贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第6.5話「祖母の絵」

壱:家族の絵

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「う~ん」
 陽斗は自室で悩んでいた。机の上には白い紙と色鉛筆が置いてあったが、うなっているだけで全く手をつけようとしない。
 部屋の畳には丸めた紙がいくつも転がっていた。
「陽斗殿。夕飯の準備が出来ましたよ」
「ごめん、あとで食べるよ」
 朱羅が陽斗を呼びに来たが、陽斗は部屋に残った。
「そうですか……蒼劔殿は如何されますか?」
 朱羅は部屋の隅で英語の教科書を読んでいた蒼劔にも尋ねたが、蒼劔も「俺も残る」と答えた。
「陽斗が宿題を終わらせたら、食べる」
「承知致しました」
 朱羅は微笑み、部屋のドアを閉めようとする。
 直後、黒縄が閉められようとしていたドアを蹴飛ばし、陽斗の部屋へ土足で踏み込んできた。
「おい、クソガキ! テメェ、その宿題を済ませんのに何日かかってンだよ! いい加減、さっさと終わらせろ! 毎日毎日朱羅に呼びに来させやがって!」
「靴を脱げ、黒縄」
 黒縄はそのまま陽斗につかみかかろうとしたが、蒼劔に止められた。
 蒼劔は黒縄のワキに手を入れて持ち上げると、玄関へ連れて行き、入口であたふたしていた朱羅に差し出した。
「靴を脱がせろ」
「承知」
 朱羅は言われるまま、黒縄の靴を脱がせにかかる。
 黒縄は蒼劔から逃れようと、駄々っ子のように手足をバタつかせた。
「離せ、蒼劔! 俺はガキじゃねぇ!」
「見た目は十分、子供ガキだぞ」
「黒縄様、暴れないで下さい。靴を脱がせにくいじゃないですか」
「お前もコイツの言ったとおりにすんな!」
 陽斗は玄関で騒いでいる3人の鬼を見て「楽しそうだねぇ」と微笑む。そしてスマホでカレンダーを確認し、黒縄の質問に答えた。
「えっとね……今日で3週間だね」
「宿題を提出する期限は?!」
 黒縄は朱羅に靴の片足を脱がされながら、再度陽斗に尋ねる。
 陽斗は恥ずかしそうに頭をかき、言った。
「エヘヘ、明日だよ」
「もうテキトーに描けッ!」

