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第3話「贄原くんの災厄な五日間」後編
3日目:レストラン山根亭②
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その頃、客席の清掃を終えた陽斗は、何故か厨房に呼び出されていた。
店の外観からは想像出来ないほど厨房は広く、奥へと続いている。何処の調理場もコックで埋まっており、皆忙しなく働いていた。
「開店まで残り1時間! 急いで!」
「メインの肉、焼けた?!」
「お皿無いよ!」
時折怒号が飛び交う中、陽斗は自分を呼び出したコックの後をついて歩いていた。
「あの、何の御用でしょうか?」
一向に用件を話さないコックに痺れを切らし、陽斗から質問した。
陽斗を呼び出したのは、糸のように細い目をしたコックだった。クルクルにカールした前髪の一部がコック帽からはみ出ている。陽斗は気づいていなかったが、コックの制服の胸元には「山根彦丸」と刺繍されていた。
コックは正面を向いたまま、大きな口をニッコリさせて陽斗の問いに答えた。
「ご覧の通り、人手不足でしてね。君にも手伝ってもらいたいと思いまして」
「で、でも僕、簡単な料理しか出来ないんですけど!」
「大丈夫。君には料理で使う食材を持ってきて頂きたいのですよ」
暫く歩き、厨房の最奥にたどり着いた。調理台は有るが倉庫として使われており、誰もいない。
コックは最奥の壁に置かれた木製の棚へ歩み寄ると、棚の下段にある扉を開けた。
扉の先には地下へと続く階段が伸びていた。暗くて先までは見えないが、かなり深そうだ。
「この階段の先に冷凍室がございます。君はこのメモに書かれた通りの材料を持ってきて下さい。上着は入口にかけてありますから」
「わ、分かりました」
陽斗は四つ折りのメモを受け取り、棚の扉をくぐった。階段の入り口は陽斗が屈んでやっと入れるくらいの狭さだったが、階段は天井が高く、すぐに立ち上がることが出来た。
センサーがついているのか、陽斗が扉から中へ入ると、天井の蛍光灯が自動で点いた。真っ暗だった階段が明るくなり、陽斗はホッとする。
「では、よろしくお願いしますよ」
コックは扉の向こうで微笑み、扉を閉める。
陽斗はコックを振り返り「了解しました!」と敬礼すると、意気揚々と階段を降っていった。急な階段で、壁に手を当てながら慎重に進んだ。
その様子を扉の隙間から見つめていたコックは満足そうにニンマリと笑みを浮かべた。
「早くして下さいね。待ってますから」
コックの口角は耳まで裂け、サメの歯のようにギザギザに尖った歯が口の中に並んでいるのが見えていた。
・
陽斗が階段を降りる度に、足音が反響して聞こえた。階段の温度もだんだん下がり、冷凍室が近づいているのだと分かった。
階段は1本道で、奥に鉄のドアがあるのが見えた。
「あそこが冷蔵室か……」
陽斗は何の疑いもなく進み、冷凍室の入口へたどり着いた。コックの言った通り、ドアの横のフックに防寒用の茶色いコートがかけてあった。
「こんなことなら、蒼劔君に着ぐるみを持ってきてもらうんだったなぁ。結構あったかいんだよねぇ。それにしても、蒼劔君も朱羅さんもどうしていないんだろう? トイレかな?」
陽斗はコートのチャックをしっかり閉め、コートのポケットに入っていた手袋を両手に嵌めると、万全の体制で冷凍室へと足を踏み入れた。階段同様、冷凍室も自動的に電灯が点く。
ドアを潜った途端に、季節外れの冷気が陽斗の体に伝わってきた。
「寒っ!」
冷凍室は極寒だった。外の暑さが嘘のように寒く、壁に設置された温度計はマイナス30度を指していた。
冷凍室には天井に届くほどの巨大なラックが整然と並び、幾つもの発泡スチロールの箱が置かれていた。何が入っているのか、外からでは分からない。
部屋自体はかなり広く、陽斗が通う節木高校の体育館と同じくらいの広さだった。
背後でドアがゆっくりと閉まり、完全に外気を遮断した。
