贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
109 / 330
第5.5話「スイカ・ロシアンルーレット」

肆:スイカは転がりやすい

しおりを挟む
 スイカを食べれば、おのずとトイレが近くなる。
 陽斗も15玉目のスイカを食べ終えたところで「稲葉さん、トイレ借りますね」と席を立った。
 ちょうどスイカを食べている真っ最中だった蒼劔は慌てて食べかけのスイカを陽斗の皿に置き、「ちょっと待て」と口をモゴモゴさせながら立ち上がった。
「俺も行こう。近くとはいえ、夜は異形共が活発になるから危険だ」
 しかし陽斗は「大丈夫だよ」と水晶のブレスレットが入っているポケットを上から叩いた。
「稲葉さんから買った水晶のブレスレットも持ってるし、1人でも平気だって。それより、今はみんなについててあげて。生首西瓜がいる部屋にみんなを置いて行くなんて、心配だから」
「……それもそうだな」
 蒼劔は不知火を一瞥し、頷いた。
 不知火には生徒を見殺しにしようとした前科がある。もし、蒼劔がいない間に生首西瓜がオカルト研究部のメンバーを襲い、それを不知火が無視したら、取り返しのつかないことになってしまうだろう。
 蒼劔にとって1番大事なのは陽斗の命だったが、彼以外の人間の命も大切に思っていた。
「分かった。何かあったら、すぐ呼べ」
「うん、お願いね!」
 陽斗は1人で部屋を出ていくと、真っ直ぐトイレへ向かっていった。
「陽斗……本当に1人で大丈夫か?」
 蒼劔は壁越しから伝わってくる陽斗の気配に神経を集中させつつ、テーブルの上に置かれていたウェットティッシュで口と手を拭った。
 オカルト研究部のメンバーは見えない何かにウェットティッシュが次々抜き取られていく光景を見て、「おぉー!」と歓声を上げていた。
「これは、まぎもなくポルターガイスト!」
「やっぱ、霊能力者の相談所は違うな!」
「それにしても、どうしてウェットティッシュを取って行くのかしら?」
「下らないな。これはそこの自称霊能力者が俺達を騙そうと仕掛けた、おもちゃだ」
「おいおい、遠井君よぉ。こんな人の良さそうな顔をした稲葉さんがそんな悪いことを企むわけねーだろー?」
「さぁ、どうだかな。巧妙な詐欺師ほど人が良さそうな顔をしていると聞くぞ」
 蒼劔は危機感が欠片もない彼らを見て「平和だな、お前ら」と目を細めた。
 その時、自分の分のスイカを食べ終わった不知火が「おや?」と冷蔵庫を見て首を傾げた。つられて、蒼劔も冷蔵庫へ目をやる。
 途端に彼は絶句した。いつの間にか冷蔵庫の1番大きなドアが開き、中から伝わってきていたはずの妖気が消えていた。
「冷蔵庫のドアが開いているな……稲葉さんが閉め忘れたのかな?」
「なんだと?!」
 稲葉も不知火の発言を聞いてハッとし、慌てて冷蔵庫へと駆け寄った。
 中に入っているスイカを1玉1玉、指を差して何度も数え、確認する。しかし何度数えても、本来あるべき個数より1玉少なかった。
「い……いなくなっとる! 一体、いつの間に?!」
「うわぁぁっ!」
 直後、外からドア越しに陽斗の悲鳴が聞こえた。ちょうど、トイレから出てきたあたりからだった。
 さらに彼のすぐそばからは、生首西瓜らしき妖気を感じた。
「陽斗?!」「贄原?」「贄原君?!」「お! なにやらオカルトの予感!」
 オカルト研究部のメンバーも陽斗の悲鳴を聞き、立ち上がる。
「陽斗……1人でも平気なんじゃなかったのか?」
 蒼劔は彼らがドアへ駆け寄るより先に刀を手に取ると、ため息を吐いた。

