贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第5話「節木高校七不思議」

拾肆:学校からの脱出

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 その時、外から黒い鎖の破片が2つ投げ込まれた。校舎の壁をすり抜け、それぞれ東階段と西階段の手前の壁に突き刺さる。
 鎖の破片は階段を塞ぐように長い鎖を形成し、最後の破片が反対側の壁に突き刺さると、鎖の真ん中から黒い錠前が生み出された。
 すると、たったそれだけで霊達は鎖の先に進めなくなり、その場に留まった。霊の流れは完全にストップし、徐々に1階の霊が減っていく。
 蒼劔もそのことに気づき、窓から外を見上げた。
「遅いぞ、黒縄。迷子にでもなっていたのか?」
 彼の視線の先には、黒縄が立っていた。正門近くにある電柱の上に立ち、鎖の破片を弄んでいる。
 蒼劔は霊を斬る手は止めず、陽斗を振り返った。
「陽斗、今のうちに脱出するぞ。他の連中にもそう伝えろ」
「分かった! みんな、行くよー!」
 陽斗は蒼劔の後に続き、走り出す。
「ほら、部長。行きますよ」
「待ってー! あと1枚だけー!」
 遠井は岡本の襟首をつかみ、引っ張る。岡本は名残惜しそうにスマホを連写しながら、連行されていった。
 その後ろを不知火が成田を背負い、ついて来る。
「……」
 不知火は廊下を去る一瞬、電柱の上に立っている黒縄を一瞥し、眉をひそめた。
 明らかに黒縄が見えているようだったが、当の黒縄は階段で立ち往生している大勢の霊に夢中で、気づいていなかった。
「ぶはははっ! 何だ、あの霊の数! いくらなんでも、多過ぎんだろ! キモい通り越して、笑えるわ! ホント、行かなくて大正解だったぜ!」
 呑気に階段の霊達を指差し、爆笑している。
 彼は五代経由で蒼劔からSOSを受け取り、渋々助けに来たのだった。朱羅もついて来ようとしたが、五代の護衛を押しつけて、節木荘に置いてきた。
 ひとしきり笑うと、黒縄はいつもの意地の悪そうな笑みを浮かべ、黒い瞳を爛々らんらんと輝かせた。
「しっかし、これは蒼劔ヤツにとって、でっかい貸しになるな。コレをダシに、クソガキに何をやらせようか……」
 ニヤニヤと笑いながら、候補の妖怪を何体か思い浮かべる。
 ふと、黒縄は実習棟の屋上に猫の面をつけた女子生徒が立っているのを見つけ、顔をしかめた。
 女子生徒は屋上を囲う緑のフェンスの前に立ち、向かいの教室棟を眺めていた。
「何だ、あの女? 人間なんだか、なんだか、ワカンねぇ体してンな。取り憑かれてンのか?」
 そのまま黒縄が女子生徒を観察していると、女子生徒も黒縄の気配に気づき、ハッと顔を向けた。面で隠れていて表情は分からないが、ひどく驚き、両手で頭を抱える。
「変なヤツだな……俺のこと、知ってンのか? 一応、挨拶しとくか」
 黒縄は女子生徒の行動に首を傾げながらも、電柱から屋上へ跳躍し、フェンスの上へ着地した。
「おい、お前。何処のどいつだ? その人間に取り憑いてンだろ?」
「ギャーッ! 何で来んのよ、馬鹿! さっさと、この町から出て行きなさい!」
 途端に女子生徒は悲鳴を上げ、慌てて校舎へ戻っていった。
「あァ?! 馬鹿とは何だ、馬鹿とは! テメェこそ、人の顔見て逃げてンじゃねェ!」
 黒縄も女子生徒の後を追い、校舎の中へ続くドアを開いたが、階段の下に霊達が集まっているのを見て、すぐに閉めた。
「あっぶねェ……危うく、突撃するとこだったぜ。蒼劔とクソガキも脱出したみてェだし、あの女の言う通り、さっさと帰るか」
 屋上から下を見下ろすと、校舎から脱出した陽斗と蒼劔、オカルト研究部の面々が正門の外に集まっていた。
 校庭にも霊は何体かいたが、正門から外には出られないようで、恨めしそうに蒼劔を見ていた。
 黒縄は眠そうにあくびをすると、蒼劔に見つからないよう迂回し、節木荘へ帰っていった。