「は、早く材料持って帰ろう……」
あまりの寒さに震えながら、陽斗はコックから受け取ったメモを開いた。
そこには何も書かれていなかった。目をこすって見ても、透かして見ても、何も浮き出てこない。白紙だった。
「あのコックさん、間違って渡しちゃったんだ! 早く戻らないと!」
陽斗がドアを開けようとしたその時、陽斗の背後から青い何かが飛んできた。青い何かは陽斗の顔面スレスレを通り、ドアに突き刺さった。
「うわっ?!」
陽斗は思わずドアから飛び退く。
それは陽斗の手と同じくらいの大きさの、青い紡錘形のプレートだった。全体的に丸みを帯びており、陽斗は「蓮の花弁みたいだな」と思った。
次第に、ドアからミシミシと音が聞こえてきた。よく見るとプレートを中心にドアが凍りついており、霜で白くなっていた。
「嘘っ?! どうなってるの?!」
慌てて陽斗はドアへ駆け寄ろうとしたが、
「やめときな」
背後から声が聞こえて足を止めた。そのまま反射的に振り返る。
陽斗から2、3メートル離れた位置に、陽斗と同い年くらいの少女が立っていた。
この極寒の中、肩を露出したミニ丈の青い着物を纏い、腰まである長い髪に青い蓮の花の髪飾りをつけている。
その髪の色は青く、目は赤く、額に2本の水色のツノが生えていた。
明らかに異常な格好をした少女だったが、陽斗は彼女の額を見てようやく鬼だと気づいた。
「君……もしかして鬼?」
「そうだよ」
少女は青い鼻緒の黒い草履をカラコロと鳴らしながら近づいてくる。
陽斗は凍りついたドアに触れないよう後退り、少女から距離を取った。プレートが飛んできた方向からして、彼女がプレートを投げつけたのだと気づいた。
「ぼ、僕を殺しに来たの? さっきの花弁みたいなのは何?!」
「あれは氷天華。触れた物を凍らせる花の花弁さ。お前さんにはここで凍ってもらう」
「なっ……! 何でそんなことするの?!」
「それがアタシの仕事だからさ」
少女は指と指の間に新たな氷天華の花弁を出現させ、陽斗に投げつける。
陽斗は花弁が当たる寸前で、ラックに置かれた箱を盾にし、攻撃をやり過ごした。目の前で箱がジワジワと凍りついていく様子を見て、悲鳴を上げた。
「うわぁぁっ!」
陽斗は悲鳴を上げたまま、全速力で壁とラックの間を駆け抜ける。冷凍室は入口から見て横長で、ラックの端から端まではかなり距離があった。
少女はゆっくりと壁とラックの間まで歩き、必死に逃げようとする陽斗の背中に向かって花弁を投げつける。氷天華の花弁は普通のフワフワとした花弁とは違い、硬質で、陽斗の背中を目掛けて真っ直ぐ飛んで行った。
しかし、花弁が背中に直撃する寸前で何かに弾かれ、力なく床へ落下した。
その間に陽斗はラックの端までたどり着き、ラックの陰に隠れた。これならラックの右から攻撃が来ても左から攻撃が来ても、ラックを盾にして身を守れる。陽斗は荒く白い息を吐いた。空気が冷たいせいで、呼吸がし辛い。
少女は落下し、床を凍らせていた花弁を拾い上げ、ラックの向こうにいる陽斗を睨んだ。
「……結界か。人間の分際で、忌々しいね」
少女は今し方拾い上げた花弁を握り、手の中で粉々に砕くと、陽斗が隠れている方向へ投げた。
花弁の欠片は箱と箱の隙間を通って陽斗まで到達したが、全て彼がポケットに入れていた水晶のブレスレットの効力で弾かれた。そのまま陽斗の背後に置かれていた箱へ跳ね、箱を凍らせる。
陽斗は背後から聞こえた「ミシミシ」という音で、箱が凍っているのに気づき、驚いた。
「なんなの、あの花弁! 本当に僕を凍らせるつもり?!」
慌てて、隣のラックの陰へ移動する。少女も陽斗の動きは読んでいたのか、走る陽斗に向かって新たに花弁を数枚放ったが、いずれも弾かれた。
「……彼奴からは膨大な霊力を感じるが、術を使っている素振りは見えない。何か魔具を使っておるのか? ならば、効力に限界があるはず」
少女は両手の全ての指と指の間に青い花弁のプレートを挟み、ラックに隠れた陽斗を睨みつけた。