          ・

 陽斗が悲鳴を上げる少し前、彼はトイレを済ませて外へ出てきた。空気の通りが悪いトイレの中は蒸し暑く、出てきた時には汗だくになっていた。
「あっつ! 早く部屋に戻って、スイカ食べよっと」
 生首西瓜を探すためにスイカを処理していることも忘れ、ルンルンで部屋へ戻ろうとすると、ドアの前に1玉のスイカが転がっていた。陽斗の行く手を遮るように立ち塞がっている。
「何で外にスイカが……? 僕が部屋を出た時に、一緒に出てきちゃったのかな?」
 特に違和感を持たず、スイカを拾い上げようとかがむ。
 直後、スイカの中心が「パキッ」と音を立てて横へ裂け、ぱっくりと口を開けるように上半分が勝手に持ち上がった。真っ赤な果肉が露出し、血のように赤い果汁がアスファルトの床へ滴り落ちる。
「えっ、なに?」
 陽斗は反射的に距離を取り、後退した。いくら危機感のない陽斗とはいえ、ひとりでに動くスイカには恐怖を感じた。
 その間にもスイカは果肉のふちから黒く鋭い歯を隙間なくビッシリと生やし、噛み合わせを確認するように何度も上半分と下半分をガチガチと動かした。そのたびに、硬質な鋼と鋼がぶつかり合うような鋭い音が陽斗の耳に響いた。
「も、もしかして……あれが生首西瓜?」
 ようやく陽斗がスイカの正体に気づいた瞬間、スイカが地面から大きく跳躍し、陽斗の顔へ飛びかかってきた。
「グワァァァッ!」
「うわぁぁっ!」
 陽斗はスイカの野太い怒号と共に悲鳴を上げる。水晶のブレスレットが守ってくれるとはいえ、怖いものは怖かった。
「……ん? 水晶のブレスレット?」
 その時、陽斗はとんでもないことを思い出した。
 上からポケットを抑え、確認する。予想通り、ポケットの中はカラだった。
「や……やっぱり!」
 陽斗は全身から血の気が引いていくのを感じ、青ざめた。
 数分前、彼は水晶のブレスレットをトイレの床に落とした。トイレの床は濡れており、割と汚かった。
『やばっ、早く洗わないと……』
 その際はすぐに落としたことに気づき、手を洗う前に洗面所で水晶のブレスレットを洗った。
 そして手を洗うために鏡の前に置き、そのままトイレから出てきてしまったのだった。
「グワァァァッ!」
「ギャーッ!」
 水晶のブレスレットを持っていなければ、陽斗には何の抵抗手段もない。妖怪からしてみれば、目の前に上等なお肉が突っ立っているようなものだった。
 生首西瓜は真っ赤な口を大きく開き、陽斗に向かってくる。ほのかにスイカの爽やかな香りがした。
「グワァッ?」
 しかし、生首西瓜が陽斗の顔に噛みつくことはなかった。
 ドアの向こうから蒼劔が放った刀が生首西瓜の背に刺さり、陽斗の顔面で青い光の粒子となって消えていったのだ。
 生首西瓜が消えると、ドアから憤怒の形相をした蒼劔が現れ、陽斗を見下ろした。
「……水晶のブレスレットはどうした?」
「ト、トイレに置いてきちゃった。えへへ」
「あ゛?」
 陽斗は笑って誤魔化そうとしたが、今まで聞いたことがない蒼劔の怒りのこもった低音を耳にし、凍りついた。全身の汗が一気に引いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

【シスコン】シスターコントロール ~兄のダンジョン探索を動画サイトで配信して妹はバズりたい!~【探索配信】

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 西暦202x年、日本を襲った未曾有の大災害『日本列島地殻変動』により日本での生活環境は一変してしまった。日本中にダンジョンと呼ばれる地下洞窟が口を開き、周辺からは毒ガスが噴出すると言った有様だ。  異変から約一年、毒ガスの影響なのか定かではないが、新生児の中に毒ガスに適応できる肺機能を持った者たちが現れ始めていた。さらにその中の数%には優れた身体能力や頭脳を持つ者や、それだけでなく従来とは異なった超能力と言える特殊な異能力を持つ者もいた。  さらに八十年ほどが過ぎて二十二世紀に入ったころには人々の生活は落ち着き、ダンジョンを初めとする悪辣な環境が当たり前となっていた。そんなすさんだ世の中、人々の娯楽で一番人気なのはダンジョンを探索する限られた者たちの様子をリアルタイムで鑑賞することだった。  この物語は、ダンジョン探索に情熱を燃やす綾瀬六雨(あやせ りくう)と、その様子を配信してバズりたい綾瀬紗由(あやせ さゆ)という、どこにでもいるごく普通の兄妹が身近な人たちと協力し楽しく冒険するお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...