贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第4話「贄原くんの災厄な五日間 黒縄の逆襲」

5日目:花火大会後編(エピローグ)

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 五代がかき氷を飲み込むと、朱羅が立て続けに熱々のたこ焼きを口へ突っ込もうとした。
 五代に用がある陽斗は慌てて朱羅を止め、「ヒィヒィ」と呼吸を整えている五代に尋ねた。
「ねぇ、五代さんって人間と関係があるの? 蒼劔君も、焦熱君と炎熱君も言ってたよ?」
「あー……それはね」
 五代は朱羅が買ってきたお茶を飲み、ホッと息を吐くと、神妙な面持ちで答えた。
「俺、なのよ」
「えっ?」
「何ですって?!」
 陽斗はもちろん、朱羅も驚く。
 屋台の上で宇治金時のかき氷を食べ終えた蒼劔と、上空で暴れていた黒縄も「ん?」「あん?」と五代を振り返り、そろって降りてきた。
 焦熱と炎熱は五代に興味がないため、向かいの射的の屋台の景品を炎の弾で勝手に落として遊んでいる。
「どういうことだ、そりゃ」
「詳しく説明しろ」
「もしかして、蒼劔君と黒縄君も知らなかったの?」
「コイツはテメェのことは全く、喋らねぇヤツだからな」
「聞かれないよう、アニメだの漫画だのの話で濁していた」
 ものすごい剣幕で詰め寄ってくる蒼劔と黒縄に、五代は苦笑いしながら「聞かれるとマズかったんで」と答えた。
「増え続ける異形に対抗するべく、ある術者一族が“自分達に都合のいい妖怪”を人工的に作ってたんすよ。俺の場合は“異形の居場所を瞬時に探し当てる、五感に優れた妖怪”を作るため、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、それぞれ最も秀でた能力を持つ妖怪5体をベースに合成して作られた。ただ、このままの状態だと自我を持たず、制御が利かない。そこで、1。俺から人間の気配がかすかにするのは、そのせいだね。その術者は相手の心や過去を読み取ったり、未来を予知する術を得意としていたそうっす。結果、この術者の能力も相まって、拙者は最強の妖怪になったというわけ。ま、そのせいで色んな術者に狙われてるんすけどね。てへぺろ」
「……そのようなことが、許されるのですか?」
 五代は最後にふざけたが、一同の術者への憤りはおさまらなかった。
「許される訳がねぇッ! 妖怪の合成は術者共の間でも禁術になっているはずだ! ましてや、人間を素材にするなんざ……あり得ねぇッ!」
「五代、そいつらは何処のどいつだ。今すぐ答えろ」
 五代は蒼劔に睨まれ、震え上がりながらも「もういないよ!」と答えた。
鍋暗敷なべくらしきっていう名前の一族だったけど、一族の方針をよく思ってなかった術者にみーんな殺されていなくなっちった。お陰で、監禁されてた俺達は解放されて自由の身になったけどネ。ビバ! フリーダムッ!」
「じゃあ、もしその術者さんが五代さんを助けてくれなかったら、五代さんはここにいなかったんだね」
 陽斗の言葉に、特撮ヒーローの変身ポーズで喜びを表していた五代は神妙な顔をして「うん」と頷いた。
「鍋暗敷にいた頃は毎日が苦痛でしかなかったし、解放された後も他の術者とか鬼とかに狙われないか心配で不眠症にもなったけど、アニメや漫画やラノベに出会ってからは毎日がはっぴぃぃぃッ! って感じで、超充実してるし、今まで死に物狂いで生き延びてきて良かったにゃぁって思えるんだよね」
 その時、轟音と共に花火が夜空に打ち上げられた。
 夏祭りの会場となっている大通りの先、高いビルもなく、ちょうどひらけている空に、色とりどりの花火が次々に打ち上がる。花火が夜空に咲くたびに、会場からは歓声が上がった。
 陽斗達一同も屋台の裏から空を見上げ、咲いては消えていく炎の花に目を奪われた。
「綺麗だね」
「あぁ」
 五代に詰め寄っていた蒼劔も陽斗の隣に立ち、目を細める。
「花火など、久しぶりに見た」
「僕もだよ。来年もみんなと見たいね」
 するとそれを聞いた黒縄は「俺は御免だね」と、朱羅から奪ったたこ焼きを頬張りながら言った。
「来年もテメェらといるってことは、俺の体が元に戻ってねぇってことだろ? 縁起悪いぜ」
「そっか……」
 黒縄に否定され、陽斗は落ち込む。
 何の根拠もなかったが、陽斗には来年もまた彼らと花火を見ているような気がしていた。来年だけではない。再来年も、その先もずっと、共に同じ時を過ごしているような気がしていたのだ。
 陽斗が彼らと出会ったのはつい最近だというのに、もっと前からずっと一緒にいる感覚だった。
「でも……僕は黒縄君が元に戻っても、一緒に花火が見たいな。もちろん、蒼劔君や朱羅さん、五代さん、焦熱と炎熱とも!」
「……そうかよ」
 黒縄は冷めたたこ焼きを一気に口へ放り込み、口の中をモガモガさせながら言った。
勝手ふぁっふぇにひろ、陽斗ふぁるふぉ
「黒縄君、なんて言ったのか分かんないよ」
 黒縄の滑舌の悪さと花火の轟音、観客達の歓声で、陽斗は黒縄に自分の名前が呼ばれたことに気づかなかった。
 しかし、黒縄の心の中を読んだ五代は「圧倒的☆ツンデレ」と黒縄を囃し立て、彼に靴の上から爪先を思い切り踏まれた。五代の悲鳴は、花火の音でかき消された。