「出てこい、小僧! 潔く出て来た方が身のためだぞ!」
陽斗はラックの陰に隠れたまま「やだよ!」と拒んだ。
「君、黒縄君の仲間なんでしょ?! 地獄八鬼っていう悪い鬼のグループに所属してた鬼なんでしょ?! 君達が僕を拐おうとしてるのは知ってるんだからね! 蒼劔君と朱羅君が助けに来るまで、絶対逃げのびてやるんだから!」
「何を言っているのか知らんが、聞かぬというなら凍てつけ!」
少女は右腕を振りかぶり、右手の指と指の間に挟んでいた花弁を陽斗に向かって投げつけた。間髪入れずに左腕も振りかぶり、左手の指と指の間に挟んでいた花弁を投げつける。その間に右手の花弁を補充し、休みなく攻撃を続けた。
「ひぃぃぃっ!」
陽斗はラックの後ろで身をかがめ、両手で頭を守る。いずれの花弁も水晶のブレスレットの効力で弾かれたが、花弁を弾くたびに、水晶は輝きを失っていった。
「こ、こんなことならスマホを置いてくるんじゃなかったよ! 蒼劔君、朱羅君、五代君……誰でもいいから助けてー!」
陽斗は大声で助けを求めた。しかし地下の冷凍室の声は地上の厨房ですら届かず、階段で途切れた。
冷凍室に行ったきり戻って来ない新人を気にかける余裕のある人間は、この場にはいなかった。
「山根料理長、贄原を見ませんでしたか? 今日入ったウェイターなんですけど、どっか行ったまま戻って来なくって」
ただ1人、同じウェイターの青年だけが陽斗の不在に気づき、厨房のコックに尋ねたが、
「さぁ。私も見ていませんねぇ。急用でも思い出して、帰ったのかもしれません」
「マジっすか?! 前のバイトも、その前のバイトも、急にいなくなりましたよね?! どうなってんだよ、アイツら……!」
コックは平然と嘘をつき、誤魔化した。ウェイターの青年はコックの嘘を真に受け、腹立たしそうに舌打ちながら持ち場へ戻っていく。
コックは彼の後ろ姿を見て「彼もそろそろですねぇ」と不気味な笑みを浮かべた。
なお、五代は陽斗のピンチを知ることも、その情報を蒼劔と朱羅に伝えることも出来たのだが、
「アニメライブサマーバケーション、サイコー!」
ネットで配信されていた大規模なライブイベントに夢中で、全く気づいていなかった。
店の外観からは想像出来ないほど厨房は広く、奥へと続いている。何処の調理場もコックで埋まっており、皆忙しなく働いていた。
「開店まで残り1時間! 急いで!」
「メインの肉、焼けた?!」
「お皿無いよ!」
時折怒号が飛び交う中、陽斗は自分を呼び出したコックの後をついて歩いていた。
「あの、何の御用でしょうか?」
一向に用件を話さないコックに痺れを切らし、陽斗から質問した。
陽斗を呼び出したのは、糸のように細い目をしたコックだった。クルクルにカールした前髪の一部がコック帽からはみ出ている。陽斗は気づいていなかったが、コックの制服の胸元には「山根彦丸」と刺繍されていた。
コックは正面を向いたまま、大きな口をニッコリさせて陽斗の問いに答えた。
「ご覧の通り、人手不足でしてね。君にも手伝ってもらいたいと思いまして」
「で、でも僕、簡単な料理しか出来ないんですけど!」
「大丈夫。君には料理で使う食材を持ってきて頂きたいのですよ」
暫く歩き、厨房の最奥にたどり着いた。調理台は有るが倉庫として使われており、誰もいない。
コックは最奥の壁に置かれた木製の棚へ歩み寄ると、棚の下段にある扉を開けた。
扉の先には地下へと続く階段が伸びていた。暗くて先までは見えないが、かなり深そうだ。
「この階段の先に冷凍室がございます。君はこのメモに書かれた通りの材料を持ってきて下さい。上着は入口にかけてありますから」
「わ、分かりました」
陽斗は四つ折りのメモを受け取り、棚の扉をくぐった。階段の入り口は陽斗が屈んでやっと入れるくらいの狭さだったが、階段は天井が高く、すぐに立ち上がることが出来た。
センサーがついているのか、陽斗が扉から中へ入ると、天井の蛍光灯が自動で点いた。真っ暗だった階段が明るくなり、陽斗はホッとする。
