満ちた眼差しで話を聞いていたが、徐々に話の流れが不穏になっていくにつれて、その表情は曇っていった。そして話が終わり、結末を知った頃には、虚な目で電車の天井を見上げていた。
「ボク、モウ運ニハ頼ラナイ」
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