         ・

 陽斗のクラスは文化祭で作品展示をすることになっていた。
 ただ、そのテーマが問題だった。
「テーマが、"家族"なんだよね」
 あの後、陽斗は黒縄によって強制的に彼の部屋へ連れて行かれ、夕食を食べさせられていた。今夜は魚介たっぷりのパエリアだった。
 陽斗は熱々のサフランライスをエビの身と一緒にハフハフと言いながら頬張った。
 彼の家族関係を知っている蒼劔達は「なるほど」と合点がいった。珍しく五代も食卓にいた。
 陽斗の両親は彼が幼い頃に死に、育ての親で、唯一の肉親であった祖母も小学校の卒業式の日に死んだ。
 以降は高校まで施設で育ち、現在はこの節木荘一人暮らししている。母方の親戚は存命だが、全く交流がなかった。
「だから、大好きなおばあちゃんの絵を描こうと思ったんだけど、何故か顔をはっきりと思い出せなくて……」
「写真は残っていないのですか?」
「1枚もないよ。おばあちゃん、写真を撮られるのが苦手だったから」
 祖母に限らず、陽斗は身内の写真を一枚も持っていなかった。実家から施設へ移る際に持って行こうと家中を探したが、見つからなかったのだ。
 おそらく、祖母が陽斗を悲しませないよう、写真を隠したのだろう。今はその優しさがあだとなり、陽斗を困らせていた。
 すると黒縄がムール貝の身を一口で食べながら陽斗に言った。
「だったら、いい考えがあるぜ」
「射出ッ!」
 直後、突然五代が天井に向かって飛び上がった。黒縄の心を読み、自分に都合の悪いことを考えていると分かったらしい。
 そのまま天井をすり抜け、部屋から脱出しようとしたが、黒縄が放った鎖に足首を捕らえられ、椅子へ引き戻された。鎖は椅子ごと五代の体に巻きつき、身動きが取れないよう拘束した。
「おぇっ、パエリア出そう。もうちっとゆるめてくんない?」
「逃げようとするからだ、アホ五代」
 黒縄は鎖をゆるめるどころか、さらにきつく絞める。
「うぐぉぉ、絞まるぅぅ……でも嫌いじゃないわ!」
「キモっ」
 五代は苦悶の声を上げながらも、顔を赤らめ、黒縄をドン引かせた。
 一方、蒼劔は冷静に黒縄の考えを読み解き、「なるほど」と頷いた。
「五代の能力を使って、陽斗に祖母の姿を見せるんだな?」
「そういうこった」
「えっ?! 五代さん、そんなこと出来るの?!」
 陽斗は目を丸くし、驚く。
 五代は真っ青な顔で「アレ、めんどいんだよねー」とボヤいた。
「"夢の羽根"っていう、枕の下に敷くだけで好きな夢を見られる魔具があるんすよ。そいつにオイラが読み取った記憶をコピーすれば、その記憶を夢で見られるっつーわけ。でも、必要な記憶をピンポイントで読み取ったり、見やすいように編集したりすんのが、もう面倒で面倒で……たまに仕事で請け負うことがあるっすけど、終わった後がすっげーしんどくなるんす。その割に報酬安い。まぢ割に合わない」
「そ、そんなに大変なら、やめとくよ。僕の宿題のせいで、五代さんを苦しませたくないし」
 陽斗は五代の話を聞き、慌てて断った。
 五代は感激のあまり、潤んだ瞳で陽斗を見つめる。
「陽斗氏ぃ……! 貴殿は聖人かっ?!」
「聖人じゃないよ。五代さんが心配なだけだよ」
 陽斗は五代に微笑み、米と一緒に黄色いパプリカを食べた。
「陽斗、妖怪はそう簡単に疲れはしない。こいつの言うことを真に受けるな」
「目白の情報も全然集めてねぇしな。こういう時こそ働け、クソ五代」
 五代の正体をよく知っている蒼劔と黒縄は、冷静に事実を指摘し、五代に働かせようとする。それでも五代は「やらないったら、やらないの!」と、頑なに譲らなかった。
 すると、彼らの様子を見ていた朱羅が「お願いします、五代殿」と箸を持ったまま、五代に手を合わせた。
「陽斗殿が困っているのです。どうか、手伝って頂けませんか? 美味しいお夜食、用意しますから」
「夜食?!」
 途端に、五代は口から滝のようなヨダレをブワっと吐き出した。それを見た黒縄は「汚なっ!」と顔をひきつらせ、蒼劔も眉をひそめた。
「夜食! 朱羅氏お手製の夜食! チョー食いたいッ!」
「では、やって頂けますね?」
「う゛ん!」
 朱羅が確認すると、五代は痙攣するようにガクガクと頷いた。
「五代さん、いいの?」
 不安そうな陽斗に、五代は親指を立て「もちろんさ!」と先程とは打って変わり、即オッケーした。
「陽斗氏は俺っちの恩人だから、特別サービスだぞっ!」
「やったー! これでおばあちゃんの絵が描ける!」
 無邪気に喜ぶ陽斗を見て、五代は「フッ」と自嘲気味に微笑んだ。
「まさかこのオイラが人間のために時間を割く日が来るとはね……まぁ、今日はイベントもキャンペーンもないから、暇だったんだけど」
「じゃあ最初からやれよ」
「さっき断ってたのは何だったんだ?」
 それを聞いた蒼劔と黒縄は冷めた眼差しで五代を睨んでいた。
「ほんじゃま、ちょっくらパエリア食べて、作業しますわ。黒縄氏、鎖をほどいてくんしゃい」
「自力でほどけ」
「えっ」
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