「では、よろしくお願いしますよ」
コックは扉の向こうで微笑み、扉を閉める。
陽斗はコックを振り返り「了解しました!」と敬礼すると、意気揚々と階段を降っていった。急な階段で、壁に手を当てながら慎重に進んだ。
その様子を扉の隙間から見つめていたコックは満足そうにニンマリと笑みを浮かべた。
「早くして下さいね。待ってますから」
コックの口角は耳まで裂け、サメの歯のようにギザギザに尖った歯が口の中に並んでいるのが見えていた。
・
陽斗が階段を降りる度に、足音が反響して聞こえた。階段の温度もだんだん下がり、冷凍室が近づいているのだと分かった。
階段は1本道で、奥に鉄のドアがあるのが見えた。
「あそこが冷蔵室か……」
陽斗は何の疑いもなく進み、冷凍室の入口へたどり着いた。コックの言った通り、ドアの横のフックに防寒用の茶色いコートがかけてあった。
「こんなことなら、蒼劔君に着ぐるみを持ってきてもらうんだったなぁ。結構あったかいんだよねぇ。それにしても、蒼劔君も朱羅さんもどうしていないんだろう? トイレかな?」
陽斗はコートのチャックをしっかり閉め、コートのポケットに入っていた手袋を両手に嵌めると、万全の体制で冷凍室へと足を踏み入れた。階段同様、冷凍室も自動的に電灯が点く。
ドアを潜った途端に、季節外れの冷気が陽斗の体に伝わってきた。
「寒っ!」
冷凍室は極寒だった。外の暑さが嘘のように寒く、壁に設置された温度計はマイナス30度を指していた。
冷凍室には天井に届くほどの巨大なラックが整然と並び、幾つもの発泡スチロールの箱が置かれていた。何が入っているのか、外からでは分からない。
部屋自体はかなり広く、陽斗が通う節木高校の体育館と同じくらいの広さだった。
背後でドアがゆっくりと閉まり、完全に外気を遮断した。
「は、早く材料持って帰ろう……」
あまりの寒さに震えながら、陽斗はコックから受け取ったメモを開いた。
そこには何も書かれていなかった。目をこすって見ても、透かして見ても、何も浮き出てこない。白紙だった。
「あのコックさん、間違って渡しちゃったんだ! 早く戻らないと!」
陽斗がドアを開けようとしたその時、陽斗の背後から青い何かが飛んできた。青い何かは陽斗の顔面スレスレを通り、ドアに突き刺さった。
「うわっ?!」
陽斗は思わずドアから飛び退く。
それは陽斗の手と同じくらいの大きさの、青い紡錘形のプレートだった。全体的に丸みを帯びており、陽斗は「蓮の花弁みたいだな」と思った。
次第に、ドアからミシミシと音が聞こえてきた。よく見るとプレートを中心にドアが凍りついており、霜で白くなっていた。
「嘘っ?! どうなってるの?!」
慌てて陽斗はドアへ駆け寄ろうとしたが、
「やめときな」
背後から声が聞こえて足を止めた。そのまま反射的に振り返る。
陽斗から2、3メートル離れた位置に、陽斗と同い年くらいの少女が立っていた。
この極寒の中、肩を露出したミニ丈の青い着物を纏い、腰まである長い髪に青い蓮の花の髪飾りをつけている。
その髪の色は青く、目は赤く、額に2本の水色のツノが生えていた。
明らかに異常な格好をした少女だったが、陽斗は彼女の額を見てようやく鬼だと気づいた。
「君……もしかして鬼?」
「そうだよ」
少女は青い鼻緒の黒い草履をカラコロと鳴らしながら近づいてくる。
陽斗は凍りついたドアに触れないよう後退り、少女から距離を取った。プレートが飛んできた方向からして、彼女がプレートを投げつけたのだと気づいた。
「ぼ、僕を殺しに来たの? さっきの花弁みたいなのは何?!」
「あれは氷天華。触れた物を凍らせる花の花弁さ。お前さんにはここで凍ってもらう」
「なっ……! 何でそんなことするの?!」
「それがアタシの仕事だからさ」
少女は指と指の間に新たな氷天華の花弁を出現させ、陽斗に投げつける。
陽斗は花弁が当たる寸前で、ラックに置かれた箱を盾にし、攻撃をやり過ごした。目の前で箱がジワジワと凍りついていく様子を見て、悲鳴を上げた。
