贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第7話「文化祭(1日目)」

拾壱:隠し事

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 蒼劔が形代を追って廊下へ出ると、不知火がいた。目の前に飛んできた形代を指でつまみ、白衣のポケットへ入れる。
 その間、蒼劔は彼をジッと見つめていたが、一切目を合わせようとしなかった。そのまま踵を返し、去ろうとする。
「待て、目白」
「……」
 蒼劔が不知火を「目白」と呼んだ瞬間、不知火はその場で足を止めた。こちらに背を向けているため、表情を窺うことは出来なかったが、動揺しているのは明らかだった。
 蒼劔は黒縄達に聞こえないよう声を潜め、尋ねた。
「お前のことは飯沼から聞いた。何故、今まで正体を隠していたんだ? 黒縄のように、俺もお前を恨んでいるとでも思ったのか?」
「……」
「……だったら、誤解だ。俺はお前に感謝している。恨むなど、あり得ん。これまで通り、黒縄に正体を明かしたくないと言うのなら協力しよう。色々聞きたいことはあるが、詮索もしない」
「……」
 不知火は蒼劔が話している間、終始無言を貫いた。何を考えているのか、話を聞いているのかさえ分からない。
 蒼劔も諦めて、教室へ戻ろうとしたその時、不知火がぼそっと呟いた。
「……もう遅い」
「っ?!」
 蒼劔がハッと顔を向けたときには、既に不知火の姿は人混みへと消えていた。
「もう、遅い……?」
 蒼劔は不知火が言わんとしている意味が分からず、眉根を寄せた。

        ・

 陽斗は飯沼の遺骨を自身のロッカーへ仕舞うと、黒縄と朱羅と別れ、「節木高校七不思議体験」へと戻った。姿見は蒼劔に運んでもらった。
 既に教室の前にはオカ研のメンバーが揃っており、整理券を持っている客の誘導をしていた。
「あれ? 陽斗、飯沼ちゃんは一緒じゃないのか?」
 骸骨のタイツの上から制服を着て客を誘導していた成田は陽斗が飯沼と一緒にいないことにいち早く気づき、尋ねてきた。
 彼と共にキューピット役を勤めた神服部も客にパンフレットを配りながら、不安そうに陽斗を見ている。
「飯沼さんは……」
 陽斗は先程のことが脳裏をよぎり、表情を曇らせた。
 しかしすぐに笑顔を作り、嘘をついた。
「飯沼さんは、さっき帰ったよ。なんか、急に体調が悪くなっちゃったみたい」
「マジか……"大事な話"はどうなったんだ?」
「それは大丈夫。ちゃんと聞いたよ」
(……たぶん、飯沼さんの正体のこととか、目白さんのこととかだよね?)
 陽斗は飯沼が話そうとしていた話の内容を自分なりに解釈し、成田の問いに頷いた。
 成田は「それなら良かった」と安心した様子で胸を撫で下ろし、神服部に向かって親指を立てた。
 それを見た神服部もパッと表情を明るくさせ、親指を立てて見せる。
「それは霊障だね」
「うわっ?!」
 そこへ話を聞いていた岡本がヌルリと近づいてきた。
 陽斗は思わず声を上げ、飛び上がった。
「れっ、霊障って何ですか?」
「読んで字の如く、霊の影響を受けることさ。急に体調が悪くなったり、身に覚えのない怪我が現れたりするんだ。つまり! 今、この教室に霊が集まっているという証拠というわけだよ!」
 するとそれを聞いた遠井が「あり得ませんね」と口を挟んできた。
「ここはただの教室ですよ? 心霊スポットでもなんでもない。オカルト的な噂も、一切聞いたことがありません。どうせ、文化祭の準備の疲れが出ただけですよ」
「フッフッフ……甘いな、遠井君。君は知らないようだが、霊はお化け屋敷が大好きなんだよ?」
 不適に笑う岡本に続き、成田も「そうだ、そうだ!」と加勢する。
「霊はお化け役になりすまして、客を脅かすことがあるんだ! だから、普段はなんでもない教室にも、霊が集まってくる可能性は十分ある!」
「おぉ、さすが成田君! わかってるぅ~!」
 その後も成田、岡本、遠井は陽斗を置いて、オカルト論争を繰り広げていた。パンフレットを配っていた神服部も、仲間に入りたそうにウズウズと眺めていた。いつの間にか客達も彼らの話に耳を傾け、熱心に聞いていた。
 陽斗も隣で話を聞いていたが、
「霊なんて、毎日見るけどなー」
と、首を傾げていた。

