贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第6話「文化祭(準備)」

陸:猫のお面の女と女子生徒

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 蒼劔はこっそり黒縄の部屋を抜け出し、五代の部屋を訪れた。陽斗には内密に、五代から聞き出すことがあった。
 ドアをすり抜けて部屋の中へ入ると、五代は1人ですごろくのテレビゲームをプレイしていた。
「フハハハッ! まーた俺っちが勝っちゃったもんねー! クソザコNPCざまぁwww」
 五代はNPC相手に無双しているらしく、悪人面で画面に向かって爆笑していた。よほど愉快だったのか、蒼劔がいることにも気づかず、回転式の椅子をグルグル回し、回転する。
 その隙に蒼劔は入り口から大きく跳躍し、回転している五代の頭に着地した。下駄を履いたままだったので、着地した瞬間に「ガンッ」と鈍い音がした。
「頭、痛っ! そして妙に重いッ! まさか……オイラの天才的頭脳が自我を持ち、内側から頭蓋骨を破壊しようとしている的なScience Fictionすぁいえんす ふぃくしぉんが始まるというのか?! ……って、ギャーッ! 蒼劔氏ぃっ?!」
 そこで五代はようやく蒼劔の存在に気づき、悲鳴を上げた。両足を床につけてブレーキをかけ、椅子の回転を止める。
 蒼劔は器用に五代の頭の上でバランス取り、椅子の急停止に耐えた。その体勢のまま、「動くな」と五代の喉元に刀を突きつけた。
「今すぐ不知火と飯沼について調べろ。陽斗には内密にな」
「ひぃぃ、おっかねぇ~! 分かりましたよ、調べればいいんでしょチクショー! でも内密にっていうのは無理だかんね! 俺ぴが正直ボーイだってのは、蒼劔氏だって知ってるでしょ?!」
「いいからやれ」
 五代は渋々ゲームを中断すると、椅子の上であぐらをかき、一休さんが考え事をする時のように「ぽくぽく」と言いながら、人差し指でこめかみをグリグリと押した。
 暫くして、五代は何か情報をつかんだのか「チーン!」と言ってこめかみをグリグリするのをやめた。喉元に刀を突きつけられた状態のまま、頭の上にいる蒼劔を見上げる。
 普段は隠れている真っ赤な瞳が前髪の隙間から見えた。至極、面倒臭そうだった。
「……たぶん術者だね」
「たぶん?」
 五代は嫌そうに頷く。
「2人とも心が読めなかった。術で妨害されてるっぽい。節木高校の関係者や2人が前にいた学校も調べてみたけど、特に収穫なし。しかも2人共、一般人の気配を。ただの人間にこんな偽装は必要ない。おそらく、術者特有の強力な霊力を隠すためだ。まぁ、密かに人間のフリをして学校生活を謳歌したい異形って可能性がなくはないけど、希望的観測よりも最悪のケースを想定していた方がいいと思う」
「なるほど……」
 蒼劔は眉をひそめた。昼休みの形代を含め、不知火が術者かもしれないとは薄々思ってはいたが、まさか飯沼まで術者の可能性があるとは思ってもいなかった。
 飯沼は目の前に蒼劔や校内をうろつく異形がいても、一切動じていなかった。今までは「見えていないのだから当たり前だ」と思っていたが、もし見えている上で無視していたのだとすると、相当な演技力の持ち主ということになる。ともすれば、うっかり蒼劔に反応していた不知火よりも厄介な人物かもしれない。
 蒼劔はこの事実に戦慄すると同時に、陽斗を置いてきて正解だったと痛感した。
「……陽斗が聞いたら、ショックだろうな」
「どうだろうねー。信じてくれないんじゃない? もしくは、本人に直接問い詰めるとか」
「それは困るな。奴らが敵か味方か分からん以上、俺達が奴らの素性に勘づいたとは悟られたくない。ちなみに2人が組んでいる可能性は?」
「否定は出来ないかなぁ~。飯沼氏は不知火氏のことを避けてるみたいだけど、心が読めないから本当のことは分かんない。どんな真実だってあり得るね」
 五代は他人事のように軽い調子で話す。実際、他人事だが「俺は関わりたくないんで」オーラが全身からにじみ出ていた。
 蒼劔も五代がそういう奴だと理解している上で、「それともう1つ」と、飯沼と不知火とは別に気になっている人物について尋ねた。
「陽斗がオカルト研究部の調査で家庭科室を調べていた際に襲ってきた、猫の面をつけた女子生徒についてだ。どうやら奴は昼間の学校でも活動しているらしく、密かに不知火の悪い噂を流している。奴の意図は定かでないが、また陽斗を襲ってくるかもしれん。今のうちに情報を集めておきたい」