「うわぁぁっ!」
陽斗は悲鳴を上げたまま、全速力で壁とラックの間を駆け抜ける。冷凍室は入口から見て横長で、ラックの端から端まではかなり距離があった。
少女はゆっくりと壁とラックの間まで歩き、必死に逃げようとする陽斗の背中に向かって花弁を投げつける。氷天華の花弁は普通のフワフワとした花弁とは違い、硬質で、陽斗の背中を目掛けて真っ直ぐ飛んで行った。
しかし、花弁が背中に直撃する寸前で何かに弾かれ、力なく床へ落下した。
その間に陽斗はラックの端までたどり着き、ラックの陰に隠れた。これならラックの右から攻撃が来ても左から攻撃が来ても、ラックを盾にして身を守れる。陽斗は荒く白い息を吐いた。空気が冷たいせいで、呼吸がし辛い。
少女は落下し、床を凍らせていた花弁を拾い上げ、ラックの向こうにいる陽斗を睨んだ。
「……結界か。人間の分際で、忌々しいね」
少女は今し方拾い上げた花弁を握り、手の中で粉々に砕くと、陽斗が隠れている方向へ投げた。
花弁の欠片は箱と箱の隙間を通って陽斗まで到達したが、全て彼がポケットに入れていた水晶のブレスレットの効力で弾かれた。そのまま陽斗の背後に置かれていた箱へ跳ね、箱を凍らせる。
陽斗は背後から聞こえた「ミシミシ」という音で、箱が凍っているのに気づき、驚いた。
「なんなの、あの花弁! 本当に僕を凍らせるつもり?!」
慌てて、隣のラックの陰へ移動する。少女も陽斗の動きは読んでいたのか、走る陽斗に向かって新たに花弁を数枚放ったが、いずれも弾かれた。
「……彼奴からは膨大な霊力を感じるが、術を使っている素振りは見えない。何か魔具を使っておるのか? ならば、効力に限界があるはず」
少女は両手の全ての指と指の間に青い花弁のプレートを挟み、ラックに隠れた陽斗を睨みつけた。
「出てこい、小僧! 潔く出て来た方が身のためだぞ!」
陽斗はラックの陰に隠れたまま「やだよ!」と拒んだ。
「君、黒縄君の仲間なんでしょ?! 地獄八鬼っていう悪い鬼のグループに所属してた鬼なんでしょ?! 君達が僕を拐おうとしてるのは知ってるんだからね! 蒼劔君と朱羅君が助けに来るまで、絶対逃げのびてやるんだから!」
「何を言っているのか知らんが、聞かぬというなら凍てつけ!」
少女は右腕を振りかぶり、右手の指と指の間に挟んでいた花弁を陽斗に向かって投げつけた。間髪入れずに左腕も振りかぶり、左手の指と指の間に挟んでいた花弁を投げつける。その間に右手の花弁を補充し、休みなく攻撃を続けた。
「ひぃぃぃっ!」
陽斗はラックの後ろで身をかがめ、両手で頭を守る。いずれの花弁も水晶のブレスレットの効力で弾かれたが、花弁を弾くたびに、水晶は輝きを失っていった。
「こ、こんなことならスマホを置いてくるんじゃなかったよ! 蒼劔君、朱羅君、五代君……誰でもいいから助けてー!」
陽斗は大声で助けを求めた。しかし地下の冷凍室の声は地上の厨房ですら届かず、階段で途切れた。
冷凍室に行ったきり戻って来ない新人を気にかける余裕のある人間は、この場にはいなかった。
「山根料理長、贄原を見ませんでしたか? 今日入ったウェイターなんですけど、どっか行ったまま戻って来なくって」
ただ1人、同じウェイターの青年だけが陽斗の不在に気づき、厨房のコックに尋ねたが、
「さぁ。私も見ていませんねぇ。急用でも思い出して、帰ったのかもしれません」
「マジっすか?! 前のバイトも、その前のバイトも、急にいなくなりましたよね?! どうなってんだよ、アイツら……!」
コックは平然と嘘をつき、誤魔化した。ウェイターの青年はコックの嘘を真に受け、腹立たしそうに舌打ちながら持ち場へ戻っていく。
コックは彼の後ろ姿を見て「彼もそろそろですねぇ」と不気味な笑みを浮かべた。
なお、五代は陽斗のピンチを知ることも、その情報を蒼劔と朱羅に伝えることも出来たのだが、
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