         ・

 結局、飯沼が担当していた係は不知火が務めることになった。出口の前で椅子に座り、気怠そうにぼーっとしている。
 すぐ近くにいる彼を蒼劔は気にしてはいたが、先程のやり取りもあり、声をかけることはなかった。
「陽斗、不知火が目白だということは誰にも言うな」
「えっ?」
 開店前、陽斗は蒼劔に忠告された。
「何で、黒縄君達に教えてあげないの? さっきも止めてたし。いくら仲が悪いからって、意地悪しちゃダメだよ?」
 陽斗は姿見から脱出した後、目白のことを黒縄と朱羅に教えようとした。しかし廊下から戻ってきた蒼劔によって口を塞がれ、真実を伝えられないまま、2人とは別れてしまった。
 陽斗は蒼劔の言動を理解できず、怪訝な表情を浮かべる。それでも蒼劔は首を横に振った。
「目白……不知火は、俺にも正体を明かしてはくれなかった。さっきも問い詰めてみたが、答えてはくれなかった。何か、正体を隠さねばならない事情があるのかもしれん。それが分からん以上、無闇に黒縄を刺激して、目白を危険な状況にさらすのはまずい」
「そっか……分かったよ、僕も黙ってる。黒縄君と朱羅さんには悪いけど、不知火先生を危ない目に遭わせたくないもんね!」
 陽斗は蒼劔の意見に納得し、共に黙っていると誓った。
 それを聞いた蒼劔は「……危ない目に遭うのは、黒縄かもしれんが、な」と苦笑した。

        ・

 「節木高校七不思議体験」は午後の部も大盛況だった。
 陽斗も飯沼を失った悲しみを忘れようとするかのように、懸命にお化け役を演じていた。同じく主人を失った姿見も、これまで通りに大人しく佇んでいた。
「それにしても飯沼さん、演技上手かったなー」
 ふと、陽斗はこれまで見てきた飯沼を思い返し、感心した。
 特に、陽斗を姿見へ入れるために教室へ連れ込んだ際の彼女の表情には、リアリティがあった。
「あの時、すっごく顔が赤かったけど、あれも演技だったってことだよね? 顔色まで変えられるなんて、すごいなー」
 蒼劔もあの時の飯沼を思い出し、眉をひそめた。
「あれは……演技だったのか? 本人がいない以上、確かめようがないが」

        ・

「いやいやアレはガチですよ、ガチ! おまいら2人は鈍感ダブルスでしゅかー?」
 節木荘から陽斗と蒼劔の会話を聞いていた五代は1人でツッコむ。黒縄も朱羅もまだ文化祭を楽しんでおり、帰ってきてはいなかった。
 五代は通販で購入した巨大なミント色の綿菓子にかぶりつき、アンニュイな表情で外へ視線をやった。空に、常人達には見えない異形の者が忙しなく飛び交っていた。
「……さて、俺ピッピはを聞いてしまったわ・け・で・す・が? どーしたらいいもんかねー? ま、俺ピッピピの存在を忘れてた蒼劔すうぃが悪いんだけどぉ?」
 五代は長いミント色の前髪の間から真っ赤な瞳を覗かせ、ニヤリと笑った。

(第7話「文化祭(1日目)」終わり)
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