         ・

「焦熱君、炎熱君、花火どうだった?」
 花火が終わった後、陽斗は屋台の上から降りてきた双子に尋ねた。
「すごかった!」
「おっきかった!」
「キラキラだった!」
「あっという間に消えた!」
「炎とは思えない!」
「また見たい!」
 目を花火の光のようにキラキラさせ、交互に感動を伝える2人に、陽斗も顔をほころばせた。
「良かったねぇ。君達はあんな大人達になっちゃダメだからね」
 陽斗が指差した先には、五代の服にセミの抜け殻をつけまくっている鬼達がいた。
 五代は全身のセミの抜け殻の記憶が際限なく頭に流れ込み、もがいている。
「また仕事をサボらないよう、灸を据えておかねばな」
「何がツンデレだ! 勝手に俺の頭ン中覗きやがって!」
「セミの抜け殻ファッション、ちょっとオシャレじゃないですか?」
「う、埋もれる……土に埋もれる……!」
 焦熱と炎熱は4人の異形達へ冷たい視線を送り、
「馬鹿馬鹿しい」
「僕らはあんな子供じみたことはしない」
と言い切った。

         ・

 花火大会が終わり、ビルの屋上から花火を見ていた矢雨は「そろそろ行こうかな」と、眼下にいる陽斗達を見下ろした。
「やはり、蒼劔と関わっても一銭にもならない。その点、花火はいいね。あれだけコストのかかるものがタダで見られるなんて、素晴らしいエンターテインメントだ」
 ふと、矢雨は手に持っていた巨大な林檎飴に目をやり、ため息をついた。それは、今まさに陽斗がバイトをしている屋台のジャンボ林檎飴だった。
 こっそり奪ったものではない。変装し、気配を消した彼が、陽斗から買った林檎飴だったのだが、蒼劔達の誰もが矢雨の正体に気づくことはなかった。
「これ、どうしよう? 冷やかしに買いに行ったはいいものの、まさか誰にも気づかれないとは……」
 矢雨は人間の食べ物には興味がなかったが、試しにジャンボ林檎飴を一口食べてみた。
「あ、意外と美味しい」

(第4話「黒縄の逆襲」終わり)
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