「猫のお面ねぇ……なんかスゲー既視感があるんですけど」
「陽斗を山根の店で救った女のことか?」
 五代はこめかみを人差し指でグリグリと押しながら「そうそう」と頷いた。
 それは陽斗が元地獄八鬼の鬼、山根彦丸が経営していたレストランでバイトしていた時に出会った女性だった。蒼劔と朱羅も彼女が店に入っていく様子を目撃しており、違和感を感じていた。五代も陽斗の記憶を読み取った際に、女性の姿を見ていた。
「お面で顔を隠すなんて、よっぽど正体がバレたくないんだろうねー。陽斗氏にも名乗らなかったし」
「そういえば、あの女の正体も分からず終いだったな。まぁ、あのような店に出入りしていたとなると、まともな神経の者とは思えんが」
 蒼劔は山根の店の冷凍倉庫に保管されていたを思い出し、顔をしかめる。
 山根は人間の客を相手に商売する一方で、彼らを食材として調理し、異形の客に提供していた。そのため、彼の店の冷凍倉庫には切り分けられた人間の部位が大量に冷凍保存されていた。
 五代も陽斗の記憶を読み取って見た光景を思い出し「あれはグロッキーだったよねー」と、こめかみから人差し指を離して肩をすくめた。
「さて、蒼劔氏。いいニュースと悪いニュース……どっちから先に聞きたい?」
「どっちでもいいから、さっさと言え」
 蒼劔は眼光鋭く見下ろし、五代を急かす。
 五代は「んもぅ、ノリ悪いわねぇ」と唇を尖らせ、告げた。
「じゃあ、まず悪いニュースから。陽斗氏を冷凍倉庫で助けた女と、陽斗氏を家庭科室で襲った女……彼女達はだと判明しました!」
「なんだと?!」
 蒼劔は目を見開き、驚く。動揺したことでバランスが崩れ、五代の頭から落下した。そのまま床へ着地し、立ち上がる。
「それは確かな情報か?」
「せやで」
 五代は乱れた髪を手で整えながら、肯定した。元々寝癖なのか癖毛なのか分からない頭をしているが、五代なりにこだわりがあるようだ。
 特に前髪は完全に目元が隠れるよう、丹念に整えていた。
「術で外見の歳を操作しているが、俺サマにはお見通しだぜぃっ! 指紋や耳の形、その他もろもろの身体的特徴が一致したんだってばよ! 顔を隠していればバレないとでも思ったか、バカめ! ちな、お面も全く一緒のデザインでしたわよ。宮沢賢治の注文の多い料理店に登場しそうな、黒い山猫のお面」
「……矛盾している。何故、奴は山根のレストランでは陽斗を助け、学校では襲ったんだ?」
 蒼劔の意見はもっともだったが、五代にもそれ以上は分からないらしく「さぁ?」と小首を傾げた。
「キャットマスクガールにも事情があるんじゃないっすか? あと、これはヒントになるかどうか分かんないんすけど、一応いいニュースも教えとくっすね。くれぐれも陽斗氏にはナイショだぞ☆」
 そう言うと五代は声をひそめ、蒼劔にしか聞こえない声量で何やら囁いた。
 途端に蒼劔は言葉を失い、「どこがいいニュースなんだ」と五代を睨んだ。
 しかし五代は悪びれることなく、ニヤリと笑った。
「え~、いいニュースっしょ? これでの正体にちょっぴり近づけたんすから。むしろ、感謝して欲しいっすね」
「……確かにそうだが」
 蒼劔は重く溜め息を吐き、ツノとツノの間の額に手を当てた。五代の話を信じたくはなかったが、彼の情報が事実だとすると、何もかも辻褄が合った。
「陽斗……どこまで不憫なんだ、あいつは」
「さすが陽斗氏って感じだよネー。それでいて、無自覚。これはデッドエンドまで、秒読みですわー」
「……"でっどえんど"がどういう意味かは分からんが、お前が良からぬ言葉をほざいたのはなんとなく察した」
 蒼劔はヘラヘラしている五代の鼻先を刀の柄で小突き、部屋を出て行った。
 小突くと言っても、刀の柄はそこそこ硬い。五代は「うぎゃっ!」と悲鳴を上げ、涙目で鼻を押さえた。
「ぼ、暴力や……暴力の鬼や……! 異形にだって、人権はあるんだぞぅ! "人"じゃないけど!」
 蒼劔が出て行ったドアに向かって主張するが、既に蒼劔は陽斗の元へ戻ったため、返事はなかった。
 五代もそれを承知で鼻をさすりながら、ボソボソと呟いた。
「……俺としては、不知火氏の方がヤバいと思うけどね。だって、人間のくせに蒼劔氏の背後取ったんでしょ? ヤバいよ……そんなの、
 五代は自分で言っていて恐ろしくなったのか、ブルッと体を震わせ、慌ててすごろくのテレビゲームに戻った。
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