         ・

 蒼劔は黒縄の気配が遠ざかったのを感じ、「あいつ、勝手に帰ったな」と眉根を寄せた。
「まぁ、いい。学校からは無事脱出できた。あとは、成田と神服部を除霊させるだけだ」
 その時、陽斗に背負われていた神服部が目を覚ました。
「ん……ここ、どこ?」
「あ! 神服部さん、おはよう!」
 陽斗は神服部が霊に憑依されていることも忘れ、にこやかに声をかける。
 神服部は一瞬、何が起こっているのか分からず目を丸くしたが、すぐに自分の状況を理解し、恥ずかしそうに赤面した。
「ご、ごめんなさい! 私、気づいたら気を失ってて……!」
 その様子を見た蒼劔は「ちょっと待て」と驚いた様子で神服部に近づき、彼女の気配を探った。
 廊下では強く伝わってきていた霊の気配が、今はすっかり消えていた。
「どうなっている……? 学校から出ると、霊の憑依も解けるのか?」
 不知火に背負われている成田にも歩み寄り、彼の気配を探る。
 成田の体からも霊の気配は消え、正常な状態に戻っていた。ゆるみきった寝顔をさらし、幸せそうに眠っている。
「へへっ……ツチノコ、ゲットだぜ……」
「……夢の中でもオカルトか。平和なものだな」
 ふと、顔を上げると不知火と目があった。
 しかしすぐに不知火は視線をそらし、試験管の中にいる蚊を観察した。蚊は興奮した様子で何度も試験管に体当たりし、外へ出ようとしていた。
「すぐに出してあげるから、しばらく大人しくしていてくれ」
 蚊は不知火の言葉が分かるのか、彼がそう言うと体当たりをやめ、大人しく試験管の底に止まった。
「……お前、蚊と喋るなら、俺の質問にも答えろよ」
「……」
 蒼劔は不知火の前に立ち、彼を睨んだが、不知火は蒼劔を無視して蚊の観察に没頭していた。
 蒼劔も不知火が素直に答えるとは思っていなかったらしく「まぁいい」とすぐに諦めた。
「これから成田と神服部を知り合いの霊能力者の元へ連れて行き、本当に憑依されていないか調べる。お前も顧問としてついて来い」
 蒼劔はこのことを陽斗を通して、成田以外のメンバーにも伝えてもらった。案の定、陽斗に地面に降ろしてもらった神服部と岡本は目を輝かせ、陽斗に詰め寄った。
「贄原君、本物の霊能力者と知り合いなのかい?! 是非、私も連れて行ってくれたまえ!」
「どうやって知り合ったの?! そもそも、この町にいたの?!」
「前は他の町でお店を出してた人だよ。最近、この町で変なことがいっぱい起こるようになったから、移転してきたんだよ。このブレスレットも、その人から買ったんだー」
「うさんくさい! でも、そこがそそられる!」
「私もそのブレスレット、欲しいなー」
 1人、遠井だけは「そいつ、絶対詐欺師だろ」と顔をしかめていた。
「俺は塾の宿題があるんで、パスしますよ。部長、モバイルバッテリーは登校日に充電して返して下さい。それじゃ」
 遠井は岡本にバインダーと鉛筆を渡し、正門の前に止めていた自転車にまたがると、早々に走り去っていった。
「マイペースだねぇ。レポートはちゃんと書いてあるから、いいけどさぁ。彼にももっと、オカルトに興味を持って欲しいんだけどねぇ」
 岡本は遠井が提出した紙に目を通しながら、呆れた様子で息を吐いた。
 実際は岡本の知らない間に、遠井なりにオカルトへの興味を深めていたのだが、彼女はそれを知るよしもなかった。
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